Re:PoIC~ライフハッカーのためのPoIC入門

第7回[最終回] Re:PoIC~Knowledge Navigator(ナレッジ・ナビゲーター)

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記憶と意思決定

では,そもそも「記憶」とはどういったものなのでしょうか。

ここでは記憶を,⁠いますぐに対処すべき眼前の問題を,解決するために不可欠なものとして貯えた,過去の情報」と認知科学的に定義します。つまり,記憶は「思い出すこと」自体が目的なのではなく,あくまでも問題解決の為の手段であるということです。

こうした問題解決のプロセスを制御しているのが,前頭葉の前頭前野皮質です。

前頭前野の機能の中には,何をすべきか決断する働きがあると考えられており,長期的な目標を設定して,その目標に沿った判断を下す役割り,つまり意思決定機能も担っています。

今ここでは,意思決定を,⁠現在の状況を過去の記憶を参照しながら分析し,可能性として予測される複数の解の中から,暫時的に最適解を選択して,行動するための動機とする過程」のことであると定義します。

そして,実際に行動したかどうかは,神経回路とは無関係なので問題視されませんが,行動結果の成否などの「行動の記憶」は,また記憶へと繰り込まれて更新され,再度情報として貯蔵されることになります。

PoICのタグ

前述の記憶分類を追っていくと,この記憶の分類がPoICの4つのタグに対応することに気づくと思います。

野帳

例えば,PoICのドッグを認知科学的メタファーとしての「記憶」の総体であると考えると,⁠野帳」は短期記憶として位置づけることができます。

野帳からカードへの転記作業の際には,情報の取捨選択が行われるので,この作業をワーキングメモリとして捉えることができます。

PoIC提唱者であるHawk氏も,「PoIC : 情報カードの積み重ね」「第5回 PoICを楽しく続けるコツ」の中で,野帳を「一時的な記憶媒体」であると位置づけており,⁠カードに転記した時点で『捨て⁠⁠」るとしており,これはワーキングメモリの役割によく似ています。

記録

また「記録」タグはエピソード記憶に相当すると考えられます。

PoICマニュアルによれば,記録カードは身の回りの事実や現象を記録するのに用いるとあります。

これは,自分が直接,または間接的に経験し,かつ時間や場所,その時の感情などの文脈に依存した,⁠エピソード記憶」のことと考えてもよさそうです。

参照

さらに「参照」タグは意味記憶に相当すると思われます。

PoICマニュアルによれば,参照カードは,本・テレビ・ウェブからのことばの引用,料理のレシピなど,⁠自分以外の他の誰かのアイディア」を記すカードであり,私たちの外側から入ってきた情報,つまり誰かさんのアイディアだとあります。これは,事実や一般的知識など文脈に依存しない情報,すなわち「意味記憶」のことだと言えます。

GTD

そして「GTD」タグは展望的記憶に相当します。

PoICにおけるGTDカードは,デビッド・アレン氏の提唱する,システムとしてのGTDとは異なり,実のところTODOのリストです。

デビッド・アレン氏の提唱するGTDは,⁠何かを行うときのやり方(この場合にはナレッジ・ワーカーの仕事の進め方⁠⁠」に関する知識である非陳述記憶(手続き的記憶)を,言語化(ナレッジ・マネジメント)したものだと考えられます。

そして,⁠43Tabs」はこの展望的記憶の想起を媒介するための,外部記憶装置として働くことになります。

外部記憶装置としての用件を満たす機能としては,以下の4つがあり,43Tabsもこの4つの機能を押さえたものになっています。

1.符号化機能

手帳に書く,写真を撮る,どこかに置く,他者に思い出させてくれるように頼むなど,外部記憶装置を構成することによって,記憶に対する心的な働きかけが活発になり,結果的にその記憶の保持を促進する機能のことを符号化機能と呼びます。

これは情報カードに予定を記入する行為に相当します。

2.トリガー機能

記憶として保持された情報を思い出す際に,外的記憶装置がそのきっかけになることをトリガー機能と言います。

これは日ごとにタブをめくっていくことに相当します。

外的記憶装置の利用が,予定の想起を促進するのは,保持期間中ではなく,想起時に外的記憶装置を利用できるからであり,タブをめくることによって,その日の予定がカムアップされ,それが展望的記憶のトリガーになっています。

3.貯蔵機能

例えば手帳に書かれた予定が,しばらくの猶予を経た後でも,きちんと参照できることを貯蔵機能と言います。

43Tabsでは,タブケースの中に予定の書かれた情報カードが貯蔵されています。

4.リファレンス機能

「仕事の予定はスケジュール帳に書いてある」とか,⁠休暇の予定はカレンダーに記してある」などといった,どの外部記憶装置にどの情報が付加されているかを示す索引を,利用者が記憶できているということをリファレンス機能と呼びます。

43Tabsでは予定はすべてカードに書かれ,ケースの中に一元化されています。

発見

そして,最後の「発見」タグは特殊な分類です。

なぜなら,発見カードに書かれた情報は,私たちの頭や心から湧き出てきたものであり,これは溜め込むためのものではなく,外部に向かって放出されたものだからです。

目的意識を持って,エピソード記憶や意味記憶を再構成的に想起する,つまりPoICにおいてタスクフォースを編成することにより,新しいアイデアがひらめくのだと考える時,発見カードを書くという行為は,ワーキングメモリという場(前頭前野)で行われた,情報の操作や処理の結果だということが出来ます。

そして,ワーキングメモリ上での操作の結果が,再び長期記憶として繰り込まれるように,発見カードも,新たな発見のための過去の情報としてドックに貯蔵されます。

PoICの4つのタグを,上記のように解釈する時,データウェアハウスとしてのPoICでの意思決定支援とは,現在の状況と長期記憶をワーキングメモリ上に選択的に読み込み,活用しながら,課題を遂行する,という前頭前野の機能を支援するということに他ならないのです。

著者プロフィール

野ざらし亭(のざらしてい)

「Blog:野ざらし亭」亭主。他人のアイデアに相乗りする自称知的ヒッチハイカー。現在 はPoICの荷台に厄介になっている。

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