マスクド・アナライズの道場破り!リアルデータサイエンティスト・中山心太編

第2回 機械学習システムや人工知能システムに取り組むときに大切なこと

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横ぐし人材の必要性

ところてん:話は変わりますが,⁠プレスリリース出したいから機械学習やりたい」っていう話があって,いくら社内会議に提案しても大ゴケしましたね。

マスクド:プレスリリースを出すことが目的になってしまう話はよく聞きますね。

ところてん:プレスリリースに関して良かったケースも悪かったケースもあります。良かったケースから言うと,やっぱりプレスリリースを打ったことによって,社内が急激に動き始めたことはありますね。⁠社長がやるって言うんだからやるんだよ!」っていうのがミドルマネージャ以下に意識統一されたので,⁠このような環境が欲しいです,このような施策をやりたいです」と提案すると「よしわかった,やってやるぞ」となったことがあります。

逆にプレスリリースが先行したことによって,こちらの出した堅実な事業改善プランが拒否されて,できるかわからない無茶苦茶な企画をやれと言われたこともあります。

マスクド:トップダウンで動く昔ながらの組織にはそのような傾向がありそうです。

外部の人間はどうしてもよそ者扱いされてしまいますから,やってくださいとか試してくださいとお願いしても,なかなか聞いてもらえません。結局,中の人が意識を変えてくれないと話が進みませんし,契約にしろ,仕事の進め方にしろ,ある程度の権限を持っていることが必要だと思います。

ところてん:少なくともカウンターパートが人事権があるかどうかが重要です。こっちがこれこれのリソースが足りないのでこういう環境を作ってください,こういう人を用意してくださいって言ったときに,ちゃんとそういった人をアサインできるかどうかですね。それでプロジェクトの進め方はまったく変わります。

本の中でも少し書いたんですけど,結局データサイエンスとは言いつつ,R&Dからオペレーションまでを一気通貫でやらないと価値が出ないんですよね。セクションごとに切れているKPIを全部横ぐしでつながないと,本当の価値が出ない,だからそれらを横ぐしで動かす人材が必要というのが私の最近の考えです。

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マスクド:上手く調整して横ぐししてくれる人が欲しいんですよね。

ところてん:そうです,そうです。横ぐしできる人がいないとほんとに,隣の部署が嫌だって言ってたから無理ですって。

マスクド:止まります,それで止まることありますよね。

ところてん:データ分析者は「精度が80%出てるんで,これ出したらまあまあ売れると思うんですけど」って言うんですけど,⁠いや,向こうの部署が我々が手でやった方が良いといってるから」って言って止まっちゃうことがあります。そこに「いいからやれよ!」って言ってくれる偉い人とかが欲しいんですけど。

マスクド:そういうときに偉い人が横ぐしを見てくれて,詰まったところを直してくれればベストですけどね。組織文化が古い大企業では難しいですし,この本に出てくるデータ分析に理解のある会社なら大きな問題ではないと思いますが。

プレスリリースはその瞬間の技術ではない

マスクド:結局,機械学習や人工知能システムに本気で取り組むには,ジグソーパズルを手探りで完成させるような難しさが必要になるんです。社内調整も簡単ではないし,時間もお金もかかるが,結果が出るかはわからない。私は人工知能システムの導入はゲームのガチャみたいなものと説明します。失敗する可能性がきわめて高いですし,何度かやってうまくいったら儲けものぐらいですよ。

ところてん:そうですね。

マスクド:1回のガチャで数百万は溶けるので,それを許容できる体力と投資できる眼力が必要かと思います。

ところてん:みなさん,さまざまな新しい事例や難しいことばっかりニュースになるので,あれやりたいこれやりたいっていうんですよね。いやいやそれすごく難しいからねっていう。

経営者の人には「うちの会社はこれぐらいできているだろう」みたいな思い込みがなぜかあって,⁠我々は他社のプレスリリースで出ている最先端のことのさらに上をやるぞ」みたいな感じで提案してくるんですけど,だいたいは最低限もできてないっていう……。

話題になるようなプレスリリースは,結局作ってるものが何千億円という大きいビジネスで,さらにそこに何十億円か投入したうえで,あのプレスリリースができてるんであって,とりあえず外部のベンダー呼んできて,さあ来月プレスリリースしましょうって無茶言うなっていう話です。

そういう意味で世の中の会社がプレスリリース打つまでに何をやったか,どれくらい期間で何やったかって情報がすごい欠落してますね。プレスリリースで有名になった案件を担当した友人と話す機会があったんですけど,それいつからやってたの? って聞くと2年前とか。プレスリリースにどれぐらい期間かけたかをちゃんと出してもらえると良いですね。

マスクド:プレスリリースには良いことしか書かないので,期待ばかり煽っている感はありますね。⁠他社がやったからウチでもできるだろ」とか簡単に言われますし。

ところてん:ベンダーから買って来ればできるでしょって思ってるんですよ。いやいやそれベンダーが2年間協力してやった結果できたからっていう。簡単にできたようにプレスリリースを出しすぎてるよね,みんな。

マスクド:誤解が生まれますね。内部事情や都合の悪いこと,失敗した案件などは人づてに聞きますけど,もちろん表には出ませんし。

ところてん:世の中の経営者の人には「世に出てくるプレスリリースの10倍は失敗しているぞ」っていうふうに思って欲しいですよね。

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マスクド:新聞や経済誌で大々的に取り上げられる事例は,他社との差別化や社内の取り組みをアピールする武器ですからね。AIもトレンドの幻滅期に入ったと言われますし,猫も杓子もAIな現状から落ち着いてくると思います。そうなると,本来AIにやらせるべき分野やAIが活躍できる役割がより明確になって,そこに投資できる企業によって正しいAI活用が進むと思います。思いつきや流行でAIに飛びつく時代は終わって,一見目立たないけど実はすごい業務改善につながりましたという事例が出てくることを期待しましょう。

著者プロフィール

中山心太(なかやましんた)

株式会社NextInt 代表取締役

電気通信大学大学院博士前期課程修了後,NTT情報流通プラットフォーム研究所(現ソフトウェアイノベーションセンタ,セキュアプラットフォーム研究所)にて情報セキュリティ・ビッグデータ関連の研究開発に従事。その後,統計分析,機械学習によるウェブサービスやソーシャルゲーム,ECサービスのデータ分析,基盤開発,アーキテクチャ設計などを担当。2017年に株式会社NextIntを創業し,現在は機械学習に関するコンサルティングや,ゲームディレクター,グループウェア開発を行っている。


マスクド・アナライズ

AI(人工知能)・IoT・機械学習・データ分析などを節操なしに手掛ける"自称"AIベンチャーで働くマスクマン。 ただのデータサイエンティストではありません,イキリデータサイエンティストです。「データサイエンス界の東京スポーツ」を目指して,Twitterを中心に日々活動しております。

Twitter:@maskedanl


高屋卓也(たかやたくや)

書籍編集者。2013年より現職。担当作に『データサイエンティスト養成読本』シリーズなど。

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