VR、IoT、スマホ――この夏、デジタルネイチャー時代のミュージカルを生で体験しよう!『LITTLE PRINCE ALPHA』、間もなく上演

2017年2月、世界初となるVRミュージカル『リトルプリンスVR supported by VIVE』⁠音楽座ミュージカル・株式会社アルファコード)が開催され、ミュージカル関係者はもちろん、多くのファン、そして、業界に衝撃を与えました。

あれから1年半が経ち、技術の進化、時代の変遷を踏まえて、さらにパワーアップしたミュージカル『LITTLE PRINCE ALPHA(リトルプリンスアルファ⁠⁠』が2018年8月に上演されます。

ミュージカルとVRの融合

公演に先立ち、音楽座ミュージカルの俳優 広田勇二氏、株式会社アルファコード代表取締役社長CEO兼VRコンテンツプロデューサー 水野拓宏氏のお二人に、今回の作品の魅力、制作の裏側、見どころ、そして未来に向けてアツく語っていただきます。

準備に忙しい中、インタビューに応じてくれたアルファコードCEO兼VRコンテンツプロデューサー 水野拓宏氏(左)と音楽座ミュージカルの俳優 広田勇二氏(右⁠⁠。インタビュー場所は、アルファコードの開発スペースという、まさに臨場感のあるインタビューとなった
準備に忙しい中、インタビューに応じてくれたアルファコードCEO兼VRコンテンツプロデューサー 水野拓宏氏(左)と音楽座ミュージカルの俳優 広田勇二氏(右)。インタビュー場所は、アルファコードの開発スペースという、まさに臨場感のあるインタビューとなった
Q:まず、改めて前回の開催を経験したお二人の感想を教えてください。また、そのときに課題は見つかりましたか?

広田:前回の『リトルプリンスVR supported by VIVE』⁠2017年2月開催)では、VRの存在そのものが新しく、何をやっても大丈夫な雰囲気がありました。そういう意味ではノンプレッシャーでしたね(笑)何が起こるかわからないという。

さて、今回は……。正直、まったく想像できないですね。当時と比較してVRの存在がより一般的になり、単に目新しいだけでは通用しない部分があると感じながら取り組んでいます。

水野:技術者目線で前回を振り返ってみると、VRが生み出す没入感と生のミュージカルで得られるその場限りの体験。それぞれの利点を活かしたVRとミュージカルの融合にとても可能性を感じました。

一方で、当時の技術の浸透度合い、また、環境整備に対するコストなどから限られた人数しか体験ができない点が明確な課題として挙がったのも事実です。そのため、今回はより広く深い「物語への没入体験」をテーマの1つとして掲げています。

Q:あれから1年半が経過し、今回の開催に至りました。その経緯について教えてください。

水野:前回の挑戦から「物語への没入体験」をテーマに、VRだけではく、IoTや立体音響といった「最新技術とミュージカルをかけ合わせて生まれる、新しい表現方法に挑戦したい。もっと多くの人に新しい体験をしてもらいたい」という思いが強くなりました。そして、今回、再度音楽座ミュージカルとタッグを組むことになりました。

広田:前回はトライアルの意味合いもあり、⁠リトルプリンス』の前半だけをお届けしました。前半だけでも手応えと大きな可能性を感じ、音楽座ミュージカルとして、⁠リトルプリンス』の全編をアルファコードのテクノロジーをお借りして上演したいと思ったのがきっかけです。

演じるものの1人として、この作品の醍醐味は後半にあると感じたのも開催につながった要因の1つと言えますね。

実際に演じる広田氏自身が、VRパートを体験。自身が眼の前に登場し、最初は「不思議な感じだ」とつぶやきながら、どんどん引き込まれ、途中からはVRの世界に没入していたのが印象的だった
実際に演じる広田氏自身が、VRパートを体験。自身が眼の前に登場し、最初は「不思議な感じだ」とつぶやきながら、どんどん引き込まれ、途中からはVRの世界に没入していたのが印象的だった

