インタビュー

新規のテーマより“自分が作りたいもの”を ―歴代卒業生とメンターが語る「サイボウズ・ラボユース」10年間の軌跡

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ラボユースを起点に,つながりが生まれた

各氏にラボユース卒業後のご活躍について伺いました。

城倉:パケット解析プログラムの話を外部にしたときに,そのイベントの参加者の方がDPDKについて教えてくれて,⁠DPDKという単語を教えてもらいました」と光成さんに言ったら,インテルのカンファレンスでDPDKの話が聞けると教えてもらいました。さっそくカンファレンスに参加してIntelのプロモーションを聴講していると,Xeon PhiというメニーコアCPU上で「caffeという機械学習のライブラリを使うと,機械学習の計算が高速化できます。caffeはXbyakで最適化されていて,計算機的にすごく良くできているんです」という解説が流れてきたので,帰ってきて光成さんにわざと「Xbyakが使われてるらしいですよ」と言ってみたら,開発者本人がつらつらとXbyakの説明をしだすというエピソードがありました。⁠光成さんすごい」と感じた出来事の1つでしたね。

その後,また別のDPDK関連のカンファレンスでNTTコミュニケーションズ(以下NTT Com)のR&Dチームがセッションに登壇すると光成さんに教えてもらって,ラボユースが終わった後はNTT Comで共同研究をさせてもらい,そのまま社員となりました※7⁠。そこから1年が経ち,最近はパケットを卒業することになりました。もちろん片手間ではやっていますけど,クラウドのコンポーネント開発に携わるようになったので,⁠パケット度」は昔から30%ぐらい落ちてしまっています。

光成:slankさんは当時いろんなところにアンテナを張っていて,勉強会に行ったりしていたので「じゃあこっちの会社に行ってみたらいいんじゃないか」という話も持ち上がっていました。そういう意味ではインターンなどと違ってラボユースは「うちの会社に来なさい」というのがゴールではないので,あっちの会社はどうか,こっちの会社はどうかと気軽に言えて,コネクションが広がりやすいのはあったかもしれないですね。

光成:話は変わりますが,新屋さんが(正規表現の)理論寄りに進んでいった経緯をもう少しお伺いしたいです。

hikalium:理論ではなく,実装寄りの方向に進むっていうことは検討されたんですか?

新屋:いえ,考えていなかったと思います。修士2年ぐらいからオートマトンの理論にどっぷりはまっていたので。あと,同期の鈴木さんには影響を受けましたね。

光成:鈴木さんはラボユースの契約手続きの際に,事務の方に40分くらい延々とJavaScriptの規格について語り続けて「何を言っているのか全然わからないけど,熱意はわかりました」と言われていたのですが,それぐらいプログラミングが大好きな人で。

新屋:タガが外れるとすごいんですよね。僕はその当時まで自分のことをプログラミングが好きだと思っていたんですけど,彼には及ばないと思いました。といってもネガティブな意味ではなくて,熱意のある面白い人が同期にいるなという印象でした。あとは,正規表現って実は理論も奥深くて面白いので,どんどん傾倒していきましたね。

光成:新屋さんが『正規表現技術入門』※8を書かれたのは凄いと思いました。鈴木さんとの共著だったんですよね?

新屋:そうですね,JavaScriptにおける正規表現のJITについて執筆してもらいました。

光成:理論をあそこまできちんと書いている書籍もなかなかないと思いました。理論だけじゃなくて既存のライブラリの解説もあってすごくいい本だなと。

新屋:hikaliumさんも書籍を書かれていましたよね?

