インタビュー

デジタルトランスフォーメーションの実現をDevOpsツールの力で支援する ―マクジャネットCEOが語るHashiCorpのミッション

この記事を読むのに必要な時間:およそ 4 分

クラウドへのスムーズな移行を助ける「4つのレイヤ」

――GMOメディアのケースはたしかにTerraformの特徴を活かした,複数のインフラをまたいだ管理をコードで実現する"Infrastructures-as-code"の良い事例だと思います。ただ,既存サービスをオンプレミスでホストしていたとはいえ,GMOメディアのような企業は製造業や金融といった日本のクラシカルなエンタープライズとは事情がかなり異なる気がします。オンプレミスからクラウドへと移行する障害も少なかったのではないでしょうか。

マクジャネット: 私から見て,日本のエンタープライズ企業は「新しい技術に対する関心が強く,先進的な技術を好む」「レガシー技術,そして古い価値観と組織に縛られている」という,相反する2つの要素をもっているところが多いという印象です。これは米国の歴史の長い企業にも見られる傾向ですね。もちろんどちらかの要素が強い企業も多く,そういう意味ではGMOメディアは先進的な技術を受け入れやすい土壌がもとからあったと言えるかもしれません。しかし,ひとつ言えるのは古い価値観が支配的な企業であっても,いまはそこから変化しなければいけないことを強く認識しています。だからこそ,彼らは我々のツールに強い関心を寄せるのでしょう。プロビジョニングの自動化やセルフサービスデプロイメントが進み,アプリケーション開発やサービスローンチまでの期間が劇的に短縮した事例はいくつも出ています。たとえレガシーに苦しんでいる企業であっても,インフラから変革に手を付けることで,デジタルトランスフォーメーションの最初の一歩を踏み出せるのです。

もちろんクラウドはデジタルトランスフォーメーションを実現する上で欠かせない基盤ですが,最初にもお話したように,現時点ではオンプレミスとの共存が前提です。またひとつのクラウドベンダだけではなく,最近ではマルチクラウドでの運用があたりまえになりつつあります。そしてクラウドへの移行にはテクニカルな問題と組織的な問題がつきまといます。こうした現状を踏まえ,HashiCorpはインフラを

  • Developers(Nomad)
  • Security(Vault)
  • Ops(Terraform)
  • Network(Consul)

という4つのレイヤに切り分け,それぞれのレイヤでスマートな移行と運用を実現できるツールを提供しています。これらのツールを使うことで,クラウド移行にともなうテクニカルな問題を解決するだけでなく,組織の体質も変わります。ひとつのワークフローが,複数の環境やアプリケーションをまたいで自動で適用される - これがいかにすごい体験か,ぜひ多くの日本企業にも実感してほしいですね。

――4つのレイヤの中から,あえて"最初の一歩"として選択するならどれをお勧めしますか。

マクジャネット: ⁠すこし考えて)どれもお勧めしたいところですが,あえてひとつだけ,というならVaultでしょうか。セキュリティはクラウドにおいて重要と言われますが,実際には多くの企業がその重要性を本当の意味で見落としがちな部分でもあります。逆に言えば,最初の段階でセキュリティを意識したワークフロー環境を構築できれば,デジタルトランスフォーメーションにおいて大きな競争優位性を獲得できることにつながるでしょう。

ただし繰り返しますが,どれも重要なレイヤであることには変わりません。HashiCorpが重視しているのは「一貫したワークフローをすべてのインフラで共有する」なので,ひとつだけ押さえればいいわけではないことに注意してください。大事なのはワークフローであり,その最初の構築環境としてセキュリティを選ぶというのは悪くないスタートだということです。

「顧客の進もうとする道」が我々の進む道

――最後にHashiCorpのビジネスの展望についてお聞かせください。スタートアップ企業として順調に成長を遂げてきたHashiCorpですが,そろそろ将来の展開,つまりイグジットの方向性についても考え始めているころではないでしょうか。買収や上場の可能性について,現時点で話せることがあれば教えてください。

マクジャネット: いまの段階で私が言えるのは「我々には,世界中のエンタープライズ企業をソフトウェアで助ける責任がある」ということだけです。その責任にもとづき,もちろん事業は拡げていきますが,いたずらに利益を拡大することに邁進するアプローチは取りません。グローバル戦略としては日本や欧州でのビジネスを強化したいと考えていますが,そのためにはパートナーエコシステムの構築が重要で,現在はその足場を固めているところです。キャピタライズの方向性について語れるのはここまでですね。もうひとつ付け加えるなら,顧客が向かおうとする道が我々の進む道でもあり,IT業界が進む道でもあるので,つねに顧客の声を聞き続ける企業でありつづけたいと思っています。10年後も顧客にとっての鏡のような存在でいること,これがHashiCorpのビジネス戦略です。

――「ソフトウェアで世界を良くしていきたい」という言葉は以前インタビューしたハシモトさんからも聞きました。

マクジャネット: ⁠世界中のすべての企業はソフトウェア企業になる」というマーク・アンドリーセンの言葉はご存知でしょう。インターネットの登場は歴史を大きく変え,世界中に情報の平等化をもたらしましたが,現在はそれに匹敵するトランジションが起こっていると思います。そしてその中心にあるのはソフトウェアであり,その価値はますます高まっています。というよりも,ソフトウェア自身が価値を創出する源泉となっているのです。

数年前にポケモンGoが出たとき,私は「なんてエレガントなんだろう」と強く感じました。API指向のクラウドサービスという概念をこれほどエレガントに実現したシステムはそうないのではないでしょうか。20年前には決して誕生しなかったサービスであり,ソフトウェアの可能性を示したという意味でも非常にユニークです。そして次の20年後にも,きっと今では想像できないようなサービスがソフトウェアによって生まれているでしょう。HashiCorpのツールがそうした未来を作るお手伝いができていれば,本当にすばらしいことだと思います。


インタビューが終わったあとの雑談中,ふと「もし,いまのHashiCorpに欠けている部分があるとしたら,それは何だと思いますか」という質問をしてみました。

すこしだけ間をおいたのち,マクジャネット氏は「ありません」ときっぱりと答えています。この答えがHashiCorpという会社,そしてマクジャネット氏というビジネスパーソンの姿勢を象徴しているように筆者には思えました。⁠現時点のHashiCorpは,現時点でパーフェクトです。欠けている部分はありません。欠けている部分を埋めるのではなく,いまの状態をさらに良くすることに集中していきたいですね。HashiCorpが成長するときは,顧客が成功するときですから」

画像

1年後,同社がソフトウェア企業としてどんな成長を遂げているのか,その姿を見るのが今から楽しみです。

著者プロフィール

五味明子(ごみあきこ)

IT系の出版社で編集者としてキャリアを積んだ後,2011年からフリーランスライターに。フィールドワークはオープンソースやクラウドコンピューティング,データアナリティクスなどエンタープライズITが中心。海外カンファレンス取材多め。Blog 「G3 Enterprise」やTwitter(@g3akk),Facebookで日々IT情報を発信中。

北海道札幌市出身/東京都立大学経済学部卒。

バックナンバー

2018