「AWS is Everywhere―エンタープライズからスタートアップまで」~AWS Summit Tokyo 2014開幕

日本最大級のAWSカンファレンス「AWS Summit Tokyo 2014」が開幕しました。ここでは、初日キーノートの様子をお届けします。

AWSの最新動向がわかる2日間

2014年7月17、グランドプリンスホテル新高輪(東京・品川)にて、日本最大級のAWSカンファレンス「AWS Summit Tokyo 2014」が開幕した。同カンファレンスは、この2日間で、60を超えるセッション、各種展示が用意され、まさにAWS一色となるイベントだ。

ここでは、初日のキーノートの模様についてお届けする。

「AWSに関するエンタープライズユーザが気になっていること」について話す

初日キーノートのスピーカー、そしてMCを務めたのは、おなじみのAmazon.com CTO、Werner Vogels氏。ここ東京での開催にあたって多数の事前申し込みがあり、多くの来場者が集まってくれたことに対する感謝の意を述べ、キーノートがスタートした。

Werner Vogels氏
Werner Vogels氏

Vogels氏はまず「今日はエンタープライズのユーザが気になっていることについて話そうと思います」と切り出し、これまで多数のスタートアップ企業がAWSを使い成長してきている中、エンタープライズ企業がこれからどう接していくべきか、また、エンタープライズ企業が抱える懸念点についてAmazon/AWSがどう考えているのかを同社自身のメッセージに、パートナー企業の事例を織り交ぜた形でキーノートを進めた。

スタートアップ企業の成功しているポイント

エンタープライズの観点での話に先駆けて、まず、すでにAWSを採用し、急激に成長したスタートアップ企業の紹介が行われた。その中でもとくに印象的だったのが、Airbnb

Airbnbは、世界最大規模の空き部屋シェアサイト。とくに旅行者に向けて短期滞在における宿泊宿のマッチングが行えるのが特徴である。同サービスでは、現在1日あたり150,000人のユーザがいるという。⁠旅行関係者にとっては信じられないうらやましい数字」とデータを紹介した上で、裏側に関してさらに細かく説明した。

Airbnbでは、2010年時点でのEC2インスタンスは24だったのが、2014年現在1,300にまで増加したとのこと。しかし、その運用スタッフは5名という状況である。これは、⁠AWSの可用性・保守性の高さの裏返しであると同時に、ホスピタリティ(サービス)業界において、ITは特別なものではなくなったことを示す数字だ」とVogelsは説明した。これまで、ホスピタリティ業界というのはITから最も離れている業界の1つだったが、IT・クラウドを一般的に利用する土壌が整ったことで、業界内における成長が見込まれるようになったということだ。

Airbnbにおける2010~2014のAWSインスタンスの変化を紹介するVogels氏
Airbnbにおける2010~2014のAWSインスタンスの変化を紹介するVogels氏

「他の業界に関してもそれは当てはまる」⁠同氏)として、新しいリソースモデルの原動力としてのクラウドの優勢について力強く述べた。

Amazonは長期のリーダーシップを取っていく企業

さらにVogels氏は、同社CEOのJeff Bezos氏のメッセージを引用して、⁠Amazonは(短期的な利益や目的ではなく)長期のリーダーシップを取っていく企業である」ことを改めて強調。⁠地球上で最もお客様を大事にする企業」になるために、次の3点を意識していると述べた。

  • Listen(耳を傾ける)
  • Invent(発明する)
  • Personalize(パーソナライズ)

そして、顧客を起点としたサービス展開を行い、これからも「Build Fly-wheels」⁠フライホイール=はずみ車のようなサイクルを構築する)とコメントした。

さまざまな分野におけるエンタープライズ企業のAWS活用事例

続いて、これから紹介する4つの企業・組織におけるAWS活用事例が紹介された。冒頭でも紹介したように、エンタープライズ企業が抱えるAWSへの懸念点について、実例で答える内容となった。

