シューカツ女子ともよの会社訪問記―知りたい!あの人のはたらきかた

第5回大場寧子、久保優子~女性エンジニアの起業

はたらくって何? 新社会人まで秒読み女子大生・ともよが会社訪問。第5回は株式会社万葉を立ち上げた大場さん、久保さんを訪ねます。

東京の古書店街、神保町にあるオフィスにて。今回は全員メガネ女子!
東京の古書店街、神保町にあるオフィスにて。今回は全員メガネ女子!
(撮影:平野正樹)

ちょっと話があるんだけど、会社作りません?

ともよ(以下と⁠⁠:まずはお2人のプロフィールを。

大場寧子(以下、大⁠⁠:万葉の社長をしています。大学卒業後、ジャストシステムに入社して、5年くらいプログラマとして働いていました。それからベンチャーに移動しWeb関係の開発をやりながら、フリーランスとして知り合いの会社を手伝ったりもしていました。会社を作って兼業で請負開発をやっていたのですが、そちらに集中せざるを得なくなって会社を起こしたんです。ちなみに久保さんと知り合ったのは大学のサークルですね。

久保優子(以下、久⁠⁠:私は営業と総務の管轄をしています。営業一筋でこれまでやってきたわけではありません。万葉創業当時は開発もしていました。

と:どういう経緯で開発をするようになったのですか?

久:もともとはエンジニアではなかったのですが、大場さんの紹介でとあるベンチャーに入ったとき、そこの社長の勘違いから開発に携わるようになりました。

と:えー! ずいぶん突然ですね。

久:「大場さんの知り合い=開発者」と思われちゃったんですよね。そのままなしくずしで開発者になり、その後また別のベンチャーにいたころに大場さんとなんとなく会社を作ったんですよね。

と:なんとなく(笑⁠⁠。

大:2006年の年末のことです。ふと思い立って「ちょっと話があるんだけど、会社作りません?」って誘ってみたんですよね。そしたら久保さん、⁠いいですね」って。話があっと言う間に終わってしまって、あとは2人でずっと飲んでたんですよ。

久:うん。⁠どっちが社長やる?」⁠大場さんでいいんじゃない?」⁠うん」みたいなかんじで。

と:あはは。さくっとしていますね。

久:もともとは兼業で細々とやっていこうと思ってたんですが、この会社でお金を稼がないといけない状況になってしまって。

大場寧子

大場寧子[OHBA Yasuko(@nay3)

久保優子

久保優子[KUBO Yuko(@kuko)

1974年、東京都生まれ。転職の手違いでエンジニアになってしまった。万葉の歌って踊れる専務取締役。

自分の強みが一番発揮できている

と:久保さんご本人としてはどっちのほうが楽しいんでしょうか?

久:どっちも楽しいですよ。開発も営業もそこそこできますが、とりたてて「得意」というものはありません。ですので私は「何でもできる」というところで勝負するしかない。今は万葉で「その何でもできる」ポジションをやらせてもらっていますので、自分の強みが一番発揮できているなと思います。

大:そう。久保さんのいろいろできるところに、会社の設立初期は特に助けられたんです。たった2人の社員なのに2人とも開発だけに専念して、請求書の発行が滞っていたら、われわれの給料が出ませんよね。そんなときに開発と総務を7:3でやってくれて。久保さんがそういう風にできたから初期が割と楽だったんですよね。

と:今では営業畑の久保さんですが、久保さんみたいに、技術職を経験したことが営業の強みになったり?

大:それはありますね。久保さんの場合すごい強みだと思います。開発に向かない営業タイプの人とか、逆に開発一筋の人とか、あるいは本当は開発が好きなんだけど、嫌々営業をやってる人はたくさんいると思いますが、久保さんのようにしっかり開発してた時期もあり、かつ営業が心から好きな人は、なかなかいないんですよね。

と:大場さんは何をされているんでしょうか?

大:私は技術系の統括と経理です。

と:実際に手を動かしてコードを書いていらっしゃるんですか?

