自走するエンジニアは、個人の想いと会社のビジョンをクロスさせる ~Sansan株式会社CTO藤倉成太氏に訊く

TVCMなど多くのメディア展開からたくさんのユーザにサービスが周知され、2019年6月に東証マザーズへ上場、これからさらなる飛躍が期待されるSansan株式会社。ユーザに親しみやすいサービスとして存在感が増している同社を支える、エンジニアとエンジニアリングを率いるのが、今回お話を伺った同社CTO藤倉成太氏です。

黎明期からSansanのエンジニアとして活躍し、サービスの成長を技術視点から見続け、そして支えている藤倉氏に、Sansanカルチャーにおけるエンジニアリングという観点から、⁠Sansanのエンジニアとは?」という問いを真正面から投げかけてみました。

Sansan株式会社 CTO、藤倉成太氏
Sansan株式会社 CTO、藤倉成太氏

Sansanのエンジニアとは?

――今回は、Sansanのエンジニアについて、CTOの立場でもあり、また、成長を見続けてきた藤倉さんにいろいろとお話を伺いたいと思います。まず、いきなりですが、Sansanのエンジニアを一言で表現するとどういう存在なのでしょうか?

藤倉: ⁠プロダクトでイノベーションを起こしていく集団」と言えるのではないでしょうか。

Sansanのミッションは「出会いからイノベーションを生み出す」です。弊社のエンジニアたちはこのミッションを実現すべく集った人材なので、言葉で表すならそうなります。

私はSansanに2009年にジョインし、今までずっと中にいるエンジニアとして、SansanとSansanのプロダクトを見てきました。その中で思ったのが世に出ているものをトレースするのではなく、⁠今まで世の中にはないものを生み出すこと」「すでにあったものを再設計して(新しい価値)を生み出すこと」に正面から向き合い、実現してきたことが、私たちSansanのエンジニアの特徴ではないかな、と。

この特徴こそがSansanのエンジニアであることだと私は考えています。

性格的なことで言えば、共通して言えるのが、皆、プロダクトを作ることが好き、プログラミングが好き、技術が好きということですね。企業である以上、価値を提供しなければなりませんし、エンジニアも価値につながるアウトプットが求められます。それでも、プログラミングが好きだという気持ちは皆持っていると信じていますし、これからも忘れないでほしいとCTOの立場から思っています。

好きの部分とアウトプットとのバランス

藤倉:(技術やプログラミング、プロダクトを作ることが)好きなことが大前提とは言いながらも、私の立場としては、きちんと仕事にしてもらう必要があります。そのバランスの取り方が非常に大切です。

やりたいこと(個人の想い)とやるべきこと(会社のミッション)の重なり具合が多ければ多いほど、⁠その人の)社内でのパフォーマンスが高い傾向にあります。これは、弊社に限らず言えるのではないでしょうか。

(手前味噌ではありますが)今在籍しているSansanのエンジニアは「やりたいこと」の部分と「やるべきこと」の重ね方が各人各様で上手だと感じています。

「出会いからイノベーションを生み出す」というミッションのもと、プロダクト、ものづくりをより楽しめる人材が増えてきています。この特徴や文化は、これからも守りながら、企業として、組織として拡大・拡張させていきたいですね。

CTOとして求める技術スタック

――(Sansanとしての)⁠ミッション」の共有、ミッションに基づくエンジニア自身の考えとアウトプットが、非常に良いバランスで取られているという点がとても印象的です。

では、もう少し具体的なお話について教えてください。今、Sansanでは、法人向けクラウド名刺管理サービス「Sansan」や個人向け名刺アプリ「Eight⁠⁠、さらに、名刺のデータ化と研究開発を担う「DSOC」など、複数のプロダクト・技術開発が行われています。

