「第28回 HTML5とか勉強会 HTML5ビジネス最前線(B2C編)」活動報告

第28回目の「HTML5とか勉強会」は、富士ソフトさんに会場をお借りして開催しました。

今回のテーマは「HTML5ビジネス最前線(B2C編⁠⁠。ビジネスの現場でも存在感が増しているHTML5について、Webやハイブリッドアプリの制作などに関わった方々に講演していただきました。

本稿では、今回のイベントについてレポートします。

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スマート・デバイスとHTML5、そのビジネス

はじめに、KDDI総研の小林雅一さんにHTML5を使ったデバイスの紹介や、HTML5の重要性について講演いただきました。

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現在スマート・デバイスのコモディティ化が進み、差別化が難しくなっているそうです。乗せるOSが限られていることもあり、各社はデバイスのスペック面での強化による差別化を図っているとのことです。日本のメーカーも防水のタブレットを出すなどしています。差別化のためには家電、自動車などの異業種をまきこんでいくことが重要になっていくと述べていました。

スマート・デバイスの成功の鍵を握っているのはHTML5です。HTML5によってWebサイトはホームページを見るためのものから、何かをするためのプラットフォームになっています。ブラウザは強化されたJavaScriptによってアプリケーションプラットフォームとして働きます。HTML5のオフライン機能やデバイスAPIによってブラウザとOSの境界線がなくなっていくことで、ブラウザがOSにより近くなるだろうとのことです。

HTML5が注目されている理由として、OSやデバイスによる囲い込みを回避できるという点があります。これから日本企業がとるべき戦略として、自社のコンテンツを自社のデバイスだけで使えるようにするのではなく、どの端末でも利用できるようにするべきだと述べていました。今まではOSがプラットフォームになっており、日本企業はそれに沿うしかありませんでしたが、プラットフォームがブラウザへと移行することで、日本企業にも様々なチャンスが生まれるとのことです。

講演では他にも、様々なデバイスやサービスの紹介がありました。詳しくは講演資料や講演動画をご覧ください。講演で紹介された動画が掲載されたページはこちらです(リンク先画面右側に動画があります⁠⁠。小林さんが執筆された本日本企業復活へのHTML5戦略が発売中ですので、興味がある方は是非手に取ってみてください。

小さく、早い改善がスマホのサービス開発を変える

次に、クックパッドの五十嵐啓人さんにAndroidアプリのハイブリッド化の事例から、スマートフォンのサービス開発について講演いただきました。

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Android、iOS、Webと3つのプラットフォームで別々に開発していたアプリをハイブリッド化するにあたって、クックパッドではそれまでと違った開発手法をとったそうです。従来は社内で価値をねりこんでから全体にサービスを公開するという手法でしたが、小さなターゲットに向けて細かい機能を段階的に提供していくという手法にしたそうです。1,000万人規模の大きなプラットフォームになってしまうと従来の手法ではアイデアがあっても周囲の説得が必要であったり、リリース可否の判断がシビアになったりと保守的になりがちです。また影響範囲も大きいことから、様々なユーザの利害を考慮しなければならないとのことです。

クックパッドでは「The Lean Startup」⁠Eric Ries著)から、起業における仮説の検証作業や議論プロセスの効率化についてを、サービス開発に適用しようと試みたそうです。今回の事例では1人のユーザにターゲットを絞って新機能を提供し、そのユーザが使ってくれるかどうかを検証、ユーザが新機能を使ってくれるまでアップデートやアプローチの変更を行い、うまく行った場合には公開規模を拡大する、といったことを繰り返したとのことです。特定ユーザへの機能提供や素早いアップデートが行えるのは、HTML5やJavaScriptで開発しているからこそできる利点だと述べていました。

講演ではこの他にハイブリッド化にあたって注意した事柄や、ハイブリッド化後に気付いたことなどの紹介がありました。詳しくは講演動画講演資料をご覧ください。

HTML5でビジネスはどう変わった?どう変わる?

