アジャイルカンファレンスTOKYO 2009

12月8日、⁠Agile Conference tokyo 2009」が盛況の中終了しました。ご来場いただきました皆様にはお礼申し上げます。

12:30の開場を前に、ホール前には長蛇の列ができており、改めてアジャイル開発についての関心の高さを実感させられました。開場後のホールは、ほぼ満員の状態です。

受付に並ぶ参加者の列
受付に並ぶ参加者の列

基調講演

ThoughtWorks北京のジェネラルマネージャーであり、ThoughtWorks本社の副社長でもあるXaio Guo様の公演です。公演スライドには相当力を入れていただいたようで、納得行くものに落ち着くまで、何度もやりとりが続きました。その甲斐あってか、非常に興味深い情報が満載の公演となりました。

満席の基調講演
満席の基調講演

中でも、大規模アジャイル開発の取り組みについては、興味深いものでした。日本国内では数百人、数千人といった大規模なアジャイル開発の事例は、ほとんどありません。それだけに、本公演で示されたポイントは、有益なものであったと感じております。

ThoughtWorks Inc. マネージングディレクター Xaio Guo氏
ThoughtWorks Inc. マネージングディレクター Xaio Guo氏

また、最後に最も難しく大切なことは、文化の変革である。と締められていたのがとても印象的でした。やはり、アジャイル開発は、これまでとは「やり方」⁠考え方」が異なるものであり、それを普及させることの難しさを示されていたのだと思います。このような、アジャイル開発の導入をスムーズに進める教育プログラムや導入支援サービスのあり方について、改めて考えさせられました。

マイクロソフトとIBM

基調講演の後には、マイクロソフトとIBMの二大アジャイルツールベンダーによる講演がありました。どちらも、アジャイル開発プラットフォームを戦略商品として位置づけており、それらの商品紹介を主軸においた内容となっています。

最初に、マイクロソフトの長沢様の講演です。マイクロソフト社のアジャイル開発の取り組みと、VisualStudio2010 のご紹介が主な内容でした。

マイクロソフト株式会社 エバンジェリスト 長沢 智治氏
マイクロソフト株式会社 エバンジェリスト 長沢 智治氏

マイクロソフト社も、VisualStudio開発部門が率先してアジャイル開発に取り組んでいるとのことで、自ら実践したアジャイル開発のノウハウを製品造りに活かしているそうです。⁠ムリ・ムラ・ムダ」⁠Yellow/Red Game」⁠Quality Gate」といった、メタファやアナロジーを積極的に活用している点が印象的でした。

また、後半のVisualStudio 2010では、さまざまな機能の紹介がありましたが、個人的に惹かれたのは、MacOS や Linux といった Windows 以外のOS から、Eclipse 等のツールを使って Team Server の利用が可能になる点でした。.NETフレームワーク上の開発に限らず、幅広い局面での採用が期待され、要注目のツールです。

VisualStudio 2010でのアジャイル開発を紹介
VisualStudio 2010でのアジャイル開発を紹介

続いて、日本IBM の玉川様による RTC(Rational Team Concert)のご紹介がありました。総花的なツールの各機能の紹介ではなく、リアルタイムコラボレーションの体感にスポットを当てて、目の前で分散開発を実践してみせたのが印象的でした。

日本アイ・ビー・エム株式会社 ラショナル事業部 玉川 憲氏
日本アイ・ビー・エム株式会社 ラショナル事業部 玉川 憲氏

遠隔地にいる方と音声チャットツールで連絡を取り合いながら、統合リポジトリを通じて情報を連携しあう様子は非常に興味深いものでした。開発リーダーの手元にリアルタイムで各開発拠点の進捗が集まって来て、リーダーはそれを簡単にデプロイし、内容を確認することが可能となります。RTCは大規模な分散開発を視野に入れて開発されたツールですので適応局面を選びませんが、個人的には無償で使える10人以下の小規模プロジェクトへの導入がお勧めです。

