エンジニアサポートCROSS 2014 レポート

「スマフォOS戦国時代」レポート

2014年1月17日、新宿にあるベルサール新宿グランドにて エンジニアサポートCROSS 2014が開催されました。

本稿では、本イベントの一セッションであるスマフォOS戦国時代についてレポートします。

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セッション概要

本セッションは前半にTizen、Firefox OS、車、ウェアラブルデバイスといった新興分野のOS最新動向が発表され、後半で佐々木陽氏の司会の元、前半の発表者の方々がパネルディスカッションを行いました。

なお、本セッションはUstreamで視聴可能です前編後編⁠。是非あわせてご覧ください。

TizenやWearableデバイス OS最新動向

今村博宣氏は、TizenやWearableデバイス OSの最新動向について紹介しました
今村氏
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イベント前日にドコモからTizen発売を見送るというショッキングな発表があり、冒頭から「一言で言うとTizenはスマホ戦国時代に負けた」という過激発言からスタートしました。

Tizen

「TizenはMeeGoとLiMoという2つのLinux系OSの系譜を引き継いでいるということになっている」と話す今村氏。

しかし実際はTizenにはTizen Mobile(携帯電話向け)とTizen IVI(車載情報機器向け)という2つのプラットフォームが存在しており、Tizen 3.0で今後統一される予定です。ドコモが発売を見送ったのはTizen Mobileのほうであり、Tizenそのものがなくなったわけではないので注意が必要です。

Tizenの家系図画像
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Tizen Mobileの普及を推進しているのはTizen Assosiationという団体で、日本からは富士通、NTTドコモ、NTTデータグループが参加しています。一方Tizen IVIの普及を推進しているのはAUTOMOTIVE GRADE LINUXという団体で、国内からはデンソーや富士通、NEC、トヨタ等が参画しています。

Tizenの特徴はネイティブとHTML5の両方でアプリケーションを開発できることが挙げられます。今村氏は「今後HTML5の需要はますます高まってくると思われる。ぶっちゃけるとTizen携帯が普及することは考えにくいと思っている。普及するとすればTizen IVIのほうで、特に名古屋地区の動きは活発なので注目してください」と述べました。

Wearableデバイス

WearableデバイスはIoT(Internet of things)デバイスと独立系デバイスに分類でき、⁠IoTデバイスではクラウド連携のためLinux系のOS、特にFirefox OSやUbuntu Touch等がそうであるようにAndroidをベースにしたOSが使われることが増えていくのではないか」と今村氏は予想しています。これは半導体メーカーがAndroid用のデバイスドライバしか開発しなくなったことも背景にあるようです。

ピュアなLinuxの場合はYocto Projectというオープンソースプロジェクトを利用したLinuxが使われています。

IntelのARM系やQuarkもYocto Projectをベースとしており、IoTデバイスを開発する上でYocto Projectの理解は必須となってくるでしょう。

最後に、多様なOSが登場している中でもFirefox OSはフットプリントが小さいのでローエンド端末に対応できるのが狙い目だと締めくくりました。

PhoneGap最新動向

アドビシステムズ株式会社の開発エヴァンジェリストであるAndy Hall氏は、PhoneGapの最新動向について紹介しました。

Andy氏
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PhoneGap

PhoneGapとはHTML5でハイブリッド開発を実行できる開発基盤です。採用事例としてはビールにチェックインするUntappdが挙げられます。

iOS、Android、Tizenを始めとして、その他様々なプラットフォームに対応しています。開発環境はHTML・CSS・JavaScriptになっており、Backbone.jsやAngular.jsなどサードパーティのライブラリを併用することが可能です。

最新動向

PhoneGapの詳細は公式サイトをご覧いただくとして、最新のver3.3ではiOS7やAndroid 4.4(KitKat)への対応が実施されました。

また、3.0のメジャーリリースから設計を変更し、次の変更が加わりました。

  • デバイスのネイティブAPIにアクセスする機能をすべてプラグイン化
    • PhoneGapのコア部分が軽量・高速化されました。
  • 新しいCLI(コマンドラインインターフェース⁠
    • CLIはNode.jsで実装されているため、Node.jsのインストールが必要となります。

サンプルアプリ作成

Androidアプリを作成する場合は次のコマンドを実行します。

# npmを利用してCLIモジュールをインストール
sudo npm install -g phonegap

# phonegapコマンドでアプリの雛形を生成
phonegap create myApp com.example.test MyApp
phonegap build android
phonegap install android

PhoneGapではビルドにローカル環境のAndroid SDKを利用するため、Android SDKを別途インストールして使用できる状態にしておく必要があります。

