Sansan Innovation Project 2019開催――イノベーションのインパクトとその先にある未来を展望した2日間

2019年3月14、15日の2日間、Sansan株式会社主催のビジネスカンファレンス「Sansan Innovation Project 2019(SIP2019⁠⁠」がザ・プリンス パークタワー東京にて開催された。

同イベントは今回で4回目となる、最先端のテクノロジーや画期的なソリューションなど、これからの時代を動かすイノベーションを紹介し、組織の健全かつ適切な進化へ導くことを目的としたカンファレンス。

多様なスピーカーによるキーノートを始めとしたセッションや、多くの企業・組織による実践的な事例を紹介した展示が行われた。ここでは、初日のキーノートおよび2日目のセッションの模様をお届けする。

名刺管理から、ビジネスがはじまる――キーノートから見るSansanのこれからとSansanが生み出すイノベーション

AI名刺管理、同僚コラボレーション、顧客データHub

初日のキーノート、トップバッターとして登場したのはSansan株式会社 代表取締役社長 寺田親弘氏。

「名刺管理から、ビジネスがはじまる⁠⁠。力強いメッセージを述べたSansan株式会社 代表取締役社長 寺田親弘氏
「名刺管理から、ビジネスがはじまる」。力強いメッセージを述べたSansan株式会社 代表取締役社長 寺田親弘氏

寺田氏は、SIP2019の狙いとともに、これからのSansanの未来について語った。⁠出会いからイノベーションを生み出す」⁠名刺を企業の資産に変える」⁠名刺はビジネスを始めるためのもの」という、Sansanリリース時からのコンセプトをふまえつつ、今、この先のビジネスシーンにマッチすべく、Sansanのリニューアルを進めているとのこと。

寺田氏が考えるSansanのリニューアル、進化のポイントは次の3つ。

  • AI名刺管理
  • 同僚コラボレーション
  • 顧客データHub
Sansanのリニューアルのポイント、⁠AI名刺管理」⁠同僚コラボレーション」⁠顧客データHub」
Sansanのリニューアルのポイント、「AI名刺管理」「同僚コラボレーション」「顧客データHub」

⁠AI名刺管理」は、すでに記録された名刺管理の履歴を分析し、その結果から、個々人の得意領域などをデータ化し、組織内の強みを高めていくことを目的とするための機能。

⁠同僚コラボレーション」は、AI名刺管理とは違った観点から、社内における人脈という価値を、一層高めるべく、企業に属する同僚同士の人脈をつなげることにより、シームレスかつスピーディなコミュニケーションを目指す。とくに普段接することがない同僚同士のデータまでもつなげられる点に注目したい。

最後の「顧客データHub」は、Sansan独自のAI技術を活用し、名刺の各項目ごとの名寄および分析を行うことで、顕在化している状況の改善だけではなく、潜在的にビジネスになりうるであろう企業や人のつながりを、その組織に提供することが可能となる。

これら3つのポイントを説明した上で、寺田氏は「社内にあるビジネスデータをSansanに集約し、その先にある可能性をさらに広げること、すなわち、イノベーションにつなげるための第一歩としての名刺管理こそが、Sansanが目指す世界です」と、Sansanリニューアルの目的、そして、同社が目指す未来について語った。

社内外のコミュニケーションの活性化がビジネスを広げる~寸劇でSansanの強みと魅力を紹介

続いて、Sansan株式会社CPO(Chief Product Officer)の大津裕史氏が登壇し、寺田氏が説明したSansanが目指す未来について、ゲストの事例とともに紹介を進めた。

Sansan株式会社CPO(Chief Product Officer⁠⁠ 大津裕史氏
Sansan株式会社CPO(Chief Product Officer) 大津裕史氏

外部からのゲストとして登壇したのは、Sansan上で(グループ企業全体で)1,300人以上の従業員が50万枚の名刺管理を実践している、森ビル株式会社執行役員/株式会社ラフォーレ原宿 代表取締役社長 荒川信雄氏。

荒川氏自身、とくに同僚コラボレーションによる従業員感のコミュニケーションを評価し、日々、多くの社員と積極的にコミュニケーションを取りながら、次の一手を考えているそうだ。

紹介にあたっては、同社の社員が演技を行う寸劇が盛り込まれ、Sansan株式会社としてのカラーが全面に押し出された、ユニークかつ観客を引き込むプレゼンテーションが印象的だった。

荒川氏もキャストとして寸劇に参加。主役の女性との名刺交換風景
荒川氏もキャストとして寸劇に参加。主役の女性との名刺交換風景
IT/ビジネス分野のキーノートとは思えないぐらい、質の高い寸劇で聴講者を劇の世界に惹き込みながらSansanのリニューアルを紹介。ちなみに両名ともSansan所属の社員とのこと
IT/ビジネス分野のキーノートとは思えないぐらい、質の高い寸劇で聴講者を劇の世界に惹き込みながらSansanのリニューアルを紹介。ちなみに両名ともSansan所属の社員とのこと

