Aza Raskinが語るユーザインターフェースとデザインの潮流(後編)

現在Mozilla Firefox開発チームに所属するAza Raskinに、ユーザインターフェースに関するインタビューを行いました。

ユーザインターフェースのあれこれ

Azaは実にさまざまなことについて彼一流の意見や提案を聞かせてくれました。ここにその要点をいくつか示します。彼のアイデア、視点の転換を楽しんでください。

オフィスが引っ越しました。繁華街の中にあるかっこいいビルです
オフィスが引っ越しました。繁華街の中にあるかっこいいビルです

Undoは削除されつつある

自然言語には代名詞(たとえばit)などの、文脈や過去の経緯から推測することで記述を省略できる機能があります。しかし学習から推測する限り必ず間違いがあります。するとUndoが非常に重要になるはずです。どうするのでしょう?

  • A:まずUbiquityではユーザ自身がエラーを素早く発見するための仕組みがあります。ユーザが最後までタイピングして、enterキーを押すまで待ったりせず、たとえばもしあなたが「これ(this⁠⁠」と言ったとき、Ubiquityは「これ」に相当する何かを提示します。もしそれが曖昧なら、僕らはユーザにそれで正しいかどうか確認できるし、曖昧さを示すこともできる。

    また、Ubiquityではタイプしている間は何も副作用がありません。enterキーを押すまでは何も起きないのです。その結果、とてもリッチなプレビューを得ることができます。map chicagoとタイプすればそれが出てきます。もし望みのものでないなら単にdeleteキーを押せばいいし、そういう意味ではUndoという段階がなくて良いのです。つまりUndoがdeleteされているわけです。

つまりリッチなプレビュー、それで何が起きるかを先に見せることで、事後に非常に強力なUndoが必要になる問題を回避するのです。元々の問題をひっくり返したわけですね。

ソーシャルな問題に転化する

筆者はUndoに関連してWindows Vistaが出す大量のダイアログを例に、⁠これをしても良いですか」と尋ねることは無意味であり、間違えたら後でUndoするほうが良いと話しました[1]⁠。

すると彼はダイアログの問題に答えた後、⁠ところでそれは面白い質問に変わります」と言ってJetpack[2]のセキュリティ対策について話し始めました。Jetpackでは単純なSandbox[3]に入れる代わりに、マニフェストと呼ぶアクセス制限リストを用います。

  • A:さてあなたの質問、ダイアログ問題については随分考えました。セキュリティとユーザビリティのどっちをとるか、ということにつながるからです。ここでは(非常に技術的な設定項目を多数含む)マニフェストがそうです。たとえば、このプログラムをネットワークにアクセスできるようにしますか? yes or no。あなたのパスワードにアクセスさせますか yes or no。ファイルアクセスも、あれも、といった具合いに多くの質問項目が含まれています。twitter.comにアクセスを限定、などもあります。

    これで安全性は高まるのですが、しかし(繰り返して無意味なことを尋ねる)ダイアログ問題が現れます。だってエンドユーザがコードの断片を見ても、その中身はわかりっこない。そしてマニフェストを見てもこれまた技術用語が並ぶだけで意味不明。ねえそんなものインストールしたい?

  • Y:判断できないよ。

  • A:何か解決策が要るね。そこでそのアドオンを大勢のレビュアーに見てもらうんだ。彼らはアドオンなどが好きな人たちで、そんな人たちがマニフェストの内容をチェックしてくれる。エンドユーザにはその評価を集約して簡単に見せ、せいぜいインストールして「良い」⁠駄目」くらいで判断すれば良い。

    技術的なことが良く分からないお母さんが家電機器を買い、娘か親戚の誰かに聞くのと同じです。つまり彼女は技術上の問題(どうすれば良いか)を人間の問題(誰に頼めば良いか)に変えたわけだ。これが、そのダイアログに対する質問の答ってわけ。つまり僕たちの解は、技術上の問題をソーシャルな問題に転化することなんだ。

ここでも彼は、問題を直接解決するのではなく、違うところに置き直して対応しようとしています。

Aza Raskin氏
Aza Raskin氏

パーソナライズ

ここで筆者はJetpackのパーソナライゼーションについて間違った質問をしたのですが、Azaはそれを正してから「ただ、そのパーソナライズに関する質問(話)は面白いね」と続けました。

