グーグルもVMwareもアップルも─マイクロソフトの“disり王”ケビン・ターナーがWPCでライバルたちをメッタ斬り

マイクロソフトが毎年7月初旬、北米の一都市で開催する世界最大級のパートナーイベント「Microsoft Worldwide Pertner Conference(WPC⁠⁠。今年は気候もさわやかなカナダ・トロントに全世界から1万6,000名のパートナーが集結、Windows 8のリリース日やOffice 365の新パートナープログラムが発表されるなど、非常に話題の多いWPCとなりました。

例年、初日のキーノートにスティーブ・バルマーCEOが登場して年間(マイクロソフトの会計年度は7月スタート)の戦略方針や重要な発表を行い、2日目には各部門のプレジデントクラスが登壇して主要な技術の方針について説明が行われます。そして最終日となる3日目にメインスピーカーを務めるのはCOOのケビン・ターナー(Kevin Turner)氏。その年のWPC全体のラップアップを行い、会場に集まった世界中のマイクロソフトパートナーに対し「今年も一緒にやっていこうぜ!」的な呼びかけを力強く行ってシメる、これがWPCの定番です。

WPC名物 ケビン・ターナー氏
WPC名物 ケビン・ターナー氏

日本ではあまり知られていませんが、ターナー氏はマイクロソフトきってのdisりキャラもとい辛辣な表現で有名な人物です。WPCのキーノートでは毎年必ず、マイクロソフトの製品&サービスはなんてたって宇宙一、対抗する競合製品はすべて悪の手先とばかり、バッサバッサと切り倒します。単に罵詈雑言を吐き散らすのではなく、意外と鋭い視点をもっていたり、第三者による調査データを提示するなど、他社をdisるためには腰の入った準備を怠らないところがすばらしい。

というわけで、今年も我々の期待を裏切ることなく、エンジン全開でライバルをぶった斬ってくれたターナーさん。本レポートではそのごく一部を写真とともにお伝えしていきます。

最強にして最悪のライバル、その名はグーグル

マイクロソフトにとって現在もっとも腹ただしい相手、それがグーグルです。ここ数年、WPCでのターナーさんの矛先もグーグルに向かうことが多かったのですが、今回はいつにもまして悪の帝王扱いでした。

ありとあらゆるところでガチでぶつかりまくっている両社ですが、現在、もっともにらみ合いを続けているポイントがOffice 365 vs. Google Appsというところでしょうか。

Google Appsに流れた顧客は「グーグルの放置プレイでまたOfficeに帰ってくる」そうです
Google Appsに流れた顧客は「グーグルの放置プレイでまたOfficeに帰ってくる」そうです
「Google Appsの1アカウント50ドルにだまされるな」と氷山の図を使って、見えないコストを強調。50ドルが718ドルっていったい…
「Google Appsの1アカウント50ドルにだまされるな」と氷山の図を使って、見えないコストを強調。50ドルが718ドルっていったい…

個人的な印象を言わせていただけるのなら、Google Appsは完成度の面ではOffice 365にまだ相当負けている感じがします。やはりオフィススイートに関してはマイクロソフトに一日の長あり。Google Appsでパワポのファイルとか開くと、ひどい表示になること多いですからね。トータルコストやサポートでも、マイクロソフトのほうが有利な部分が多い。

しかし、そんな"勝ってあたりまえ"のフィールドで誇らしげに吠えているだけではdisりキャラとしては役不足。相手が圧倒的に優位な分野で噛みついてこそ、disりキャラは生きてくるのです。そしてもちろん、ターナーさんは期待に応えてくれました。

「世の中は、グーグルのターゲティング広告はどれだけプライバシーを侵害したら済むんだ! という流れになりつつある」
「世の中は、グーグルのターゲティング広告はどれだけプライバシーを侵害したら済むんだ! という流れになりつつある」
「検索の妥当性でいえばGoogleよりBingのほうがすぐれている」え! そうなの?
「検索の妥当性でいえばGoogleよりBingのほうがすぐれている」え! そうなの?

グーグルの超有名なモットー「Don't be evil⁠⁠、しかし最近のグーグルは邪悪の化身そのものではないかというご指摘。ターゲティング広告も検索エンジンも優秀であればあるほどプライバシー侵害のリスクも高まるので、グーグルは当面、かなりの体力を使ってこの問題と向き合わざるを得ないでしょう。検索やオンライン広告の分野ではマイクロソフトはまだまだグーグルと同じ土俵に立つことはできていませんが、プライバシーという外部の力で相手を弱めようとする他力本願的な攻撃パターンも用意しているところがさすがです。

意外な新ターゲット─VMware

Windows 8リリースの報に隠れてしまいましたが、今年はWindows Server 2012がリリースされます。発売時期は9月。"新しい時代のクラウドOS"を標榜するこの新OSのターゲットはなんとVMware。言わずと知れた仮想化環境の超デファクトスタンダードです。

Windows Server 2012とHyper-VはVMwareの仮想化環境よりも「とにかく全部上!」
Windows Server 2012とHyper-VはVMwareの仮想化環境よりも「とにかく全部上!」

たしかに発表内容を見る限り、Windows Server 2012には64CPU/1TBメモリまでハンドルできる仮想マシンなど、プライベートクラウドに必要な仮想化機能をかなり高いレベルで備えています。しかしだからといって圧倒的なシェアを誇るVMwareの牙城を崩すのはそんなに簡単ではありません。安いから、とか、機能が上だから、という理由だけではシェアは奪えないですからね。マイクロソフトももちろんそんなことは了承済み。Windows Server 2012のリリースと同様に、お得なHype-V移行キャンペーンをVMwareユーザ向けに展開することも発表しています。ターナーさんもdisりでしっかり援護射撃。どこまで奏効するか、9月以降に期待しましょう。

SiriさんSiriさん、世界でいちばんイケてるスマホはどれかしら? 答えはなんと…!

