ゲームをおもしろくするコツ

第3回 来るべきVRの世界―立体視の歴史,ゲームの目指すべき方向

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液晶シャッターとHMD

液晶技術が発達した1980年代は,2つの立体視が生まれました。一つは液晶パネルをシャッターとして使い,映像は1フレームごとに左右画像を交互に表示し,メガネをそれに同期させて左右それぞれの画像だけを見せる方法。もう一つは,ステレオビューアのように左右の目の前にそれぞれの目に合わせた画面を用意し,目のピントが合うようにレンズを組み合わせたHMDです。

液晶シャッターはメガネに電源が必要ですが,表示装置側はコンテンツで左右対応を行えばよいので,映写機が1台しかない劇場の映画や,特に3D機能のないモニターを3D対応させるために使われます。欠点としてはフレームレートが半分になることと,シャッターに対してフリッカー(ちらつき)を感じる人がいることです。

対するHMDは,かけたまま動き回ることができるので,80年代に位置を検知するセンサと組み合わせて,部屋の中で別世界にいる設定のVRゲームが作られました。このころ初めて「バーチャルリアリティ」という言葉が使われだし,⁠今後のゲームの方向性はこちらだ!」と盛り上がったのですが,残念ながら筆者も実際にプレイしたことがないくらい一般の人には浸透しませんでした。

その原因は次のようなものです。

  • 安全な場所が確保できない
  • 画面の解像度が低い
  • 液晶の応答性が悪い
  • 位置センサの応答性が悪い
  • 3DCGがフラットシェーディング注1で立体感が得にくい

これらは技術的な問題であり,当時は克服できなかったため,VRゲーム自体消えていきました。のちにステレオビューア式のHMDゲームとして『バーチャルボーイ』が登場しましたが,赤一色の映像で時代の流れには乗れませんでした。

注1)
『バーチャファイター』のような,単色で塗り潰したポリゴンによるCG表現のことです。

両眼視差立体視が身近に

両眼視差立体視が脚光を浴びたのは,映画の世界からでした。

CGの利点は,同じシーケンスで左右の目に合わせた視点で2回レンダリングを行えば,簡単に両眼視差立体視用のコンテンツが作れることです。そして2009年の『アバター』のヒットで,一気に3D映画が身近になりました。キャッチフレーズが「観るのではない。そこにいるのだ。」でしたが,これこそがVRの本質であると言えます。

家庭でもアナログ地上波の停波に伴って一気にフルHD化が進み,Blu-rayディスクとともに3Dが楽しめる環境が整いました。そして両眼視差立体視には欠かせなかった解像度と応答性が,スマートフォン,タブレット用の液晶パネルでも解消され,加速度センサ付きHMDが新世代VRゲームへの道を切り開いています。

プレゼンスこそがVRの本質

ここからは,VRゲームの目指すべき方向についてお話します。

VR用HMDを手にした開発者が安易に作ってしまうコンテンツが,迫力のある動きを見せるものです。ローラーコースターに乗車しているデモが良い例ですが,これは視覚に限った体験であって実際に身体には加速度が感じられないので乗り物酔いのような違和感が生じ,その世界はバーチャルであり続けます。また周りを見回すようなコンテンツも作りがちですが,普段の生活ではそんなにキョロキョロすることはなく,没入感は強く感じますがやはり仮想空間であるという認識は変わりません。

それに対し,仮想世界の提示であるにもかかわらず,脳がそれを現実として誤認する状態が存在します。これを「プレゼンス」と呼びます。

『サマーレッスン』という,プレイヤーが家庭教師となって女子高生の部屋にいるというVRコンテンツがあります。その体験者は,対象である女子高生がテキストを見せようと近付いてくる場面で,現実にはあり得ないほど相手の顔が近付くために,プレゼンスが生じます。プレイヤーが男性の場合は,それまで女子高生の顔や胸などを仮想世界であるがゆえに遠慮なく見れていたものが,ジロジロ見ることができなくなります。現実では女子高生の顔や胸に必要以上注視することが許されないという認識があり,プレゼンスがそのルールに従わせてしまうのです。

VRはFPSFirst Person Shooterに馴染むと言われていますが,⁠リアル」にリアリティを持たせるにすぎず,強い没入感を感じるだけです。日本ゲームが目指すVRは,リアルではないものにプレゼンスを生じさせることで,言わば「2.5次元の現実化」だと思います。

VRの新しい波

現在は視覚に限ってコンテンツが作られていますが,プレゼンスを大切にするなら,プレイヤーに注視点を強要しないことと,体感加速度と視覚加速度を一致させることが必要です。加速度を一致させるには,位置の移動がないか等速運動にするわけですが,実は別の解決法もあります。それは前庭電気刺激という技術です。

人間は加速度を耳の部分にある前庭器官で感じています。加速度を感じると前庭器官が脳に電気刺激として情報伝達を行います。これを利用して,耳の後ろに電極を付け,前庭器官に適切な電気刺激を与えると,椅子に座っていてもローラーコースターに乗っているかのような加速度を感じさせることができるのです。加速度感覚は,目をつぶれば視覚を拒絶できるのとは違い被験者の意思で拒絶することが不可能な感覚であり,作られた感覚であるにもかかわらず仮想と認識するのは難しいのです。

人間の脳が情報を電気で伝えているため,ここに介在することであらゆる感覚は作ることができるとするならば,いずれは映画『マトリックス』のようなゲームが生まれるのかもしれません。現在実験段階ではありますが,すでに十分な体験を与えられる視覚と聴覚以外に,味覚,触覚,嗅覚の再現が可能で,次々と新しい技術が開発されています。

ゲームがこれらの技術を取り入れるには,しっかりとしたガイドラインを設けて事故を防ぐことが必要です。

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著者プロフィール

遠藤雅伸(えんどうまさのぶ)

ゲーム作家,研究者。アーケードゲーム『ゼビウス』『ドルアーガの塔』をはじめ,ファミコン『機動戦士Zガンダム・ホットスクランブル』『ファミリーサーキット』『ケルナグール』,カードゲーム『真・女神転生デビルチルドレン カードゲーム』『巫法札合戦 犬夜叉』など多数のゲームの制作に参加し,現在は東京工芸大学芸術学部ゲーム学科でゲームデザインを教えている。日本のゲームプレイヤーの行動と,コンセプト主導のゲームデザインに関する研究が専門で,ゲームデザイン教育の演習などの考案も行っている。

遠藤雅伸研究室:http://endohlab.org/