ISUCON~10年目の挑戦⁠そして⁠未来へ

いい感じにスピードアップコンテスト、略して「ISUCON(Iikanjini Speed Up Contest⁠⁠」として、2011年に始動した、エンジニアのための競技コンテスト「ISUCON⁠⁠。2020年、ついに10回目を迎えることになりました。

ISUCON10
http://isucon.net/

毎年、運営側がさまざまなひねりを加えた出題をし、多くの参加チームがその課題に立ち向かい、予選・本選を戦い、No.1チームを決めるというもの。

今回10回目の開催にあたり、LINE株式会社 上級執行役員 LINEファミリーサービス開発統括 池邉智洋氏にお話を伺いました。

第1回目からISUCONを見続け支えてきた、LINE株式会社 上級執行役員 LINEファミリーサービス開発統括 池邉智洋氏
第1回目からISUCONを見続け、支えてきた、LINE株式会社 上級執行役員 LINEファミリーサービス開発統括 池邉智洋氏

10という数字

――10回目の開催、おめでとうございます。まず、10回目を迎えた率直なお気持ちは?

池邉:率直に⁠よく続いたな⁠(笑)

もともとトップダウンで始まったイベント企画ではなく、当時、現LINEの前身であるライブドア(NHNグループ)の現場のエンジニアたちで⁠こんなコンテストあったらおもしろいよね?⁠というような、とてもカジュアルな空気から生まれたのがISUCONでした。

そのとき私に相談があって「おもしろそうだね」と返答して、1回目開催に至りました。

――今のように組織立てた、誤解を恐れずに言えば、オフィシャルなコンテストというわけではなかったのですね。

継続して見えてきた変化~フルスタックからシンプルな技術へ

――初回の開催の2011年と言えばLINEが誕生した年でもあります。その後、年月の経過とともに、さまざまな技術が生まれ進化しています。ISUCONの観点から、印象的だった技術トピック、あるいはターニングポイントはありますか?

池邉: まず、ネットワーク技術に関して言うと、初回の2011と2020年の今を比較すると、リアルタイム性が大幅に向上しています。ですから、その進化は出題の変化にも影響を与えています。

また、ISUCONの特徴は、一見インフラ側のチューニングへの意識が強いと思われがちですが、実際はその上のミドルウェアやアプリケーションレイヤを対象とした出題が多く見られることです。そのため、最初の数回ではインフラ~フロントエンドまで、さまざまな知識が求められるコンテストで、当時でよく耳にした⁠フルスタックエンジニア⁠が活躍できる場だったとも言えます。

最近は技術トレンドが変化し、クラウドの活用やマイクロサービス化といったアーキテクチャの変化から、フルスタックエンジニアという表現をあまり耳にしなくなったのも変化の1つと言えるのではないでしょうか。出題に関して言えば、チャットアプリ(ISUCON7⁠⁠、チケット販売(ISUCON8⁠⁠、フリマアプリ(ISUCON9)いずれも予選出題テーマ>など、シングルページアプリケーション、スマホアプリなどを対象としたものが増えてきたのも、今の時代を表しているように感じています。

また、出題の内容とは別に、初回から数年の間は出題の環境構築に非常に手間がかかり、そこが運営側として難しかったことも印象的です。最近はDockerなどの仮想化技術が普及して、環境の準備・再現が格段に楽になりました。これは出題側だけではなく、エントリする調整者側にとっても過去問の練習がしやすくなったと言えるのではないでしょうか。

――技術や環境の変化とともに、参加者の属性あるいは技術力の観点でこの10回で見えたこと、気づいたことはありますか?

池邉:先ほどもお話したとおり、初回の開催はライブドアのエンジニアたちからのボトムアップでスタートしたこともあって、ライブドアのエンジニア、あるいはそのつながりからPerlのエンジニアが多数参加していた印象です。端的に言えば「顔見知り」が多いコンテストでしたね(笑)

ただ、2回、3回と続けていくにあたって、運営側としての開催意義、企業がサポートする目的について考えるようになりました。このイベント自体を採用目的にしているわけではないですが、企業が支援するのであれば少しでもエンジニアの技術力底上げにつなげていきたい、そのためには参加者の間口を広げるとともに、参加者の新陳代謝もしていこうと考えたのです。

そこで、途中から優勝者にはできるだけ出題者側に回ってもらう、という組織構造に変更しました。これにより、優勝することに対して、賞金や商品、周りからの称賛とは別の、問題を作る権利が得られるという新しい価値が加わっています。

また、この仕組みによってISUCONという場がエンジニアのエコシステムにもなり、今では非常に滑らかに若返りもできていると感じています。

それから、LINEがISUCONを開催し続ける目的の1つに、ISUCONを通じてエンジニアが客観的に評価される場を提供したいということがあります。ISUCONの場合、サービスやプロダクトのパフォーマンスチューニングという非常に定性的な部分を、数値化して評価する、という1つの基準があります。

サービス全体の快適さという意味でのパフォーマンスという、必ずしも数値化できないものを、ISUCONという場で数値化し、それを競い合うということは、ほかのイベントやコンテストとは異なった評価を受け、毎年多くの挑戦者の方たちに参加してもらえているように思います。