最後のセッションとしてパネルディスカッションが行われました。今回は仕事でHTML5を使ったことがある5人の方に、それぞれのポジションからディスカッションを行っていただきました。登壇していただいたのは次の方々です(敬称略⁠⁠。

  • 吉川徹(フリーランス、HTML5開発コンサルタント)
  • 一條美和子(産経デジタル、Webディレクター)
  • 太田昌吾(クックパッド、フロントエンドエンジニア(インハウス⁠⁠)
  • 辻正浩(フリーランス、SEOプロフェッショナル
  • 高津戸壮(ピクセルグリッド、フロントエンドエンジニア
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モデレータはC.A.Mobile白石俊平さんに務めていただきました。

登壇者の方々の簡単な自己紹介と関わってきた仕事の紹介のあとに、各テーマについてディスカッションを行っていただきました。今回はその中からいくつかの発言をピックアップして紹介します。

テーマ「HTML5以前、以後で、Webサイトの制作や開発(営業・企画から運用まで)に変化はありましたか?」

はじめに手をあげた高津戸さんは、Web制作会社にくる仕事の内容が変わってきていて、従来のいわゆるホームページを作る仕事だけではなく、プロモーション向けにiPadで動かせるサイトや、スマートフォン向けのネイティブアプリの制作依頼などが増えて来ていると言います。

それにあわせて吉川さんは、HTML5の認知が広まってWebでできることが増えたと思っている顧客が多くなり、HTML5という単語ができたことでインタラクティブなモノをWebで実現して欲しいと言いやすくなっているのではないかと話します。

一条さんは現場的な観点から、今まではすべてのブラウザで同じ動作をするモノを求められていたが 、それが減りつつあり、各ブラウザの表示や動作などの差異についての認知が浸透しつつあるのではないかと述べていました。

テーマ「HTML5での開発・制作・運用にかかる工数やスケジュールについて、実際のところをお聞かせください」

高津戸さんはHTML5のAPI周りの検証のコストについてふれました。video要素のコーデックを例にあげ、素材として渡された動画ファイルが特定の端末で再生できなかったなど、あらかじめ検証しておくべきことが多くあるため、工数がかかってしまうことがあると言います。

吉川さんはネイティブとHTML5のどちらにするかといった場面では、コストの安い方が選択されているだろうと述べていました。

テーマ「HTML5をビジネスチャンスと捉えている人は多いように感じますが、実際のところはどうなのでしょうか?」

辻さんはSEOの観点からだけでなく、コスト面からもHTML5を使うことを勧めることがあるそうです。現状ではHTML5がSEOに与える影響はほぼないですが、大規模なリニューアルなどは数年に1回行えることなので、将来を考えた場合HTML5を使うのが推奨されるとのことです。今後HTML5のサイトが普及すればSEOにも効果がでてくるだろうと述べていました。

太田さんはHTML5がビジネスチャンスになる、という言い方にひっかかりを感じているそうです。サービスを開発する上で重要なのはユーザにとって何ができるかを考えることで、HTML5で何ができるかを考えるというのは少しずれているのではないかと話します。ですがHTML5を使うということはWebの将来を決めることに繋がっているため、今の段階で積極的にHTML5を使っていけば、ビジネスとして成立するものになるという部分はあるだろうとのことです。

最後に「HTML5や、それに関連するビジネスの今後について、自由にご意見をお聞かせください」というテーマで自由に発言してもらいました。ディスカッションの様子は是非講演動画でご覧ください。

最後に

レポートに対する感想や、勉強会に対する希望・意見・取り上げて欲しいテーマなどがありましたら、twitter(@nakajmg)まで気軽につぶやいていただければと思います。

本勉強会は、毎月第3水曜日、または第3木曜日に開催していますので、興味を持たれた方は是非参加ください。ただし、会場や講演者スケジュールの都合などにより、開催日程が前後することがあります。開催のアナウンスはhtml5j.orgのMLで行われますので、こちらをご確認ください。また、コミュニティサイトhtml5j.orgも公開していますので、是非こちらもご覧ください。

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