  • A:もし最終的にインターフェースやコンテンツがあなたにフィットしてないと感じられたら、そこには何か間違いがある。大抵は平均的なユーザに対してちゃんとインターフェースのことを考えない設計者のせいだね。たとえば巨大なチェックボックスでいっぱいの環境設定画面を作ったり。つまりインターフェースを変えて、ユーザが望むとおりに変更できるように。でもこれは間違いね。⁠ええ)

    なぜならどれが一番良い選択かユーザにはわからないからね。これは僕らの仕事だ。よく研究して、それを見つけ出すんだ。

「その通り」と返事をすると、何と彼は「今話してたこと自体、間違ったゴールなんだ」と言い出しました。

  • A:(インターフェースではなく)コンテンツこそパーソナライズされるべきものです。Mozillaはこれ(正しいパーソナライズ)を実現するユニークなポジションにいると思う。ユーザは(ソフトを信頼して)非常に多くのユーザ自身に関する秘密の情報を与えてる。iGoogleやMy Yahooも同じで、我々はあなたが何を申し込んで、何を読んで、チェックしたか知ってるんだ[4]⁠。その結果として、ユーザの作業を自動的に補助することができる。Firefox 4の新しいホームタブでは、あなたが気にしなければならないことを自動的にまとめて出してみる、といったことね[5]⁠。

  • Y:つまり学習がとても重要なのですね。

  • A:そう。コンテンツの周囲、その細部に(パーソナライズのために学習すべきことが)存在している。ソフトの操作法などは誰でもおよそ同じで、むしろそのコンテンツによって操作にユーザ個別の変更(パーソナライズ)が必要になる。

    そんなことを考えてるんだ。

つまりパーソナライズ、個々のユーザに対してフィットさせるべきものはソフトウェアではなく、その中身に対してであり、それはまた自動的であるべきだ、という意見です。またWebブラウザがユーザの操作をまず第一に受け止めることができる点で、今の彼のポジションがこの問題を扱う上で非常に強力だと。とても面白い視点です。

犬が何匹もいて、ゆったり過ごしています
犬が何匹もいて、ゆったり過ごしています

この先5年

最後に再び自然言語によるアプローチの話題を取り上げます。Azaの長期的な視点と、本質的な問題に対する彼の姿勢がうかがえるからです。

入り口に飾られた10周年のパネル。
電話にはFirefoxロゴが
入り口に飾られた10周年のパネル。電話にはFirefoxロゴが
  • A:70年代からGUIが広まり始めたころ、数多くの先端的な問題が未解決なままでした。どうやってウィンドウを開けるか。アプリケーションをどうやって連携させるか。これらは1つずつ解決されたのです。つまり30年ほどを経て、今や歴戦の勇士であるGUIはそうした多くの先端問題を一掃したわけです。

    会話型のインターフェース、あるいは言語学的インターフェースは始まったばかりの状態で、そこにはまだ充分にテストされていない、まだ解決されていない大量の先端的な問題があります。

    この先5年で何が起きるか、とても楽しみです。Ubiquityにインスパイアされた人たちが何をするか、つまり問題を解決して会話型インターフェースの世界を作り出していくのを見るのはね。

彼はSalesforce社やいくつかの企業が、Ubiquityと同じコンセプトに基づく製品を開発していると指摘します。直接連絡してこないけれど、会話型コンピューティングの精神を取り上げ、それを自分たちの製品に取り込み、再び外に出そうとしている、と。⁠一緒にその作業をしたわけじゃないけど、でもすごくエキサイティングな感じです」と、彼は自分が口火を切った新しいインターフェース世界の発展に注目しています。

終わりに

その夜はサンフランシスコのビア・バーに
連れて行ってもらいました
その夜はサンフランシスコのビア・バーに連れて行ってもらいました

Azaは非常に魅力的な若者で、彼と一緒だといつもアドベンチャーに巻き込まれているような気さえします。取材当日の夕方、スタンフォード・ロースクールで行われるJonathan Zittrain教授のクラスに来ないか、と誘われました。そこではAzaを含む数名のMozillaメンバーが招かれ、ネット上でプライバシーをどう維持すべきかパネル形式で議論しました。その聴講は筆者にとって実に予期せぬ、しかし刺激的な時間となりました[6]⁠。

そして本当にAzaはいつも未来をデザインしています[7]⁠。彼の瞬発力をこの記事から感じて貰えますように。

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