モヤモヤ議論にグラフィックファシリテーション!

第16回 絵空事で終わらせない[実行者]たち

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絵空事で終わらせない議論 「『失敗を許す』を絵にすると?」

下の絵は,社団法人 企業研究会主催の研修で,海外に駐在し現地でトップとして活躍するビジネスリーダー向けに行われたプログラムで描いた一枚です。ここでは「リーダーが失敗を許さないと部下はチャレンジをしなくなる」⁠失敗を許す度量がトップには求められる」といった『失敗を許す』という話を扱っていました。

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このとき,受講者の一人から「それはよくわかるが,明日から現場に戻って本当に許せるかと言ったら,どうしても『失敗を許す』とは言い切れない自分がいる」という意見が出てきました。赴任先から一時帰国してその研修に参加していたKさんの言葉には,とても重みがあり,現実に直面している問題をいくつも想定しているように感じました。

そのKさんのモヤモヤ感,経営者として「失敗を許す」⁠許さない」の判断の難しさについて,講師を交えた受講者の方たちが車座になって,みんなで活発な議論になりました。しかし,そのときの私はというと,筆がうまく進まなくて,壁に向かって苦しんでいました。

「失敗を許す」という言葉に,イメージが湧いてこないんです。⁠失敗とは,例えばどんな失敗?」⁠許される失敗とは,例えばどの程度のもの?⁠⁠。議論のほうは「失敗」の二文字から思い描くイメージが,それぞれ違ったものでぶつかりあっているようで,なかなか絵に描けません。

「せめてその失敗がどのぐらい大きいのか,もしくは小さいのかがわかるといいんだけど」とふと思った私は,とりあえず,⁠小さな石ころに蹴つまづいたぐらいの失敗なら許される?」と左上に転んだ人を描きました。次に道からはずれて「崖から足を踏み外すほどの失敗はさすがに許されない?」と思いながら,右上に,足を崖の外に踏み出した従業員を描きました。警告の笛をピピピッ!と吹くリーダーの絵も描いてみました。

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そうしている間も,意見が交わされていましたが,私にはその後も「失敗」の具体的な絵が描けなかったので,手を挙げて,今上記に書いたとおりのままに,⁠描けなかったので試しに想像で絵を描いてみました」とみなさんにフィードバックしました。

すると,やおらKさんが立ちあがって,この絵に近づいて,崖を踏み外した従業員を指差して「そうそう!この失敗を私は許したいんだ」とおっしゃったんです。じつは私は,右下にある大きな目標までの道を大きく描いていたんですが,Kさんにはそんな広い安全な道を歩いていくつもりは毛頭なかったんです。この崖に飛び出すぐらいのチャレンジをして,その先に見えるもっと高い目標の旗を取りにいくイメージ。経営者の目線とはこういうものなんですね。他の受講者の方たちもそこでウンウンと強くうなずいていました。そこで,私は

「それはインディージョーンズのような橋を架けていくイメージですか?!」

と,言いながら,その踏み出した人の足元に,途中で切れている板の橋を描き足しました。その板には「チャレンジ」という字も書き加えました。

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すると,Kさんは「そうそう! もしかしたら駐在期間中にはこの橋の一枚すら架けられないまま終わるかもしれないけれど,それに挑戦した失敗なら許したいんだ」とおっしゃいました。このとき,さっきまで難しい表情をしていたKさんの顔がパッと明るくなったのがとっても印象的でした。

すると別の方から「敗者復活の道も用意されてないとね」という発言も出ました。そこで私は

「では,梯子が必要ですね!」

と崖から元気に戻ってくる絵も描き足しました。そうして出来上がったのがこの絵です。

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Kさんはこのやりとりの間,ずっと絵の前に立っていました。時間としては7,8分程度ですが,この間に,Kさんは私にインディージョーンズの橋や梯子を描かせ,⁠自分のもの」にしてこの絵を持ち帰りました。そして,その場にいたひとたちも,他のどの絵よりもその絵を大事に持ち帰ったと思います。全員が1つの目線を共有した時間でした。

著者プロフィール

やまざきゆにこ

様々な議論の現場で,グラフィックファシリテーション(=グラフィックレコード+グラフィックフィードバック+グラフィックダイアログ)を実施する。300人超のシンポジウムから,企業も国籍も違う参加者の集まる研究会,組織を横断したプロジェクト,経営者・リーダークラスのビジョン研修,組織研修,顧客との協働プロジェクトなど多岐に渡る。企業・組織の事業判断・意思決定,プロジェクトや個人の意識・行動変革の一助になればと"絵筆を持って"活動中。

グラフィックファシリテーター(graphicfacilitator)は,やまざきゆにこの商標登録です。

グラフィックファシリテーション.jp:http://www.graphic-facilitation.jp/

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