クラウドの、良いことも、悪いことも。――クラウドの裏側をあばく!「クラウド座談会 Vol.01」レポート

2012年6月6日、株式会社技術評論社、株式会社ゼロスタート共催のイベント「クラウド座談会 Vol.01」が開催されました。ここではその模様をお届けします。

クラウドの、良いことも、悪いことも。

今回のパネリストは以下の6名。

Amazon Web Services
Google App Engine
Windows Azure
写真1 奥から得上氏、上田氏、本間氏、小川氏、冨田氏、小林氏、山崎氏
写真1 奥から得上氏、上田氏、本間氏、小川氏、冨田氏、小林氏、山崎氏

モデレータは共催社のゼロスタート代表取締役 山崎徳之氏@zakiが努めました。

山崎氏はオープニング時に「これまでクラウドの話題というとベンダサイドからのウリ(良い部分)の紹介が多く見られました。今回の座談会では、一般には知られていない、ユーザサイドから見たクラウドの良い話、悪い話を展開したいです」と、この座談会の主旨と狙いについて説明し、ディスカッションがスタートしました。

写真2 モデレーターを務めた山崎氏
写真2 モデレーターを務めた山崎氏

クラウドで苦労したこと

最初のテーマとして挙がったのが「クラウドを使っていて苦労したこと⁠⁠。

この点について、得上氏は「AWSのサービスで最近DynamoDBを使うときに思うことがあります。DynamoDBはスループットを上げていくのは無制限なのですが、下げるのは1日に1回だけになります。なのでトライアルなどをする際には大変ですね。他にも、以前のAWSでは、仮想OSを作るときにランレベルが4でしか作れないといった窮屈さがありました」と述べました。

また、GAEを使う上田氏は「以前はサービスのアベイラビリティが悪かった点」を挙げ、⁠それでも、昨年末の値上げとともに品質は上がりました。このとき、社内稟議を通すのが大変でしたね」と、金額的な部分で苦労した点が挙がりました。

その他、⁠BtoCのサービスをしている私たちとしては、クラウドサービスの拡張(増やし方)の手軽さに慣れてしまい、パフォーマンス改善について問題追求や切り分けをせず、単純にサーバをスケールさせるようになってしまいました。というのも、⁠過去に)サーバが落ちる怖さを経験しているからです。でも、裏を返すとこれはお金で解決しちゃっているとも言えますね」⁠本間氏)という、同じく金銭的な面に関する意見も出ました。

もう1名のGAE使いである小川氏は「これはPaaSのメリットでもありデメリットでもあるのですが、GAEはAWSほど下のレイヤをいじれないので、管理しづらい面があります。とくに障害発生時には管理面で苦労しますね」と、PaaSがゆえの悩ましい点を紹介しました。

唯一のWindows Azureユーザ代表の冨田氏は「Windows Azureは、Windowsでできることであればすべてできます。ただ、今までマウスで操作していたことをコマンド(コンソール)で操作しようとすると一気に難易度が高くなります。⁠操作の)方法は知っていても、コマンドレベルに落とせない、これが苦労する点です」と、Windowsが持つ操作性の良さのウラ返し部分を指摘しました。

最後に、もう1名のAWSユーザである小林氏は自身がHadoopをはじめとしたビッグデータを扱う業務をしていることもあり、データ転送の難しさ、とくに時間が掛かる点を指摘しました。以前はアメリカにデータセンターがあったため、たとえば2Tレベルのサイズを扱うと、約2週間ほどかかったそうです。また、それに付随してElastic MapReduceを使うと使用料金がどんどん増えていってしまうとのこと。

この点についてモデレータの山崎氏が「データのインポート(の重要性と課題)はクラウド全体でいることです。いかに早く、大きなデータを取り込めるかが大事です」とし、最初のテーマをまとめた。

ストレージ周りの良い点、悪い点

次に、それぞれのクラウドでのストレージについて、良い点や悪い点についてディスカッションが進みました。

まず、GAEユーザからは「GAEは、SQL DBではなくGoogle独自のデータストアにデータを保存しますが、単純なKVSではなくカラムにインデックスを貼れ、スケーラビリティが高いのがメリット。これにより、カラムにインデックスを張れる他、性能の劣化がありません。一方、データ全体のスナップショットをそのままでは取れないため、自分でコードを書くかあきらめなければいけないというデメリットがあります」⁠上田氏)「高いアクセス頻度のデータを扱うときの分散方法に関して、特定のデータだけをアップデートするのは得意ではありません。そこでシャーディングをすることが大切になります」⁠小川氏)という声が挙がりました。