水野:ちなみに、今回提供する作品では、VR席では20台のVR HMD(ヘッドマウントディスプレイ)とPCを同期し、コンテンツを一斉に再生することにより、その場にいる全員が同じタイミングで1つの世界に没入する体験を提供するためのシステムを構築しています。

その他、VR酔いしやすい方にも快適に見てもらえるよう体験時間を工夫をしたり、より違和感なく没入してもらえるようスティッチング(複数の写真をつなぎあわせて1枚の360°パノラマ画像にすること)にこだわったりと、細部に渡って神経を使っています。

また、HMDを付けない一般席では、今回のために開発した、物語の場面と連動して光の色や強さが変化する専用ネットワークLEDライトを投入し、ミュージカルと連動して参加しながら楽しめるコンテンツを用意しています。さらに音のこだわりとして、こちらも今回のために開発した32chの立体音響技術を導入しています。マイクで録音した音と映像をリアルタイムで計算して、舞台を囲むように配置した複数台のスピーカで音を再生することにより、映像と合わせて音の方向や奥行きが感じられるので、より臨場感を持った没入体験が可能となるはずです。

ぜひ、皆さまにも進化を体験してもらいたい気持ちでワクワクしています。

余談ですが、こういった課題や新しい挑戦が続いた結果、本取り組みを通じて弊社のVR技術が格段にレベルアップしているのではないかと感じています。もちろん、公開までさらにパワーアップしていきたいですね。

ALPHA(アルファ)に込められた意味

まず、お二人に前回の振り返り、そして、今回の開催に至った経緯についてお聞きしました。次に、今回の『LITTLE PRINCE ALPHA』が目指すもの、込められた想いなどについて伺ってみます。

Q:今回、タイトルからVRが外れました。代わりにALPHA(アルファ)が付けられていますね。この理由について教えてください。

水野:まず「アルファ」という単語が持つ意味について説明します。

アルファには「はじまり」「未知数」という意味が含まれています。今回、⁠LITTLE PRINCE ALPHA』としたのには、VRとミュージカルのそれぞれのカテゴリを超える新しい何かが始まること、そして、この『LITTLE PRINCE ALPHA』が、それを見た人の「はじまり」「未知数」を引き出すきっかけになってほしい、そういった想いを込めてこのタイトルに決定しました。

広田:私たちもまさに同じ気持ちです。まだ誰も体験したことのないことに挑戦することで、未知のおもしろさを見つけたい、そして、そのおもしろさをたくさんの方に感じ取ってもらいたいと願い、付けたものです。

一般席で利用できる、IoTの仕組みを活用した専用ネットワークLEDライト。初めて目にした音楽座ミュージカル俳優陣が皆、デモに見入っていた
一般席で利用できる、IoTの仕組みを活用した専用ネットワークLEDライト。初めて目にした音楽座ミュージカル俳優陣が皆、デモに見入っていた 一般席で利用できる、IoTの仕組みを活用した専用ネットワークLEDライト。初めて目にした音楽座ミュージカル俳優陣が皆、デモに見入っていた

それぞれの立場から見た、テクノロジー×ミュージカル

続いて、それぞれの立場から、⁠テクノロジー」⁠ミュージカル」に関しての印象、変化、可能性についてお話しいただきました。

Q:まず、広田さんにとって、俳優陣から観た、テクノロジーの変化と可能性をどう捉えますか?

広田:俳優という人種は(と括ってしまうと誤解があるかもしれません。自分のような未熟な俳優のことです)良くも悪くも旧態依然なものを良しとする傾向が強いように思います。極端に言うと、テクノロジーとは正反対の立ち位置にいる存在かもしれません(笑⁠⁠。

しかし、そうは言っても、時代とテクノロジーの進化によって活躍の場はどんどん変化するのも事実です。俳優という仕事には「演技をする」というシンプルなミッションがありますが、今回の『LITTLE PRINCE ALPHA』という新しい挑戦で、⁠演技をする」ことの可能性をさらに広げていきたいですね。

Q:それでは、技術者陣から観た、ミュージカルの変化と可能性はどうでしょうか?