大:書いていますね。言語はRuby 中心で、iPhone/Androidアプリケーションの開発もしています。持ち帰りで開発していたり、お客さん先に行ってお手伝いしたり。コンサルっぽいこともやったりします。

自由を愛する人間

と:大場さんは、もともと会社を作りたいという野心があったんでしょうか?

大:そうですね、子どものころから、なんとなく会社を作りたいなと思っていました。新卒で入社したジャストシステムにいたころには、⁠IT 系の会社を作りたい」というところまで具体的に考えていたんです。

と:会社を作りたい! というモチベーションって、何だったんでしょうか?

大:「自分がやりたい仕事をやれる」環境を作りたいという気持ちですね。私、すごく自由を愛する人間なんですよ。なんでも自分の好きなように決められて、好きな人たちに囲まれてはたらくのが好き。それから、実装が好きでそれを続けたかったんですが、会社勤めで高い給料をもらおうとすると、マネージャーの仕事だけになっちゃうんですよね。がんばれるけど、自分はマネージャーの仕事がそんなに楽しくはなくて。それも、会社を作るきっかけの1つですね。

と:女性だからといって会社が作れないわけではないんですね。

女性の起業

と:IT系って起業しやすい分野だと思うのですが、女性社長ってまだまだ少ないですよね。起業したい気持ちはあってもなかなか踏み込めないというか。

大:女性1人で起業するのはつらかったと思います。私も久保さんと知り合えていなかったら絶対起業していないでしょうね。

と:まさに二人三脚の起業ですよね。

大:起業にもともと興味はあったけど、久保さんとのタイミングが合って初めて「よし会社を作ろう」と思ったし。それに、私だけでは機能が足りなくて(笑⁠⁠。

久:最初からお金かけたくなかったので、約款(やっかん)作ったりとか登記したりも行政書士に頼まないで私がやりましたし、最初のうちは、従業員の給料計算とか社会保険の手続きも自分たちでやりました。

と:へー。大場さんのサポートを久保さんがやってる感じなんですね。

久:「この人を支えられるのは私しかいない」って会社を作ったときにも、そして今でも思いますね。大場さんの扱いは私が世界一うまいんじゃないかな。

大:めちゃくちゃうまいです(笑⁠⁠。

万葉の社内はとても特徴的。大きな長机に社員が向かい合う形で仕事していた。
万葉の社内はとても特徴的。大きな長机に社員が向かい合う形で仕事していた。

百人一首がきっかけ

画像

と:そんな仲良しのお二人ですが、サークルで知り合ったとか。同じ大学だったんですか?

大:あ、大学は違います。サークルは一緒なんだけど。東大の百人一首のサークルだったんです。

と:百人一首! それで大場さんのWebページで百人一首のソフトを公開しているんですね。

久:そうですそうです。

大:百人一首読み上げソフトを万葉から出したりもしていますし、練習のアプリケーションも作っています。

と:もしかして、会社名は百人一首に関係があるんですか?

大:そうですね。⁠万葉集」に由来しています(笑⁠⁠。

久:名前決めるときにね、万葉か古今か新古今かみたいな。

大:2人とも国文学科出身なんですよ。

と:文学をずっと学んでいて、なぜコンピュータの分野に?

大:私の場合は、国文学科に行くと決心するよりも先に、中学のころにプログラミングを経験していました。

と:なるほど。それで情報系の学部を選ばなかったんですね。

大:そうですね。自分でプログラム組めると思っていましたし、独学でも困らなかったので選ばなかったんですね。それにあんまり理系っぽいのって好きじゃなかったし。

と:えっ そうなんですか?

