無関心な現場で始める業務改善

第3回目的なき業務改善は失敗する!

連載第2回では、

  • 業務改善のやらされ感をなくすためには⁠気づきのプロセス⁠⁠自分が困るプロセス⁠を改善活動のプロセスの中に組み込むことが必要であること
  • 効果を出していくためには箱モノの「ハード」と、魂の「ソフト」の両方のアプローチを取ることが必要であること

を書きました。そして、

  • 改善のグランドデザインを中核メンバーでしっかり練り上げ、改善目的のぶれない軸として共有することで、確固たる改善活動にしていく

という話をしました。

第3回では、目的や目標をどのように定めるかを考えていきましょう!

参加することに意義がある……では困る

これまで2回にわたる連載の中で、⁠活動」という言葉を何回か使っていることに気づきましたか?

活動という言葉は実に都合の良い単語で、⁠企業活動」から学生の「部活動」のように幅広く用いられます。後の回で詳しく述べますが、業務改善は「部活動」のような位置付けでは前には進みません。業務改善は、経営や業務の効率化、生産性を高めるために行う「企業活動」に含まれます。つまり、「改善は仕事」だという考え方は、製造業では何十年も昔から、ごくあたりまえのようになっています。QCサークル活動など、いかにも部活動やサークル、同好会のように思えるネーミングが良くないのかもしれないですね。

さて、部活動やサークル活動なら、参加するのは個人の自由で、参加しなくとも誰も文句は言いません。⁠参加することに意義がある」というのも部活動では成り立つわけです。しかし、業務改善を企業活動として見た場合は、⁠参加することに意義がある」だけでは困ります。本連載が対象としている無関心な現場では、そもそも参加すらしないでしょう。関心がない、自分には関係ないというスタンスは、参加に至るもっと前の段階です。

何のために業務改善を行うのかを常に意識をしておかないと、現場で実行できる改善や取り組みは曖昧となり、着手しやすい、解決しやすい問題にばかりに目が向きます。

本質的な問題解決が、いつまで経っても残ったままになるのは多くの場合、目的が明確でないからです。改善することで何らかの業務の効率化や品質向上が図られ、結果として利益体質に変わったという効果まで具体的に描かれなければなりません。

立場が変われば目的は変わる?

ある会社の例です。全社的に「コスト削減」が急務となり、ノー残業デーなど時間短縮も行われました。社長が各部門の部長にコスト削減の指示を出し、それぞれが着手して数ヵ月が経ったある日のことです。

社長は、情報システムの部長を呼びつけ、怒っているようです。

社長:情報システム部門だけ、コスト削減の効果がほとんど出ていないようだが、どうなっているんだ!

部長:最新の基幹システムを導入し、コスト削減効果が年間○億円のはずでしたが、現場の業務プロセスや組織構造等が旧態依然のままなので、そこがボトルネックになっています。現場からは「昔のシステムのほうが良かった」と反発も出ています。なかなか新システムに切り替えができず、二重稼動になっています。

社長:コスト削減20%は今期、全社をあげての目標だ。その中で、情報システム部門として、⁠何ができるか?どう実現するか?⁠を考えるのが君の仕事だろう?今回、設備投資は発生したものの、最初から二重稼動など聞いてないぞ。それに、システムを入れ替えたら、仕事のやり方が変わることはわかりきったことじゃないか? なんで、そこまで考えないんだ?

部長:そこは課長にまかせっきりで、まさかこのように……(しどろもどろ)

(情報システム部門の職場に戻って…)

部長:社長にこっぴどく言われたよ。何で、こんなことになったんだい?

課長:は?だって、部長は新システムを入れればコストダウンになるから、ベンダやソフト選定は僕に一任したじゃないですか?僕ら情報システム部はシステムを入れることが目的じゃないんですか?

部長:うっ……(言葉に詰まる)

会社としての目的はコスト削減ですが、情報システム部門としての目的は「新システムを入れること」になってしまったようです。

情報システム部門としての目的をコスト削減と会社と同じ目的を共有し、目的を達成するための手段として「システムを導入する」と、情報システムの部長・課長以下がきちんと認識していたら、システムのリプレースに伴う業務プロセスの変更まで考慮し、現場の反発も招かずにスムーズに導入ができていたかもしれません。

このように、経営者の立場では「目的はコスト削減」でも、情報システムの立場では「目的は新システム導入」と、立場によって目的が変わってしまうこと。あなたの身の周りではありませんか?

