産業カウンセラーの活動概要

第4回 ある社員の事例~働く女性の不安~

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婦人科系疾患に伴うストレス

Cさんは入社前より婦人科系疾患で定期的に健診を受けていました。経過観察という状況でしたが,過重労働により症状が悪化し治療が必要となりました。仕事のストレスから持病を悪化させてしまいましたが,女性にとってはその疾患自体が非常に大きなストレスであり,うつ状態になる方を多数見てきました。

婦人科系疾患は症状が目に見えず,辛さが周囲に伝わりにくく,症状が現れにくいため気が付いたときには既に進行している場合が多くあります。上司が男性の場合は相談することもできず,上司も疾患に気がつかず,男性同様に働かせてしまうことがあります。同じ労働条件下であっても,個人差はありますが男性と女性とではやはり女性の方が身体への影響が大きく,婦人科系疾患を引き起こしてしまいます。

“なんとなく身体はつらそうだけど,他の社員もそれぞれ疲れているし,精神的には元気そうだから仕事を続けさせて大丈夫⁠などと考えずに,女性特有の疾患の恐れがあるかもしれないと考えていただきたいです。また,体調不良に気が付いたら,直接聞くのではなく,女性社員に代わりに話を聞いてもらうなどの配慮が必要です。

Cさんの場合は手術が必要なまでに症状が進行し,今の仕事を続けられるか大きな不安を感じていました。仕事だけでなくこの先の人生について希望を持てなくなりうつ状態となり,周囲へ不信感を抱くようになり,上司の助言も受け入れられない状態になりました。休職中に手術を行い,心理的な不安も徐々に軽減し再び働く意欲を取り戻していきました。

たった1人の上司の発言が企業の考えと受け取られる

Cさんが孤立し周囲へ不信感を抱くようになった背景には,上司の発言による影響もありました。⁠すぐに体調が悪くなるから女性には仕事を任せられない⁠⁠欠勤した分の仕事は結局男性社員がフォローしなければならない⁠などと漏らしていたことが他の社員を通じて耳に入ったのです。もちろんCさんの職場ではそのような考えは持っておらず,上司の発言はただちに訂正をしなくてはいけないものです。しかしたった1人と言えども上司の発言は企業全体の発言と受け取られても仕方がありません。それほど影響力があるのです。この発言がきっかけとなりCさんの職場では男性社員と女性社員の間に目に見えない壁が作られていきました。

人事部や管理者は,企業の考えが正しく伝わっているか,コンプライアンス違反やパワーハラスメントが行われていないか定期的に確認をし,企業の姿勢を文書にして周知するなどして社員へ正しく理解をしていただく必要があるでしょう。

多様な働き方とワークライフバランス

企業は女性だけに限らず男女ともに健康で能力を発揮できる職場環境を作ることが求められます。仕事と生活の比重は5:5が必ずしも良いということではありません。極端な話ですが高度経済成長期の時代,男性はほぼ10割仕事,女性はほぼ10割家庭であり,1世帯でのバランスを取っていました。これも1つのワークライフバランスの形だと言えるでしょう。生きる時代やライフスタイルによって理想となるワークライフバランスは変化しますし,一人ひとり異なります。企業は一昔前の10割仕事のスタイルを強要することはできません。社員が望むワークライフバランスがある程度尊重されるよう,働き方の選択肢を複数用意することで労働力の確保が可能となり,多様な労働力を活かすことができます。

Cさんの職場では,過去に育児休業から復帰した女性社員がいました。高い技術を持った社員であり,復帰後も以前のように仕事を続けたいという思いで子育てをしながら仕事をし,保育園の送り迎えと仕事の納期に追われながら分刻みの毎日を送っていました。

短時間勤務となったことで今までより短い時間で同じ成果を出さなくてはならず,そのために非常に高い集中力で仕事をし,自分が帰った後の仕事を同僚にサポートしてもらっているため,自分でも出来る限りのことはやろうと自宅でも仕事の準備をするなど努力していました。

ところが上司からの理解は得られず,仕事の成果や時間単価あたりの仕事の能力を評価せずに,フルタイムで働いている社員と単に勤務時間だけを比較し,短時間勤務の社員は評価しないと言われてしまいました。その言葉に深く傷ついた女性社員はその後どんなに説得をしても仕事を継続する気力を失い,上司との関わりを避けるようになり退職してしまいました。現在は新しい職場で大いに能力を発揮しています。企業として大事な戦力を他社に奪われてしまわないよう,様々な働き方ができる職場作りをしていただきたいと思います。

30代以降の女性の不安

これまでどんなに仕事に,趣味に,家庭に,順調に生きてきた女性であっても,30代に入ると仕事や結婚・出産・育児などの将来への不安が大きくなっていきます。仕事優先で働き続けてきた女性にとっては家庭を持ちたいと焦り,家庭優先で育児をしてきた女性にとっては働かない・働けないことへの焦りが出てきます。女性は男性よりも多くの選択肢から自分のキャリアを選択することになるため,どの道を選んだとしても,選ばなかった道への後悔を感じるのです。一方,仕事での自分,家庭での自分,地域社会での自分と様々な役割を楽しめ,環境に適用できるというのも女性の強みであると考えます。

女性は男性に比べ正社員での採用も少なく多くが非正規で働いており待遇も充分ではないため,女性1人で経済的自立をすることは容易ではありません。これほど女性の社会進出が進んでいるにもかかわらずまだまだ女性が1人で生きていくには不安が大きく,結婚や配偶者の転勤などによって自分のキャリアを変更しなければならない局面は多くあります。30代以降の女性は,常に不安な感情を抱えながら働いているということをおもんばかり,思いやりを持って関わりあえる職場を目指していただけたらと思います。

著者プロフィール

夏美

都内IT企業に勤務する産業カウンセラー。

大学で社会心理学を専攻し,卒業後はパーソン・センタード・アプローチを学ぶ。

現在,メンタルヘルスケアの他,労務・人事・経理を担当。入社から退職までに起こる様々なライフイベントに寄り添えるよう日々勉強中。