モヤモヤ議論にグラフィックファシリテーション!

第40回 「ハートが描ける会議」どうしたらできる?

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借りてきた言葉ではなく「自分の言葉」で語ってほしい

どうして会議でハートが描けないのか? 参加者の人たちが「心からそうありたい」と思える共通のものが見つけられないのか?

その落とし穴が「未来のありたい姿を語り合おう」というテーマにありました。⁠明るい未来」だけを前向きに語りあおうとすると,どうしても,どこかで見たり聞いたりした未来を語りやすいのです。この状況は本当に多くの会議で遭遇します。

確かに,無理もありません。具体的に1年先,3年先,10年先を想像したことのないわたしたちにとって,突然,⁠ありたい姿を思い描いてみようと言われても…」引き出しを持たない中,つい陥りがちなのです。

ただ,話している本人は気づいていません。先ほどの会議でも,参加者のみなさんは「自分の言葉」で語っているつもりでした。

  • 「会社として,世の中に新しい価値を提供し続けている会社でなければならない」
  • 「クライアントの海外進出にあわせて,我々もグローバルな企業になっていなければならない」

しかし,わたしには「管理職として」普段の会議から借りてきたような言葉に聴こえました。⁠会社としてどうあるべきか」は語っていても,その人自身がどうしたいかということは全く聴こえてこない。⁠じぶんの言葉」で語り合うところに,個性があって,ハートが描けるのに,ハートが描けない会議とは,参加者の人たちが「自分の言葉」「心からそうありたい」と語り合っていない会議ともいえました。どこかまだ「他人事」のように会社の未来について話している状態です。

ネガティブな発言が聴きたい

そこで,借りてきた言葉では無く「じぶんの言葉」を思わず語ってしまうのが,⁠ネガティブな発言」の数々です。ネガティブな発言とは,愚痴や不平,不満,辛い,悲しいといった,グラフィックでは<暗い絵>を描かせてくれる言葉たちです。

ネガティブな発言というと,多くの会議ではタブーとされています。言いわない,言えない,言うべきではない。

たとえばこんな後ろ向きな言葉は会議ではなかなか言えません。

  • 「どうして私がこの会議に参加しなくちゃいけないの…?」
  • 「正直やりたくない」

心の中で思っていても口が裂けてもいえない発言もそうです。

  • 「10年後は私は退職しているから正直関係ない」

「無理だ」⁠できない」といった否定的な発言なども,たとえ会議中に聴こえてきたとしても,その多くは聞き流される。ホワイトボードにあえて書き留められないのがネガティブな言葉たちです。

でも,そんなネガティブな発言たちこそ,じつは「じぶんの言葉」で語られていて,グラフィックファシリテーションではとても個性的な絵を描かせてくれるのです。

そして,そんなネガティブな発言を1つ1つ,きちんと拾い上げて書き留めていったら,じつはみんなが探している共通のハートが見つかったのです。一般的には会議で嫌われやすいネガティブな発言も,じつはハートが宿る愛すべき発言であることが見えてくるのです。

「ありたくない姿」を語り合おう

あるベンチャー企業で,その日は若手社員だけが集められて,じぶんたちの会社の3年後,5年後のビジョンについて話し合っていました。⁠ありたい姿」を語り合う場でしたが,聴こえてくるのは「ありたくない姿」に関する発言ばかりでした。でも,これがとってもよかったのです。どの会議でも,いきなり「ありたい姿」を語るよりは,⁠ありたくない姿」から語るほうが,みなさんとても饒舌になります。

  • 「上司によっていうことが違う」⁠上の方針がバラバラ」
  • 「上司の思いつきの発言で現場は迷惑している」
  • 「自転車操業」⁠疲れて帰って寝るだけ」⁠先輩も忙しい」
  • 「先輩に相談できない」⁠じぶんのことで精一杯」⁠若手は使い捨て」

ここでは会社が特定できないよう表現を簡素化しましたが,実際はとても具体的で,オリジナルな内容でした。おかげで「その会社にしか描けない絵」が描けてきました。たとえば「使い捨て」という言葉は,今まで絵にしたことがなかったので「なんて個性的なんだ」と思ったりしました。

絵巻物には暗い絵が並びます。⁠疲れて帰って寝るだけの社員の姿」「上からの指示がバラバラで困惑する社員の姿⁠⁠。でもそんな暗い絵に,みなさんニコニコしながら近寄ってきました。⁠そうそう!」⁠そんな感じ!」⁠コレだよね」と。まるでじぶんの姿を見るようだと,どこか嬉しそうに言ってくるのです。

  • 「ポストが空いても中途入社で人が入ってくる」⁠中途の上司が先に昇進」
  • 「仕事のレベルもポストも給料も,上がっていくイメージが持てない」
  • 「給料が上がらない」

明るい絵よりも<暗い絵>のほうがずっと多くの共感を集めます。ネガティブな発言を最初はためらっていた人までも,つられて口を開き始めます。これまで抑えこんできたネガティブな気持ちも,意外とするりと引っぱり出してしまうのが<暗い絵>の力ともいえます。そしてそのほとんどが「自分の言葉」で語られていきます。

  • 「きちんと評価されてない」⁠評価する人が現場のことわかってない」
  • 「働いている意味を失う」⁠体がもたない」⁠新しいことをする余裕がきない」

その会議では個人的な不満から,次第に会社を見渡した問題意識に火がつきました。

  • 「商品やサービスに特徴がない」⁠何でもあるけどコレといった強みがない」
  • 「このままだと○○部門はなくなっているかも」
  • 「上司にビジョンがない」⁠上司が多すぎるのでは」
  • 「競合と差別化できていない」⁠新しい事業が生まれていない」

いつもは目の前のことに追われる日々ですが,こうして少し先の未来に目を向けて「ありたくない姿」を話し合ってみると,じつはお互いが共通の問題意識を持っていることに気づき始めるのです。自分ごとから始まった議論は,会社の課題を語るうえでも,もうそこには借りてきた言葉ではなく,⁠じぶんの言葉」で語られていきます。

著者プロフィール

やまざきゆにこ

様々な議論の現場で,グラフィックファシリテーション(=グラフィックレコード+グラフィックフィードバック+グラフィックダイアログ)を実施する。300人超のシンポジウムから,企業も国籍も違う参加者の集まる研究会,組織を横断したプロジェクト,経営者・リーダークラスのビジョン研修,組織研修,顧客との協働プロジェクトなど多岐に渡る。企業・組織の事業判断・意思決定,プロジェクトや個人の意識・行動変革の一助になればと"絵筆を持って"活動中。

グラフィックファシリテーター(graphicfacilitator)は,やまざきゆにこの商標登録です。

グラフィックファシリテーション.jp:http://www.graphic-facilitation.jp/

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