それ以外の方法として、Adobeはクラウド型のビルドシステムAdobe PhoneGap Buildを提供しています。こちらはクラウド環境でアプリのビルドを実行するというものです。なんと完全無料で使用できます。

phonegap remote login
phonegap remote build android

会場でのデモは回線の調子が悪く実行できませんでしたが、これだけの機能を無料で利用できるのはかなり嬉しいですね。

例えば、出先でラップトップを使ってサクッとソースコードを修正してデプロイ…といった場合に重宝しそうです。

ジョーク好きのAndy氏は、最後に「PhoneGapはどの部屋で始めますか? 居間(今)でしょ!」という駄洒落で会場を湧かせセッションを締めくくりました。

自動車関連OS動向

フリービット株式会社の渡辺知男氏は、自動車関連のOS動向について紹介しました

渡辺氏
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開口一番、⁠ぶっちゃけると、あまり情報ないです」と渡辺氏。車業界に関する情報はまだこれからといった段階のようです。

Open Automotive Alliance

先日、自動車へのAndroidプラットフォームの搭載を促進することを目的とした団体Open Automotive Alliance ⁠OAA)が設立されたのは記憶に新しいですが、具体的な情報はなく、これからに注目です。

OAAに加盟しているホンダ、ヒュンダイやGMはiOS in the Carにも加盟しているため、どの会社も今後の動向を見守っている状態です。

Automotive Grade Linux

Tize IVIと連携を推進している団体がAutomotive Grade Linux(AGL)です。こちらにはトヨタが加盟しています。トヨタはLinux Foundationにも加盟しており意欲的な様子ですが、具体的な情報はまだ出ていません。

Open Car

MazdaがMazda Connectとして採用する予定の技術(団体)Open Carです。

車に関するデザインガイドラインや車載要件等豊富な資料が公開されており、Open Car SDKというSDKも公開されています。

HTML5、JavaScript、Chrome(Chronium)で実行することができ、2014 International CESのMazdaブースではWebStormで開発している様子が公開されていました。

車載機の課題

スマートフォン車とでは、温度保証や製品ライフサイクル、安全規格、事故保証などに課題の違いが存在しています。また当然ですが、車載のほうがセキュアにする必要があります。

特に事故保証について、デベロッパーが担保するとなると、デベロッパーのハードルはグッと上がります。

業界構造

メーカーを頂点としてティア1、2、3…というピラミッド型構造になっています。

事故保証

自動車の機器による自己責任はメーカーにありますが、アプリがクラッシュして事故を起こしたら責任はどうなるのでしょうか。

プラットフォームで保証するとなればアプリストアの厳格な審査やメーカーによる開発会社の囲い込みが発生しますし、公開自由になった場合は開発者が責任を保証することになります。

車載器の制約

車載器の制約としては次のような事柄が挙げられます。

  • 見続けてはいけない
  • 基本的に両手が塞がっている
  • レスポンスが命

勝手に作ってみる

「プラットフォームを介さず、自分で作ってしまうのも手。ただし自己責任で」と語る渡辺氏。実際に、車載のRaspberry Pi、Node.js+Socket.IO、Androidアプリを組み合わせてPush型ナビゲーションを自作して動作させている様子をYoutubeに公開しています。

まとめ

「車業界自体がクローズドなので情報が出てくるのはあまり期待できない」としながらも、⁠OpenCarは車載要件が載っているので注目している。ビジネスやりたい人はティア1の会社にアプローチするのがいいのではないでしょうか」と締めくくりました。

Firefox OS最新動向

Mozilla Japan テクニカルマーケティングの浅井智也氏は、Firefox OSの最新動向について紹介しました。

浅井氏
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Webプラットフォーム

浅井氏は「既存のモバイルプラットフォームはAPIやOSが分断化されてしまっている。その反動としてマルチデバイスで動作するベンダー非依存のWebプラットフォームへの期待が高まっている」と言います。

iOSデベロッパーが10万人、Androidが45万人となっているのに対し、Webデベロッパーの数は800万人とも言われ、Webプラットフォームへの期待は高まるばかりです。

Webプラットフォームの課題はマーケットの充実度、パフォーマンス、機能が足りないといったものがありますが、マーケットの充実度についてはもはや時間の問題であると言えるでしょう。パフォーマンスについてはasm.jsというサブセットを使用することで速度は年々C言語に近いパフォーマンスとなっています。

会場ではUnreal Engine 3のWeb版に関するデモンストレーションが行われしたが、JavaScript特有のカクつきも見られず、既に必要十分なパフォーマンスを発揮しているように感じられました。