目的は明確にできるが、共有ができない

先の例の続きです。全社的にはコスト削減という目的でも、営業部門では「効率的な営業プロセスの確立⁠⁠、製造部門では「生産ラインの見直し⁠⁠、購買部門では「調達ルートと取引先の見直し」などと、部門それぞれで行っている業務内容に合わせて目的が定められることがあります。

基本的には部門の中では正しい目的なのですが、⁠コストを削減するために…」を念頭に置いておくと、営業プロセスも生産ラインも調達ルートも、目的を実現するための手段であることがわかります。しかし、企業全体の目的を忘れてしまうと、この情報システム部門の部長のように、社長から怒られる羽目になります。

目的は「何のために行うか?」ということです。部長がきちんとコスト削減の背景を理解し、目的達成のために「情報システム部門でできることは何か?」を考え、その結果、⁠新システムの導入」だけではなく「新システムの稼動における様々な影響要因」まで検討し、落とし込んでいたら結果は変わっていたでしょう。

とかく、⁠目的は明確に!」と言われます。ところが、目的が明確でもこのように部門内や現場までの落とし込みが不十分だと、できた目的が共有されず、期待したような効果が出ません。もしかすると、新システムを入れないでまずはどこまで行えるのかを慎重に検討したほうが、良い結果が出たかもしれません。

目的に限らず目標もトップダウンの要素が強く、既に決まっているものが⁠上から落ちてくる⁠ケースがほとんどで、現場が関わる余地はほとんどありません。したがって、目的の明確化と同時に、目的を共有するためには、目的設定の背景をしっかり伝えることと、理想は目的設定の場面に現場が関与することです。

目的は現場レベルですげ替える

業務改善の目的は、全社・経営レベルのものでは、どの業態・業界・業種でも、おおよそ似たようなものです。⁠コストを下げろ」⁠品質を上げろ」などです。

このように「大きな目的」は、自部門や自分の業務と照らし合わせてみると、大きすぎてよくわからなくなることがあります。具体的に何を・どうすればいいのか?

日々の業務が忙しすぎて、改善する時間すらないという会社も少なくありません。改善の必要性を感じていながら着手できない現状にストレスを感じている人もいるでしょうし、夜遅くまで仕事をすることがあたりまえで、とにかく目の前の業務をこなすことに注力している人もいることでしょう。

働きアリのように、ひたすら会社の滅私奉公したい人もいるでしょうが、今はどこの会社も時間短縮の嵐です。特に今年は原発問題で電力不足が懸念され、シフト勤務などに取り組んでいる企業が多いです。

時間が短くなってもやるべき仕事の量が変わらないなら、単位時間当たりの生産性を高める、すなわち、効率を高める以外に解決の糸口はありません。

さて、⁠大きな目的」と書きましたが、⁠コストを下げろ!」⁠効率的に仕事をしろ!」と言われても、漠然としすぎていて何をすればよいかよくわからないし、⁠うーん…」と重い腰もなかなか上がりません。誰も好き好んで滅私奉公をしているわけではなく、本当は、早く帰って子供と遊びたい、家族と一緒に団欒の時間をとりたいと思っている人も実際にはいます。

このような場合は、目的を現場レベルですげ替えることが効果的です。すげ替えるといっても、コスト削減の枠の中からはみ出すのではなく、業務改善を前面に押し出さないような目的にしてしまいます。

「家族との大切な時間をとるために、今あるムダを見直す」ことが目的でもよいのです。

目的を決めるときには、動機付けのインセンティブが重要です。同時に、プライベートの話が職場でできるようになると、⁠なんだ、お前の家もそうか。うちもあるある!」などのように、ちょっとした共通項が仲間意識を醸成します。

会社組織の業務改善の目的は「会社のために」ですが、何のために働いているかということも考えると、⁠家族のために」⁠プライベートを充実させるために」ということが目的を現場の仲間と共有していると、改善実行の際には心強い味方になります。

ただし、プライベートな事情が目的となると組織全体ではまとまらなくなるので、表向きは、それっぽく作らなければなりません。そのために、次のように大義名分を意図的に仕掛けることもあります。

現場のための大義名分を作る

経営の大きな課題を業務改善の目的にそのまま当てはめて現場が動ければ一番よいのですが、なかなかそうもいかないのは先の例のとおりです。

なんと、我々が過去に業務改善のお手伝いをした中で、⁠楽して儲ける組織とプロセスを作る』という目的を現場が作った会社があります。

この会社で、最初に出てきたのは「サボれる仕組みを作る」でした。カッコ良く言えば、効率的に仕事をすることですが、このような泥臭い言葉のほうが、現場はピンと来るわけです。具体的に何をやったかは、徐々にお話をしますが、業務プロセスを見直し、組織編制や意思決定のパスの再設計、情報システムの変更などを行ったのですが、動機は「サッサと帰りたい」でもいいわけです。

したがって、目的は現場がわかる言葉で作ってしまうこともアリです。⁠コスト削減のために業務改善を行う」と宣言すると現場は一歩引いてしまうので、⁠残業ゼロの職場を目指すための業務改善」⁠サボれる仕組みを作るための業務改善」など、業務改善を目的ではなく、目的達成のための手段とするために、大義名分を「残業ゼロ…」⁠サボれる…」としてしまうのです。

そのときに1つだけ注意!!

