誰もが手軽にゆるく使ってつながれる――絵と絵でつながるソーシャルネット「OEKAKIGRAM」登場

2012年12月、ペパボこと株式会社paperboy&co.から1つのソーシャルネットが誕生しました。お絵かきを軸につながる「OEKAKIGRAM」です。今回、開発チームの福田大介氏、野口修氏、飯塚のり子氏の3名に取材をしたのでその模様をお届けします(取材日:2013年1月7日⁠⁠。

写真1 右から福田さん、飯塚さん、野口さん
写真1 左から福田さん、飯塚さん、野口さん
OEKAKIGRAM
http://www.oekakigram.com/

お絵かきを選んだ理由

――まずはじめに、OEKAKIGRAM誕生の背景と経緯についてうかがいました。

馮:いつ頃から開発を始めたのですか?

野口:元々は2012年夏のはじめにプロトタイプの開発を始めました。ただ、その後、社内の状況で一度プロジェクトが保留になったのです。それから秋になって改めて見なおして「もう1回あのアプリを作ってみよう」ということで、開発が再スタートしました。

福田:私は統括の立場で関わっているのですが、開発再スタートには、ここにいる野口(エンジニア)ともう1名のデザイナーの2名でブラッシュアップをしています。

野口:リリースが12月13日だったので、その間約2~3ヵ月かかりましたね。

馮:なぜ「お絵かき」を題材に選んだのでしょうか?

野口:いま、Instagramをはじめ、ソーシャル⁠写真⁠サービスはたくさんあるのですが、同じビジュアルでもお絵かきを題材にしたソーシャルネットはほとんどありませんでした。市場にないというのが最初のキッカケです。そして、まず開発してリリースしてみてユーザの反応を見てみたかったというのが大きな理由です。

また、今、子どもたちもスマートデバイスに触れる環境になってきています。そこで、子どもたちが安心してすぐに使えるような、そういうアプリを目指しました。

デザインに関しては、なるべく文字を使わず、直感的に操作できるUIを心がけています。ちなみに、⁠本日同席できませんでしたが)担当デザイナーはプロトタイプを含めすべてマウスではなくAppleのMagic Trackpadのみでデザインのプロトタイプをつくりました。

バックエンドにはSqaleを採用

――アプリの裏側はどのような工夫がなされているのか、次は開発面にフォーカスしました。

馮:プロトタイプデザインがMagic Trackpadのみでつくられたというのはとても特徴的ですね。インターフェース以外、アプリの裏側、サービスのバックエンドについても教えていただけますか。

野口:アプリ側はObjective-Cで開発しています。現時点では、iPhone(iOS)のみに対応しています。開発面については、今回のアプリの特徴的な点としてインフラが挙げられます。それが「Sqale」の採用です。

Sqaleは、昨年8月に当社がリリースした、開発者向けのホスティングサービスです。

Sqale
http://sqale.jp/

このホスティングサービスの特徴は「手っ取り早く。やりたいことだけ。」がコンセプトになっている点で、開発に集中しやすい環境になっています。さらに、Ruby on Railsに対応していることで汎用的なフレームワークが利用しやすく、今回の開発にも大変役立ちました。

馮:Sqaleを採用した公式サービスというのはあまり聞いたことありませんが、他の実績はどうなっていますか?

野口:おっしゃるとおり、まだ公式サービスが出ていなく、今回のOEKAKIGRAMが初めてのSqale採用した公式のサービスです。

つながり(グラフ)に何を選ぶか?

――デザイン・開発ともユニークなOEKAKIGRAM。そして、ソーシャルネットとしてはつながり(グラフ)の“ゆるさ”も特徴的です。

馮:ソーシャルネットの観点で観ると、⁠ゆるさ⁠も1つの特徴のように感じています。今回、Twitterアカウントのみの連携にした理由はなぜでしょう?

