レポート

ひとりでは得られない,仲間と経験を共有して成長を体感しよう!─「WACATE2012 冬」レポート

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ディナーセッション/夜の分科会

さて,初日の夜のお楽しみといえばこのディナーセッションです。三浦の新鮮な魚に舌鼓を打ちながら,実行委員によるさまざまな出し物を通じて参加者同士の交流を深めます。特に冬のディナーセッションは全国各地から集まるWACATE参加者=全国ソフトウェアテストコミュニティの忘年会という趣きもあり,その年のお互いの健闘を讃えながら楽しい宴の時間が過ぎていきます。

ディナーセッションという名の忘年会?

ディナーセッションという名の忘年会?

ディナーセッションに引き続いては,マホロバマインズ三浦のVIPルームを借りきっての夜の分科会。一応公式にいくつかのテーマが設けられるのですが,参加者はひとつのテーマを語り尽くすもよし,いくつかのテーマを渡り歩くもよし,突発でおこる小規模なその名も⁠野良分科会⁠に首を突っ込むもよし,と技術やキャリアのバックグラウンドを共有する仲間たちと心ゆくまで語り合うことのできる,こちらもWACATEならではの濃密な時間を満喫することができます。セッションが完成度の高い公式レビューとするならば,こちらは徹底的なピアレビューとでも申しましょうか。個人的にとても楽しみにしている時間でもあります。今年もある参加者と「社内外での出力の割合とその方法」についてとても深い議論の時間を持つことができ,次回のBPPセッションの貴重なヒントをいただきました。

「キャリアプラン」はじめの一歩

2日目最初のプログラムはNHN 村上くにお氏によるキャリアプランに関するセッション。予稿集がすべてハングルで書かれており,なおかつセッション冒頭も韓国語ではじまるという,常に参加者の予想の斜め上を行く,氏への期待を裏切らない出だしとなりました。

ETSS,ITSS等既に世にあるITエンジニアのスキル標準を例にとり,それぞれのキャリアマップの中で自分がどの位置にいるのか把握しておくことの重要性や,⁠プロフェッショナル⁠であり続けるということを,飲食の老舗の格言から「⁠⁠同じ味』とはゆるやかに進歩し続ける味」との喩えを用いて解説。これは私も含め多くの参加者の心に響いたようでした。

村上くにお氏によるセッション

村上くにお氏によるセッション

村上氏は初期のWACATEを支えた実行委員のひとりでもあり,現在はLINEでお馴染みのNHN Japanにて品質保証室 室長という要職に就かれておられます。これはある意味WACATEのビジョンである「加速」をみずから体現されている稀有な事例であり,まだその可能性を開花させる手前にある,本当の若手のエンジニアに向けて自分の辿った軌跡をコミュニティに還元してくださるというのは,冒頭で述べた「奇跡のようなポジティブループ」が実現されているのではないかと思います。

「テスト分析」はじめの一歩

2日目のプログラムのうち最も時間を割りあてられたセッションがこちら,今回からWACATE実行委員に参加された上條 飛鳥氏による,テスト分析にフォーカスを当てたセッションです。テスト分析というフェーズは比較的新しい概念で,その方法論もまだまだ整備しきれていない状況のなか,非常にチャレンジングなセッションであったと感じました。

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具体的なテスト分析手法としては比較的取っ掛かりが理解しやすい三色ボールペンによる仕様書の解析を採用し「ついでに買ってきてアプリ@スマホ版」なる本当にありそうなシステムの仕様書を用いて個人,グループそれぞれでどんなテストが考えられるかを検討,発表と質疑応答という流れでした。

所属している会社の規模やドメインがまったく異なる参加者同士のさまざまな観点や重要視するポイントの違いから,活発な議論が繰り広げられました。また,前述のとおりテスト分析というフェーズ自体の捉え方もひとそれぞれであり,仕様書に入る前の段階を指摘する向きもあれば,次のテストを如何に効率的に運用するかという観点からの指摘といった,ワークとして用意された舞台を一段広く捉えた意見も飛び出すなど,参加者自身も主体的にセッションをより良いものにしようという意気込みの感じられる時間となりました。