現在、どのぐらいの体制で開発を行っているのか、また、それぞれのプロダクトではどのような技術スタックが求められているのかについて教えてください。

藤倉: 人数に関して言うと、2019年5月末現在社員は549名おり、29%がエンジニア、5%がデザイナーで、社員の1/3以上はクリエイティブに関わる立場です。社員はこの3年で300名ほど増えている中、エンジニア・デザイナーの割合はその伸び率よりも高く増えています。これからもまだまだ増やしたいです。

続いて、エンジニアに求められる技術スタックについてお話します。

インフラレイヤに関しては、SansanはAWS/Azureの使い分け、EightはAWS、DSOCはAWSを主に使いながらR&DでGCPを利用しています。実際のサーバサイド開発においては、C#、Rubyなど複数の言語を使用しています。

お聞きいただくとわかるように1つの技術に固執せず、多様な技術を採用していることはSansanのエンジニアリングの特徴かもしれません。ここでお伝えしたいのは、プロダクトや技術領域によって、採用するクラウドサービスや開発言語を決めているわけではなく、まず、アウトプットするプロダクトが何か、そのプロダクトを実現するために必要な機能に最適な技術や言語は何か、その観点で選択しているという点です。ですから、他にもNode.jsを使っているチームもあれば、R&Dでは、今はPythonが主流になっています。

こういう状況を生み出せた理由の1つが、現場で判断できる体制になりつつあるからです。一般的に、CTOというポジションは、その企業の技術的観点・経営的観点いずれの立場でも技術責任者であります。企業によっては、CTOがすべて使用する技術を決める場合もあるでしょう。そのメリットの1つは1人で決めることによる統一感、また、開発コストやリソースの最適化が挙げられます。

しかし、弊社はそういうアプローチは取らず、プロダクト、そして、プロダクトを支える機能とチームごとに判断して技術採用と開発を進めています。私自身、2018年6月にCTOになってから、現場の意思決定に入ることはほぼありません。ミッションの共有と、各プロダクトの目標を設定し、その実現についてはチームに任せることがほとんどです。

これは今、主流となっているプロダクトのマイクロサービス化にも通ずることかもしれませんが、部分最適を行った結果、最終プロダクトのパフォーマンスを高めることにつながると考えているからです。

必要なのは「自走する」というマインドと、それを実現する行動力

――一方で、現場判断、あるいは、個別判断をしていくことによる弊害、たとえば、品質のばらつきやアウトプットのブレなどが生まれるかもしれません。

藤倉: おっしゃるとおり、そのリスクはあります。その部分を補うマインドとして「自走する」ことがあると私は考えています。

先ほどもお話したとおり、Sansanのエンジニアは「自分が好きなこと」「会社のミッション」のバランスの取り方がうまいと感じているのですが、その要因として「各自、それぞれのスタンスを持っている」ことではないかと思っています。

どの技術に対しても、きちんと技術と向き合っていること、その技術を採用するにあたっては、熱量を持ってその技術を選んでいるという点です。⁠なぜその技術を使うのか?」⁠なぜ選んだのか?」を自分の声で話せるエンジニアが多く在籍しています。その結果として、もし会社のミッションとブレた場合は、周囲のエンジニアから質問やツッコミが入りますし、それにきちんと応えられなければ採用しないという判断にも至るわけです。

ですから、もう少し詳しく説明すると、個々人が自由に、やりたいことをやる、だけではなくて、なぜそうするのか、なぜその技術を選ぶのか、をきちんと考えて前に進んでいることで、先程おっしゃったようなリスクは回避できると考えます。

このきちんと考えること、⁠自走する」という心構えこそが、今のSansanのエンジニアリングを支えるマインドではないでしょうか。この「自走」は、私が最も大切にしていることの1つで、エンジニアに限らず、弊社の社員全員に持ってもらいたいと常々考えています。

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企業として、支える存在のプレゼンスを上げることも重要

――「自走する」マインドの重要性が非常に伝わってくるコメントです。とはいえ、誰もが初めから自走できるわけでもなく、また、自走の仕方は人によって差があるかと思います。そういった面から、Sansan社内での人材育成や採用の方法、あるいは、方針はありますか?