「みんながサボれるように」と書くと、だいたい、経営者からは「真面目にやれ!」と言われるので、やはりそこはそれっぽく「楽して儲ける組織を作ることが目的です」と言い、補足説明として「組織を利益体質にすること」と付け加えておきましょう。

ソフト改革も目的に入れよう

目的の中には、業務改善によって直接的に効果をもたらす性質のもの(いくらコスト削減ができたか)と、間接的に効果をもたらす性質のものがあります。

後者の間接的に効果をもたらすものとしては、⁠一緒に改善活動を行うことで、部門内に協力関係ができた」⁠部門間でコミュニケーションが取れるようになり、以前より問題解決が迅速に行われるようになった」などです。

これら間接的な効果は、業務改善の結果論としてもたらされたものですが、これを最初から改善の目的として定める場合もあります。実はこれが、第2回で述べたソフト改革の部分です。

先ほど述べた「楽して儲ける組織を作る」も、ソフト改革の目的と取ることもできます。しかし、ソフト改革だけでは効果が現れるまで時間がかかるなどの問題があるので、ハード改革が必要となります。

目的を定めたら、今度は具体的な改善目標を定めなければなりません。⁠目的」を実現するために、⁠いつまでに、どのレベルまで到達」していないといけないかを表す「目標」を定めます。

目標には2種類ある―定量的目標と定性的目標

目標には定量的な目標と、定性的な目標の2種類があります。

定量的な目標として、QCDなど、何がどれだけ改善されたか、それらは金額換算するといくらになるかという指標を定量的に設定し、改善による効果を目に見えるようにすることが必要です。

たとえば、Q(品質)であれば「不良品の発生率を1年間で50%削減する⁠⁠、C(コスト)であれば「製造加工費を20%削減する⁠⁠、D(納期)であれば「納期を半分にする」などです。

この定量的な目標を実現するために、改善指標としてKPI(Key Performance Indicator)を設定します。KPIについては本連載の後の回で詳しく述べますが、少しだけお話すると、定量的目標が1つのKPIだけで実現されることは、まずありません。

コスト削減10%が目標の場合、

  • 開発段階で、部品選定基準を変えて、部品コストで△1%
  • 製造工程の加工プロセスの見直しの最適化により△3%
  • 物流と購買機能の見直しにより△4%
  • 工程管理システム導入により△2%
  • で合計10%

    のように、さまざまな部門のさまざまな改善の集大成としてはじめて実現されます。

    製造部門の△3%を例に取れば、製造工程でも、パケットから取り出す工程、治具にセットする工程など細分化したプロセスのちょっとずつの積み重ねにより、実現されるものです。

    もうひとつ、定性的な目標は、前述したソフト領域の目的の実現などが当てはまりやすくなります。コミュニケーションを良くする、笑顔溢れる職場にするなどは、数値化できるものではありません。

    ハード改革で、⁠あるべき姿(To-be Model⁠⁠」と言いましたが、ソフト改革では「ありたい姿」をイメージしてみるとよいでしょう。ポイントは「状態をイメージすること」です。こんな会社になったらいいな、こんな職場になったらいいなと思い描きながら、その中で仕事をしている自分や仲間をイメージすることです。

    これらをきちんと文言化して、定性的な目標として設定をします。

    改めて言いますが、定性的な目標を実現するために業務改善をするのではありません。企業課題である大きな目的を解決するために業務改善に取り組みますが、定性的な目標もあらかじめ定めてしまうことで、間接的な効果を狙ったり、組織の風通しを良くしていきます。

    業務改善の具体的な流れ

    業務改善の大まかな流れを図1に示します。この図では、業務改善を実行する前までしか書いていませんが、理由は追ってわかってくることでしょう。Plan-DoのDoが業務改善の実行ですが、きちんと仕掛けを作れば、業務改善はいくら無関心な現場であろうと、自然に回るようになります。

    図1 業務改善の流れ(実行前まで)
    図1 業務改善の流れ(実行前まで)

    さて、次回以降はいよいよ業務改善の本題に入ります。

    具体的に対象を絞り、どのようにメンバーのアサインを行うか、現状分析に入る前までの準備について、第4回は「対象を決め、問題を共有する」というテーマでお話をします。

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