神奈川県にあるIBMの事業所との2元中継の画面を映しながらのデモ
神奈川県にあるIBMの事業所との2元中継の画面を映しながらのデモ

マイクロソフトやIBMのような巨大ツールベンダーが相次いでアジャイル開発の統合サポートツールを打ち出してきている状況に、アジャイルの新しい波を感じます。特に、アジャイル開発には「開発の見える化」が欠かせませんが、そのコストを劇的に吸収してくれるのがこれらのアジャイル開発ツールです。見える化のコストが高いゆえに、一つの場所に集まって、密度の高い情報交換を行うのが従来のアジャイル開発のスタイルでした。その情報流通コストを下げることで、分散開発や、大規模開発においても、アジャイル開発手法のメリットを発揮することが可能になります。

また、両社とも、アジャイルという言葉をストレートに使うのではなく、アジリティといった用語を用いているのが印象的でした。従来のアジャイル開発との違いを出そうとしているのかもしれません。しかし、アジャイル開発手法にメリットを見出していることに、間違いはありません。この開発手法を展開することは、既存の開発手法にはない新たな付加価値を提供する(=ビジネスとして成立し得る)といった本気を感じました。

日立製作所

そして次に、実際にアジャイル開発手法を使って、オフショアでの分散開発を実践している日立製作所の山中様の講演がありました。オフショアアジャイルを実践する中で収集した生のデータを整理して、その特徴と傾向を分析されています。

株式会社日立製作所 技師 山中 敦氏
株式会社日立製作所 技師 山中 敦氏

実は私も、このプロジェクトの立ち上げ時に少しお手伝いさせていただいたことがありました。もともと、オフショア開発は、文化の違いやコミュニケーションの壁があり、プロジェクトを円滑に進めるには高い管理能力を必要とします。そこに、アジャイル開発というこれまでと異なるやり方で効率を追求し、成功を収めるのは非常に難しいものがあります。今回は、現場の第一線の管理者層(ミドル層)に非常に優秀な方が揃っていたというのが、成功の要因のひとつであることは疑いがありません。

さまざまなデータの報告がありましたが、測定のコストを加味しても、国内でウォーターフォール式の開発を進める場合と比べても、なんら遜色の無い品質が提供できているという点は大きな成果であると思います。このような先行事例を報告・分析することは、教訓やベストプラクティス、アンチパターンを抽出し、後続のプロジェクトの敷居を下げるという意味で、素晴らしい貢献であると考えています。

山中氏のセッションの模様
山中氏のセッションの模様

個人的に最も印象的であったのは、オフショア開発の現場の満足度が高いということです。日本よりは遥かに労働市場の流動性は高いので、オフショアパートナー育成という観点からみても、人材流出の防止に貢献する効果がありそうです。

トークセッション

そして、最後は弊社社長の長瀬と、Xiao様とのトークセッションでした。時間が短いこともあり、Q&A形式で進めました。

トークセッション
トークセッション

比較的広範囲に重要なポイントに関する質問がバラつきましたので、Xiao様のアジャイルに関する深い知見を直接感じられる場となりました。舞台裏でもXiao様とお話させていただく機会もありましたが、とても誠実なお人柄でした。今回のQ&Aでも、とても丁寧に回答していただき、有意義なセッションであったと思います。

株式会社テクノロジックアート 代表取締役 長瀬 嘉秀 氏
株式会社テクノロジックアート 代表取締役 長瀬 嘉秀 氏

とくに、ユーザインタラクション用の専用のデザイナロールを定義したり、パフォーマンスの評価をチーム単位で行い個人評価を回避したりする部分は、開発組織の在り方を変えてゆく必要があります。アジャイル開発の導入は、考え方を変えるだけでなく、契約や組織体制の変革まで伴う大きなターニングポイントとなり得ます。ほんの僅かな視点の転換に過ぎないのですが、アジャイル開発の導入の難しさも改めて感じました。

会場からの質問に丁寧に答えるXiao氏
会場からの質問に丁寧に答えるXiao氏

最後に

会場は、最後まで多くの人に埋め尽くされていました。Q&Aでマイクを持たれた方の中には、これからアジャイル開発に取り組みたいといった方もいて、アジャイル開発に対する注目度の高さを、改めて感じさせられました。今後もこのような場を通じて、さまざまな情報収集/発信を継続していきたいと思います。

Xiao氏には個別インタビューを行いました。その模様についてはこちらをご覧ください。

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