羽生章洋『はじめよう!システム設計』刊行記念特別インタビュー~角征典から見た2018年の上流工程とカスタマーエクスペリエンスの時代

第4回 はじめよう!プロセス設計[後編]

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世の中のマジョリティはカードが大好き

羽生:ただ,その明太子屋はそろそろ業務プロセスの改善やらなきゃねって言ってた頃に,3.11で仕入れができなくなって,軌道に乗る前に商売そのものができなくなってしまったんですよ。

――あら,大変でしたね。

羽生:一方で,3.11のあとにスマホブームが来てね。それまではIT業界って先があんのかなとか思ってたんだけど,やれることはまだいっぱいあるなって思って。僕のところにもスマホの話がいろいろ持ち込まれるようになって,そうこうしてるうちに,それまで断片化してたものをきちんとまとめて,ちゃんと出していかなきゃと思うようになったんですよ。

――明太子屋の経験とスマホブームが『はじめよう! プロセス設計』につながってるわけですね。あと,あれでマジカ※1がきちんと書籍になったというのも大きいですよね。

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羽生:マジカって2004年生まれなんですけど,2009年に「マジカカンファレンス」をやって,ヌーラボの橋本さん※2とか,福岡県大野城市役所の方にもマジカの活用事例を報告してもらったんだけど,2016年に全面改訂するまではあまり表に出てなかったんですよ。その間に色んなところで,それこそ火消しとかやってて,マジカじゃなくてもっと汎用的な手法でどうにか出来ないかとか模索していたんだけど,やっぱりマジカでないと厳しいなぁというのを思い知らされ続けたので,今回思い切って書籍にちゃんと書いたんです。

――『はじめよう! プロセス設計』で改めてマジカの説明を読むと,やっぱりカードになってるのがいいと思うんですよ。

羽生:そう,みんなポストイット好きじゃないですか。たとえば,デザイン思考のワークショップとかでも,みんな壁に貼ってやってますよね。あと,カードゲームって子どもは好きじゃないですか。カードでこんなんあるですよって見せると,どこの現場行ってもね,だいたい食いつくんですよ。

――あれは本当に便利ですよ。

羽生:楽しいっていうUXをマジカは備えてるんだなぁって感じるね。でね,乗ってこないのはね,IT屋だけ。エンジニアだけ。しかもエンプラ系のね。彼らは,四角と矢印のダイヤグラムが大好き。賢そうに見えるのが好きなのよ,きっと。でも,それ以外の世の中のマジョリティは,カードが大好き。カードだと矢印を書かなくても,並べるだけでいいんですよ。

――そうすると,それもストーリーというか,カスタマージャーニーみたいにもなりますね。

羽生:そうなんですよ。まあ,マジカって絵コンテですからね。富野由悠季の『映像の原則』って書籍も参考にしてたりするし。ストーリーになりますよね。ポストイットだけでやってもいいんだけど,もうちょっとフォーマット化して,穴埋め式になってると,そこを埋めて並べるだけだからね。そうすると,実に楽しく,しかも明解にどんどんやっていくんだなっていうのがわかって。だから,もうことあるごとにね,マジカにしてもらってる。

――テンプレートも自分たちで新しく作っていいんですよね。

羽生:独自でカードを作ってくれてもいいんですよ。

――テンプレートがそろってるところがマジカのメリットのように思えるけど,それよりも業務に合わせて拡張できるところのほうが,実はメリットかなと思ったりするんですよ。

羽生:そうね,業種によって,たとえば工場向けにね,⁠組み立てカード」とか「検査カード」とかがあってもいいよね。お医者さんだと「診察カード」とか。マジカだと動詞を抽象化して「活動」とか「伝達」とかになってるけど,動詞で明確に表現するとぐっとよくなるってだけだから。会社ごとにバリエーションがあってもいいですよ。

――「承認カード」とか。

羽生:そうそう。まさに! そういうのは作ってもらいたいよね。実は,そのためのキットというか,簡単デザインツールみたいなのも用意しておきたいの。

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※1)
誰でも手軽に楽しく確実に業務の見える化を実現することが出来る紙のカード型ツール。マジカランドから無料ダウンロードできる。マジックカードの略でマジカ。
※2)
「Backlog」⁠Cacoo」などのWebサービスでグローバル展開している株式会社ヌーラボのファウンダー/代表取締役である橋本正徳氏のこと。⁠ヌーラボさんがまだ受託開発をしていた頃に,マジカを使ってお客さんの業務理解をしていたという実績について,マジカのイベントで語ってもらったことがあるんです」⁠羽生談)

マジカなら「俺たちは欲しいものはこれだ」って言える

――いずれ「AIに依頼するカード」とかも必要になりそうですね。

羽生:そうね。あと,直近で必要なのがね,音声関係のカード。

――Google HomeとかAlexaとか?