野口:当初、全部入り(他のソーシャルネットサービスのアカウント対応)も検討しました。ただ、お絵かきという動作に対して、できる限りシンプルなサービスにしたかったのです。そこで、まずはTwitter、しかも片方だけのフォローだけでつながれるようにしています。あとは、ユーザが絵を描いて共有するだけです。

福田:この点で言うと、今回、pixivさんのサービスを意識しています。イラスト系ですぐにつながって広がるようなイメージです。Facebookなどの相互承認系サービスより、Twitterの(片方)フォローだけというのがマッチしていると感じています。

馮:いわゆるクローズドなソーシャルネットよりも、オープン寄りなんですね。もう1つ、絵をリレーしていくというのも面白いグラフだと思います。

野口:他人のイラストの上に絵を描けるおえかきリレー機能は、実はあとから実装した要素でした。モックができた段階で社内テストを行ったのですが、初めて使った社員は興味を持ってくれはするものの、そこから先の継続性がなかったのです。異口同音に「面白みが少ないね」と。そこで、何人かに集まってブレストしたときに「誰かの絵に追加でかけたら面白いのでは?」という意見が出て、そこからおえかきリレー機能が追加されました。

馮:その他、つながりの要素としては……?

野口:最初に出た

  • Twitterのフォロー
  • おえかきリレー

の他は

  • ハッシュタグ
  • Like

のみ、計4つです。

馮:本当にシンプルなつながり(グラフ)になりますね。

野口:はい。デザインの話に戻りますが、UIおよび機能についてもシンプルで、

  • ペンの大きさ(3種類)
  • 絵の具の色(7種類)
  • 消しゴムの大きさ(3種類)
  • 背面テクスチャ(6種類)
  • ゴミ箱

だけです。

ただ、シンプルにしたがゆえに、リリース直後からユーザの皆さんの使い方がさまざまで本当に面白いです。

限られた機能で出てくるテクニック

――今回のインタビューは、リリースしてから約1ヵ月後に行っています。ユーザからの反応について教えてもらいました。

馮:リリース後のユーザの反応はどうでしょうか?また、担当から見てどのようなサービスだと感じましたか?

飯塚:私はプロジェクトがキックオフしてから、後からディレクターの立場として参加しています。少し俯瞰できる立場から見ても、本当に当初からコンセプトがしっかりしていてブレないサービスだと感じました。その点は、ユーザの皆さんのアウトプットからも伝わってきます。たとえば「画力の個人差」が直接的に反映されない点はOEKAKIGRAMならではだと思います。ですから、誰もが変な競争意識を持たずに楽しめます。

一方で、少し矛盾しますが、絵の特徴に差が出るところが面白いです。というのも、使える機能が限定されているのですが、私たちが想定しなかった使い方をするユーザがいて、それがアウトプットされる絵にも反映されるからです。たとえば、テクスチャを色に使ったり、消しゴムを上手に使って線の細さを調整したり、そういった部分です。

「みんなすごいなー」と、本当に感心します。

馮:限定されているがゆえに、いろいろなアイデアを絞り出しているのかもしれないですね。ちなみに私もリリース後から使っていて、背景や消しゴムを活用しています(笑)

一方で、何か足りない点や改善しなければいけない点などは見えてきましたか?

野口:ユーザ数はこれから増やしていかなければいけませんが、まずは今使っていただいているユーザの皆さんの動向を見ています。その中で感じたのが、つながりの弱さです。

先ほど⁠ゆるい⁠つながりが特徴とおっしゃっていただきましたが、その特徴を活かしつつ、つながり自体を強くしたいですね。そのために、

  • ハッシュタグを利用したお題機能の強化
  • お勧めのお題を軸とした共有

の2点を検討しています。

馮:なるほど。つながりとしてのゆるさは保ちつつ、1つ1つのつながりの濃さを強めるイメージでしょうか? 機能面では何か検討してることはありますか? たとえばアンドゥ機能はどうでしょうか?