Cloud 2.0な設計で変革したNTTドコモ

まず最初に登場したのは、携帯電話キャリアの株式会社NTTドコモ執行役員 栄藤稔氏。同社はすでに数千単位のEC2インスタンスを活用しているが、そこに至る経緯について説明された。

NTTドコモ 栄藤稔氏
NTTドコモ 栄藤稔氏

2010年当時はウォーターフォール開発が主流だった中、⁠今でも大規模データシステムを開発する際のウォーターフォール開発のメリットは非常に大きいと考えている。しかし、クラウドが浸透し、Cloud 2.0な設計を行うことで、大規模データを扱うビジネス開発の中で、技術やコストなどを含めたエコシステムが生まれるようになった。その結果、私たちの規模間でもアジャイル開発がやりやすくなり、現在のNTTドコモでは、旧来型のスタイル以外での開発、チャレンジが行えるようになった」と栄藤氏は述べた。とくに、AWSの採用により「新しいカルチャー、新しい開発手法をもたらしてくれたことが大きい」と、エンタープライズ企業がクラウドを取り入れた成果について、実体験・成果とともに紹介した。

「従来型開発からAWSに思い切って『ダイブ』したことで新たなサイクルが生まれた」と話す栄藤氏
「従来型開発からAWSに思い切って『ダイブ』したことで新たなサイクルが生まれた」と話す栄藤氏

その後の補足として、Vogels氏は「本日からAmazon Kinesis(大規模ストリーミングデータのリアルタイム処理技術)の東京リージョンでの提供を開始した」と補足し、この分野でのAWSがますます利用しやすくなったことをアピールした。

グローバルでのITインフラ整備を目指すH.I.S.

次に登場したのは、国内大手旅行代理店の株式会社エイチ・アイ・エス(H.I.S.⁠⁠。同社執行役員本社情報システム本部本部長の高野清氏が、グローバル展開を目指す旅行代理店が考えるITインフラ、その中でのクラウドについて説明した。

エイチ・アイ・エス 高野清氏
エイチ・アイ・エス 高野清氏

同社はこれまで国内を中心に展開し、最近では海外、とくに東南アジアにおける店舗展開が拡張しているとのこと。背景として、これまでは国内・国外の店舗どちらとも日本人を対象としたサービス提供が中心だったのが、最近は国外での店舗では、現地の利用者が増加していることが挙げられる。

「弊社では⁠Think Global, Act Local⁠の考え方が進んでいる中で、バックオフィスのリソースについてはIT導入が遅れていた。しかし、段階的にAWSを採用し、社内全体としてIT化・クラウド化への意識が高まったことによって、⁠海外店舗での)インフラのクラウド化が行いやすくなった。その結果、それまで国ごとに行っていた業務の一元化が行えるなど、成果が見えてきている。これから、さらにIT部門の完全グローバル化を目指していきたい」と、今後の展望についてのべ、締めくくった。

主要拠点でのAWS利用が段階的に完了し、さらなるグローバル化を目指す
主要拠点でのAWS利用が段階的に完了し、さらなるグローバル化を目指す

バックオフィスのIT・クラウド化というのは、海外展開を目指す企業がとくに頭を悩ます中、H.I.S.は、まず社内連携とは関係ない部分でのIT・クラウド化を実現し、社内にそれによる効果がどうなるかを伝え、浸透させて至ったという経緯が大変興味深い内容だった。

また、Vogels氏は、そういった背景とともに、これからはモバイルアプリケーションとの連携が求められていくとして、最近発表した、

  • Amazon Cognito
  • Amazon Mobile Analytics
  • Amazon Mobile SDK

の3つの新技術、そして、すでに発表されている

  • SNSプッシュ通知

を紹介し、モバイル向けサポートを強化していくとした。

AWSの注力するモバイルサービス
AWSの注力するモバイルサービス

マネックスグループが考える金融業界でのイノベーション

3番目に登場した企業は、マネックスグループ株式会社。代表執行役社長CEOの松本大氏は、⁠自分はCTOでもなければCIOでもなく、いわゆる代表を行っている。その、代表目線から見たAWSについて話す」とプレゼンをスタートした。