今年注目のリリースとしてもうひとつ注目を浴びているのがWindows Phone 8です。タイルの大きさが自由に変えられるなど、数多くの新機能を備える魅力的なプラットフォームですが、いかんせん、ライバルのパワーが強すぎる。

しかしiOS、Androidという超強力なライバルがいる市場だからこそ、マイクロソフトはぜったいに撤退しません。撤退するとしても、先日ようやくオワコンになったZuneのように、たとえ製品自身が死を望んでいても数年は生かし続け、誰もがその存在を本当に忘れたとき、そっと生命維持装置のスイッチを切るのです。そういった意味でいえば、Windows Phoneは最低でもあと10年は残るでしょう。

さて、ターナーさんが今回スマホでdisるのはAndroidかな…と思ったら、意外なことにiPhoneでした。

1機種1キャリアしか市場にない日本と異なり、北米などでは数多くのWindows Phoneが出荷されており、意外な人気を博している
1機種1キャリアしか市場にない日本と異なり、北米などでは数多くのWindows Phoneが出荷されており、意外な人気を博している
そこでiPhoneのSiriに聞いてみよう!「世界中のスマホでいちばんイケてるのはどれ?」
そこでiPhoneのSiriに聞いてみよう!「世界中のスマホでいちばんイケてるのはどれ」
なんとSiriはWindows Phoneをススメてきたよ!
なんとSiriはWindows Phoneをススメてきたよ!

実はこれ、ビデオで表示されたのですが会場では大受けでした。Siriに答えさせるとはやるなあ。さすがマイクロソフトのトップ。誰も思いもつかなかった相手のスキを見つける眼力に心底感服いたしました。なお、さすがにアップルはSiriを修正したようです。そりゃそーだ。

その他のおなじみターゲット─オラクル、IBM、セールスフォースなど

エンタープライズな分野では、ここ数年、ほぼ同じ企業の悪口を並べ立てています。データベースで競うオラクルやIBM、CRMのセールスフォース・ドットコムなどが常連で、今年も例に漏れませんでした。

SQL Server 2012はオラクルやIBMに比べて大幅なコストダウンが図れると強調
SQL Server 2012はオラクルやIBMに比べて大幅なコストダウンが図れると強調
Dynamics CRMはSalesforceに比べてホントにお得なんだから!
Dynamics CRMはSalesforceに比べてホントにお得なんだから!

データベースもCRMも、どうしてもマイクロソフトがトップを取れない分野ですが、製品の良さはかなり浸透しているので、あまりトップを狙わなくてもいいのでは…という気が個人的にはします。まあ、明らかに負けている分野でも基本、撤退はしないのがマイクロソフトの方針なので、来年もこのあたりが叩かれることはほぼ間違いないでしょう。あとはWindows Azureのライバルとして、AWSあたりが叩かれニューフェイスとして浮上する可能性がくるかもしれません。


会場のパートナーたちも思わず苦笑いするような他社への攻撃をこれでもかと繰り出した最後のほう、ターナーさんはこんなスライドを見せてくれました。

歴史は繰り返すかもしれない。実際にいままでそうしたこともあった。しかし……勝機は決して二度と訪れない
歴史は繰り返すかもしれない。実際にいままでそうしたこともあった。しかし……勝機は決して二度と訪れない

10月末に一般提供が開始するWindows 8は「Windows 95以来のエポックメイキングなOS」⁠マイクロソフト史上、もっともエキサイティングなプラットフォーム」とバルマーCEOも今回のWPCでさんざん繰り返してきたとおり、マイクロソフトにとって同社の製品/サービスすべての根幹となる製品です。当然ながらWindows Vistaのような失敗はぜったいに許されません。いまだ世の中にあふれるWindows XPを一掃する役割も担っています。

この千載一遇ビジネスチャンスを決して逃すな! とパートナーに向かって呼びかけたターナーさん。勝機をつかむためにはライバルに遠慮する必要などありません。お客がGoogle AppsかOffice 365で悩んでいたら、ターナーさんのように「グーグルなんてこんなにひどいからやめときましょう」とぐいぐい攻めこむべし、なのです。

そしてシメにはこんなフレーズが。

マイクロソフトはパートナーとともにあることを"We Will Win Together"に込めて
マイクロソフトはパートナーとともにあることをWe Will Win Togetherに込めて

そう、マイクロソフトはパートナーあっての存在、そしてdisるほど強い敵があっての存在なのです。顧客がいて、競合他社がいるからこそ製品やサービスは磨かれていく。⁠競合も顧客も)すべてを尊敬せよ、しかし誰のこともおそれるな」と最後に口にしたセリフに、disってる中にも競合へのリスペクトの念をすこしだけ込めていたことが伝わってきました。

WPCで2013年度のスタートをきったマイクロソフトの新年度。来年のWPCはテキサス州ヒューストンで開催されます。誰かの悪口を言うなら"大きな声ではっきりと"を地で行くCOOことケビン・ターナー。ヒューストンでもますます磨きのかかったdisり節が聞けることを今から楽しみにしております。

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