続!マスク・ド・アナライズの道場破り!データサイエンティストの風雲児・里 洋平編

2020年2月28日に「起業に興味のあるエンジニア/ビジネスマンmeetup #1」が開催されました。書籍『したっぱエンジニア、経営に成功して億万長者になる』の刊行を記念して、著者である里洋平氏(DATUM STUDIO副社長)と、AI業界で活躍するマスク・ド・アナライズ氏を迎えたトークイベントです。お2人のエキサイティングなトークの模様をお届けします。

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ホントのところ、本の内容は完全にフィクションではないですよね?

マスクド:マスク・ド・アナライズでございます。⁠自称⁠AIベンチャーをクビになって、今は独立して生計を立てております。今日は来場者のみなさんから仕事をいただけるのを楽しみにしています。

里:DATUM STUDIOの里です。僕自身は元々Webエンジニアでしたが、DeNAやドリコムでのデータサイエンティストを経て、DATUM STUDIOを起ち上げました。今日は起業や経営について、お話できたらと思います。

マスクド:本の内容はITエンジニア 3人が集まって起業するストーリーですが、会社の設立や営業の苦労があり、人を採用して会社を大きくする。そこでマネジメントの苦労や株式上場を目指して、最終的には会社を売却してそれぞれの道を歩みだすというストーリーですね。ところで、かなりノンフィクションな気もしますが、いかがでしょう。

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里:本の中で会社設立したのは幼馴染み3人でしたが、実際には僕と同僚の2人で起業していたりと、フィクションも含めまれています。これぐらいで勘弁しておいてください。

マスクド:作中では社員や取引先にまつわるトラブルなどの記載もありますが、これもフィクションですか?

里:もちろんフィクションではありますが、いくつかは事実をベースしたものもあります。それに問題社員がいても、漫画やドラマのように「お前はクビだ!」と簡単には退職させられませんから。

マスクド:WWEのビンス・マクマホン[1]ですね。

里:従業員はすごく守られていて、解雇する理由をきちんと示さないといけません。まずは問題のある社員が業務をできるように指導することが必要なんです。

マスクド:これ以外にも、営業を外部に依頼したら逆に保険の営業をさせられたのも事実ですか?

里:これは事実をもとにしていますが、本当にびっくりしました。起業直後は営業を軽視していて、Rコミュニティで繋がりがあるので楽に仕事が取れると思ったら全然ダメでした。そこで営業のプロにまかせようとしたら、保険のパンフレット持ってきて「これをコミュニティに売ってください。売れたら我々も営業します」と言われて驚きました。ビルを出てすぐにパンフレットを捨てたのはよく覚えています。

マスクド:エンジニア出身者が起業すると、営業や経営で苦労しますよね。

里:「良いものを作れば売れる」と考えがちですね。それにエンジニアは周りのエンジニアを過剰に気にして、尊敬されたいと思いがちです。そうやってお客さん(ユーザ)を見ていなかったのは、自分を含めて気付きがありました。お客さんに向き合うようになれば、仕事が取れるようになりますね。

マスクド:やっぱり泥臭い営業は必要ですか?

里:必要ですね、最初の案件獲得までが大変でしたから。全然返信がなくても、会社の問い合わせフォームにひたすらメッセージを送るようなこともしました。上手くいったのはFacebookで会社の代表者に直接連絡をとる方法ですね。直接会えばいろいろ良くしてくれますし、今でも当時連絡した人と仲が良いですよ。

起業は知らないことだらけだった

マスクド:そもそもなぜ起業したんですか?

里:学生時代から起業を考えていましたが、⁠世の中を変えたい」とか「このビジネスで起業しよう」というアイデアはなかったんです。そこで当時はインターネットに勢いがあったので、ネット企業なら何か面白いことができそうだなと思い、ヤフーに入社しました。その後ソーシャルゲームが流行った時期にDeNAに転職し、次に入社したドリコムで共同設立者の酒巻と出会いました。今思えば、大企業からベンチャーまでいろいろ経験したことが、起業に活かされてます。

そして、当時酒巻と一緒に書いた本が思いのほか売れたこともあり、これはひょっとしたら起業のネタになると思ったのです。需要があるかないかは大事ですね。大きく儲けるのは難しくても、手堅く売上を立てていきたいのであればなおさらです。

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マスクド:データサイエンティストの派遣は手堅く儲かりますからね。資金繰りで辛かった思い出とかあります?

里:本に書いていますが「魔の五日間」があって、給料は25日払いですが売上の入金が月末なんですよ。売上は立っているのに、給料が払えない。そこで役員報酬を遅らせて社員の給料に回していました。

マスクド:キャッシュ・フローがなければ黒字倒産するので、財務知識は起業において重要ですね。

里:そこでベンチャーキャピタル(VC)に資金調達を相談しましたが、相手にされませんでした。VCは将来伸びるプロダクトに投資するので、手堅く儲ける会社には興味がないんですよ。最後に相談したVCに、黒字なら銀行に融資してもらえばよいと政策金融公庫を紹介されました。政府系金融機関なら、大企業の勤務歴などがあれば、独立直後でも数百万円ぐらい貸してくれますし。

マスクド:起業するための準備としては他にどんなものがありますか?

