モヤモヤ議論にグラフィックファシリテーション!

第30回 よく描く絵 オフィスに「タコ」!?

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タコツボは「目に見えない書類の山」で出来ていた!

前に描いていた防御壁(シールド,バリア)の絵は,外から見た人の描写でした。でも,ここは一転,⁠タコツボ」の内側にいる「タコ」になってしまった人たちからの叫び声とも言えます。内なる声から,⁠これぞタコツボ!」という絵が描けた手応えがありました。

目の前にこなさなければいけない「書類の山」が絶え間なく積みあがり,とうとうその人が外からは見えなくなってしまっています。まさに「タコ」が壺の奥に入りこんでしまった状態です。この「書類の山」の絵が描けて,初めてわたしの中では「ああ,これがタコツボかあ!」と思えたのでした。

実際のオフィスの机の上に「書類の山」はありません。ここで絵にしているのは,実際にはだれの目にも見えていない「書類の山」です。そしてこの「目には見えていない」ことがきっと一番の問題なのでしょう。すべてはパソコンの中で起きていることで,その「パソコンの中で起きている」ということが,クセモノなのだと思いました。

その目には見えない「書類の山」が,知らず知らずのうちに,一人一人を壺の中に隠れて出てこない「タコ」にしてしまった。外から見ている人もなんとなくそれを防御壁(シールド,バリア)として感じ取っている。そんな現象を「タコツボ化した組織」と呼んでいるのではないかと思いました。

「タコツボ」化を防ぐには

どの会議でもそうですが,タコツボ化の議論になると続いてその打開策を話しあいます。

  •   ⁠もっと活気のある組織にしよう⁠
  • a案「まずは隣りの席の人に声をかける⁠
  • b案「お互いの仕事を見えるようにしよう⁠
  • c案「座る場所を自由に選べるフリーアドレスな職場にする⁠
  • d案「とりあえず飲みに行こう⁠
  • e案「社内SNSで趣味のコミュニティをつくる⁠
  • f案「全社で運動会を復活する⁠
  • g案「あえて手書きの社内報をつくる⁠
  • etc.

たいてい,どれも有効なように思えるアイデアは複数出てきます。しかし「明日からそれを実践しよう!」という力強さまでは聴こえてきません。みなさん,どこか「これだ」という決め手にかけているようで,なんとなく手探り状態のまま,議論は続きます。

わたしの筆も,同じように迷っていました。⁠どれもタコツボ化するのを防ぐには,有効そうだけど…持続性がなさそう…どれに一番注力するのか…)⁠これだ!」というふうに筆がグイグイ進まない。何よりその筆の鈍さから,とにかくみなさんが現場に帰っても実行に移さなそうに感じられ,この場の議論だけで終ってしまいそうな気配がありました。

しかし,⁠タコツボは書類の山で出来ている」という絵が描けてから,筆に迷いがなくなりました。聴き方,描き方が変わりました。⁠タコツボは書類の山で出来ている」という発見が,その後のアクションプランに,より⁠具体性⁠を問いかけてくれるようになりました。おかげで,いくつかの具体的な解決案まで考えられるようにもなりました。

タコ救出案1 ⁠外から書類をどけてあげる」

a案「まずは隣りの席の人に声をかける」という,一見,とても当たり前のような行動も,⁠書類の山」を描いていると,この高く積み上がった「書類の山」を崩さないと,目を見て「おはよう」も言えないわけです。単に「隣りの席の人に声をかける」では,書類越しでタコツボ化を改善するには弱い。タコが顔を出すのにも「書類の山」は低いほうがいい。書類を1つずつ外からでもどけてあげて,顔をつっこんで声をかけるぐらいの絵を描きたくなります。そこで,その隣人が「どんな書類を積みあげているのか」を確認するように声をかける絵を描きました。

「どんな書類が溜まっているんだ」
⁠えっと…案件Aの書類と案件Zの書類がこれだけありまして…」

そんな「ちょっとした一言」でも,声をかける内容を変えるだけで「書類」をどける,⁠書類の山」を減らすことができると思えてくるのです。⁠ちょっとした一声」をかけることで,どんな書類を積み上げようとしているのかを早めに知ることもできれば,高く積み上げる前にそれを処理するアドバイスを入れることもできる。こういう会話のやりとりのある絵が描けた途端に,⁠まずは隣りの席の人に声をかける」という施策は「すぐにでもやったほうがいい!」と思えてきました。

