レポート

Webを誰もが使えるものにするために─IBMフェロー 浅川智恵子さんがWebアクセシビリティの進化と最新事情を語る

この記事を読むのに必要な時間:およそ 3 分

「ソーシャル・アクセシビリティ」のもつ可能性

次に,Webアクセシビリティ向上のための新たな取り組みとして,ソーシャルネットワークを利用する活動が紹介された。これは「IBM Social Accessibility Project」と呼ばれる活動だ。

たとえば普通のサイトの場合,アクセシビリティの問題点を指摘して改善を求めるメールを送っても,実際に反映されるまでに時間がかかったり,改善に至らない場合も多い。これに対してSocial Accessibility Projectでは,問題点をソーシャルネットワークに報告し,これに対してボランティアの修正者が即座に対応する。いわゆる「クラウドソーシング」の仕組みを利用したシステムだ。

Social Accessibility Projectの概要

Social Accessibility Projectの概要

動画による説明も行われた(これは「IBM Social Accessibility Project」のサイトからも見ることができる⁠⁠。

浅川さんが学会でこの活動について発表したところ,アカデミックで大きな反響があったという。そして,たとえば,町の中で見かけるアクセシブルな場所とそうでない場所の写真をとってソーシャルネットに報告するといった,浅川さんらの活動をフォローするようなさまざまな研究が行われるようになった。

そして,実際にSocial Accessibility Projectに参加しているサイトとして,鳥取県の公式サイトが紹介された。同サイトのすべてのページの右下に「アクセシビリティの問題を報告」するアイコンが置かれ,これをクリックして送信フォームから問題点の報告を送り,問題を修正作業者に直接連絡する。

鳥取県サイトのアクセシビリティリクエスト送信フォーム

鳥取県サイトのアクセシビリティリクエスト送信フォーム

修正はプログラマでなくても可能なGUIが用意され,この修正作業を障碍者に依頼している。アクセシビリティの善し悪しが判断できるのは障碍者であり,同時に障碍者の職域拡大も目指しているという。

情報へのアクセスが人権になる

さらに新たな課題として,マルチメディアのアクセシビリティについての取り組みが紹介された。映像,動画に字幕や説明用の副音声が用意されている割合は,現状では極めて少ないと言わざるを得ない。また音声ガイドが適切かどうかにも問題がある。たとえば映画の音声ガイドは,セリフなどがない無音のところに説明音声を入れる必要があり,これが制限になってしまう。

もうひとつの大きな問題は,音声ガイドを制作するコストだ。まず台本を作るには,短時間で情景説明をまとめるスキルが必要で,さらに録音には熟練したナレーターと録音設備が必要になる。これを解決するのが音声合成である,と浅川さんは言う。音声合成で先の録音部分のコストを削減し,さらに専用ツールを作ることで台本作成のコストもある程度圧縮可能となる。さらにこれをHTML5で標準化することで,コストを削減する。現在浅川さんの部署で,音声ガイド制作用のエディタを開発中,またHTML5の標準化についても,W3Cにメンバーを送って提案を行っているところだ。

このほか,電子技術を使ったアクセシビリティの研究成果として,IBMの研究ではないが「バーチャル白杖」と呼ばれるも紹介された。これは実際の杖ではなくレーザーで地面の起伏を捉え,それを振動子を使ったデバイスで手に伝えるというもの。同じ原理を使った「バーチャル点字ブロック」も研究されているという。

このほか,電子技術を使ったアクセシビリティの研究成果として,IBMの研究ではないが「バーチャル白杖」と呼ばれるも紹介された。これは実際の杖ではなくレーザーで地面の起伏を捉え,それを振動子を使ったデバイスで手に伝えるというもの。同じ原理を使った「バーチャル点字ブロック」も研究されているという。

最後に,日本に訪れつつある超高齢化社会に言及した。2050年には65歳以上の人口が総人口の41%に達するという予測を紹介し,こうした流れの中で発声しつつある「高齢者の若返り現象」に注目しているという。⁠元気高齢者」と呼ばれる人たちだ。⁠人生50年」と言われたころから現在は平均寿命が80歳となり,そのうち100歳となるかもしれない。こうした社会では,高齢者も社会貢献しなくてはならなくなる。

浅川さんは,ここで重要な役割を果たすのがITによって高齢化によるハンディキャップを補う技術だと考えている。現在研究しているのが「ささやきインターフェース」だ。これは音声によるAR(拡張現実)技術を活用しており,たとえば自動券売機の前で動きが止まっている人がいたら,それを感知して使い方を音声で「ささやく」というもの。困っているお年寄りを通りがかった人がサポートするような感覚だ。

まとめとして,国連障害者の権利条約を例に「情報へのアクセス自体が人権のひとつとして認められるのが世界の動き」と紹介。⁠ダイバーシティ(多様性)への潮流が起こりつつある。企業においても,社会においてもダイバーシティをむしろ活用していかなければならない。Webを社会のインフラとして,世界中の人たちが使い続けられる良いものにしなければならないと思っています。そして私は研究やセミナーを通して活動していくことで,Webが誰もが使えるものになると信じています。」と結んだ。