AI、予測、加速するビジネスに向けて

キーノート後半は、もう少し俯瞰的な観点から、とくに⁠AI⁠にフォーカスしたプレゼンテーションが行われた。

まず、Hike Ventures、General Partnerの安田幹広氏が登壇し、ここ数年におけるAIおよびAIを取り巻くビジネスの変化について紹介した。安田氏はAIが進化している理由として、⁠データ量の急増」⁠アルゴリズムの進化とオープンソース化」⁠AI人材の増加」⁠コンピュータの処理能力の工場と低価格化」の4つのトレンドを取り上げた。

「急激に成長しているAIの分野では、とくにスタートアップ企業の勢いがすごい」と世界の状況を説明したHike Ventures、General Partnerの安田幹広氏
「急激に成長しているAIの分野では、とくにスタートアップ企業の勢いがすごい」と世界の状況を説明したHike Ventures、General Partnerの安田幹広氏

その上で、⁠ビジネスの中でも、とくにスタートアップの世界でAIが主役になっています。とくにスタートアップを育成するエコシステムとAIを取り巻く環境が非常にマッチしているからです」と、世界にあるスタートアップのAI企業たちが、成長するAI市場市場を牽引していることを、投資家の観点から説明し、次のゲストへバトンを渡した。

次に登場したのは、トロント大学ロットマン経営大学院教授で、Creative Destruction Lab創設者でもあるAjay Agrawal氏。Ajay氏は、予測マシンの世紀─⁠─AIが駆動する新たな経済の原著者としても有名である。

Ajay氏は「自動化が進む私たちの未来:インテリジェントマシンの時代に適応し、勝ち残る術を学ぶ」と題した講演を行った。

まず、今のAIバブルの状況を少し引いた立場で説明しつつも、⁠どんなジャンルでも新しい波が来たときにすぐに動き出すかどうかで、その後の成功の大きさが変わる」と、ビジネスで成功するために今のタイミングを逃さないための意識を持つべきだとAjay氏は主張した。

その具体的な方法として「AIの活用とは、予測問題ではなかった問題を、予測問題を置き換えることから始まる」と、AIの本質を説明しながら、タスクの解剖と予測の相関関係などについて、大学教授の立場としてまさに大学の講義さながらの内容で話を進めた。

「AIの価値を決めるのは、活用者自身のスタートダッシュ(最初の動き出し)である」と、今、この状況での適切なAI活用の必要性を強く訴えたAjay Agrawal氏
「AIの価値を決めるのは活用者自身のスタートダッシュ(最初の動き出し)である」と、今、この状況での適切なAI活用の必要性を強く訴えたAjay Agrawal氏

最後に「多くのデータ、良質な予測、たくさんのユーザ、この関係によるサイクルが循環し、流れが続くことで、その結果の価値が高まり、市場が成長する。AIはそこに欠かせないもの」とコメントし、同氏の講演を締めくくった。

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以上、初日のキーノートの模様をお届けした。前半では、Sansan代表の寺田氏をはじめとした、Sansan自身の取り組みから生まれてくるイノベーションについて、また、後半ではAIの可能性をグローバルの観点で知ることができた。

前後半ともに共通していたのが、技術の進化とそれにより起こりうる人間社会への影響について取り上げていた点。単に技術の進化を追求するのではなく、その影響の大きさ、インパクトを最大化することがイノベーションになりうることを、さまざまな視点で理解できるキーノートだった。

これからの技術の進化~AWS岡嵜禎氏&Sansan藤倉成太氏トークセッションから

続いて、2日目から「これからの技術の進化」と題した、アマゾンウェブサービスジャパン株式会社技術統括本部本部長技術統括責任者 岡嵜禎氏と、Sansan株式会社執行役員CTO藤倉成太氏によるトークセッションの模様をお届けする。

「これからの技術の進化」をテーマに、技術がイノベーションに与える影響、社会実装としての技術の進化についてトークを行ったAWS岡嵜氏(左)とSansan藤倉氏
「これからの技術の進化」をテーマに、技術がイノベーションに与える影響、社会実装としての技術の進化についてトークを行ったAWS岡嵜氏(左)とSansan藤倉氏

このセッションでは、技術の中でも、とくにクラウドにフォーカスを当て、クラウド黎明期(過去⁠⁠、クラウド普及期(現在⁠⁠、クラウドの先(未来)に時系列を分けながら、クラウドベンダとクラウドを利用するユーザ、それぞれの立場での対話形式で進行した。