タコ救出案2 ⁠外から書類の中身を覗いてあげる」

b案「お互いの仕事を見えるようにする」という発言も,隣りの人が見えないもどかしさから生まれた発言なのだろうと思えてきます。きっと防御壁(シールド,バリア)を感じての発言。それを「書類の山」として描けてくると,鉄壁のように思えていた壁も崩し方が見えてきそうです。どうせ一緒に働いているのだから,その積み上がっている「書類の山」を顔が見えるぐらいまで低くしたい。

しかし「仕事を見えるようにしよう」と言っただけでは,内側の人は動けないと思うのです。そもそも「書類の山」を積み上げてしまったのは,それなりに理由があるはずです。

「書類の山」を積み上げてしまったのは…

  • 指示は言われたとおりに遂行するのが当然の環境だった
  • 仕事の進め方は自己完結があたりまえだった
  • じぶんでなんとかするという責任感の強さ
  • 仕事を抱え込む癖がある
  • 上司や周囲への不信感(言ったら損。言わない方が安全…⁠⁠ etc.

書類が積み上がってしまった理由・過程が何であれ,今まで「仕事を見えるようにする」ことが当たり前でなかったところで突然言われても,内側の言い分としては「何をどうしたらいいか…」と戸惑うのも当然です。まだこの漠然としたアイデアでは動かなそうです。それに「お互いの仕事を見えるようにしよう」と発した人たちも,その先に発言が続かないところを見ると,外からわざわざ「書類の山」をよじ登って見に来てくれる気配もない。まだまだ防御壁(シールド,バリア)に触れるのをためらっている感じです。

そこで,近寄り難い防御壁(シールド,バリア)ではなくただの「書類の山」なんだと思ってもう一度絵を見てみると,もう一段階,具体的な一歩を描きたくなってきます。たとえば,あえてみんなでそれぞれが進行している仕事を,ホワイトボードに書き出して行く。メンバーがじぶんのスケジュール帳を見ながら「あれとこれが動いていて,この仕事がまだ手をつけられていなくて…」と報告。そのそばでリーダーがホワイトボードに書き出して行く。⁠それはどうして進められないんだ?」と質問していくうちに解決できることもいくらでもあると思います。⁠お互いの仕事を見えるようにする」には、そうやって「書類の山」を外から覗き込むぐらいの勢いが絵にほしいと思いました。

タコ救出案3 「外から書類を開かせる」

c案「座る場所を自由に選べるフリーアドレスな職場にする」というアイデアもよく聴こえてきますが,最初は筆がウ~ンと唸ってしまいました。フリーアドレスな職場にしただけでは,席が変わっても,隣りの人が変わっても,じぶんの周りに防御壁(シールド,バリア)を張ったまま十分座っていられそうなのです。なかなか崩れない高い「書類の山」が存在しているとしたら,⁠フリーアドレスで自由に席が選べる」だけではどうも物足りない。描き足りない。

もう一段階,もう一声,もう一工夫,何か施策がほしいと思いました。たとえば必ず先輩と後輩のセットで座るとか,隣りの人と必ず今進行中の仕事について一問一答をする,といったことをしない限り,この「書類の山」は低くならないと思うのです。フリーアドレスな職場にするのは,そもそもがタコツボ化を防ぐことだけが目的ではないので,こうした「もう一工夫」は必ずしも必要ではないかもしれません。でも,⁠タコツボは書類の壁で出来ている」という絵が描けた途端に,タコツボ化を防ぐ施策を,より⁠具体的に⁠描けるようになってきました。

著者プロフィール

やまざきゆにこ

様々な議論の現場で,グラフィックファシリテーション(=グラフィックレコード+グラフィックフィードバック+グラフィックダイアログ)を実施する。300人超のシンポジウムから,企業も国籍も違う参加者の集まる研究会,組織を横断したプロジェクト,経営者・リーダークラスのビジョン研修,組織研修,顧客との協働プロジェクトなど多岐に渡る。企業・組織の事業判断・意思決定,プロジェクトや個人の意識・行動変革の一助になればと"絵筆を持って"活動中。

グラフィックファシリテーター(graphicfacilitator)は,やまざきゆにこの商標登録です。

グラフィックファシリテーション.jp:http://www.graphic-facilitation.jp/

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