レポート

コミュニティのあり方からLinuxの未来まで ─LinuxCon Japan 2014,Linus Torvalds氏キーノート発言集

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“good taste”から生まれたGit

次の話題は技術の好き嫌いについて。LinuxではLinusさんの好き嫌いで採用される技術が決まるのか? という質問に,Linusさんは「そんなことはない」と即答。⁠C++だってファンではない。公で言ってるけど,その辺はわきまえている。好きではない技術でも必要なら使う。意外かもしれないけど,フリーじゃない技術だって使うこともある。現実は受け入れる。実践的であろうとしている」⁠Linus⁠⁠。こと技術に関しては,個人の好みはプロジェクトとは切り離してるんですね。さすがです。

そして「Linuxを開発してきた経験に基づいて,どうやってクオリティの高いソフトを作ることができるか教えてほしい」という質問には,Linusさんがよく口にする「良いテイスト(good taste⁠⁠」の話が出てきます。

「良いソフトウェアの開発には,⁠アーキテクチャ⁠⁠ビュー⁠の2つの側面を見極められるハイレベルのビジョンが必要だ。そのソフトが何をするものなのか? 開発プロジェクトにとって何が重要なのかを把握すること。これができることを僕は『良いテイスト』と呼んでるけど,説明が難しい。これは教えられるものではないんだ。持ってる人は持っている。」

「僕が先頭を切って開発したのはLinuxとGitだけど,LinuxはすでにUNIXというビューがあったから,アーキテクチャを作っていけば良かった。Gitは僕が関与してビューを作った。Gitはすごく良い例だと思う。バージョンコントロールの概念を変えた。開発を任せた人がすごい⁠good taste⁠を持っていたから。僕が何をしたいのかを完全に把握してくれた。Junio濱野(Gitのメンテナー 濱野純さん)のおかげだよ」⁠Linus⁠⁠。

達人のみがわかる境地ですね。すごい話です。

変わりゆく世界の中でLinuxも変わる

この他,最近の開発現場についての質問で,開発プロセスやエンジニアリングについて次々と出てくる,ある意味「流行り言葉」のような概念やツールについて問われると,⁠新しい言葉はいくらでも出てくる。ブームもある。でもみんな⁠スネーク オイル⁠(ガマの油=インチキ)だね」と一刀両断。カーネルというインフラ中のインフラ部分を長年手がけている人の言葉として聞くと,説得力ありますね。

こまけぇこたぁいいんだよ!!

こまけぇこたぁいいんだよ!!

「僕は関心のないことには関わりたくないし,それで良いと思ってる。たとえばJamesはサーバ方面に興味があるし,僕はどちらかというとハード寄り。どっちが良い悪いじゃなくて,大事なのは興味のある人がコミュニティでちゃんと議論することだ。本当に一部の人だけの話ならインクルーシブ(非公開)だって良いと思う。ときどきこじれて僕のところにくることもあるけど,正直どうでも良いじゃんと言ってしまうこともある」⁠Linus⁠⁠。ある程度はゆるいつながりであることも,コミュニティを長持ちさせる秘訣かもしれません。

いよいよセッションも終わりに近づき,ラスト2番目の質問は組込みLinuxについて。Raspberry Piがアタマひとつ抜けている感はありますが,Linusさんは当然ですが傍観者として楽しんでいるようです。⁠ARMが圧倒的だよね。Intelも強引に入ってきてるけど。みんなにチャンスがあると思う。僕がいま子供だったらわくわくしているよ。安い組込みボードがいっぱいあって,自分の部屋でいろいろ試せるんだから。すごい時代になったと思う。」

そこから,ハードウェアのLinuxサポートに話が移ります。⁠NVIDIAはグラフィック以外はこれまでもLinuxサポートがあったけど,最近はGPUでもサポートしだした。驚いてはいないが良いことだと思う。もうどのハードベンダも自社ハードのドライバでLinuxに協力するのが原則になってきてる。ARMなどはLinuxをメインのターゲットにして開発されてるからね。15年前には考えられなかった。すごくハッピーなことだよ。」

ハードウェアベンダも自社製品のパフォーマンスを最大限に引き出すために,使えるソフトウェアはLinux一択と認めざるを得ない状況になっていると言えます。この後,Linux以外のOSをさわるかどうかと聞かれて「役に立たないから触らない。他のやってることは気にしないんだ。技術についても,自分の作った前のバージョンとの比較にしか興味はない。」とLinusさんは断言。実績に基づいた自信が伺われます。

このセッションの前に行われたJames Bottomleyさんのセッションでも触れられていましたが,今話題のコンテナによる仮想化技術にしても,古くからある技術ですが非常に洗練した形で取り込まれ,技術的には最先端を切っていると言っても良いと胸を張っていました。Linuxは今や多くのレイヤでソフトウェア技術の先頭を走るようになったのではないでしょうか?

話題はそのまま最終局面に,Dirkさんから締めとして将来のLinuxの展望について教えてほしいと言われたLinusさん,⁠そういうことは考えないことにしてる」と言いながら,⁠自分たちでどうしようかというより,ハードがどう変わっていくのか,プラットフォームとして重要さを増していくLinuxをどうするか,つまり,周りの変化によって僕たちがどう変わっていくのかに興味があるんだ。」と結びました。人と対話しながら,時代ともコミュニケーションを取って進化を続けるLinux,そしてLinus Torvalds。何度話を聞いても芯の部分にぶれはありません。

著者プロフィール

小坂浩史

gihyo.jp編集部 所属。最近では電子書籍の制作にも関わる。