藤倉: ⁠自走する」という観点で言えば、新人でも中途(中堅)でも、できる人はできる、できない人はできない、と割り切ることができます。ですから、まず、⁠新人だからこういう方針で育てていく」⁠中途社員の育成プランはこう」といったような明確な切り分けはしていません。切り分けないという点では、理系・文系に関しても弊社は分けてはいないですね。

それでも、まず、素養として情報工学の知識があることは好ましいです。それとともに、やはり、先ほども述べたように「自走する」マインドをどうやって育てて伸ばしていくかが、弊社の育成方針として重要な点です。

採用に関しては、まず、自分が好きなものが何か、そして、世の中に対してどのようなイノベーションを起こしたいかを考える人材を求めています。つまり、自分ごととしてイノベーションを起こしていく気持ちがあるかどうかが大事で、もしなければ弊社には向いていないとも言えます。

そのマインドがある人材が集まったあとに関して言えば、企業側としては、できる限り個人が自走することをサポートし続けていくことに注力しています。先ほどお話したように、私が今、現場の意思決定に入らないのも、実は、チームの自走を育成していることにもなるわけです。

もう1つ、環境づくりの観点から見た人材育成として、弊社内のエンジニア・デザイナーの対外プレゼンスを高める取り組みは積極的に行っています。

1つは私がCTOに就任して、すぐにオープンした技術ブログ「Sansan Builders Box(SBB⁠⁠」です。

Sansan Builders Box
https://buildersbox.corp-sansan.com/

このブログでは、弊社のエンジニア・デザイナーたちが、自分たちが今取り組んでいることや興味のある技術の開発、また、外部イベントで発表した様子のレポートなどを取り上げています。

また、2018年11月には同名のイベントを開催し、多くの参加者にお集まりいただきました。

共有し、学びあい、Sansanはもっと成長する――Sansan Builders Boxレポート
https://gihyo.jp/news/report/01/sbb2018

こういった外部への情報発信を強化した背景には、私がCTOに就任する前から、中にいる立場としては非常に優秀な人材が多いと感じていた一方で、外に出て客観的に見ると、⁠プロダクト名と比較して)どんな人材が開発に関わっているのか、その部分がほぼ伝わっていない、存在感が低いと感じていたことがあります。

目立てば良いというものではありませんが、企業成長の観点で言えば、エンジニアをはじめとしたクリエイターの顔が外に出ていくことは、プロダクトマーケティングの観点から、そして、採用の観点ではダイレクトに影響が出ますし、重要です。

ですから、CTOになった際に、社内のクリエイターのプレゼンスを高めることは、私自身が最優先で取り組みたいことの1つで、今もまさに積極的に行っています。

最近では、自社イベントの開催だけに限らず、さまざまな技術カンファレンスへの弊社エンジニアの登壇、あるいは、弊社スペースを利用した勉強会の開催などを積極的に行えるよう、企業としてサポートしています。SBBの更新情報や弊社社員のイベント登壇情報などは、Twitter公式アカウント@SansanJapanでも発信していますので、ご興味のある方はぜひフォローしてみてください。

また、昨年開催したSansan Builders Boxは、さらに内容を充実させ、今年も10月23日に開催します。当社のものづくりの裏側を見たい方はぜひお越しください。

Sansan Builders Box 2019
https://jp.corp-sansan.com/sbb2019/
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さらに上のレベルでの「自走」を目指すために

――Sansanのエンジニアとエンジニアリング、そして、企業のカルチャーの様子が非常にわかる内容で、現在は企業の成長とチームのバランスが良い状況と見受けられました。今後、さらに上のレベルを目指すにあたり、改善したい現在の課題、取り組みたいことについて教えてください。