水野さんに伺いました。

水野:今までのミュージカルの鑑賞方法は、客席から舞台を観る、すなわち、舞台で起こっていることを「客観的な出来事」として見るスタイルが一般的でした。しかし、そこにVRやIoTといった技術を組み合わせると、観客は、舞台と客席の垣根を越えて、登場人物が存在する世界に観客自身が入り込む環境を提供できます。

たとえば、VRを活用すれば、⁠観客自身が)その登場人物の目線になって、舞台が自分の居る世界に、他の登場人物が自分に話しかけてくれるように感じることができるのです。これによって、ミュージカルは「客観的に見る」ものから「主観的に体験する」ものへと変わります。

このときに、観客が物語からリアルタイムに感じることや、観劇後に自分の体験の記憶として残ることの変化によって、ミュージカルが創り出す物語がより広く人々に何かを伝えるのではないかという可能性を感じています。

アルファコード開発スペースにはさまざまなガジェットがあり、同席した音楽座ミュージカル俳優陣が興味深く触っていた。また何か新たなインスピレーションが湧いてきたかも?
アルファコード開発スペースにはさまざまなガジェットがあり、同席した音楽座ミュージカル俳優陣が興味深く触っていた。また何か新たなインスピレーションが湧いてきたかも?

ズバリ!『LITTLE PRINCE ALPHA』の見どころは?

それでは、今回の『LITTLE PRINCE ALPHA』の見どころについて伺ってみましょう。

Q:お二人から観て、『LITTLE PRINCE ALPHA』の見どころを教えてください。

水野:VRとVR以外、それぞれの観点で見どころを紹介しますね。

まず、VR=高精細な8KのVR映像により、物語への没入感がさらに高まります。ネタバレになりますけど(笑⁠⁠、王子様がこちらを見るとき、目があって「ちょっと恥ずかしいな」と思うくらい。そのぐらい高精度な映像をお届けできます。他にも皆さんを驚かせる仕掛けを用意していますので、とんでもない迫力が体験できるはずです!

VR以外=生のミュージカルはその場限りのもの。その瞬間にしか味わえない感動を体感してほしいです。さらに今回IoT技術を使って開発した専用LEDライト。これによって観客席も世界の一部として感じられるようにしました。このLEDライト、ただ光るだけでなく観客それぞれの動きに反応して、意思を持つ光の粒子のように観客を物語の世界に引き込むところが見どころです。これもぜひ会場で実際に体験してください。

広田:すべて水野さんにお話しいただきましたね(笑)私からは、シンプルに。。ぜひ会場に足を運んで、未知のものが産まれる瞬間に立ち会っていただければと思います。

インタビューを終え、一般席で使われる専用LEDライトの仕組みについて、さらに質問を続ける広田氏。公演当日が今から待ち遠しい
インタビューを終え、一般席で使われる専用LEDライトの仕組みについて、さらに質問を続ける広田氏。公演当日が今から待ち遠しい
Q:ちなみに、観てもらいたい人、おすすめしたい人はいますか?

広田:「こんな人」という枠はまったくなくて、どなたでも。あえて言うならエンターテイメントの未来に興味のある方にはとくに観ていただきたいです。

水野:技術者の立場では、VRやIoTといった最新技術の名前は聞くけれども、一体どんなものなのか想像がつかない人に見てもらいたいです。まず、自分自身で技術を身体で感じてもらいたいです。

繰り返しになりますが、今回のイベントでは、VR HMDをつけて物語に没入できるVR席はもちろんですが、一般席の方も参加型の企画を通してミュージカルを楽しんでもらえる内容になっています。一般席のお客様に配布する専用ネットワークLEDライトは、座席や物語の場面に連動して光の色や強さが変化します。この変化の仕組みを紹介すると、実際の指示出しは、弊社が開発した独自システムによりマスターPCからネットワークを介して行っています。

そうした裏側は専門性が高くとっつきにくいかもしれませんが、皆さんが体験できることを通じて、最新技術ってこういうものなんだ、という具体的なイメージを持ってもらえたら嬉しいです。

テクノロジーと文化の融合、その先にある未来

最後に、今回の取り組みも含め、テクノロジーと文化の融合、その先の未来について質問をしてみました。

Q:最後に、少し大きな話題について教えてください。この先、ミュージカルを含めた人類の文化にテクノロジーはどう影響していくと想いますか?

