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第21回 "Intel is back!" ―パット・ゲルシンガーCEOが7nmプロセッサ「Meteor Lake」とともに"新生Intel"を強烈にアピール

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内製と外製のバランスを取る新たなファウンドリー戦略

CEOとしての最初の公開プレゼンテーションらしく,今回のゲルシンガーCEOの発表内容にはIntelの新たな方針がいくつか示されていました。その中でももっとも重要なコンセプトがデバイス製造の基本方針を示した「IDM(Integrated Device Manufacturing⁠⁠ 2.0」です。IDM 2.0についてゲルシンガーCEOは「世界中でIntelだけが実現できる差別化要因であり,勝利の方程式である」と強調,シリコン/ソフトウェア/プラットフォーム/プロセスといったあらゆる分野で確固たるファウンドリー能力を有したIntelを,半導体業界のリーダーとして復活させる強い意気込みを示しています。

ゲルシンガーCEOが新たに発表した「IDM 2.0」はファウンドリー能力を擁する半導体ベンダとしての優位性を活かす戦略として注目される。自社ファブネットワーク,外部ファウンドリーとの連携,グローバルクラスのファウンドリー事業(IFS)が柱となる

ゲルシンガーCEOが新たに発表した「IDM 2.0」はファウンドリー能力を擁する半導体ベンダとしての優位性を活かす戦略として注目される。自社ファブネットワーク,外部ファウンドリーとの連携,グローバルクラスのファウンドリー事業(IFS)が柱となる

IDM 2.0は大きく以下の3つの戦略に分けられます。

  • Meteor Lakeなど今後の主力となる製品の大半を自社製造するため,社内ファブネットワークを拡大
  • TSMCなど外部ファンドリーとの関係強化
  • 米国と欧州の製造能力を拡大し,CEO直属のファウンドリー事業「Intel Foundry Services」を展開

このIDM 2.0に沿った最初の動きとして,ゲルシンガーCEOは約200億ドル(約2兆2000億円)を投じて米アリゾナ州に2つの製造工場を新規に建設する計画を明らかにしています。Intelはアリゾナの新工場を皮切りに,今後は米国と欧州における製造能力拡大を予定しており,アジアに偏りがちな半導体の製造能力を欧米にも拡張し,業界トップのファウンドリーメーカーとして世界的な半導体需要の急増に応えるとしています。なお,ゲルシンガーCEOはIFSの顧客としてAmazon,Cisco,Google,IBM,Microsoft,Qualcommなどの名前を挙げていましたが,会見にはMicrosoftのサティア・ナデラ(Satya Nadella)CEOがビデオメッセージを寄せており,顧客としてIFS事業への期待を語っていました。もっともナデラ氏はMicrosoftがIntelに依頼して何を作るかについては明らかにしなかったものの,ナデラ氏みずからが会見にあらわれたことで,IntelとMicrosoftの良好な関係が継続していることを印象づけました。

200億ドルを投じてアリゾナに建設する新工場は1万5000人以上の雇用を生み出す施策として現地からも歓迎されているという

200億ドルを投じてアリゾナに建設する新工場は1万5000人以上の雇用を生み出す施策として現地からも歓迎されているという

IFSの顧客として挙げられた企業。AmazonやGoogle,Microsoftといったハイパースケーラに加え,競合するQualcommの名前もある

IFSの顧客として挙げられた企業。AmazonやGoogle,Microsoftといったハイパースケーラに加え,競合するQualcommの名前もある

MicrosoftのナデラCEOがゲスト登壇し,IntelとMicrosoftの関係について「いままでにない深いパートナーシップが築けることを期待している」とコメント

MicrosoftのナデラCEOがゲスト登壇し,IntelとMicrosoftの関係について「いままでにない深いパートナーシップが築けることを期待している」とコメント

また,自社製造能力の拡大だけでなく,競合ともなる外部ファウンドリーとの連携をIntelの今後の重要な戦略に位置づけた点もゲルシンガーCEOならではの方針だといえます。とくに7nmや5nmなどプロセスの微細化でIntelの先を行くTSMCと,Intelはどんな関係性を築いていこうとしているのか ―ゲルシンガーCEOは今回,前述の7nmプロセスの次世代サーバCPU「Granite Rappids」についてTSMCとともに製造していくことを明らかにしましたが,業界内ではMeteor Lakeでも連携する可能性(Intelの7nmとともにTSMCの5nmプロセスをFoverosでパッケージング)があるともいわれており,今後も両者の関係性に注目していく必要がありそうです。


