「MeeGoを使うことが成功への近道だ」─⁠─MeeGo Seminar Winter 開催

12月9日、東京ミッドタウンホールにて、⁠MeeGo Seminar Winter 2010」が開催された。春、夏に続き3回目の開催となる同セミナーは、モバイル機器や組込み機器に最適化されたLinux「MeeGo(ミーゴ⁠⁠」の啓蒙と普及を目的としている。

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MeeGoの開発はほぼ予定どおり進んでおり、この11月には新バージョンとなるバージョン1.1がリリースされている。こうした状況をふまえ、より実践的な知識や情報を求める参加者がセミナー会場に詰めかけた。

イノベーションは多くの人のアイデアの先にある

基調講演は、前回までと同じくLinux Foundationエグゼクティブ・ディレクターのジム・ゼムリン氏。⁠Strategic Freedom with MeeGo」と題されたプレゼンテーションは、いまや情報通信技術などでは標準的な開発スタイルとなったオープンなモデルが、組込み分野にも浸透しつつある現状を紹介。MeeGoによってもたらされるオープンな環境が、それに関わる人、企業、コミュニティ、組織すべてに「自由」をもたらすという。

その上でゼムリン氏は、この自由が多くの新しい機会を与え、それによりこれまで想像もつかなかったようなユーザエクスペリエンスが生まれるのではないかと期待している、と語った。同氏が最近読んだスティーブン・ジョンソンの『Where Good Ideas Come From』から引用しつつ「イノベーションに到達する鍵となるのは、一人の人の偶然のひらめきではなく、多くの人が考えを重ね、コラボレーションしていくことだ」と述べた。

ジム・ゼムリン氏
ジム・ゼムリン氏

「従来の⁠コントロールドモデル⁠では、企業は少数の有能な人間を雇い、クローズドな環境で何年もかけて開発を行ってきた。これでは外部に優れた情報があっても、それをキャッチアップし、生かすことができない。これに対してオープンなモデルでは、シンプルなアイデアを積み重ねながら、みんなで考えることができる。これが技術革新につながる。」⁠ゼムリン氏)

ゼムリン氏はこのように従来の組込み開発とは違うオープンな開発モデルに基づいたMeeGoの優位性を訴えかけた。

「ただし、オープンな開発モデルにも課題はある」とゼムリン氏は続ける。それは「フラグメンテーション」⁠細分化)だ。それぞれが自分の好きなデバイス上で動くものを作ろうとすると、プラットフォーム開発コストが増大し、オープンなモデルの特長であるコストを共有するメリットが成り立たなくなる。たとえばテストひとつをとっても、何百ものデバイスに載せたシステムは、アップデートするごとに何百の試験をしなければならなくなってしまう。

MeeGoの開発モデルはこの問題も解決する、とゼムリン氏は言う。それを支えるのが4つのポイントだ。

①誰でも参加できる(Inclusion)
②透明性(Transparency)
あらゆるフィーチャリクエストが明らかになっており、だれでも見ることができる
③能力主義(Meritcracy)
提供してくれるモノが良ければ、だれが作ったもので採用される。
④Upstream Philosophy
まずアップストリームに受け入れてからMeeGoプロジェクトに還元される。これで安定性が確保される。すでに実績ある(Linuxの)開発プロセスに乗っている。

「これが最も成功する方法だ」⁠ゼムリン氏)

またアプリケーション開発者はMeeGoのコンプライアンスプログラムに参加すれば、それに則ったテストが行われ、無事通過するとMeeGo上であればさまざまなデバイスや環境で動かすことができる。これもMeeGoの持つメリットだ。そして、この体制に乗った開発や事業は急速に立ち上がりつつあるという。

講演の結びに「MeeGoはまだ端緒についたばかり」⁠We are Just at the Beginning⁠⁠)と語ったゼムリン氏は、実際にMeeGoに深く関わっている人の話を聞こうと、3人の人物を壇上に招き入れた。フィンランドのノキア本社で2005年から開発ディレクターを務める菅野 信氏、同じくノキアでMeeGoによるエコシステムの確立に携わるダニエル・キールベルグ氏、そして中国Linux Foundation代表で、米Splashtop Inc. CSO(Chief Strategy Officer)のクリフ・ミラー氏の3人。ここからゼムリン氏を加えたパネルディスカッションとなった。

ディスカッションの模様。右からジム・ゼムリン氏、菅野 信氏、ダニエル・キールベルグ氏、クリフ・ミラー氏
ディスカッションの模様。右からジム・ゼムリン氏、菅野 信氏、ダニエル・キールベルグ氏、クリフ・ミラー氏

企業が自分の運命をコントロールできるのはMeeGoだけ

まずゼムリン氏が「どんな人でも、特定のデバイスにしか興味のない人、たとえば自動車メーカの人がMeeGo開発が参加してもいいのでしょうか?」と聞くと、菅野氏は、⁠もちろん参加できます。デバイス別の開発も進んでいて、今だとタブレットについては非常に勢いがあります。」と答え、OEM先やOS担当の開発者が参加する敷居も低いと語った。

ダニエル・キールベルグ氏がこれを受け、近々最初のMeeGoタブレットが出てくると発言、ヨーロッパでは大手の携帯キャリアがMeeGoコミュニティに参加していることを紹介した。

ゼムリン氏は「そういうノキアからはいつ出てくるんですか?」と尋ねると、⁠2011年には」⁠キールベルグ氏⁠⁠。MeeGoのSDKはすでに50万回ダウンロードされており、標準GUIであるQtは今年1年で160万ダウンロードにのぼっていることを挙げ、いまや全世界で1万人のアクティブなデベロッパがMeeGoに関わっており、2011年にはMeeGoデバイス、アプリケーションとも続々と登場することを予言した。

一方クリフ・ミラー氏は、商用製品のベンダとしての立場から発言した。MeeGoを使う理由は「我々は怠慢だから」⁠ミラー氏⁠⁠。OSの低レイヤからすべてを開発するのは非常にコストや時間がかかる。⁠OS部分をMeeGoに任せる方が楽になる。そして我々は得意なことにもっと時間をかけることができる。たとえば我々(Splashtop Inc.)で言えば接続管理であったり、どこの会社にもあるでしょう」⁠ミラー氏⁠⁠。

ミラー氏は続けて「MicrosoftやAppleなど、10%以上の高いシェアをもつプラットフォームがあります。こうした企業の技術を使うと確かにシェアは高いが、そのOSをコントロールすることはできない。これに対してMeeGoならユーザがあらゆることをコントロールできる。自らの運命をコントロールできるのはMeeGoだけ」とMeeGoのアドバンテージを主張した。

ゼムリン氏も「MeeGoなら自分のビジネスモデルを作り上げることができる」と強調した。⁠自分のアプリケーションストアを持つこともできるのです。」⁠ゼムリン氏⁠⁠ 実際に「Ovi Store」というアプリストアを持つノキアのキールベルグ氏も、Ovi Storeが急速に拡大していると述べた。こうした盛り上がりを受け、先日ダブリンで行われたMeeGoカンファレンスも1000人が集結したという。

ゼムリン氏は「MeeGoが始まってまだ最初の5分間だ。これから大きく発展していく」とディスカッションを締めくくった。

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