レポート

Qt 5.7の最新情報も発表─「Qt World Summit 2015」レポート

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自動車産業の次なる販売フィールドとは

講演3つ目のキーノートとして自動車産業からOpenCar,inc.のCEO,Jeff Payne氏が登場しました。この講演の大部分はソフトウェアでなく自動車産業の現状と問題点に焦点が置かれていましたが,The Qt Companyが発表した「Qt Automotive Suite」と深く関連している内容でした。

自動車産業の現状としてプラットフォームが標準化されていない問題があるそうです。特にメーカに直接納品する1次サプライヤーは消費者の期待値を上昇させながらそれを実現する必要があるため,より効率的に開発することが極めて重要となると述べていました。そこで,OpenCarではこれまでのHTML5を基盤にした開発をQtメインへ移行しており,それを最優先課題として取り組んでいるそうです。

次世代のLG家電Smart TV

4つ目のキーノートとして,アジェンダには記載されていない,LG WebOSプラットフォームチームの開発者であるTorsten Rahn氏が登場しました。彼はQtが今後どのように利用されるかをLG製品の紹介とともに説明していました。

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LGが注力している商品のひとつに,WebOSという新しい技術を用いたSmart TVがあります。この技術はLinuxをベースとなっており,HTML5,CSSやJavaScriptを使用したWebアプリケーションを開発することで様々なシステムと統合可能なことと,マルチタスク機能によりスワイプやジェスチャーを使ってプロセスの切り替えが特徴となっているそうです。そのUI部分にQt Quick 2を使用することにより,ユーザエクスペリエンスデザインが可能となり,革新的なアイディアを素早くソースコードや製品を変換してくれる可能になった,と述べていました。

会場では実機を使用して,マウス移動やクリックといった動作がシームレスに動くことや,QMLを利用した画面表示,他にもボタンやアイコンなどさまざまな部分でQtのUI開発技術が応用されていることをデモンストレーションしていました。

オーディオ機器の音響制御

5つ目の講演では音響業界からHoloplotのCEO, Andreas Schmid氏とKDABのグローバル販売部長兼マーケティング&ビジネス開発部長 Till Adam氏の二人がスピーチしました。冒頭では Holoplot 3D Audio Wallと呼ばれる1,000個のスピーカーユニットで構成された壁のようなオーディオから音楽を奏でるパフォーマンスをして観客を沸かせました。Qtはこのオーディオの音響制御を担う組込ボードや,設定用のデスクトップやタブレットのアプリケーションなどに使われているそうです。

彼らは,Qtはコードの再利用や新しいオーディオのソースコードとの素早い統合や結合テストができること,それが短期間での市場販売に結び付けられること,さらに今後市場に出てくる全てのハードウェアやOSさえも選択可能であること,と結論づけていました。これはあらゆる分野で極めて大きなメリットだと思います。

Qt Today and Tomorrow

最後にThe Qt CompanyのCTO,Lars Knoll氏が登場すると,Qt 20周年のお祝いを皮切りにしてスピーチが始まりました。

Qtはこれまでアプリケーション開発やUI作成のフレームワーク分野でリードしてきました。多くの会社はQtを利用することで「ユーザーエクスペリエンス」を含むスマートフォンやタッチパネルなどの製品を素早く開発することに成功しているようです。彼はそれらを可能にするQtの特徴について挙げていました。

  • 製品開発のツールキットとして多様な製品へ対応可能
  • FOSS(Free/Open Source Software)コミュニティの堅守
  • 最新の技術やこれからの技術に対しても素早い対応が可能
  • 高品質で信頼性のあるクロスプラットフォームなデスクトップアプリケーション開発が可能
  • ユーザーエクスペリエンスを可能にするスマートフォンやタブレットなどのモバイルアプリケーション開発が可能
  • GUIやエコシステム,SDK全体に対する強力なデバイス開発が可能
  • これらの開発にIoTを取り入れることが可能

今後のQtの動向としてやはり気になるのは,Qt 5.6でどのような機能が追加されているのかだと思います。Qt 5.6はα版が2015年9月8日に既にリリースされており,年内に正式リリースする予定となっています。また,これまでにも検討を行っていたLTS(Long Term Support)版のリリースですが,Qt 5.6 に向けて新しいCI(Continuous Integration)システムを開発したこともあり,Qt 5.6を3年間サポートするLTS版としてリリースすることになりました。さらに,誰もが予想していなかったQt 5.7も紹介され,会場がざわついていました。

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Qt 5.6の新機能

Windows 10 と Visual Studio 2015のサポート対応

Windows 10 の完全サポートに加えて Visual Studio 2015が正式にサポートされます。

OS X 10.11 El Capitanの対応

OS X 10.10 に加えて10.11に対応することが決定しました。

Cross-platform High-DPIのサポート対応

これまでプラットフォーム別に行ってきていた高解像度ディスプレイへの対応がクロスプラットフォーム化されます。

Qt 3DやQt Canvas 3D,Qt WebEngineのアップデート

Qt 3D では,OpenGL,C++やQMLからのバッファーデータ生成,glTFへの対応,Scene3Dでのマルチサンプリングコントロールなどがサポートされ,マウス入力と衝突検出がAPIになりました。ただし,Qt 3D自体はテクノロジープレビュー版のままで,正式リリースは5.7以降へと見送られました。Qt Canvas 3D では,テクスチャ機能やQt Quick Sceneへの直接的なレンダリングがサポートされます。Qt WebEngineでは,PEPPERプラグイン,Linux 上のシステムライブラリとの切り離しやリンク,global Qt proxy設定がサポートされ,shared low-level API の QtWebEngineCoreモジュール,カスタムURLスキームAPIや,接続要求の遮断やブロックするAPI,クッキーをトラッキング/ブロッキングするAPIが追加されます。

Qt Location

Qt Location モジュールに地図機能やナビゲーション機能,位置機能といったAPIが新しく加わります。

新しい技術の試験的導入

以下のモジュールがテクノロジープレビュー版としてQt 5.6に追加されます。

①Qt SerialBus

CAN(Controller Area Network)バスやModバスにアクセスするための汎用シリアルバスモジュールです。

②Qt Speech

TTS(Text-to-Speech)エンジンへのアクセスや使用するためのクロスプラットフォームAPIライブラリです。

③Qt Wayland Compositor

QtでWaylandのコンポジター(ウィンドウマネージャ)を作成するためのAPIです。

④New Qt Quick Controls for Embedded

特に組み込みデバイス用にデザインされたQt Quick Controls 2.0を追加しています。

Qt 5.7に導入予定の機能

C++11への対応を強化

これまではオプションとしてC++11の機能をQtで使用してきましたが,メジャーなコンパイラーでのC++11への対応が進んできたことから,Qt 5.7ではC++11が必須要件となる予定です。これによりQt内のコードの最適化や保守性が上がることが見込まれています。

Qt 3D,Qt SerialBus,Qt Speech,Qt Wayland Compositor,Qt Quick Controls Story

これらのモジュールはQt 5.6ではテクノロジープレビュー版としてリリースされますが,Qt 5.7で正式にサポートされる予定です。

State Machine FW(SCXML)および関連ツール

State Machine FW(SCXML)の関連ツールを追加予定です。

著者プロフィール

吉川武宏(よしかわたけひろ)

株式会社SRAの開発エンジニア。2015年度からQt関連プロジェクトに配属され,C++とQMLを使用したサーバ監視用アプリケーションを開発。現在はQtサポート担当として活動している。最近はQMLを用いたGUIアプリケーションの最適化に興味がある。