無関心な現場で始める業務改善

第22回 おかしいことはおかしい…インフォーマルな場づくり

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「インフォーマルな場」の効果

現場の自律的な改善が,社風として定着をしていると言われるトヨタ自動車には,小集団活動を会社として支援する仕組みがあります。"自主研"と言われるものもその1つで,⁠50年後の自動車づくりはどうなっているか?」など,部門や年齢,性別を問わずに活発な意見交換を行っています。

ここで,今回のテーマである"場"について考えてみましょう。図3をご覧ください。

図3 フォーマルとインフォーマルな場

図3 フォーマルとインフォーマルな場

大きく「フォーマルな場」「インフォーマルな場」に分けています。わかりやすく言うと,以下のように「結論を出すか・出さないか」で分けられます。

  • フォーマルな場=結論を出す
  • インフォーマルな場=結論を出さない

「インフォーマルな場」は馴染みが少ないと思うので例を挙げると,喫煙室や社内カフェなどは,⁠タバコを吸う」⁠コーヒーを飲む」などの共通の目的のために,部門・役職・年齢・性別を問わず人が集まってきます。たわいのない会話もあるでしょうが,普段,自部門の中では得られない他部門の情報(新製品発表,人事異動,組織変更,トラブル解決など)の話が普通にされているなど,有用な情報が行き交っています

喫煙室や社内カフェで浮かない顔をしている若手に対して,気になった他部門の部長さんが声をかけたところ,⁠トラブル対策の解決策がわからない」とのこと。ベテランの部長さんはたった一言,⁠それなら●事業部の△課長に聞いてごらん」と。⁠Know How⁠ではなく⁠Know Who⁠を教えてもらった若手が,解決のヒントを得ただけでなく,他部門の人とも交流が持てるようになったことがあります。これは大きな糧です。20年以上昔,開発エンジニアだった頃の自分の実例です。

なお,図3については,上流モデリングによる業務改善手法入門の第5章に,⁠場の使い分け」として説明していますのでご覧ください。

業務改善に必要な“場”「インフォーマル」

「インフォーマルな場」では,部門を超えたつながりができるほか,結論を出すことを強いられないのでホンネが出やすくなります。「議題のない会議」として役員同士が経営会議の前に腹を割って話をする,営業会議で吊し上げられる前にマネージャ同志でざっくばらんに話をするなどです。

先に登場したトヨタ自動車をはじめ,現場力の強い企業,改善が自発的にどんどん進む企業が共通して持っているものが「インフォーマルな場」です。そしてもう1つが「インフォーマルなネットワーク」です。

インフォーマルなネットワークは,先の若手と部長の例のように,部門の枠を飛び越えます。若手がオフィシャルでフォーマルな品質対策会議を通じて問題解決の議論をするよりも,喫煙室や社内カフェという「インフォーマルな場」を通じて,新たに他部門の部長さんや課長さんと「インフォーマルなネットワーク」をつくる。成功体験はどんどん共有すればよいので,⁠あっちの部門ではこんな取り組みで成果を出している」と聞いたら,その部門に行って聞けばいいのです。

難しいことは何もありません。⁠成果を出している」という情報が入ってくる⁠場⁠⁠ネットワーク⁠が大事なのです。

業務改善にインフォーマルな場を仕掛ける

本連載では,業務改善の進め方から,メンバーへの動機づけや改善への関心の持たせ方,仕掛けを「ハード」「ソフト」の両側面からお伝えしてきました。

我々は様々な会社の変革や改善支援を手掛けていますが,⁠これ」といった必殺技の業務改善手法を持ち合わせているわけではありません。1つ1つ,異なる企業文化や社風,社員特性の理解に努めながら,我々自身もやり方も常に進化をさせるオーダーメイドです。

業務改善に限らず,企業の変化・進化にはゴールはありません。改善などは,誰に言われることなく自然に,かつ常にできていることが理想です。このような企業文化を作り上げることは経営者の仕事でもあり,社員一人ひとりの仕事でもあります。

変革の場というものは,小さく生まれ,どんどん隣に伝搬していきます図4参照)⁠

図4 場の拡散・伝搬

図4 場の拡散・伝搬

業務改善も最初は小さく生まれ,前後や関連する工程部門を巻き込みながら,広がっていきます。そのときに,今回お話をした「インフォーマルな場」を随所に仕掛けておき,困ったときには一緒になって解決できる関係性を築くことが,企業文化として改善文化が定着するということです。

組織のあちこちで,

  • 「それっておかしいよね?直そうよ!」⁠ ⁠おかしいものは放置できないね」
  • 「隣の部門でこんな取り組みをやっているよ」⁠ ⁠さっそく,聞いてみるよ」

という会話が増えてくると,冒頭に書いた「おかしいことをおかしいと言えない」ことは少しずつ減ってきます。「おかしなことは言ってもよい,おかしなことは直す」という組織風土が根付き始める瞬間です。

業務改善が根付く企業文化をつくる

業務を行うのは,皆さん個々人です。たまたま企業という組織に属して,職場の中で仕事を行っていますが,そこには前後工程を受け持つ部門があり,部門内・部門外に様々な人がいて,仕事はなされます。

当たり前のことですが,信頼・協業関係があり,情報交換をしながら知恵を創発することで,問題解決がはかられ企業や組織,そして個人も成長を遂げていきます。

業務改善を小さくスタートしながらも,成功体験を積むことで,成果の喜びを得ることができます。今まで話をしたことすらなかった他部門の人との交流もより濃いものとなります。

「業務改善をすることで新しい企業文化をつくる」と考えると,第1回「業務改善は後ろ向きな仕事?」と書きましたが,"自律分散処理(一人ひとりが指示待ちではないプロフェッショナル)"のように,少しITっぽく書くと,また違う視点で考えられるかもしれませんね。

本連載も昨年6月から開始し,今回で22回を迎えました。

次回は,いよいよ最終回となります。これまでのおさらいも含めて,ご覧いただければ幸いです。

著者プロフィール

世古雅人(せこまさひと)

メーカにて開発エンジニアと半導体基礎研究(国の研究機関出向)の計13年を設計と研究開発の現場で過ごす。企業風土改革,組織・業務コンサルティング会社や上場企業の経営企画責任者などを経て,技術の現場あがりの経験や知識を活かした業務改善やコンサルティングなどに従事。

2009年に株式会社カレンコンサルティングを設立,同社代表取締役。現場と経営を巻き込んだ「プロセス共有型」のコンサルティングスタイルを推し進めている。

株式会社カレンコンサルティング

URL:http://www.carren.co.jp/