「ソフトウェアテストシンポジウム2009 東京」(2日目)レポート

1月28、29日の両日、東京、目黒雅叙園にて開催された「ソフトウェアテストシンポジウム 2009 東京」⁠JaSST '09 Tokyo/主催:NPO法人ASTER⁠⁠、2日目のセッションからいくつか紹介してみよう。

キーノート

2日目のキーノートは日立製作所の居駒 幹夫氏による「10年後のソフトウェアテスト技術-日本発のブレークスルーを生み出そう!-」と題したセッション。

居駒幹夫氏
居駒幹夫氏

居駒氏は、2009年のソフトウェアテストの現状として、テストの重要性に対する認識、品質を保証する技術に対する認識ともに、数年前とは比べものにならないほど高まっているものの、テストによるバグの摘出率は、あるレベルで停滞していると見る。

その原因として、現状のテスト技術が統計学的な手法に依存している点を挙げ、実際のバグは人間の営みから生まれるため自然現象や経済現象のように均質ではなく偏在し、独立した事象となっていることが多く、統計的な処理になじまないと指摘する。この偏在性を居駒氏は「凸凹(でっこぼこ⁠⁠」と呼び、これを克服して有効性の高いテストを行うための方法を、さまざまな具体例を挙げながら解説した。

まず1つの方法として、凸凹を少なくする(テストが有効に機能する)ようにソフトウェア自体を設計するという方法がある。その1つの例として居駒氏はRuby on Railsを挙げた。⁠on Railsとはよく言ったもので、Rubyだけなら自由にテストしづらいコードも書けます。でも簡単に遠くに行くことはできない。ちょうど蒸気機関があるだけのような状態。これをレールに乗せることで、凸凹なく自然にMVCやデザインパターンに従ったプログラムにできるのです」⁠居駒氏⁠⁠。テストの有効性を高めるためにも、フレームワークやMVCに従った開発は有効であると指摘した。

しかし現実的に、テストのことを重視して開発を進めることはできない。そんな場合は、凸凹があっても適用可能なソフトウェアテスト技法を局面に合わせて使うことを居駒氏は勧めている。一例として品質工学で有名な「タグチメソッド」をソフトウェアに応用できないかと提案。またテストツールそのものとしてもタグチメソッドの考え方を使うことが有用であるとのこと。

チュートリアル

ソフトウェアテストの技術的なセッションやチュートリアルも行われ、多くの参加者を集めていた。

「現場で使えるソフトウェアテスト」と題した、NTTデータの町田欣史氏によるチュートリアルの模様
「現場で使えるソフトウェアテスト」と題した、NTTデータの町田欣史氏によるチュートリアルの模様
同名の書籍を元にしたセッションで、テストツール、手法、技法といった実践的な部分とテスト心得の両方をカバーし、個人とチームのテストの進め方の両方に重要なポイントについても解説する非常に欲張りなチュートリアルだった。

ミニワーク&ミニパネル

居駒氏のセッションと並行で行われた「ソフトウェアテストにもっとやりがい持とう!」と題されたミニパネルディスカッションは、若手テストエンジニアを主体としたワークショップWACATEのメンバーと、ベテラン代表のデバッグ工学研究所、松尾谷 徹氏、モデレータとして電気通信大学、西康晴氏がトークを展開。ソフトウェアテストの現場でのモチベーションの向上や、職場内/外でのコミュニケーションをいかにアップしていくかについて、熱い議論が交わされた。

WACATEの皆さん。とにかく発言が前向きでポジティブ
WACATEの皆さん。とにかく発言が前向きでポジティブ

「なかなかパフォーマンスの上がらないチームメンバーをどうするか」⁠テストに対するやる気を引き出すためには」といった、どの職場にもあるような状況を想定。WACATEメンバーが一見優等生的にも見える前向きなコメントを入れるたび、西氏から「キツイ状況でどうしてそんなにポジティブになれるのか?」といった質問が飛ぶ。松尾谷氏は「チームと仲良しクラブを一緒にしてはいけない。仕事には役割分担が必要で、これが対立構造を呼ぶ。対立を解消するには同じ目的を定めることが必要」とまとめた。またこうしたチームの人間関係は最初に作り上げなければならない。仕事が立ち上がってからでは皆の意識を変えることは困難とのこと。

前向きな若者に容赦のないツッコミを入れる西氏と、議論をひとことで締める松尾谷氏
前向きな若者に容赦のないツッコミを入れる西氏と、議論をひとことで締める松尾谷氏

「ある人が仕事ができない」という認識についても、それは価値観の押しつけかもしれない。とくにソフトウェアテストという業務は、テストができるかできないか、という基準で切ってしまいがちだ。しかし、これもコミュニケーションを密にし、その人に対する価値観を変え、別の面で評価することによって創造性を発揮する場合があるとのこと。そのためには普段の挨拶や「ありがとう」といった言葉、ほめること、いきなり否定しないことなどが重要で、ときには「飲みニュケーション」やそれに伴う愚痴、ガス抜きも有効、といった意見が出された。

セッション全体のモデレート役 WACATE実行委員会の池田暁氏
セッション全体のモデレート役 WACATE実行委員会の池田暁氏

クロージングセッション

午後には、クロージングセッションとして「テスト技法からテストメソドロジへの進化を目指して」と題した全3時間に及ぶパネルディスカッションが行われた。⁠ソフトウェアテストシンポジウムの原点に立ち返る」として、まずこのシンポジウムの過去の歴史を振り返り、その中で足りなかったことは何か? という観点でテーマを決定。さまざまなテスト技法、手法を実際のテストの現場でどのように使っていくか?という「メソッド」の部分について、JaSSTでもおなじみのパネリスト7名がそれぞれの持論を展開した。初日のキーノートスピーカーRoger S. Pressman氏もアドバイザーとして参加した。

クロージングセッションの模様
クロージングセッションの模様
クロージングセッション パネリストの面々
クロージングセッション パネリストの面々
JaSST ソフトウェアテストシンポジウム
URLhttp://www.jasst.jp/

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