CFD++~デバッグ工学の夢~

2日間の締めくくりとなるセッションは デバッグ工学研究所 松尾谷 徹氏によるCFD技法誕生の背景と進化の歴史,そしてこれからの⁠デバッグ工学⁠の展望について。品質会計,CFD技法の誕生秘話にはじまり,上流工程のツケをテスト工程で一気に支払うための原因結果グラフの活用,デシジョンテーブルの拡張などなど,⁠ソフトウェアテスト」という言葉がまだ定着していなかった頃からのご経験をご紹介いただきました。

松尾谷 徹氏のセッション

松尾谷 徹氏のセッション

また氏は,エンジニアリングと対比する概念である⁠プリコラージュ⁠⁠,そしてエンジニアとの対比としての⁠ブリコルール⁠というふたつの概念を挙げ,ソフトウェア開発プロセスは本質的にブリコルールの側面を持つ,と語られました。

ブリコラージュ(Bricolage)は,⁠寄せ集めて自分で作る」⁠ものを自分で修繕する」こと。⁠器用仕事」とも訳される。(中略) ブリコラージュする職人などの人物を「ブリコルール」⁠bricoleur)という。

(wikipedia - プリコラージュ)

改めて定義されてみると確かに思い当たるフシが数多あり,氏の主張であるところの改善を繰り返ししていくことの難しさを改めて認識すると共に,⁠器用仕事」に対してテスト技術がどのように向き合っていけば良いのかを考える重要なヒントをいただけたように思えます。

松尾谷氏は清水氏の力強さとはまた異なる,⁠明らかにそうである」を前提とした冷静かつ軽妙な語り口で聞き手に穏やかな衝撃を与える,あまり経験したことのないタイプのご講演でした。機会があればまたぜひお話をお伺いしたいと思います。

クロージング

時間すらも加速しているのではないかと錯覚する濃密な2日間のラストを飾るのがこのクロージングセッションです。ここでは「ポジションペーパー3賞」と呼ばれる参加者への表彰と,2日間を振り返るムービー(なんとオンデマンド制作)を持って大団円となります。

「ポジションペーパー3賞」は経験豊かなクロージングセッションの講師が独断と偏見で選ぶ「Biased Favoriteペーパー賞⁠⁠,WACATE実行委員が⁠もっとも加速している⁠と思われるポジションペーパーを選ぶ「Most Acceleratingペーパー賞⁠⁠,そして参加者自身が投票で選ぶ「Best Positionペーパー賞」の3つから構成されており,今回は3つ目の「Best Positionペーパー賞」をいただきました。

WACATE自体への参加はもう数回にのぼり,ポジションペーパーはわりと奇を衒ったものをずっと投稿し続けていたのですが,今回はふと初心に返って心から伝えたいと思うふたつのこと,これから議論したいひとつのことを書いてみたところ,特に最後のひとつ「軽品質」という概念について,多くの参加者から賛同の言葉を直接いただく事ができたのが,受賞自体もさることながら,最大の収穫となりました。また,私自身もとても光栄だったのですが,ここ1,2年ほど自動化研究会やAndroidテスト部で一緒に頑張ってきた近しい仲間が「Most Acceleratingペーパー賞」を同時に受賞という運びになったことにも,とても感動しました。

ふとしたきっかけでソフトウェアテストという技術に触れ,WACATEを通じて社外にたくさんの仲間を得たことは,人生において第二の,そして永遠に続く学生時代をふたたび得たかのように思えます。幸いまだまだ若い業界で,これを読んでいる未だ一歩を踏み出せていないみなさんが偉大な業績を残せる⁠隙⁠がたくさん残されています。よろしければ,この難問だらけながらも楽しい砂場で一緒に遊んでみませんか?

ぜひ,次回のベストポジションペーパーセッションでお会いしましょう!

著者プロフィール

しんすく

NPO法人ソフトウェアテスト技術振興協会(ASTER)正会員/JaSST Tokyo実行委員/STAR 自動テスト研究会 お世話係/Androidテスト部 副部長 など。組込みブラウザのテスト担当,マネジメントを経て本社研究開発部門の品質保証セクションの再構築及びそのフレームワーク開発を担当。現在,某社品質保証責任者。ソフトウェアを楽しく素早く創るための最重要技術としてソフトウェアテストを学ぶ。

Twitter:@snsk

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