レポート:EC3(Evernote Conference)開催―「プラットフォーム」としての Evernoteのこれから

【後編】ビジネス領域におけるEvernoteの可能性、Evernote Acceleratorに向けて

今後のEvernoteとEvernote Businessの目指すところ

米国時間9月26~27日にかけてサンフランシスコで行われたEvernote Conference(EC3)について、前回に続き2日目の様子をレポートします。

2日目も冒頭はCEOのPhil氏のキーノートから始まりました。

CEOのPhil氏のキーノート
CEOのPhil氏のキーノート

1日目は他社とのコラボレーションやコンシューマ向けの新サービスの発表が多かったですが、2日目はEvernoteをどうビジネスに役立てるか、という話が主軸でした。

Evernoteで作業を加速させる

近年Evernoteクライアントに盛り込まれている機能の中でもユーザが作業を少しでも効率的に行えるようなものは多いですが、キーノートではそれらについての解説がありました。

たとえばiPhone版のクライアントでは、iOS 7の新機能であるAirDropにも対応したことにより、同じくAirDropに対応した端末を持っているユーザとの間でEvernoteのノートをワイヤレスで共有できるようになりました。さらにデータのバックグラウンド同期機能もiOS 7環境で利用可能となっています。

またiOS7からクイックノートという手早くノートを作るためのダッシュボードが下部に用意されたことから見ても、ユーザの「ノートを作成し、同期し、共有する」という一連の作業を可能な限り短くしたいという思いが見て取れます。

起動直後の画面の最下部にあるのがクイックノート。ここからノート作成機能を即座に起動できる
起動直後の画面の最下部にあるのがクイックノート。ここからノート作成機能を即座に起動できる

また1日目のレポートにもあったように、アノテーションソフトのSkitchも、素早くアノテーションを行うためにUIに変更が行われています。Skitchと連携して、画像やpdfに素早く注釈をつけられるようにするというのも、実際の仕事中に発生するようなケースを想定してのことでしょう。

プレゼンテーションモード

またこの段階で、プレミアムユーザ限定ではありますがEvernoteは「プレゼンテーションモード」という機能を用意してきました。これは後でも出てくるEvernote Businessとも関連するものであり、汎用的なノートとしての機能から、具体的なビジネスユースを考慮してEvernoteがスライドに特化した機能を作りこんできたという意味では大きな一歩だと考えます。

現状ではレーザーポインタとリアルタイムなノート編集機能のみの非常にシンプルなサービス。今後どのように成長していくかが楽しみ
現状ではレーザーポインタとリアルタイムなノート編集機能のみの非常にシンプルなサービス。今後どのように成長していくかが楽しみ

A.I.(Augmented Intelligence)

Evernoteの今後の方向性を示す大きなキーワードとなるのが、このAugmented Intelligence(=知性の増幅)になると思います。

A.I.(Augmented Intelligence)
A.I.(Augmented Intelligence)

その一部として、既にEvernoteで実現されているものとして

  • 関連ノート、先読み検索
  • スマートタイトル(ノートの内容から自動的にタイトルを生成)
  • コンテンツの自動分類

などが挙げられていました。

単に「ノートを保存→テキスト検索で探す」といったユーザの操作を受けて動作するだけではなく、システム側からノートに保存されているデータを意味付け、関連づけ、ユーザに対して新たな「気付き」を提示することができる。

どのような気付きを与えることでユーザの知的生産性を高めることができるのか、がEvernoteの今後の注力するポイントということになります。

Evernote Business 2.0

そして話はEvernote Businessに移ります。

知的生産性を向上させるという観点でEvernoteは実際のビジネス、仕事上での用途と親和性が高く、実際にユーザの2/3はEvernoteを仕事に使っている、というデータがあるそうです。

Evernote会社内でEvernoteのノートを共有するというEvernote Businessはそれなりに受けられるものだと判断しているのでしょう。実際、既にローンチ後9ヵ月で7,900の法人がEvernote Businessを使用しており、ベンチャー企業からIT以外の領域の大企業まで、様々なクライアントを抱えているようです。

そのEvernote Businessも大きなバージョンアップを行い、キーノート内ではそのアップデートをEvernote Business2.0と表現していました。

これまでのEvernote Businessは社員間でノートブックとノートが共有できる、というものでしたが、それに加えて次バージョンでは「各社員のアクティビティ」に注目した機能が追加されます。

具体的には

  • 自分が欲しい情報を持っていそうな社員のサジェスト
  • ノートに対する各社員の貢献度合いが参照できる(ノートごとに参加者が確認でき、また社員ごとにどのようなノートへの貢献度合いが高い人物であるかもわかる)

といったもので、ただ情報を蓄積して共有するだけではなく、社員同士のコミュニケーションを活性化させることが目的と考えられます。

Evernote Businessの新機能についてはEvernote Blog(日本語)でも詳しく説明されていますので、興味のある方は下記のリンクから見てみてください。