藤倉: まず、エンジニアリングとマネジメントの融合を、もっと積極的に行っていきたいです。これまで、弊社のエンジニアチームについて、満足度が高いことはお伝えしましたが、まだまだな面もあります。弊社は2019年6月に東証マザーズへ上場し、これから、企業規模を拡大しながら、出会いから、より高い価値のあるイノベーションを生み出していきたいです。

そのために、まず、より多くのエンジニア・デザイナーをはじめとしたクリエイター集団になりたいですね。優秀な人材はいる中で、まだまだ人の数が足りないというのが正直なところですので、これからも採用は積極的に行う予定です。

それとともに、課題であり今後注力したいのがマネージャの育成です。とくに、エンジニアのバックグラウンドを持ったマネージャを増やすことに取り組みたいです。

私たちが今提供しているSansanやEightというプロダクト、DSOCなどの技術は、高いレベルのエンジニアリングがあってこそ成り立ちます。これからさらにスケールさせていくには、腕のあるエンジニアだけを集め育てるのではなく、エンジニア集団をまとめ上げるマネージャが必須です。

よくエンジニアからマネージャにジョブチェンジすることを、従来の日本企業で言うところの昇進(主任から係長、係長から課長など)と比較することを耳にします。半分は同じことかと思います。それは、手を動かす業務(コードを書くこと)から、人を管理する業務へのシフト、そして、予算・コスト管理です。

しかし、私たちのようなIT企業において、昇進したからといってプロダクトからまったく離れる(離れられる)というものではありません。さらに言えば、現場から離れた管理に専念できるわけでもないのです。

マネージャになってもプロダクト全体はもちろん、自分が関わっている機能に対しての責任はありますし、技術面から見れば、どの技術を採用すべきか(マネージャ視点で)日々判断しなければなりません。

また、状況に応じたエンジニアリソースの配分は、予算管理と同等か、それ以上に重要な職務になっていきます。こういったような、数字だけでは見えない部分、エンジニアリングに紐づく部分を考えてマネジメントできるマネージャ、言葉で表すなら、⁠エンジニアのカルチャー」「会社のミッション」をつなぎ合わせてマネジメントできるマネージャを増やしていくことが、直近の目標です。

私が今、マネージャに求めることは「チームのエンジニアが最高のパフォーマンスを出せる環境づくり」です。私も今、CTOとしてその環境づくり、そして、マネージャの育成に取り組んでいる最中です。

――もう1つ、先ほどSansanの一員として重要なマインドとして「自走する」ことを挙げられました。この先、今のエンジニアたちが、より高いレベルで自走するにはどうすれば良いと思いますか。

藤倉: やや理想的に過ぎるかもしれませんが、⁠理解」「納得」をしていくことだと考えています。

開発メンバー全員が会社のミッションを理解し、自身の役割に納得することができていれば、マネジメントは方向付けだけを行い、実現はメンバーに委ねることができると思っています。

ただ、言うは易しで、これを実現するためには、メンバーに対して(各自のポジションで取り組む業務について)⁠納得」して「理解」してもらう必要があります。そのために、きちんと説明をする言葉を持ったマネージャの育成が不可欠です。

今、多くのエンジニアたちが熱量を持って自走する環境が生まれつつあります。次のフェーズに向けて、エンジニアの採用と育成に加えて、事業に対する熱量を持ってメンバーと向き合える、⁠自走する」マネージャを増やしていきたいと考えます。

これからも、自走するエンジニア集団としてのSansan、出会いからイノベーションを起こし続けられる企業としてのSansanであり続けたいですね。

――ありがとうございました。

Sansan Builders Box 2019、10月23日に開催

Sansanのエンジニアリング、そして、その先にあるプロダクト、ベースとなるビジョンを体験できるカンファレンス「Sansan Builders Box 2019」が2019年10月23日に開催されます。

ご興味のある方はぜひ足をお運びください。

Sansan Builders Box 2019
https://jp.corp-sansan.com/sbb2019

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