広田:ドラマというコンテンツは、劇中の登場人物に自分を重ねることで、おもしろみが強くなるものです。俳優としても、観客の皆さまにどのぐらい入り込んでもらえるかを強く意識しています。

『LITTLE PRINCE ALPHA』は、観客の皆さまを劇中に誘う・入り込むための仕掛けをたくさん用意しました。そして、それを実現する手段にテクノロジーがあると、稽古をしていく中で強い確信を持ちました。

今後、劇中の登場人物と劇を見る人との融合にテクノロジーは大きな影響を与えてくれると信じています。

こうした可能性は、自分のこれまで気づいてきた価値観の枠を越え、想像を絶するものです。⁠何が起きるかわからない⁠⁠、それがまた新しいおもしろさにつながっていくはずです。

水野:人類文化にとって「伝える」というのは永遠のテーマではないでしょうか。世界のさまざまな楽器で人が創り出す音楽、絵画や文字や印刷、照明や音響などの技術も、その時代の人々が、そのときにできる最大限の努力で「いかに伝えるか」というテーマを考えた結晶だと思います。

今回の私たちもVRやIoTといった最新テクノロジーを使ってはいますが、そのテーマは変わらず同じ線の上にあると考えています。⁠LITTLE PRINCE ALPHA』の挑戦である「物語の世界に没入(入りこむ)してもらうことで伝える」ということは、簡単に言うと「客観から主観への変化」です。この挑戦が成功するとき、人はさまざまな境遇・立場の違いや、性別や時空間も飛び越えて「自分ごと」として物語を伝えられるようになります。

矛盾するようですが「自分から離れた自分」をテクノロジーによって獲得できるとも言えます。これにより、表現の幅やその影響が、世界の実体を超えて広がるのではないでしょうか。

以上、広田さん、水野さんに、⁠LITTLE PRINCE ALPHA』への思い・見どころを語っていただきました。ちなみにこの取材も稽古・準備の合間をぬってお話いただきました。もしかしたら、今回のインタビューでは触れられなかった「新しい挑戦」が加わっているかもしれません。

最後に、お二人から来場される皆さまへの一言をいただいたので、それをもって本インタビューを締めくくります。

広田:会場で⁠何か⁠を感じていただければ幸いです。

水野:「リトルプリンスの世界に入り込みたい!」をテーマに、自分の目線として物語を体験できる新しい試みに挑戦しています。ぜひあなただけのリトルプリンスの世界を体験しにいらしてください。

公演名LITTLE PRINCE ALPHA
会場日本科学未来館7階「未来館ホール⁠⁠ 東京都江東区青海2-3-6
日程8/4(土)18:00
8/5(日)11:00、14:00、17:00
座席数VR席 各回40名(前後入れ替え制)/一般席 各回100名

VR席は13才未満のお子様は体験いただけません。
5才未満のお子様のご入場はお断りしています。

補足

技術者向け回

8/4(土)18:00、8/5(日)17:00の回は、VRやIoT、コンテンツ技術に興味がある方向けのアルファコード主催回となります。VR席・一般席、ともに無料です。

申し込みはこちらから。

音楽座メイトイベント(一般向け)

8/5(日)11:00、14:00に行われる回は音楽座メイトイベント回となります。VR+生ミュージカルに加え、ファン向けのイベント等が加わります。料金は、VR席5,000円、一般席無料です。

申し込み・詳細については音楽座ミュージカル公式URLをご覧ください。

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