インタビュー

消える受注,早まる納期,そして気づいた「待ってくれる人」の大切さ ――印刷会社から見た「コロナと同人の1年間」

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「制作参加者」としてイベントを作っていきたい

――『魅せる!同人誌のデザイン講座』内で行ったインタビューでは「デザインを良くするためのアドバイス」として「イベントに足を運んでほしい」と語っておられました。即売会に関係する思い出などはございますか。

中村:イベント会場で直接喜びの声を聞くのはうれしいですね。本に対する思い入れが強いサークルさんは原稿をギリギリまで書いて,入稿を伸ばしてしまうことも多いです。で,そういった方に会場で会ってみると,涙を流しながら手を握って感謝される。仕事はもちろんお金のためでもありますが,創作に関われていることは幸せですし,思い入れのある作品に携われることには感謝しています。これからもそうした作品作りをお手伝いしたいです。

最近は企業出展をよくやるのですが,展示している見本誌を手にとりながら自分の本をこうしたいと友達同士で語っている様子を目にするのはモチベーションになります。私たちは自分たちを「制作参加者」だと思っています。一緒にイベントを作っている意識は常に持っています。

――コロナ禍が終わってもステイホームやソーシャルディスタンスの経験は私たちの生活や行動に影響を残すかもしれません。同人印刷会社としてこれからの展望を伺いたいです。

中村:社会への後遺症はゼロではないと思います。ただ,同人業界はリアルイベントありきのエンターテインメントです。ワクチンが広がることで行動制限が緩和されれば,一気に開けてくると思っています。楽観的かもしれませんが,本当は皆がもっとはっちゃけたい気持ちを持っていると信じています。

それに,この1年でデジタルの不便さも見えたと思います。たとえば通販は決まった本を狙い撃ちで買うには適していますが,リアルの情報があるからこそできていたこともあります。

――最後に同人誌の作家と読者,双方へメッセージをいただけますでしょうか。

中村:日本の同人文化を生んでいるのは「好きな気持ち」です。それは(原作となる)漫画やアニメや小説がある限りなくならないと思っています。そして,オリジナル作品は自由に生み出せますし,研究のような本が多いのも面白いところだと思います。どれも待っている人がいることが生み出すモチベーションにつながっています。

プロで活躍している人も,はじめて参加する人も,一緒にイベントを盛り上げて,対等に共有できる場が同人文化です。本を買いに来た人を「一般参加者」と表現するのは同人独特の文化だと思います。同人イベント以外なら「来場者」などと言うのではないでしょうか。作家だけでなく読者も一緒にイベントを楽しむ参加者。この文化は決してなくなりません。

そして,かたちになったものはずっと残ります。原稿の内容も大事だけれど,どんな表紙にして,どんな紙を使って,どんな加工するのか,フルトータルで作る作品が同人誌です。印刷会社はそれをどうすればベストなかたちで表現できるかを考えています。私たちも一緒にイベントを盛り上げたいですし,はっちゃけられるように頑張りたいです。

同人業界は作家・読者だけでなく印刷会社はじめ関係者の努力にも支えられてきた(写真はサンライズパブリケーション提供)

同人業界は作家・読者だけでなく印刷会社はじめ関係者の努力にも支えられてきた(写真はサンライズパブリケーション提供)

参加することに意義がある……かもしれない

「コロナ禍における印刷と同人の1年間」というテーマで話を伺ったが,話の半分くらいは「イベントの重要性」だったようにも感じる。感染症の流行状況や個々人の事情により一概に言えないところがどうしても出てしまうが,この記事を読んでいる人で同人誌を作る/読むのが好きな人は,是非イベントに参加してほしい。参加し続けること。それが一番の応援になるはずだ。

なお,新刊『魅せる!同人誌のデザイン講座――Before-Afterでわかる試したくなるアイデア&テクニック』では,特殊印刷やグッズなど「実物があるからできる表現」についてさらに中村代表に話を伺っている。気になる方はそちらもぜひ読んでみていただきたい。

著者プロフィール

石井智洋(いしいちひろ)

株式会社技術評論社 書籍編集部。情報処理技術者試験の関連書籍のほか,『魅せる!同人誌のデザイン講座――Before-Afterでわかる試したくなるアイデア&テクニック』,『会計ソフトのすき間を埋める 経理のExcel仕事術』,『Q&Aでわかる テレワークの労務・法務・情報セキュリティ』など,いろいろ担当。

Twitter:@isicihi

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