AWSに関しては、⁠複数のサーバ間(EC2間)のデータ共有が難しい、S3では複数のサーバから同時にファイルシステムのように扱えるようにはできてはいないが、組込みRDBMSのデータファイルをS3に保存することである程度効率的に使えるという長所もあります」⁠得上氏⁠⁠、⁠クラウドサービスを利用するということで、DBのディスクIOがボトルネックになっているとき、Fusion-ioやSSDを使うといったハードウェアレベルの改善手法が取れないというデメリットが生じる」⁠本間氏)という特徴が紹介されました。さらに「クラウドを利用したときに、ブロックレベルの更新ができるようになればとても便利になるのでは」⁠得上氏)など、これからの技術進化に対する期待のコメントを聞くことができました。

もう1つのクラウド、Windows Azureについては、⁠そもそもとしてクラウドを利用しているとファイル共有ができない欠点がありますね。マウントして読み込みことはどのユーザでもできますが、書き込みは一人のユーザに限定されてしまいます。ですから、Windows Azureでのデータ共有については、書き込み権限があるユーザがマウントして、それを立ち上げて書き込むといった運用面での対応をすることがあります」⁠冨田氏)と、デメリット部分を運用で対応するノウハウが紹介されました。また、⁠Windows Azureは)ブロブストレージで、ブロック単位での管理ができ、また、ブロックサイズを決められます。ただ、その部分はNoSQLを利用して運用管理を行っても良いのではとも思っています」⁠同⁠⁠、⁠GAEのストレージにも癖があり解決策・デザインパターンのようなものがまとまっていると助かります。AWSにはあるので羨ましいですね」⁠上田氏)など、現状のクラウドストレージの課題と、その解決策についても触れられました。具体的な仕組みとして、AWSはクラウドデザインパターンを公開するなど、開発者への情報開示を進めているとのことです。

クラウド運用で困ること

ストレージに関する運用ノウハウに話が展開されてところで、次はクラウドそのものの運用、これまでに困ったことに話が進みました。この点については、とくに利用が進むAWSユーザからさまざまな意見が出ました。

たとえば、⁠大規模ソーシャルゲームなどでAWSを使っていて、クラウド側に問題がある場合、⁠原因究明の対象範囲が)広くなってしまい、問題の切り分けが難しい」⁠本間)といったもの、⁠ネットワークが繋がらなくなったことがある」⁠小林)といった意見です。これらの意見については、モデレーターの山崎氏からは「ダウンするというリスクを取るのもAWSを選ぶ上でのポイントになるのでは」という投げかけがありました。

また、⁠複数のインスタンスを立ち上げた際にヘルスチェックで2、3落ちていることがあった」⁠得上)「逆に、立ち上がっていない場合の逆で、複数インスタンスを立ち上げてから短時間で落とせない(現状1時間単位)といった部分は悩ましい」⁠小林)という実際に利用しているユーザならではのコメントを聞くことができました。これに同意したのはWindows Azureユーザの冨田氏。⁠クラウドを使うと、⁠インスタンスやサーバを)上げることに慣れてしまって、ダウン(下げること)に鈍感になるかも」とのこと。

一方、GAEユーザの上田氏は、⁠そもそもクラウドというのはエンジニアがあれこれしなくても良いものでもあるので、⁠そういった問題を含めた)下のレイヤについてはクラウド側でよろしくやってくれるのが良いのでは」という同氏の見解を述べました。

クラウドのサポートについて

次に、⁠クラウドを利用するときに気になるのが技術サポートです。たとえば、最近ではJAWS(AWS User Group)のようにベンダ主導ではないコミュニティの力も重要になってきました。このあたりは各クラウドでどのような違いがありますか?」と、モデレーターの山崎氏からクラウド周辺に関する状況に関しての意見が求められました。

先陣を切って答えた上田氏は「おそらく今回の3つのクラウドの中で一番サポートが乏しいのがGAEではないかと思います。というのも、Google自体がそれほどサポートしていないのと、日本のユーザにとって対応窓口が英語になってしまうという点があるからです。ただ、コミュニティはしっかりしていて、GAEのGoogle Groupsに投稿するとある程度反応をもらえる印象です。ただ、クラウドそのものの障害についてはコミュニティレベルではどうしようもないですね」という意見を出しました。これに対し、山崎氏は「日本語対応はまったくない?」と返したところ、⁠現時点では日本人に回してからの対応になるため、その担当者の状況による、すなわちベストエフォート(≒手が空いたときに対応してもらえる)ですね。」という、ユーザとしての現状に対する見解を述べました。同じく小川氏も「プレミアムサポートに入ることで24時間以内に返信が来るとはなっていますが、完全ではない印象です」と、サポートに満足していない意見を述べました。⁠あとは#gaejaというハッシュタグを付けてツイートするのが一番対応してもらえるかもしれません」⁠同)など、Twitterをはじめとしたソーシャルメディア活用のススメも紹介されました。

Twitterに関しては、他の2つのユーザも同じく、AWSではれば「#jawsug⁠⁠、Windows Azureであれば「#jazug」というハッシュタグ活用を勧めていました。

いずれにしても、コミュニティサポートについては、ユーザ、他のクラウドユーザから見てもAWSが頭ひとつ抜けている印象で、今後はこういったコミュニティ形成もクラウド普及のポイントになりそうです。