大:男の人多いしー。

と:あはは(笑⁠⁠。

大:それに、もともと文学とか古文とかが好きだったんですよ。ですので、大学までは趣味を突き詰めたかったんです。

と:久保さんも百人一首お好きなんですよね。

久:私は小学生のときに百人一首を覚えて、大学生になったら競技かるたをしたいって思っていたんです。

大:私が2年のとき、いきなり大学のサークルに、⁠参加できますか?」って電話が来たんです。⁠できるんじゃないかな」って答えたのが私で、その電話をかけてきたのが久保さんだったんです。

と:お二人の出会いは完全にその1本の電話だったんですね~。

久:そうですね。

大:まさか、あの電話がきっかけで、2人で会社まで作っちゃうとは思いませんでしたよね(笑⁠⁠。

出産と仕事

と:大場さんはもうすぐお子さんがお生まれになるそうですね。

大:12月に出産し[1]⁠、4月には子どもを保育園に預けて復帰してくる予定ですね[2]⁠。

と:早いですね。

大:そうですね。久保さんのほうもそうだったし。

と:久保さんは、ちょうど1歳になるお子さんがいらっしゃるそうですね。

久:はい、2011年12月2日に息子が生まれて、翌4月には保育園に預けて仕事に復帰しました。

と:早いです……。1年間育休を取る、とか考えませんでしたか?

久:いえ、まったく考えていなかったですね。4月までは自宅でお仕事していましたし、できるかぎり速やかに仕事に復帰しました。

大:弊社には久保さんの代わりになる人がいないんです。営業のことまるっきりお任せしてるので重要なんですね。

久:でも社長の代わりもいないですよ?

大:ま、そうだけどさ。でも、久保さんがいないと、本当に困っちゃう。会社の総務の仕事も、新しい案件の話とか、お客さんとの調整とか、お金の話とか。

久:もともと出産後はできるかぎり速やかに戻ってくる約束でしたしね。私もあんまり家にいたいタイプではないんです。

と:なるほど。

久:最初の1ヵ月はさすがに私もゆっくりしつつ、仕事はSkypeを使っていました。そのあとはもう営業に出ていましたね。子どもは母やベビーシッターさんに見てもらっていました。

と:すごい。

大:本当にすごかったです。復帰も早いし、入院前日ぐらいまで会社に来てくれたんですよ。

出産から仕事へ復帰したのはたったの4ヶ月。まさに仕事人という感じの久保さん。
出産から仕事へ復帰したのはたったの4ヶ月。まさに仕事人という感じの久保さん。

なるべく早くRuby 2.0へ

と:万葉は受託開発がメインだそうですね。

大:私自身はもともとプロダクトとかサービスが好きだったのですが、プロダクトやサービスっていうのは当たり外れが大きいし、先行投資型になるので売れる状態になるまでかなり投資しないといけない。回収できないかもしれないので、安定して食べていくということが難しいんですよね。私たちは一気に稼ぐことよりも、堅実に安定して会社を経営したほうがいいと思い、今は受託開発を中心にやっています。

久:うちはベンチャーではないんです。零細企業なんですよ。

大:それで多少貯金ができたらちょっと投資してプロダクトを作ってみて、やけどしそうになったらすぐ手を引っ込めるみたいな(笑⁠⁠。そんな感じを続けていますね。

と:女性らしい考えですよね(笑⁠⁠。

久:たしかにそうかもしれませんね。

と:今号の連載や特集でも取り上げられているRuby 2.0とRails 4.0のバージョンアップについてはどうお考えですか?

大:仕事的にはなるべく早く取り組みたいですね。

久:そうですね、できれば新規案件にはRails 4.0 を使っていきたいです。ただ、安全に進めるためにはちゃんとリスクを踏まえていかないと、と思っているところです。Rails 4.0は自社のアプリケーションでどんどん追っていきたいですね。

大:案件度外視でRails 4.0を追う専門部隊を組む余力はないのですが、なるべく早くやりたいので、タイミングを見計らって「じゃあ新しい技術で作りましょう」という提案を積極的にやっていくつもりでいます。

と:なるほど。やっぱり、すごく堅実ですね。

大:そうですね。自分で把握しきれるリスクしか背負いたくないんですよね。

女性社員とパワーバランス

と:ところで、社員さんは何人くらいいるんですか?