「Intelは戻ってきた(Intel is back!⁠⁠」― 会見での質疑応答の最後,ゲルシンガーCEOは報道関係者に向かって力強く断言しました。Intelに30年近く在籍し,アーキテクト/最高技術責任者(CTO)として,Xeonのローンチなど数多くのプロジェクトを率いてきたゲルシンガー氏が去ってからのIntelはモバイル事業の失敗,前CEOのスキャンダル,そして10nm/7nmの開発の遅れなど,業績の低迷を伝えるニュースを聞く機会が多くなりました。とくに2020年6月にAppleが発表したArmベースの「Apple M1」チップへの移行とIntelチップ採用の段階的廃止のニュースは,ここ数年来のIntelの不振を象徴する出来事だったように思えます。

一方,旧EMC→VMwareに移籍してからのゲルシンガーCEOは,ソフトウェア業界の経験もCEOとしての経験もまったくなかったにもかかわらず,クラウドコンピューティングというエンタープライズ業界を一変させたトレンドを的確に捉え,VMwareを単なる仮想化ソフトウェアベンダから,企業のインフラ全体を支えるプラットフォーマーへと転身させました。また,ゲルシンガーCEOの強いリーダーシップとパッションはVMwareのカルチャーにも大きな変化をもたらし,技術とイノベーションで世界をより良いものにしていくというメッセージをつねに従業員に対して伝え続けていた姿も印象に残っています。VMwareのCEOを辞するにあたり,ゲルシンガー氏は「VMware CEOを務めあげたことは私の人生においての誇りです。私たちは世界のテクノロジの光景をより良い方向へと変革しました。そしてVMwareは,予測困難な今日においても顧客にデジタル基盤を提供できる卓越した企業であり続けると確信しています。私のキャリアの中で最も充実した時間をくださったVMware社員,顧客,およびパートナに心から感謝します」というコメントを残していますが,エグゼクティブから一般のエンジニアやスタッフに至るまで,世界中のVMware従業員がゲルシンガー氏を心からリスペクトしていることが取材を通しても伝わってきていました。

そうしたVMwareでの成功をあとに,かつての古巣へ,それもあまり順調とはいえない状況下にあるIntelに最高経営責任者として戻ってきたゲルシンガー氏は,Intelを強いリーダーシップを備えた業界トップのテクノロジ企業へとふたたび返り咲かせようとしています。⁠我々がフォーカスすべきことは4つある。良い製品とロードマップと製造能力,コミットメントに対する実行力,探究心とスピードを備えたイノベーションへの情熱,そして地球上でもっともすぐれたエンジニアとテクノロジストたちを引きつけるカルチャーの再始動だ⁠⁠- ゲルシンガー氏はIntelへの復帰にあたり,従業員にこのようなメッセージを送っています。今回の発表はその中でももっとも重要な"良い製品とそれを作る能力"をIntelがもっていることをあらためて世界に向かって示したといえるでしょう。そのコミットメントは本物なのか - Meteor Lakeをはじめとする次世代製品とともに,ゲルシンガーCEOのリーダーシップに期待がかかります。

会見の最後,報道関係者に向かって「Intel is back!」と宣言したゲルシンガーCEO。なお,2021年10月には米サンフランシスコで開発者イベント「Intel On」を開催すると発表している

会見の最後,報道関係者に向かって「Intel is back!」と宣言したゲルシンガーCEO。なお,2021年10月には米サンフランシスコで開発者イベント「Intel On」を開催すると発表している

著者プロフィール

五味明子(ごみあきこ)

IT系の出版社で編集者としてキャリアを積んだ後,2011年からフリーランスライターに。フィールドワークはオープンソースやクラウドコンピューティング,データアナリティクスなどエンタープライズITが中心。海外カンファレンス取材多め。Blog 「G3 Enterprise」やTwitter(@g3akk),Facebookで日々IT情報を発信中。

北海道札幌市出身/東京都立大学経済学部卒。

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