hikalium:『WEB+DB PRESS』の特集記事を何回か書かせていただいたりしました※9⁠。いろいろと活動をしたおかげだと思います。

新屋:どんどんつながってきますよね。

hikalium:そうですね。ひとたび活動し始めると,いろいろなつながりが生まれますよね。

新屋:私は沖縄から上京してきて知り合いもいなかったので,ラボユースでいろんな人と知り合えて発信できてよかったです。

※7)
城倉氏はNTT Comにて,Interop Tokyo 2019の「ShowNet」におけるSRv6(Segment Routing IPv6)の実証試験に携わった。同年のShownetでは,ラボユースのテーマであるDPDKを用いた,パケット転送の高速化にも取り組んだ。
※8)
『正規表現技術入門――最新エンジン実装と理論的背景』(新屋良磨,鈴木勇介,高田謙 著/技術評論社)
※9)
『WEB+DB PRESS Vol.120』 特集1「⁠⁠自作OS×自作ブラウザで学ぶ]Webページが表示されるまで」

思わず人に話したくなるような,お気に入りの技術はあなたにありますか?

最後に,⁠どのような人にラボユース制度を勧めたいか」を各氏に回答してもらいました。

hikalium:すごく熱意がある人とかじゃないですか。

新屋:そうですね。エンジニアでない事務の方にも40分ぐらい話せるみたいな。

hikalium:そうそう,まさにその表現はすごくわかりやすいと思います。ほかの人にも自分のテーマを好きになってほしい,みたいな熱さを持ってる人が合っている気がします。

新屋:「既存の技術だったとしてもあらためて自分で極めたい」⁠確固たる作りたいものがある」という方が向いているんじゃないでしょうか。

城倉:僕らは何か作りたい(実装したい)ものがあって応募したと思うのですが,逆に,⁠学術上がりでプログラミングはあんまりやって来なかったけど,これを機にいろいろやってみよう」という人も割とはまるのではないかと思っています。

インターネットアーキテクチャの研究をしている渡邊さん※10というPh.D.学生の方と仲良くしていて,今も毎日slackで議論しています。彼はラボユースで,ネットワーク研究者が検証用に使うようなプログラマブルなプロトコル・スタックを作っていました。

渡邊さんは,どちらかと言うと実装よりもアーキテクチャを考えたり「これはこういった本質的な機能があったからうれしかったんだね」というような洞察を得たりするのが上手い人で,そういった人がラボユースで実装に取り組むことで,視野が広がるのではないかと思います。逆に,僕のほうはクラウドのアーキテクチャを考える必要があって,最近は研究側に寄っています。

ふだん論文を書きまくっているような人が,そのコンセプトを実装してみようと思ったとき,割とこういう機会がないと,結局ずっと論文だけを書き続けてしまうみたいなケースも結構ありそうな気がしていて。実装するか研究するか,どちらも選択できるっていうのはラボユースのとても良い価値だと思います。

光成:新屋さんの例で言うと,もともと正規表現の一般論をやっていて,実装がしてみたくなってラボユースに来たという経緯ですが,実際に自分で手を動かす経験は大事だったのではないかと思います。

hikalium:ちょうどラボユースってエンジニアリングと学術の中間に位置していて,プログラミングができる人にとっては,そのアイデアをどう練ればより良くできるかを学べる場所だし,逆にアイデアを持っている人にとっては,どう手を動かせばそれを実現できるかを学べる場所だと思うんですよね。だからすごくバランスのいい人材になれるというか,その両方をつかむために,いろいろ教えてもらえる場所なのかなと思いました。

光成:そう言っていただけるとありがたいです。これからも頑張りたいです。

※10)
ラボユース第8期で「階層独立性の高いプロトコルスタックの設計と開発」のテーマで開発に取り組んだ渡邊 大記氏。

研究テーマへのこだわりや熱意を何より尊重し,各技術分野のプロフェッショナルがメンターとして名を連ねるサイボウズ・ラボユース。2021年も参加者を 通年で募集しています。我こそはと思う学生は,第11期生としてぜひ門戸を叩いてみてください。

著者プロフィール

宮島幸太(みやじまこうた)

Software Design編集部所属。技術評論社2018年入社。

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