レポート

Software on Chipに水冷システム! 富士通のエンジニアリング技術を集約した新プロジェクト"Athena"とは

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ポイントは冷却技術

基調講演において豊木氏は,Athenaでは

  • 京コンピュータ
  • ハードウェアの拡張性
  • メモリキャパシティ
  • 冷却システム(LLC: Liquid Loop Cooling)
  • Software on Chip

の5つの技術を主眼に開発を進めていると語りました。

世界一のスパコンとして有名になった京コンピュータではSIMD(Single Instruction Stream, Multiple Data Stream)という演算機構が搭載されていますが,AthenaでもSIMDを含めた京コンピュータの数々の技術を実装しようとしています。

SPARC64 Xを搭載した次世代Athenaサーバ

SPARC64 Xを搭載した次世代Athenaサーバ

Athenaでは,ハードウェアの拡張性を実現するために,ビルディングブロック(Building Block)方式を採用しています。ビルディングブロックはCPUやメモリといったハードウェアの基本性能をモジュール化したもので,Athenaでは1つのビルディングブロックに最大で4つのCPUおよび2TBのメモリを搭載することができます。つまり1つのビルディングブロックで64コアまで拡張できることになります。また,規模やコストに応じてビルディングブロックの数を1から最大16までスケール可能で,ビルディングブロック間の伝送スピードは最大14.5Gbpsという高速性を実現しています。スモールスタートにもスケールアップにも柔軟に対応できる点は,ビジネスソリューションとして重要な特徴といえます。

ビルディングブロックは最大16まで拡張可能。ブロック間の伝送スピードも超高速

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ビッグデータ分析やマイニング処理などを高速化するため,メモリに関しても大容量化が図られており,1CPUあたり最大512GB,1システムあたり32TBまで搭載可能となっています。

Athenaで採用されている冷却技術のLLCは,水冷に空冷を組み合わせたハイブリッドなシステムです。熱が発生しやすいCPUの周りなどは液体で冷却し,その熱を冷媒(液体)でラジエータに移動させ,冷たい風で空気冷却を行うことで全体を均等に冷やすことができるしくみです。LLCのメリットとしては,ヒートシンクの小型化や,CPUとメモリ間の距離の最小化などが挙げられますが,こうした設計の一端に富士通の強固な技術ポリシーを見ることができます。

Athenaの冷却システムは水冷に空冷を組み合わせている。熱の発生しやすいCPUやDIMM周辺は水冷,ラジエータは空冷というハイブリッドなクーリングシステム

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LLCによりヒートシンク部分を最小化しスペースの節約が実現する

LLCによりヒートシンク部分を最小化しスペースの節約が実現する

OOW2012会場の富士通ブースに展示されていたAthenaのプロトタイプ。金色に塗られているのは最新LLCを実現するヒートシンク

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そしてAthena最大の特徴とも言えるSoftware on Chipにより,従来のSPARC64チップや競合他社製品に比べ,非常に高いパフォーマンスを実現しています。たとえばSPECint_rate2006においては,IBM Power 7搭載サーバの約2倍の性能を達成しています。

IBM Power7搭載機の2倍高速というベンチマーク結果

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特筆すべきは暗号化におけるパフォーマンスです。SPARC64 XはCPUの命令レベルで暗号化機能をサポートしており,同じ3GHzのSPARC64 XII+と比較しても,暗号化では162.6倍,復号化でも158.9倍という高いパフォーマンスを実現しています。

暗号化においては160倍という驚くべき性能向上が実現する

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豊木氏によれば,Athenaの製品化は「2013年のそれほど遅くないうちに,富士通とオラクルの両社からリリース」を予定しているとのこと。より速いパフォーマンス達成をめざし,現在も検証が続けられています。搭載OSはもちろんSolaris 10および11です。

AthenaはOracle Databaseの動作を前提にしていますが,その他のエンタープライズ向けデータベースもほとんどのものは動作可能です。ただし,Athenaならではの高速性をを活かすにはやはりOracle Databaseが最適だといえます。また,Oracle Databaseも今後はAthenaでの動作を考慮して開発が行われるとのこと。豊木氏の基調講演にはオラクルのデータベース開発における最高責任者であるアンディ・メンデルソン氏も登場し,Athenaに対する両社の強いパートナーシップを内外に示したかたちとなりました。

Oracle DB開発の最高責任者のアンディ・メンデルソン氏がAthena開発にもかかわっている

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メインフレームから培ってきた富士通のエンジニアリングDNAをすべて詰め込んだAthenaプロジェクト。豊木氏は具体的な数字こそ示しませんでしたが,Atenaには相当の人員とコストをかけているとコメントしています。だからこそAthenaの成功は富士通がグローバルICT企業として新たな一歩を踏み出すきっかけとなる可能性が高いのです。すこし大げさにいえば,日本企業の技術がグローバルでふたたび認められるかどうか,その試金石となるやもしれません。正式にリリースが発表されたとき,Athenaがどんなパフォーマンスを見せてくれるのかに期待がかかります。

SPARC64 XはメインフレームとUNIXサーバの2つの富士通DNAを受け継いでいる

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著者プロフィール

五味明子(ごみあきこ)

IT系の出版社で編集者としてキャリアを積んだ後,2011年からフリーランスライターに。フィールドワークはオープンソースやクラウドコンピューティング,データアナリティクスなどエンタープライズITが中心。海外カンファレンス取材多め。Blog 「G3 Enterprise」やTwitter(@g3akk),Facebookで日々IT情報を発信中。

北海道札幌市出身/東京都立大学経済学部卒。