さまざまな競技プログラミングやCTFのようなセキュリティコンテストと同じように、エンジニアたちが自分の腕を磨く場として活用してもらえたら嬉しいですね。

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個人競技ではなく、チーム競技としてのISUCON

――私が取材してきた中でも、ISUCONの本選出場をその年の目標とするエンジニアが増えてきているように思います。今、池邉さんはほかの競技プログラミングやCTFのような位置付けを目指しているとおっしゃいました。その中でも、ISUCONならでは、ISUCONとしてはここをとくに重視していきたい、主催企業の開発統括という立場から重要視していることはありますか。

池邉: 一言で言えば「チーム力」です。先ほども申し上げたとおり、ISUCONはエンジニアの技術力底上げにつながるコンテストを目指しています。私が考えるエンジニアの重要な資質の1つに「コミュニケーション力」があります。

私たちLINEもそうですし、プロダクトやサービスを開発する場合、すべてを1人で完結するというのは難しいですし、今のトレンドを見てもインフラやフロントエンド、デザイン、さらにユーザに届けるためのマーケティング、ユーザ対応のコンシューマサポートなど、多くの役割があって、優れたプロダクト・サービスが生まれて使われ続けています。

ですから、エンジニアとしても優れたコードが書ける、斬新なアイデアを生み出せるだけではなく、それをきっかけとして多くの仲間とさらに高みに上っていく心構えが必要で、そのためには周りの仲間とのコミュニケーションが重要です。

1名での参加も認めていますが、ISUCONはチームでの参加を推奨しています。その理由も、コミュニケーション力をエンジニアの重要な資質として考えているからです。

実際、ISUCONの予選・本選とも、出題の読み解き方、ゴールに向けた仮説の設定、それに至るプロセスなど、チームでどう考えるか、それでうまくいくこともあれば失敗することもあるわけです。事前情報なしで直面した課題に対し、仲間とどう対峙し解決していくのか、ISUCONではその部分をぜひ見たいですね。

このようなコミュニケーション力・チーム力もまた、先ほどお伝えしたような数値化しづらい評価基準で、それが見られるのもISUCONならではの特徴です。

初めて予選・本選すべてオンラインでの開催になったISUCON10

――今回、10回目にして初めてすべてオンラインでの開催となりました。とくに、これまでの本選では、予選を勝ち抜いた挑戦者たちが、同じ場・同じ空間に集まって課題に向き合い、ときに周りを意識しながら優勝を目指していたかと思います。今回、新型コロナウィルスの影響とともに、完全オンライン化になって意識したことがあれば教えてください。

池邉: まず、完全オンライン化の話の前に、参加チームを募集してあっという間に500チームが集まってしまったこと、これが想定外でした(笑⁠⁠。例年ですと、告知を開始してから少しずつネットに情報を上げたり、主催であるLINEから、あるいは過去のISUCON参加者のネット口コミを利用して募集チームを集めていたのですが、今回は本当にあっという間に参加枠の500チームが埋まってしまいました。個人的見解ですが、新型コロナウィルスの影響によって、今まで使っていた時間が空いてしまったり、あるいは、集中する時間がエンジニアの皆さんにも増えたのではないかと想像します。

また、オンライン化とともに、10回目を開催するにあたって、運営責任者から「11回目以降をどうしますか」という相談がありました。今のまま続けるのではなく、新しい形、今後も継続する意義のある形に挑戦したいという提案があり、今回は企業や個人のスポンサー募集を含め、これまでのISUCONとは運営の形を少し変えています。

完全オンライン化という話に関して言えば、おっしゃるとおり、今までは本選の8時間で一斉に取り組み競い合うという体験が、ISUCONのコミュニティの醸成につながっていました。

今回は会場に集まるということが難しい状況になったので、オンライン上で均等に情報を発信するようにしようと考えています。それをどのように受け取って、取り組むか、そこにまたチームとしての特色の出し方、そして、優勝に向けた取り組み方の特徴が出るのではないでしょうか。

イベントとしての一体感という点では、今回オンライン化で、みんなが集まって話したり、また、昼食を含めた休憩の時間を通じたコミュニケーションの機会を設けづらいという課題が見えました。その中で、少しでもチーム力を高めてもらえるよう、また、同じイベントに参加しているという一体感を出せるような施策のひとつとして、LINEのグループ会社である出前館の協力により、食事などで使えるクーポンを発行します。このクーポンを使って、同じメニューを頼んで同じ時間に食べても良いですし、逆に、チーム内で時間を分けて休憩も取っても良いですし、オンラインならではの一体感をそういった施策を通じて醸成できれば、これからのオンラインイベントの新しい姿につながるかもしれませんね。

今の時世をふまえ、オンラインでの取材となった
今の時世をふまえ、オンラインでの取材となった
――お話しするのは難しいのを承知の上で、伺います。ISUCON 10の予選の課題を教えてください(笑)

池邉:だめです(笑)

ただ、ヒントではないですが、これまでのISUCONは大きくその年の流行り、そして、出題スポンサー企業が提供しているサービス、この2つの特徴から予選・本選の課題が出題されています。あくまで傾向ではありますが、今回参加する500チームの皆さんには、まず、そこをスタート地点にぜひ準備を始めてみてください。そして万全の体調を整えて、予選初日を迎えてください。

参加500チームに向けて

――最後に、予選、本選を控える参加500チームの挑戦者に向けてメッセージをお願いします。

池邉: 詳しくはISUCON応援特設ページに書いてありますので、一言「頑張れ!」と伝えたいです。皆さんの挑戦、楽しみにしています。

――ありがとうございました。
ISUCON10
http://isucon.net/

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