契機となった大手金融機関でのクラウドシフト

まず、AWS(Amazon Web Services)の歴史とともにクラウド黎明期の振り返りで話がスタートした。

岡嵜氏は「この8年、AWSはおかげさまで成長し、進化し続けながらたくさんのユーザに使っていただけるインフラとなりました。黎明期は、コンシューマ寄りのゲームやWebサービス、そしてエンタープライズ領域、最近ではIoTやマシンラーニングなど、これからのビジネス活用領域におけるインフラとしての役割が強くなっています」と、2011~2019年までを振り返った。

藤倉氏は、クラウドのユーザ目線で「とくに黎明期のAWSと言えば、EC2とS3でしたね。いわゆる仮想サーバ+DB=クラウドという印象でした」と当時を振り返った。

さらに「もともと私たちはオンプレミスでサーバの管理・運用をしていました。その理由の1つは、⁠私たちのサービスの)ユーザにとってクラウドへの信頼感が低かったことがあったように感じます」と、当時はまだクラウドそのものへの信頼感、とくにセキュリティ観点での不安が強かったと言います。

岡崎氏もこの点に触れつつ、⁠三菱UFJフィナンシャル・グループが大手金融機関で初めて社内システムをクラウド並行したことがターニングポイントとなった」と、クラウドへの不安が、クラウドへの信頼へ変化したタイミングについて紹介した。

その後、AWSはさまざまな機能が実装されるとともに、セキュリティの確保にも大幅な開発リソースが割かれ、今では、多くのユーザに安心してご利用いただいている、と岡嵜氏は補足した。

藤倉氏もまた、⁠おっしゃるとおりオンプレという(自分たちで運用保守できるという)安心感と比較していたこともありましたが、いざ、クラウドへシフトしてみて感じたのは、サーバの運用保守をすべてAWS側に預けることで、私たちはサービスの改善・開発に集中できるようになりました」と、クラウドシフトがもたらした価値、クラウド活用のメリットを実体験を交えながら述べた。

re:Invent――世界最大級のAWSテクニカルカンファレンス

次に、AWSの世界最大級のカンファレンスに話が移った。藤倉氏は2018年、初めてre:Inventに参加したそうで、⁠とにかく、いろいろと固定概念が壊された」とコメントしました。

海外イベントの多くは、街全体を使って盛り上げることが多く、とくに西海岸では、IT系企業が多いこともあり、その傾向が強い。re:Inventの場合、空港の入国審査の段階からre:Invent用窓口が用意されているなど(※2018年からとのこと⁠⁠、とにかく、そのスケールの大きさに藤倉氏は驚いたという。

スケールの大きさだけではなく、⁠その場で毎回発表される新しいトピック、技術、そして、そこに集まる参加者同士のコミュニケーションがまた、イベントの価値を高めていくと信じています」と、岡嵜氏は、イベントを主催する立場からのコメントも述べた。また「正直、すべての新しいトピックを追いきれなくなっています(笑⁠⁠」と、悩みも吐露していたのが、その大きさを物語る。

藤倉氏は参加の感想として、⁠re:Inventの魅力は、ただ技術を追っていくだけではなく、その技術、たとえば、新しいソフトウェアのソースコードがビジネスに対してどのような影響を与えているのか、実際に目で見て、耳で聞いて、肌で感じられることにあると、初めて参加して強く思いました。そして、改めて、エンジニアとして、自分たちが関わる技術がビジネスに対してどのような影響を与えるのか、技術によるビジネスの進化を意識しなければいけないとも感じました」とコメントしている。

社会実装があってこその技術進化

次のイノベーションはどこの分野で起こるのだろうか?
次のイノベーションはどこの分野で起こるのだろうか?

最後のまとめとして、クラウドをはじめとした技術のこれからの展望について述べられた。

藤倉氏は、⁠クラウドの登場まで、技術領域の主役にソフトウェアがありました。しかし、今はビット、ソフトウェアだけの世界ではなく、リアル、ハードウェアと近づけていく必要性が高まっています。それは、クラウドの活用シーンがネット上以外の場所に増えているからです。

これからのエンジニアは、ネット上のデータや技術だけを追っていくのではなく、それらデータや技術が何を生み出すのか、社会に対してどう影響するのかというマインドが求められていくでしょう」と、技術のトレンドだけではなく、技術を扱うエンジニアに求められる「社会実装のための技術の追求」というマインドセット・スキルセットについて見解を述べた。

岡嵜氏もこの点について「元々、クラウドは、Webビジネス寄りの企業・ユーザが牽引して広がってきました。その大きな理由は、事業のコア領域としてクラウドが欠かせなかったからです。