里:この本のように、複数メンバーで起業して役割分担するのがよいと思います。1人だと行き詰まったときに相談もできないし、孤独になりますから。たとえば僕は事務処理が苦手ですけど、そこは他のメンバーに任せられました。営業代行の話とも関連しますけど、知らないと騙されるので一度は自分達でやらないといけませんね。エンジニア出身社長が技術だけやって別の人の仕事で丸投げにすると、いいように騙されるんですよ。

マスクド:2ヵ月間出社せずに給料だけ貰った社員みたいに。

里:性善説は成り立ちませんからね。起業すると税金や法律の知識が求められますし、わからないから他人任せは通じません。それと会社員のうちに社会の実績を作っておくべきです。起業して衝撃だったのは、前職までの会社での実績が全然評価されないことでした。自分の実績として扱われたのは本を執筆して名前が売れていることだったので、アウトプットやブランディングをやっておくべきですね。仕事の実績は本人の実力ではなく、会社のおかげかもしれません。

マスクド:私も同じですね、会社とはまったく別のマスクドアナライズが評価されたので、クビになっても独立できると思ったんです。なのに、新型コロナウイルスのせいでイベントがキャンセルになって、収入がやばいんです。独立すると外部リスクにも影響を受けますね。

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里:最初はリスクを取らずに、副業で始めるのがおすすめです。そこで芽が出なければ需要がないので、やり方を変えるなり、方針転換しないといけません。大事なのは需要があるかどうかなので、そこを確認せずにいきなり起業すると失敗します。また、⁠行動に移せない人はどうすればいいか?」という質問を受けます。まずは勉強会に参加してLT(ライトニングトーク)で発表して、最終的にイベントを主催してみましょう。勉強会に参加するだけでも、周囲の意欲のある人に刺激を受けますからね。

マスクド:SNSにはやたらと起業や独立を煽る人がいますけどね。未経験からフリーランスエンジニアになって年収1千万超えの方とかたくさんいますし。里さんは会社員からの起業準備でトラブルはありましたか?

里:上司に退職の話をしたら引き止めもありましたが、なんとか穏便に運びました。

マスクド:独立や引き抜きには遺恨が残りますからね。逆にDATUM STUDIOから転職や独立する人はどう思います?

里:僕個人としては、全然良いと思ってます。起業初期は自分も採用面接をしていましたが、応募者の将来何をやりたいことに対して、キャリアの途中にDATUM STUDIOがあるくらいでも良いと思ってましたし、面接でも正直に説明していました。それぐらいの目標や野望がある人の方が、入社した後に伸びるし活躍する人材になってくれますしね。もちろん、会社を気に入ってずっと活躍してくれるのも嬉しいですし、経営者として環境作りを推進しています。

気になる現在の預金は…!?

マスクド:ここでそろそろ参加者からの質問タイムに移ります。個人的には里さんの預金通帳が気になりますね。元ZOZOの前澤さんみたいに通帳記入してほしいです。

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里:それはさすがに無理です!

マスクド:事前に寄せられた質問からは、⁠地方で起業するのは大変ですか?」とあります。

里:やっぱり地方では大変だと思います。まずデータ分析やAI以前に、デジタル化が必要です。経営層のITへの理解からはじめる必要があり、東京に比べて単価が安く予算も限られます。一方で、タイムマシン経営のように東京で行ったことを地方で展開して価値を出せるメリットもあります。独立してリモートワークで東京の仕事を請けるなら、地方でも大丈夫かもしれません。

マスクド:タイムマシンが3年なのか10年なのかで変わりますね。地方で起業した人も知っていますが、月に何度も上京していたりします。

次の質問が「プロダクトを作るために独立しても、経営や資金繰りばかりになりませんか?」です。

里:そうした懸念はもちろんあります。安定した売上の受託開発をベースにしながら、プロダクト開発も並行して進めれば倒産は回避できます。安定した売上がないと資金繰りに困るので、うまく比率を調整ながら開発もできる組織を作るべきですね。

マスクド:次の質問が「事業計画通りに進みますか?」ですね。

里:正直1年目の事業計画は意味がなかったです。生き残ることに必死でがむしゃらにやっていくうちに、パターンができてきます。そこから落ち着いて計画を立てられるようになりました。

――最後にマスクドへの質問を聞くものの手が挙がらず、⁠ヤラセを仕込んでおけばよかった」とボヤく始末。しかし参加者より「今年の目標はあるか?」と質問が出ました。

マスクド:税金対策のために会社を作る必要がある売上1,000万円が目標でしたが、今年に入ってAIブームは失速するわ、コロナウイルスによるイベント登壇のキャンセルで早くも頓挫してしまいました。そこで今年はセルフブランディング講師とDXコンサルティングを主な業務にして、⁠マスク・ド・セルフブランディング」「マスク・ド・DX」で稼ぎたいですね。


イベントの参加率は非常に高く、参加者の関心の高さが伺えました。里さんがイベント中に「信頼関係が大事」という内容を繰り返し説いているのが印象的でした。一社会人として相手から信頼されることが、起業においても成功の秘訣になると実感しました。

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