野口:機能を増やすというのは悩ましいですが、現時点では予定していません。アンドゥ機能もすでに社内で検討し、賛否両論の意見が出ました。⁠便利」という声があったのですが、あえて入れていません。機能追加ではなくツールの拡充という点で背景を増やすなどは考えています。

今ネットで注目しているもの

――OEKAKIGRAMの裏側が少し見えてきました。ここで、少し趣向を変えて3名が今、ネットで注目しているサービスやものについて聞いてみました。

馮:皆さんが今、ネットで注目しているサービスやものってありますか?

野口:ありきたりかもしれませんが、2012年はとにかくLINEです。あの普及の仕方がすごいですね。というのも、最近、自分の弟のやりとりがLINEになってきていて、自分の家族とのコミュニケーションがこういう形になったことに驚きを感じています。最近の新卒の者ではLINEコミュニケーションはあたりまえのようですが世代の違いを実感しています(笑⁠⁠。

福田:私もLINEの普及は注目しています。自分の子どもが参加しているサッカーチームで、子ども同士のやり取りがLINEになってきていますし、世代が変わることでコミュニケーション(およびツール)が変わると感じています。

それから、一番注目しているのはシモダテツヤのIT四コマふんわり劇場です。あれだけは毎週欠かさず読んでいます!

馮:ありがとうございます(笑)飯塚さんはどうでしょう?

飯塚:私は、ソーシャルネットではPathそれからStampedHipsterを使っていますね。その他は、tuneTVを使うようになりました。私はNHKばかり観ていたのですが、tuneTVで他の番組にも興味を持つようになりました。こういう興味の共有ができるものはいいですね。

OEKAKIGRAM、ペパボのアプリのこれから

――最後に、OEKAKIGRAM、そして3人が考えているこれからのアプリやサービスについてコメントしてもらいました。

馮:最後に、皆さんが今後OEKAKIGRAMをどうしたいか、どのようなものをつくりたいかについて教えてください。

野口:OEKAKIGRAMについては、カフェなどに置いてあるお客様ノートのような空間を実現したいと思っています。それから、お絵かきリレーについて、もっとリレー感を醸し出せるようにサービス側で工夫したいですね。

また、OEKAKIGRAMは名前からもわかる通りInstagramに影響を受けているので、Instagramと同じように、iPhoneユーザに愛されるアプリにして行きたいです。また、このアプリにかぎらず、ペパボとして英語圏も意識したアプリ開発を行っていきます。

飯塚:私は今、他のアプリの担当もしていて、これからもシンプルなアプリ、とくに子どもが自由に使えるものをつくっていきたいです。OEKAKIGRAMと同じく、昨年末にリリースしたこどもカメラもその1つです。

シンプルなもの、子ども向けというのはペパボらしいと思いますし、これからもこういうコミュニケーションを促進できるものを目指します。

そして、今年は痩せる!

馮:がんばってください(笑)最後に、福田さん、お願いします。

福田:今、飯塚が話したように、子ども向けというのは大事です。作り手として制限するのではなく安心して使ってもらえるものを目指します。また、ペパボとしては、とくにスマホをターゲットにしたアプリ開発に注力していきます。ぜひ、2013年もペパボがリリースするアプリに注目してください。

馮:ありがとうございました。

今回お話を伺った3名によるOEKAKIGRAMの作品。
左からみかんくん⁠福田さんの作品)
#アルパカ⁠飯塚さんの作品)
#お正月 栗きんとん山盛り。⁠野口さんの作品)

「みかんくん」(福田さんの作品) 「#アルパカ」(飯塚さんの作品) 「#お正月 栗きんとん山盛り。」(野口さんの作品)

スマホとシンプルさ

今回、OEKAKIGRAMにフォーカスしてインタビューを実施しました。シンプルな機能とゆるいつながり、それを自然に生み出せるのがOEKAKIGRAMならではの特徴ではないでしょうか。また、ユーザが空いている、ちょっとした時間に遊べる点も良いですね。

そして、今年はより一層スマホ向けアプリ開発に力を入れていくとのこと。今後も注目していきたいと思います。

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