しかし、クラウドが支える領域が広がり、また、ユーザの幅が広がることで、さまざまなビジネスに関わっていきます。本質的には、これからすべての事業にクラウドが関わっていく(クラウドが基盤になる)と、私は予想しています」と、クラウドベンダの立場から、クラウドが扱う範囲が広がる展望についてコメントした。

また「今回のSansan Innovation Project 2019に参加し、いくつかのセッションを聞いたり、展示を見て、本当に事業者の皆さんの、技術への感度が高くなっていると感じました。その印象もまた、先ほどの私が思う未来展望の理由の1つです」⁠岡嵜氏)と、ビジネスとテクノロジーの関係がますます密になっていく未来を展望し、トークセッションが締めくくられた。

企業間のつながりを可視化する「Dawn of Innovation」

今回のイベントは、セッション以外にも展示やミニセッションが行われていた。その中から、Sansan株式会社が開発したインスタレーション「Dawn of Innovation」⁠開発:Sansan株式会社、制作協力:株式会社Qosmo、Habitech, Inc.)を紹介する。

企業間のつながりを可視化したデータビジュアライゼーション
「Dawn of Innovation」⁠画像提供:Sansan株式会社)
企業間のつながりを可視化したデータビジュアライゼーション「Dawn of Innovation」

⁠Dawn of Innovation」は、企業間のつながりを可視化したデータビジュアライゼーション。同社が取り組む、名刺を軸とした企業間および企業内外の社員同士のつながり、さまざまなデータの分析を行い、それらのコミュニケーションを可視化したもの。

企業間のつながりを可視化し、イノベーションの卵を見つける

開発を行ったのは、Sansanデータ統括部門DSOC(Data Strategy & Operation Center)で、今回のイベントのテーマでもある「イノベーション」について、企業間の潜在的なつながりとイノベーションの相関を導き出すべく、データビジュアライゼーションという形で可視化するに至った。

具体的には「タイムラインモード」⁠インタラクティブモード」の2つのモードが用意されている。⁠タイムラインモード」では、データ分析により特定した「イノベーションにつながるビジネスの出会い」をビジュアルとサウンドで表現する。⁠インタラクティブモード」は、コントローラを用いることで可視化したビジュアライゼーション空間内のズームイン/ズームアウトが行え、ビジネスネットワークや業界などの属性ごとの名刺交換の動きを視覚的に捉えることができる。

2004年以降、日本国内にソーシャルネットワークが登場し浸透した結果、人と人のつながりを可視化する、いわゆるソーシャルグラフに着目したサービスやプロダクトが登場してきた。今回の「Dawn of Innovation」は、企業版ソーシャルグラフとも言えるもので、企業間のつながりが持つ意味・価値を可視化することに加えて、⁠イノベーション」という事象に対して、それらのつながりがどのような影響や相関関係を持っているかを分析する取り組みだ。今回はトライアルの位置付けで展示されていたが、今後、さらにさまざまなデータの利用を行っていくことで、データ分析の観点からイノベーションを生み出すヒントが見つかるかもしれない。

※⁠⁠Dawn of Innovation」の制作・分析にあたっては、同社のサービスEight内のデータのうち、個人を匿名化し、Eightの利用規約で許諾されている範囲でデータを使用している。
Sansan株式会社ブランドコミュニケーション部ブランドクリエイター山脇直人氏(左)と、今回の「Dawn of Innovation」に関わった同社DSOC R&D Group 担当研究員 西田貴紀氏(右)
Sansan株式会社ブランドコミュニケーション部ブランドクリエイター山脇直人氏(左)と、今回の「Dawn of Innovation」に関わった同社DSOC

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以上、Sansan Innovation Project 2019の模様から、キーノートやセッションをピックアップしてお届けした。

2日間を通じて、ビジネスの世界においても、⁠市場」「経済」の観点だけではなく、⁠技術」をきちんと把握し、理解することは欠かせない時代になったことを裏付けする発表や展示が数多く観られた。たとえば、Sansanが扱う「名刺」という日本のビジネスシーンには欠かせないツール1つとっても、ただ交換するだけではなく、交換したあとに名刺の情報を蓄積し、蓄積した情報、各種データと最新の技術を組み合わせることで、より高い価値を生み出せることが初日のキーノートから理解できた。

名刺の例に限らず、個々人の情報、身の回りにあるさまざまなデバイスやセンサを通じ、10年前とは比べ物にならないほどのデータが集計されている今だからこそ、そのデータをきちんと集計、分析し、それぞれのビジネス領域にどのように役立てていくべきかが大切と言えるだろう。次の10年に向けたイノベーションを生み出すために、今の技術を理解すること、技術により入手できる情報を集計・分析していくこと、何よりそれら技術やデータを社会実装につなげていくことの重要性が理解できた2日間となった。

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