久:今は……私たち入れて16人。ほとんどが開発者ですね。

と:女性の社員さんが多いですよね? IT系の会社としては珍しいかもしれません。

久:以前、大場が従業員の男女比を半々にしたいと言ったので、一時期人数比を50:50にしたことがあるんです。そうするとパワーバランスが70:30になっちゃって……。同じ人数なのに、発言力が違うんですよ。

と:へー! おもしろい!

大:お昼のSkypeとかも女子校の昼下がりみたいになって、これはまずい! と思って男性社員を増やすことにしたんです。男女比は2:1がちょうどいいという結論になったんだよね。

と:へ~、女性ってパワフルなんですね。

大:それから、弊社は女子扱いがうまくならないと男性は生きていけないことでもちょっと有名なんですよ(笑⁠⁠。女性が多い分、その点は気を遣うようにしてもらっていますね。

と:なるほど~、女性社長ならではかもしれませんね。採用に関して、ほかに何か基準はありますか?

久:採用に関して一番気を付けてるのは人柄ですね。会社と雰囲気が合うか、合わないか、です。

大:そうですね。その人の行きたい方向性とか。とはいえ、プログラミングが好きな人じゃないとやっぱりダメだと思うので、さすがにプログラマ未経験者はまだ採用したことないのですが、Ruby未経験とか、オブジェクト指向未経験とかの人は採用しています。

久:価値観が合うかどうかなんですよ。技術って教えられるし、ちゃんと人の話を素直に聞いて伸びたいっていう気持ちがある人であれば伸びていくはず。でも価値観とか人柄っていうのは変えられないじゃないですか。

と:そうですよねえ。

久:価値観とかコミュニケーションのしかたとかそういうのって今まで培ってきたのもあるので、そういう部分を新しく教えることはできないですし。

大:とはいえコーディングするのに向いているかどうか、そこはやっぱり見分けてます。

と:人によってコーディングの向き不向きがあるんですか?

大:ロジカルでわからないことはしつこく聞いたり、追求したりする人は経験がなくてもコーディングに向いていると思いますね。向いていないのは、飽きっぽくて、あんまり細かいことにこだわらないタイプの人。根本的に向いているかどうかっていうのを見ています。

結婚と仕事

と:家庭のことと、お仕事とのバランスはどう取っていますか?

大:私は、仕事の比重が高いですね。もとから開発が好きなので趣味も仕事も違いがないです。今までのところ、あんまり家事もしていなくて、好きなことになるべく時間を使わせてもらっています。これから子どもが産まれるので、ちょっと変わるかなと思うんですが、好きなことを多めにやりたいという気持ちは変わらないです。

と:出産後もすぐ社長業に復帰しますしね。久保さんはいかがでしょう?

久:私もかなり仕事の割合が大きいです。私は家事も育児も旦那よりしているのですが、これがずっと続くのかな? という不安は少しありますね。それと、困るのは子どもが病気になったときです。病気のときも見てくれる託児所があったらいいなとか、小さい子のいる母親も父親も働きやすい社会になったらなと思います。それに、育児休暇を取ったあと、職場に復帰しやすいしくみを会社頼みじゃなくて行政が考えてくれればいいのになーっていうことを思っています。

大:それはありますね。自分たちはお母さんの視点と、会社の視点、両方持っているのでそこは難しいポイントです。

久:お母さんの視点に立てば、休むしかない、しょうがないって自分でももちろん思います。でも会社からしてみれば、たとえばみんなが一度に育休を取ると、会社が回らなくなってしまう。このギャップって会社だけでは絶対に解決できないんですよ。

と:育休、国が負担してくれたらいいのになあ。女性へのインタビューは今回が初めてでしたのでいろいろと勉強になりました。ありがとうございました。

「社長室なんてないですよ」と笑う大場さん。長机の真ん中でコーディングに励んでいた。
「社長室なんてないですよ」と笑う大場さん。長机の真ん中でコーディングに励んでいた。

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