もう1つ、AWSユーザの得上氏からは「Windows Azureの場合、マイクロソフトのバックアップもありコミュニティの活動(船上懇親会など)が楽しそうで羨ましいです」など、技術面以外からの感想も聞くことができました。

写真3 それぞれの立ち位置から、エンジニアならではの意見が上がり、ディスカッションが行われた
写真3 それぞれの立ち位置から、エンジニアならではの意見が上がり、ディスカッションが行われた

それぞれのクラウドのメリット、強み

これまで、クラウドに対する悩みや不満、あるいは課題という観点からのディスカッションが行われてきましたが、そうはいっても不満ばかりではなく、どのユーザも、自分自身が選んだクラウドにメリットや強みがあって利用しているという前提があるわけです。モデレーターの山崎氏から「では、自分たちが使っているクラウドの強みやメリットを改めて紹介するならどこになりますか?」と、ユーザ目線で見た、クラウド選択のポイントが述べられていきました。

「AWSはEC2で環境をバラバラにつくれることに加えて、ミドルウェアの選択に柔軟性がある」⁠本間氏⁠⁠、⁠AWSがいいところは実はEC2ではなくて、それ以外のサービスが豊富な点。正直、EC2がなくても、他のサービスの組み合わせで実現できることがたくさんある」⁠得上氏)のように、AWSのメリットとして、選択の自由度の高さ、サービスの豊富さが挙がりました。また、同じくAWSユーザの小林氏は「EMRを扱えるのがAWSしかないから」という状況起因による選択理由もありました。

一方、この真逆の声としてGAEユーザから見たGAEのメリットを聞くことができました。つまり、GAEは自由度がないことが強みという捉え方です。⁠GAEはインフラ系スキルが弱い自分にとって、下のレイヤを触らなくても良いというのが魅力」⁠小川氏⁠⁠、⁠同じく下のレイヤの知識がまったくなくてもサービスが立ちあげられる」⁠上田氏)というように、PaaSとしての特性こそがGAEのメリットでもあり、強みでもあるという考え方です。

最後のWindows Azureに関して冨田氏は「おそらく、Windows AzureはAWSとGAEの中間的なポジション。良い意味で中途半端なクラウドなので、バランスを取りやすいと感じる」という声です。また、⁠Windows Serverなど高価なものを、低料金体系で利用できるのも、Windows Azureの魅力では」など、オンプレミスなサービスを利用できるクラウドの魅力が語られました。

まとめ

最後に山崎氏から「今後のさらなる普及への期待を込めて、それぞれのクラウドに望むこと、期待したいことをコメントしてください」と、まとめに入りました。

「分単位で使う人がいるかもしれないので、できる限り短い時間での利用体系を作ってほしい」(AWSユーザ 小林氏)

「Windows Azureの場合、長いスパンで一度にアップデートされることが多いのですが、他のクラウドと同じく細かな機能レベルで小出しにアップデートしてもらいたい」(Windows Azureユーザ 冨田氏)

「GAEでも他のAPIと繋げられるので、もっと可用性が高いことをGoogle側にアピールしてもらいたい」(GAEユーザ 小川氏)

「サポート面の改善。お金ではなくサポートの充実を期待したい」(AWSユーザ 本間氏)

「サービス開発のインフラとしては満点。あとは日本、せめてアジアにデータセンターを作ってもらいたい」(GAEユーザ 上田)

「ログの集約機能がほしい。あとは、やっぱりWindows Azureのようにコミュニティへの資金還元も(笑⁠⁠」(AWSユーザ 得上氏)

最後に、モデレーターの山崎氏から「今回は本音トークをということでパネリストの皆さんにお集まりいただきました。もっと悪いところが出るかと思いましたが、全体を通じて感じたのは、不満点や期待したい部分への意見があったものの、裏を返せばユーザ自身がそれぞれのクラウドに対して魅力を感じ、だからこそ使っているということだったのではないでしょうか。今後ぜひベンダのエヴァンジェリストの皆さんにも、良いところ以外に、改善ポイントや選択する上で気をつけるべきことまで紹介してもらいたいですね。そうすることで、クラウドやクラウド周辺の市場が健全に発展していくと思います」と、まとめのメッセージが出ました。

「また、クラウドの利用コストは年々下がっているので、インフラエンジニアの教育という観点からも期待しています」と述べ、約2時間のディスカッションの幕が下りました。

なお、インフラエンジニアの教育という点では、来たる7月1日に第4回チューニンガソンが開催されます。こちらはAWSを利用したパフォーマンチューニングのスキルを争うイベントです。腕に自身のある方、今回の記事を読んでクラウドに興味を持った方、ぜひ参加してみてはいかがでしょうか。

第4弾! いろいろチューニングしてパフォーマンスを競うバトルイベント
「チューニンガソン」7月1日(日) 開催!
URL:http://www.zusaar.com/event/312053

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