レポート

エンジニアから見るAdobe MAX 2015

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エンジニアのためのAdobe Creative Cloud

展示会場で見つけた初代Photoshopが動くMacintosh Classic

展示会場で見つけた初代Photoshopが動くMacintosh Classic

改めまして皆さんはPhotoshopと聞いてどんなイメージを思い浮かべるでしょうか?

僕みたいに古くからにパソコンユーザだとPhotoshopといえば昔は憧れのソフトで,エンジニアであってもその魅力にとりつかれ画像を加工したり合成したりした経験があるのではないでしょうか?

その一方,値段がとてつもなく高くてバージョンアップの度に毎年数万円のお布施をしないといけないのでなかなか個人では手が出ないソフトというイメージも強いと思います。

最近ではOS標準の画像編集機能が充実していたり,GIMPに代表されるようなオープンソースソフトウェアや低額のシェアウェアなどでも十分な機能を備えている画像編集ソフトが登場したりしているので,わざわざPhotoshopを購入するまでもないみたいな印象もあるかなと思います。

Adobe Flashの勢いが弱まりAdobe自体もリストラを発表したり僕もここ数年はAdobeの勢いが弱くなっているなと感じていたので,⁠このままPhotoshopやIllustratorで生き残るのは厳しいのでは?」と勝手に想像していたりもしました。

しかし今回のAdobe MAXではそんなネガティブな印象は微塵も感じることなく,むしろApple,Google,MicrosoftというIT業界の三大企業に肩を並べ,それどころかこれら企業を従えるかのようなポジションを確立しようとしているなと感じました。

Adobe製品だけでなくOSやデバイスプラットフォームまでを繋げてしまうクラウド戦略

Adobe製品だけでなくOSやデバイスプラットフォームまでを繋げてしまうクラウド戦略

その最大の理由はAdobe Creative Cloudを軸にしたAdobe製品のクラウド化戦略とその実現です。

基調講演でも一番初めに発表されたのがCloud Syncという技術でした。これ自身はAdobe版DropboxとかAdobe版Google Driveと言えば想像しやすいでしょうか?

技術自体は他のクラウドドライブと基本的な差はないのですが,Adobe自らがこのサービスを提供する意味はAdobe製品群の連携にあります。

1つの作品を作り出すのには1つのソフトウェアで完結する場合もありますが,Adobe製品の場合,多くは複数アプリを連携して作品を作り上げます。

ローカルPCでPhotoshopとIllustratorの連携をするだけならお互いのアプリで同じファイルを開き直せばいいかもしれません。でもこれが複数デバイスや,モバイルデバイスと連携しようと思うとワークフローが一気に複雑になります。

Creative Sync技術はこの手間を軽減するだけではなく,すべてのプラットフォーム上のAdobe製品を同期させることでスマートフォンやタブレットまでも取り込んだ新しいワークフローやクリエイティビティまでも実現しています。

環境やプラットフォームに最適化された写真がどこでもアクセス可能に

環境やプラットフォームに最適化された写真がどこでもアクセス可能に

1つ典型的な例を挙げてみます。Adobe Lightroomという写真現像アプリでは撮った写真をPC上で取り込むとその写真が自動的にクラウド同期されてiPhone上のLightroom Mobileアプリでアクセスすることができるようになります。

iPhone上ですべての画像処理をすることは難しいですが,むしろその考え方は間違っていてAdobe的には個々のプラットフォームに最適な作業を効率化するという方針です。必要な写真の取捨選択やちょっとした補正くらいであればiPhone上の作業効率が高かったりします。またPCに拘束される必要がないので移動時間など余剰時間を活用し作業効率を上げることも可能です。

技術的にこの同期技術が優れているのは単なる同期機能だけではありません。Lightroomでは,取り扱うファイルは主にRAW画像など今時の高解像度カメラだと1画像で50Mバイトクラスのファイル容量がありますが,これらファイルをすべてクラウド上にコピーしていたらいくら高速な回線を用意しても現実的なスピードで作業することは難しいです。

Lightroomの場合,クラウド上に同期されるのはクライアント側で一度最適化した容量の小さなファイルです。iPhone側ではその最適化されたファイルを元に編集をします。編集した結果は直接ビットマップに適応されるのではなくメタデータとしてクラウド経由で同期されてPC側で同期した時に改めてオリジナル画像に編集処理を適応するので画像が劣化することはありません。

こうしたワークフローや環境に最適化した連携を作り込めるところがCreative Syncの最大の強みです。クラウド活用技術としてもかなり高度な実装を実現している辺りさすがAdobeの技術力という感じです。

1つのアプリに機能を盛り込み巨大化していくという従来のアプリにありがちな悪い傾向を断ち切り,クラウドを取り込んで単機能のアプリを連携しつつサービス全体として大きな機能を提供するというクラウドを最大限に活用したプラットフォームをAdobeという最も大きなソフトウェア会社がいち早く実現したことに今のAdobeの強さを実感しました。

