無関心な現場で始める業務改善【シーズン2】

第4回 見えた光明

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組織における話の筋の通し方

さて,読者の皆さんが仮に自社の社長と直接話をするとなった場合に,この佐藤さんのような行動をとれるでしょうか?

佐藤さんのGHテクノロジーズでは,社長と佐藤さんが元上司と部下の関係性があったこともあり,アポなしであっても社長はきちんと佐藤さんの話に耳を傾けてくれました。しかし,多くの会社においては,社長のところまで話を持っていくことすら困難でしょう。まずは,直属の上司である課長や部長を通じて話をすることでしょう。そして,部課長が「ウン」と言わなければ,そこで話は打ち止めです。

「上の人に言って通じなければ,さらにその上の人に言う⁠⁠。このようなことは昔からあるわけですが,組織としては⁠許される文化⁠もあれば,⁠許されないご法度の文化⁠もあります。上司の立場で素直に考えれば,部下から「あんたじゃ話にならないよ!」と言われているようなものです。

今回の佐藤さんのように,上司の頭を飛び越えてその上の立場の人に,経営や組織的な問題を話すと,上司はさらにその上の上司から「君の部門ではどういうマネジメントをしているんだ?どういう教育をしているんだ?」と,上司自身が責められる要因にもなります。いずれにしても,言いだしっぺの人は上司からは⁠目を付けられる存在⁠になり,不利益を被ることすらあります。当然,言いたくなくなる,結果,言わなくなります。

このように言いだしっぺの人に,⁠損得で動く」という牽制が働くと,⁠自分が損をするならば言わないほうがいい,関わらないほうがいい」となり,第1回で述べたような「出る杭になりたがらない」ような行動特性を余儀なくされます。

一般にボトムアップで一社員が社長に提言をするためには,しかるべきプロセスを踏まないとつぶされることは目に見えています。製品開発ならまだしも,良かれと思って行う身の周りの改善提案ですら,⁠ROI(投資対効果)はどうなのか?」と上司から問われる時代です。改善や改革のROIは一社員が示すことは,内容にもよりますが難しい局面を伴うことも多いでしょう。いくら,一社員が自社を良くしようと思っても,会社としては,⁠それをやってどうなるのか?」という期待効果を定量的に求めます。「熱い思いと高い志を持っています」と言ったところでROIを示せなければ,改善・改革に会社として取り組むことに"ゴー"が出ることはありません。

「何とかしたい」という思いを持つ社員がいるということは,会社にとっては"宝"です。その実現・実行支援をせずに,現状維持に甘んじる経営者,余計なことには関わろうとしない中間管理職は部下にとって重石以外の何物でもありません。部下の重石をどけてやることが,マネジメントの仕事であると筆者自身は考えています。

仲間を募る

さて,現場で改善を進めていくことを,オフィシャルに社内で打ち出すことは次の経営会議までかかるものの,⁠現場で何が起きているのかを把握してくれ」と中田社長に言われました。

そうは言っても,現場の部長は頼りにならず,協力は得られそうにありません。陰では経営批判をしながら,表立っては何も動こうとしない社員たちを横目に,佐藤さんは改めて志を同じとする仲間を見つけようと動き出します。そのためには,自分のことをよく知っている人を巻き込むしかないと考えます。

  • 佐藤さん:「話を聞いてくれる人だけで,まずは十分だ」

同期の知的財産部の加藤,あいつなら仲間になってくれる。開発部なら,村瀬開発部長です。若手の部下の赤西君も自分を慕ってくれているし,赤西君の同期の法学部出身の広瀬さんも加藤さんとは課は違うが,同じ知的財産部に属している。永井部長も元は開発の出身者だから,製造や品質管理,営業の部長のように保守的なことは言わないだろう…。良きアドバイスはくれるが腰が重いマーケティング部の坂本課長も,問題意識は高いので協力をしてくれるかもしれない。

※Note:GHテクノロジーズ組織図・人物相関図第1回図1参照)

さて,どこからどう切り出そうかと佐藤さんは考えます。

会社が直面している課題は,製造や品質に関することなので,できればこの両部門から入り込んで突破口にしたいところですが,部長や現場が話にならない状況は既にわかっています。

では,開発部や知的財産部からできることは何か?会社から経営改革の具体的施策が出るか出ないかの段階において,かつ早期退職後まだ1ヵ月の混とんとしているこの時期に,動かない事なかれ主義者の中間管理職と,無関心で傍観者と評論家ばかりの現場をどう変えていくか。

会社を変えたい意欲は誰よりも強いものの,どのように改革のシナリオを作り,現場を巻き込んでいけばよいのか,やり方は皆目見当がつかない佐藤さんです。

見えた光明

そのような時に,ふと目に留まったのが技術評論社のgihyo.jpで連載をしている無関心な現場で始める業務改善というコラムでした。

読むにつれて,⁠うちの会社とそっくりだ」とうなずく佐藤さんです。ただやみくもに改善,改革を進めるのではなく,きちんとビジョンを描き,変革のグランドデザインを行いながら,仕掛けを作り上げ,現場に動機づけをすることが大事であることを知ります。これまでに思いばかりが先走っていた佐藤さんからすれば,⁠目からうろこ⁠のような視点も書かれていました。

中田社長にも後押しをもらい,仲間になりそうな人をピックアップしながら,まずはどう進めていけばよいかを知るため,このコラムを書いているコンサルティング会社にコンタクトをとろうと決めます。手探り状態でもがいていた佐藤さんに,僅かながらも次に何を行えばよいのかという光明が見えた気がしました。

次回は,コンサルティング会社との相談とアドバイスを中心に,⁠現場の改善プロジェクト」始動に向けての作戦を立てるお話をします。

著者プロフィール

世古雅人(せこまさひと)

メーカにて開発エンジニアと半導体基礎研究(国の研究機関出向)の計13年を設計と研究開発の現場で過ごす。企業風土改革,組織・業務コンサルティング会社や上場企業の経営企画責任者などを経て,技術の現場あがりの経験や知識を活かした業務改善やコンサルティングなどに従事。

2009年に株式会社カレンコンサルティングを設立,同社代表取締役。現場と経営を巻き込んだ「プロセス共有型」のコンサルティングスタイルを推し進めている。

株式会社カレンコンサルティング

URL:http://www.carren.co.jp/