またEvernote for salesforceも合わせて発表され、Salesforce.comのクライアントからEvernoteが使えるようになることが明らかになりました。

Salesforce.comのCEO Marc Benioff氏も会場にかけつけ、Phil氏とのトークセッションが実現
Salesforce.comのCEO Marc Benioff氏も会場にかけつけ、Phil氏とのトークセッションが実現

自社のプロダクトの展開を推し進めるだけではなく、すでにユーザの支持を集めているもの、自身がその価値を認めるプロダクトについては積極的に提携してコラボレーションしていくオープンな協業の道を選択するという方向性に、Evernoteらしさを感じました。

Devcup 2013の勝者は……?

最後に、今回のEC3の目玉でもあるDevcup2013のファイナリストが選出されました。

結果は「POSTACH.IO」というチームが優勝。

このサービスはEvernoteに保存しているノートをblogとして公開できるというサービスですが、驚くのはその手順のシンプルさです。やり方はただPOSTACH.IOのサイトにアカウント登録してから、公開したいEvernoteのノートに"Published"というタグを付けるだけ。

Evernoteの利用を促進するという意味でも良い連携ですし、実際のサービスとしての活用度も高く、納得の一位でした。

ファイナリスト授賞式の様子。MC HAMMERがプレゼンターとして登壇し、ステージは大盛り上がり
ファイナリスト授賞式の様子。MC HAMMERがプレゼンターとして登壇し、ステージは大盛り上がり

他にもEvernoteのノートに"contextboost"というタグを付与することでノートに関連した情報を自動的に取得してノートの内容を補強してくれる「Context Booster」がシルバー、テキストを素早く翻訳して、調べたテキストと翻訳結果の対をEvernoteに保存して後から効率的に見直すこともできる「Biscuit」がブロンズプライズを獲得しました。

受賞者勢ぞろいで、会場は大きな拍手に包まれた
受賞者勢ぞろいで、会場は大きな拍手に包まれた

Evernote Acceleratorへ

1日目のレポートでも記述したEvernote Acceleratorについて、このDevCupの最終ステージに残ったチームから候補者が選ばれ、10月から実際にEvernoteのオフィスで商品化に向けてプログラムを開始することになります。

Evernote Acceleratorは主催者であるEvernote以外にもNTTドコモ・ベンチャーズ、Honda Silicon Valley Lab(HSVL⁠⁠、またスペインの大手通信事業者であるテレフォニカのスタートアップアクセラレータであるWayraが協賛しており、それぞれの関係者からのスピーチもありました。

ドコモ・ベンチャーズからは副社長の秋元信行氏が登壇。ドコモはEvernoteの初期からパートナーシップがあり、日本とのシナジーを効かせていくようなサービスの発掘に期待を寄せていた
ドコモ・ベンチャーズからは副社長の秋元信行氏が登壇。ドコモはEvernoteの初期からパートナーシップがあり、日本とのシナジーを効かせていくようなサービスの発掘に期待を寄せていた
HSVLからは所長の杉本直樹氏が登壇。HSVLもEvernoteとは合同でハッカソンを開催するなど関係は深く、同社の提供する車体情報を取得できるAPIの利用ニーズの発掘と普及に努めている
HSVLからは所長の杉本直樹氏が登壇。HSVLもEvernoteとは合同でハッカソンを開催するなど関係は深く、同社の提供する車体情報を取得できるAPIの利用ニーズの発掘と普及に努めている

今回のEC3中でEvernoteは3MやPFU、セールスフォース・ドットコムのような他企業とのコラボレーションによる製品を発表しました。昨今、このようにシリコンバレーのIT企業とのコラボを進める企業は増加傾向にありますが、日本の企業についてはまだまだそのような例は少ないと思います。

アクセラレータは製品やサービスのコラボとはまた違った切り口ですが、ドコモやホンダもこのようなプログラムの協賛を通じて積極的に社外とのコラボを目指しているものと考えられます。 今後、さらに多くの日本企業が、業界の垣根を超えてシリコンバレー企業と素晴らしいコラボを実現することを期待したいところです。

EC3を終えて

全体を通じて、今回のEC3では

  • 「より良いユーザエクスペリエンスを作る」事にフォーカスする
  • ビジネスを含めたユーザのクリエイティビティの向上を支援する
  • そのためにEvernote自身もプラットフォームとして他のプラットフォームやプラダクトと柔軟に連携するとともにオープンさを損なうことなくサードパーティのサービスやアプリとの連携も受け入れる

というEvernoteの今後の方向性が明確に示されたと考えています。

ここまでオープンな形で事業を広げている会社はシリコンバレーでも珍しいと言え、今後もEvernoteの動向から目が離せません。

おすすめ記事

記事・ニュース一覧