マネックスグループCEO 松本大氏
マネックスグループCEO 松本大氏

同社を含めた金融業界では、日々スケールが変化し、とくに瞬間的なスケールアップへの対応や日常的なグローバル対応というのが求められるとのこと。その中で、AWSをシステムに採用したことは、それらのニーズをすべて解決できたという。また、セキュリティの問題という点に関しては、単独技術、ベンダロックインではない点が逆に信頼性を高めていくと説明し、最後に「もともと金融業界というのは他の業界に先駆けてイノベーションが起きやすかった。しかし、ここ10年間は停滞してしまっている。私たちはこれからAWSを活用し、積極的にイノベーションを起こしていきたい」と、さらなる展開を目指すことを誓い、プレゼンを締めくくった。

日本株4000銘柄の情報をミリ秒単位で提供、監査にパスする正確さや高い安全性も提供する必要がある
日本株4000銘柄の情報をミリ秒単位で提供、監査にパスする正確さや高い安全性も提供する必要がある

中間知をサポートするデータ基盤、NIIが取り組むデータセントリックサイエンスの考え方

最後に登場したのは、企業ではなく、NII(国立情報学研究所)の所長で、東京大学教授を務める喜連川優氏。NIIは、日本国内の学術機関・情報をつなげるネットワーク設計・運用を行っている組織である。

国立情報学研究所/東京大学 喜連川優氏
国立情報学研究所/東京大学 喜連川優氏

喜連川教授は「昨今言われているビッグデータというのは、つい最近までサイエンスの世界では遠いものだった。しかし、データが集まり、それがインターネットでつながることが浸透することで、あたりまえのように使われるようになった。とくに、3.11以降の情報ディフュージョンはすごい」と、データに対する研究者、ユーザの意識が変わってきていることを説明した。

そして、⁠これまでは、たとえば海外の特定の場所における研究や実験、測定を行うことが研究者の目的でもあったのが、⁠データ蓄積されつながったことで)そうした実地での研究や測定を行う研究者よりも、彼らがつくったデータを、デスクトップの前で観て、研究する研究者の方が圧倒的に多くなっている」と、研究機関の現状を説明した。

「つまり、そのデータ基盤をしっかりつくり、準備すること、それがこれからますます大切になっていく。データ基盤をつくった人間がノーベル賞に最も近くなる」と、同氏ならではの視点での考察を述べた。

基盤が整備され、論文の中間知が共有されるようになれば「今話題の⁠あのお姉ちゃん⁠の論文がどのデータ使ったのかなんて探す必要はなくなる」とタイムリー?な例をあげる喜連川氏
基盤が整備され、論文の中間知が共有されるようになれば「今話題の“あのお姉ちゃん”の論文がどのデータ使ったのかなんて探す必要はなくなる」とタイムリー?な例をあげる喜連川氏

そうした中で、クラウドを活用し、大規模データをきちんと保存・管理していくというのはとても大切だとして、⁠今後は、学術の圧倒的な高効率化、進展の飛躍的高速化、その先にある新しい研究スタイル(最終知のみならず、中間知を共有、Social Read)を目指したい。共考共創の考え方だ」と、同氏が目指すアカデミッククラウドの世界、その中でのクラウドの有用性でプレゼンを締めくくった。

AWS is Everywhereを体感できる

以上、1時間半という短い間の中で、とくに「エンタープライズ」に焦点を当てた発表が多数行われた。現在、スタートアップでのAWS利用が注目される中、今後、エンタープライズ企業がどのように活用していくか注目していきたい。

本日のキーノートの登壇者一同、右端はアマゾン データ サービス ジャパン社長の長崎忠雄氏
本日のキーノートの登壇者一同、右端はアマゾン データ サービス ジャパン社長の長崎忠雄氏

なお、AWS Summit Tokyo 2014は明日、18日も同会場で開催される。

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