このクラウドを中心としたマルチプラットフォームにおけるアプリケーション開発の考え方は今後の開発方針のトレンドの一つになりそうです。

プレゼンにも動画をもっと活用する時代が

プレゼンにも動画をもっと活用する時代が

もう1つ別の例を紹介させてください。僕も普段はソフトウェアエンジニアとして働いているのですがそんな業務の中でも最近Adobe製品を活用する機会が増えています。

エンジニアがプレゼンをすると言えばPowerPointやKeynoteが一般的だと思います。さらに言えば今時のWebデベロッパならプレゼン資料はWebで作っちゃうなんて人も多いと思います。派手なエフェクトや画面切り替え効果が多用されたプレゼンテーションにはみんな慣れてしまっていて,あまりインパクトが出せないのでシンプルなプレゼンが好まれる傾向かなと思っています。その一方でプレゼンの内容自体はよりわかりやすく説得力のあるクオリティが求められます。

たとえば自分が開発しているソフトウェアのパフォーマンスチューニングの成果をプレゼンするときに,細かくデーターを集計して出来る限りわかりやすいグラフを苦心して作ってプレゼンテーションするなんてことはエンジニアの世界でもよくあるシナリオだと思います。

データによる解析自体は最適化するには非常に有益なデータなので無駄ではありませんが,これを上司やクライアントなどの非エンジニアな人にデータで説明してもなかなか理解が難しいことも多いと思います。速くなったことが理解されてもそれがどの程度体感できるものなのか,ユーザーにとって十分なパフォーマンスを実現しているのかは特に判断が難しいところです。

こんな時はチューニング前後のアプリケーションを動画でキャプチャしてAdobe Premiereで左右に並べた状態で比較すればどんな細かいデータに基づいた資料よりもわかりやすく一発で成果がアピールできます。

またプレビューとしてしか紹介されなかったProject Cometという名の新アプリも今後のデベロッパー・デザイナーワークフローに大きな影響を与える予感

またプレビューとしてしか紹介されなかったProject Cometという名の新アプリも今後のデベロッパー・デザイナーワークフローに大きな影響を与える予感

別の例では,モバイルアプリケーションを開発していて画面に注釈を入れてデザイナーさんと確認したいなんてときもスマホでスクリーンショットを撮ってCreative Cloudアプリで開くとアプリ内でスクリーンショットに手書きの注釈をつけてそのままデザイナーさんと共有,デザイナーさんは直接そのスクリーンショットをPhotoshopで開いて確認するなんてことも簡単です。

もちろんフリーソフトを活用すれば同じことは実現できると思いますが,個々のアプリの連携やワークフローの最適化を考えると,得られる効率に見合う価値は十分にあると思います。

サブスクリプションとクラウド連携という最先端のソフトウェアモデルに,ソフトウェア会社としては最も老舗の一つであるAdobeがいち早く適応してすでに実用的な完成度の高さを実現しているあたりに今のAdobeの強さを感じざるを得ません。

今後エンジニアに求められるスキル

参加者が自由にメッセージを書き込むチョークボード

参加者が自由にメッセージを書き込むチョークボード

できるだけ簡潔にお伝えするつもりがかなりな長文になってしまいましたが,少しでも僕が感じた今のAdobeの勢いやAdobe MAXイベントの雰囲気がお伝えできたら幸いです。

今どきの(とくにクライアントUI)エンジニアにおいてデザイナーさんとの協業,連携は今まで以上に重要になっています。

ユーザのソフトウェアに対する見る目も高くなってきていて,単に機能を実現するだけでなく,いかに作業を効率良く美しく実現できるかという点が評価されます。優れたUIを実現するにはどれだけトライアンドエラーを繰り返せるかが重要なので,Creative Cloudで個々のアプリ機能の強化だけでなく作業のワークフロー最適化に重点を置いてきた新しいAdobeの戦略はこれからの時代に非常にマッチしていると思いました。

7,000人を収容する基調講演会場

7,000人を収容する基調講演会場

また近年のテック系カンファレンスにおいてはストリーミング対応が充実しているので直接イベントに参加するよりも自宅やオフィスからストリーミングで参加したほうが効率良く情報が収集できるなどリアルイベントへの参加の意義が少し低下している雰囲気があります。

Adobe MAXの場合,基調講演自体がある種のショーになっていて,日本のイベント会場では投影できないような大画面のプレゼンテーションやプロジェクションマッピングを活用した効果などリアルでしか体験できない要素がたくさんあって,最近のテック系イベントの中でもリアルで参加する価値の高い素晴らしいイベントの1つだなと思いました。

来年はサンディエゴに開催地を移してより一層リアル参加ならではの内容も期待したいなと思っています。今回この記事を読んで興味を惹かれ参加するなんていう人が出てきたら嬉しいです。きっとエンジニア,デザイナーに関係なくたくさんの刺激と1年分のモチベーションが充電できると思います。

今回のイベントの内容や,僕が気になっているテック・ガジェット系情報についてはbackspace.fmというポッドキャスト番組で週二回この手の内容について語っています。興味がありましたらこちらも聞いていただけると嬉しいです!

著者プロフィール

青木剛一(あおきこういち:drikin)

1975年生まれ。サンフランシスコに在住しソフトウェアエンジニアとして働くかたわら一週間分のテック・ガジェット系ニュースをお届けするポッドキャスト「backspace.fm」を主催。毎週旬なネタを配信中。自身のブログはこちら