レポート

Making Makers――Maker Conference Tokyo 2013レポート

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Maker×メーカー

続いては「Maker×メーカー」と題した,製造業とMakerとの関係についてのセッションです。

「Makerムーブメントを単なるムーブメントで終わらせないために,Makerたちと中小の製造業者を繋げることで産業のしくみに影響を与えられるようなアイデアを生み出したい」というモデレータの小林茂氏による問題提起に続き,2つの発表が行われました。

海内工業の取り組み

まずは,海内工業の「オープンであること」への取り組みについての,海内美和氏の発表です。海内氏は,⁠100年続く会社へ」⁠語りつがれる技術力を持ちつづける」といったビジョンに関して,現在の業界構造に留まったままではこれを実現することができないという危機感を持っていると言います。

そして,これを打破するための「脱・待ち工場」⁠精密板金の技術を広める」⁠ソリューションの提供」といった積極的な取り組みについてお話されました。具体的には,Webでの情報発信やワークショップの開催による技術のオープン化といったものです。

さらに,ハードウェア・スタートアップが勃興しはじめている現在,少量生産であれば金型よりも手作り板金のほうがコストが抑えられることにも触れ,Makerムーブメントのなかで精密板金加工のプロとして存在感を発揮し連携していくためのスローガンとして「価値あるアイデアは確かな技術で」という言葉をもって発表を締めくくりました。

海内氏の発表では,一般にはなかなか馴染みのない精密板金加工の技術が,ビデオとともにわかりやすく紹介されていました

海内氏の発表では,一般にはなかなか馴染みのない精密板金加工の技術が,ビデオとともにわかりやすく紹介されていました

ケイズデザインラボの取り組み

続いて,ケイズデザインラボの原雄司氏による発表です。最近は3Dプリンタの専門家として見なされていることにやや困惑しているという原氏はまず,ケイズデザインラボが「3Dツールの販売やサポート」および「コンサルティングなどの3Dデジタルサービス」に幅広く取り組みつづけてきた企業であることを,数々の事例とともに紹介していきました。

そして「見える化から触れる化へ」というキーワードから,3Dツールを活用して手軽にプロトタイピングを行うことでどんどんアイデアを発展させていけること,3Dツールはコミュニケーションのために非常に有用であることなどについて力説されました。

原氏の開催したワークショップに参加した方の「モノがあると話が進むよね」という言葉に象徴される発表内容だったのではないでしょうか。

これらの発表を受けた続いたディスカッションでは,自分でものづくりを経験する人が増えていけば,これまで実感を持つことの難しかった職人の技術の質の高さが評価されるようになること,2次元から3次元への,あるいは3次元から2次元への変換はむずかしく,そういうときにこそプロに相談してほしいということ,東京から電車で30分も行けば世界に誇る職人たちと話ができる日本の環境は恵まれたものであることなど,多数の議論が交わされていました。

Makerのための新しい教科書を作る

最後のセッションは「Makerのための新しい教科書を作る」として,学校教育に関わる3人の方が発表されました。

「車輪の再発明」vs「巨人の肩に乗る」

最初の発表は,青山学院大学で非常勤講師を務める阿部和広氏です。阿部氏はまず,小学生向けのワークショップと大学生向けのプログラミング演習という,自身の活動について紹介されました。いずれも「Scratch」という教育用言語を使ってレゴブロックの車を制御するという内容で,小学生でも大学生でも,到達点はほとんど違わないとのこと。

次に,小学生も大学生も,単純なワークショップ/演習を通じてはクランクなどの過去の発明を再発見できないことに触れ,⁠車輪の再発明」をさせるべきか「巨人の肩に乗る」べきかという問題提起をされました。阿部氏はこういった問題意識のなかで,⁠想像する⁠⁠→⁠制作する⁠⁠→⁠遊ぶ⁠⁠→⁠コミュニケーションする⁠⁠→⁠その結果を反映させる」といったサイクルを続けていくという,両方の考えを取り入れたやり方を進めているとのことです。

そして,こうした自身の経験から,⁠Makerのための教科書」とは,本という形をとらないのでは?と結論づけられました。

「Makerのための新しい教科書を作る」セッションの最後には,当日の他のセッションを受けたモデレータの方々からの提言もなされました

「Makerのための新しい教科書を作る」セッションの最後には,当日の他のセッションを受けたモデレータの方々からの提言もなされました

個人での教科書制作を通じて

次は,大学生のころに「電気基礎」の教科書を独力で制作し,文部省の検定を通したすえ,一部の工業高校での採択にまでこぎ付けたという山下明氏の発表です。現在大阪で教師をしているという氏の発表は,Skypeを通じたものでした。

TeXのノウハウがあり出版に興味があったこと,大学と高校の電磁気学の違いを整理したかったことなど,小さな興味からはじめた教科書制作ですが,実際に制作し検定に合格させるまでの作業は予想以上に大変であったと山下氏は話します。

そして,制作してみた良かった点として,公共性の高い書籍を作る使命感を感じられたこと,構想→執筆→印刷→検定→採択→供給→使用というすべての段階を一通り経験でき,日本の教科書制度の完成度の高さを感じられたこと,たくさんの人と関わることができたことなどを挙げました。こうした他に類を見ない経験から,Makerの教科書を作る際にには「現場を知っている人が関わって制作すること」⁠教科書で縛りすぎず,指導側の裁量を広くとっておくこと」が重要であると述べられました。

高校を開く

続いて,工業高校で教鞭をとる小坂貴美男氏が「高校を地域の工房に」という発想を実現させるための自身の取り組みについて発表されました。

生徒のMaker Faireへの出展という昨年度の計画は期末試験と被ってしまったため残念ながら実現できなかったそうですが,今年度は受講生・講師として地域の方々にも参加できるような月2回の土曜講座を開講しており,順調に進んでいるとのことでした。この経験を受けて,外部の団体と協力し合うことができれば,学校を開くことはそれほど難しいことではないと述べられました。

そして小坂氏は,今後の展望として「個人的な取り組みでは限界があるため,外部団体と連携して連続してやっていけば,地域に開かれた高校のすがたが見えてくるのではないか」として発表を締めくくりました。

Makerムーブメントの第2フェーズに進み始めたカンファレンス

第2回となった今回のMaker Conferenceは,単純に「作ることが楽しい」のはもちろん,⁠既存の企業どどのように連携していくのか⁠⁠,⁠Makerの精神を広く根付かせていくためにはどうしたらよいのか」といった,まさにMakerムーブメントの「第2フェーズ」を予感させるカンファレンスだったといえるのではないでしょうか。