機能面に関しても、Mozillaは必要に応じてWeb APIを定義・標準化することで順次解決しています。

つまり、Webプラットフォームは既にマルチデバイスで実用化される下地ができていると言えます。

Firefox OS

FireFox OSの開発はFireFoxのプラグイン(アプリマネージャ)でシュミレータが起動し、Webアプリを作成するのと同じ感覚でサクサク開発できます。

ネイティブアプリと異なり都度コンパイルする必要がないので、顧客と会話しながらリアルタイムに開発していく様なアジャイル開発にも適していると言えます。

初めにスペイン語圏最大手の通信業者TelefonicaがFirefox OS採用を決定し、一緒になってWeb APIの実装を進めてきたそうです。

「誤解されがちだがFirefox OSはスマートフォン専用のOSではないし、ローエンド専用端末でもない」と浅井氏は語ります。

既に4キャリア17カ国でFirefox OS搭載のスマートフォンが販売されていますが、Firefox OS搭載タブレットも間もなく開発者向けにプログラムが公開される予定とのことです。

テレビについては、パナソニックがFireFox搭載のスマートTVを開発というニュースを発表しています。Firefox OS搭載PCも開発しているメーカーがあるそうです。

現在、Firefox OSの搭載要件はメモリ256MBとなっていますが、ウェアラブルデバイスの普及等を見据えて128MBに縮小する計画が進行中とのこと。

fxos.orgで最新のFirefox OS情報が得られますので、今後もFirefox OSの動向から目が離せません。

パネルディスカッション

後半40分は、佐々木陽氏司会の元、各登壇者がパネルディスカッションを行いました。

佐々木氏
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生き残るスマフォOS3点は? またその理由は?

最初に佐々木氏は、生き残るスマフォOS、3点を登壇者に尋ねました。

浅井氏はFirefox OS、Ubuntu Touch、Selfish OSを選択。特にFirefox OSについては「職業柄という事は勿論あるが、海外ではセールスがメーカーの期待以上に出ている。ベネズエラやウルグアイでは予想以上に好調であり、国内の某キャリアからも発売予定の噂があるので大丈夫だと思っている」としました。

今村氏はAndroid、Firefox OS、Ubuntu Touchを選択し、⁠UNIX、Linuxといった系譜にAndroidが続いていくのではないか。Firefox OSやUbuntu TouchがAndroidベースで開発されているように、形を変えることはあるかもしれないが今後なくなることはないと思う」と述べました。

Andy氏は「ガラケー時代はOSなんて意識していなかったように、スマフォにもそういう時代が来るのではないか」と予想し、⁠プラットフォームに依存しないデザインが必要になるとしたら、HTML5でフロントエンドを実装することの重要性が高まってくるはず」と指摘しました。

HTML5とネイティブ、ズバリどっち?

続いて、HTML5アプリとネイティブアプリについて登壇者に聞きました。

渡辺氏は「車載アプリについては今のところネイティブ一択ではないか。操作性やレスポンスがモバイルより重要になってくるためWebでは厳しいと思う」と分析しました。

これに対して浅井氏は「部分的に必要な部分を最適化すれば十分可能だと考えている。車載OSをFireFox OSで作る可能性も、一緒にやりたいパートナーが出てきてくれれば十分にある」と期待を匂わせました。

最後に一言

Andy氏は「(デモでうまくいかなかった)Adobe PhoneGap Buildをぜひ使ってみてください。コマンドラインでビルドするとQRコードをアスキー文字で表示してくれるのでみてほしい」と述べました。

今村氏は「ソフトウェア開発者がハードを勉強する時代が来ている。これからの時代はハードを理解しているソフトウェア開発者がIoTデバイスを開発できるようになると思う」としました。

渡辺氏は「シリコンバレーを見てもハードウェアベンチャーがかなり増えてきている。日本はまだ製造業がまだ多いので既得権益が多く戦えない箇所もあるが、Raspberry Piなど安価に購入できるデバイスが増えてきているので、そのあたりから戦っていくのもいいと思う。今までハードを触ったことがない人もチャレンジできる領域が増えていきている」としました。

浅井氏は「大きい企業はOSからハードまで一貫して作る体力があるが、MozillaとFirefox OSは中立的な組織なので弱き者の味方でもある。JavaScriptの最新事情に追随できているエンジニアは意外と少なく、貴重である。新しいWebプラットフォームの進化に期待してほしい」と締めくくりました。

まとめ

筆者は本セッションを通して、⁠第3の風」とされているOS群の中でFirefox OSが頭一つ飛び抜け出したなという感触を得ました。

日本ではまだ発売されていませんが、南米やスペイン語圏では10%前後のシェアをほこっており、世界規模で見た時にかなり有望であるといえます。今後はasm.js等どこまでネイティブに匹敵する速度に最適化できるかが普及の更なる鍵となってくるのではないでしょうか。

また、筆者はこれまで全く注目していませんでしたが、車のOSはiOS in the Car、Android、Tizen IVI、Open Carがひしめきあっており、今後どのOSが一歩抜け出すのか非常に興味深いです。ウェアラブル端末も含め、モバイル以外のハードに対してどのように希求していけるかがOS戦国時代を生き残る鍵と言えるでしょう。

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