羽生:そうそう。あの辺はね,思った以上に必要なんだって思った。

――うちの6才の子も日常的にAlexaをめっちゃ使ってて,自分で仮面ライダーの音楽を聞いたり,豆しば呼んだり,テレビつけたりしてますよ。なんかジェネレーションギャップを感じますね。

羽生:大学生がスマホの音声入力で卒論を書いちゃう時代だからね。

――これからは必然的に業務プロセスにAIが入ってくるというか,ITシステムとAIの関係が注目されてきますよね。

羽生:「ITシステム」だと見向きもしないけど,⁠AI時代」っていうと,みんな食いつくんだよね。なんかね,AIって言うと一般の人でもわかった気になれる。仲良くなれそうに気になれるパワーワードなんですよね。そこに逆らって「そもそもAIとは」みたいな正しさで抵抗するよりも,共感できるワードとして上手く付き合ってあげればいいのかなって思ってるんで,僕はAIに関してはすごいポジティブですよ。

――そうすると,マジカも変わっていきますか?

羽生:やっぱり「AIくんカード」は今後の予定には入ってますね。あと「会合カード⁠⁠。

――会合? ミーティングってことですか?

羽生:そう,ミーティング。なんかね,どこ行っても会議体が多くって。君たちはどんだけしょっちゅうミーティングしてんだろうか,みたいな。まあ標準の「活動カード」でもいいんですけど,カードにはキャラの絵が1人しかいないのに,あれに穴埋めして「⁠⁠関係者全員]さんは[ミーティング]やります」ってやると,ちょっといまいちで。

マジカの活動カード

マジカの活動カード

――分析屋さんとか上流工程屋さんは,抽象的にプロセスを捉える考え方をすると思うんですけど,マジカだと,そういうミーティングなんかも含めて,具体的に扱わなきゃいけないって感じになりますよね。

羽生:そう。現場の実感に寄り添うっていうね。⁠はじめよう! プロセス設計』には出てないけど,マジカには「ITくんカード」なんかもあるんですよ。他のシステムくんとやり取りするカードとか,⁠アップロードカード」とかね。そうやってシステム側の具体的な活動を擬人化することによって,お客さんとのコミュニケーションも取りやすくなるし,自分で物事の整理もつけやすくなるんですよ。

――お客さんのエクスペリエンスから実装の直前まで,どうやってここがつながるのかというのを,マジカは表現してますよね。マジカを挟んで,こっち側がIFDAMで,あっち側がお客さんの世界というか。

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羽生:それそれ。IFDAMとマジカって,いろんな企業に導入させてもらってるんですけど,特に大手企業さんにウケがいいんですよ。その「つながっている」っていう話が,彼らがずっと言葉にできなかったことなんですよね。

――ああ,なるほど。

企業研修の様子

企業研修の様子

羽生:情シス主導なのか,ベンダー主導なのかわからないけど,IFDAMで表現されるシステム側の動きと現場の業務活動への理解に距離というか溝がある。それをマジカでつなげて見せてあげたことで,腑に落ちるっぽくって。これだったら,自分たちでも決められる,⁠俺たちは欲しいものはこれだ」って言える,っておっしゃってもらってますね。

次回予告:最終回は「システム設計」について。

著者プロフィール

羽生章洋(はぶあきひろ)

1968年生まれ。エークリッパー・インク代表など。かんたん見える化ツール「マジカ」や要件定義記法IFDAM,マジカやIFDAMを活用した上流工程手法「STEP」の作者。色々やってみたけど上手くいかなくて本当に困ってる方向けの研修や支援などを提供中。主な著書に,はじめよう三部作の他,『SQL書き方ドリル』『楽々ERDレッスン』『いきいきする仕事とやる気のつくり方』『原爆先生がやってきた!』など。

URL:http://habuakihiro.com


角征典(かどまさのり)

ワイクル株式会社 代表取締役,東京工業大学 環境・社会理工学院 特任講師。アジャイル開発やリーンスタートアップに関する書籍の翻訳を数多く担当し,それら導入支援に従事。主な訳書に『リーダブルコード』『Running Lean』『Team Geek』『エクストリームプログラミング』,共著書に『エンジニアのためのデザイン思考入門』。

URL:https://kdmsnr.com/