書籍『ピタゴラスの定理でわかる相対性理論』の補講

第7回 不思議な波動,移動縞

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一方,位相は,発信源へ逆伝播します。ということは,連続的に移動縞が発振されると,図1,2のように陽極から,陰極側に置いた発信源に向かって進行するように見えるということです。

空中の音波も,光と同じように,位相と群は同じ速度で移動します。光や音波などの波動と,移動縞は対照的な性質の波動だといえます。

(10)から(14)までの誘導を,指導教官の八田吉典教授からきいた時の印象は強烈でした。波動の不思議に感動したのです。教授から与えられた卒業研究の課題は,移動縞現象の解明でした。

移動縞がなぜこのような性質の波動になるのか? これはいまだに明快には解明されていないのではないかと思います。

プラズマというのは,気体分子が電磁界や熱のエネルギーによって,電離していている状態です。電離とは,気体分子がもっている電子の一部あるいは,全部が原子核の束縛を離れて自由に動きまわっている状態です。電子はマイナスの電荷をもち,分子はプラスの電荷をおびていますが,この状態がイオンです。実はイオンと電子は,ガラス管などの側壁で再結合します。

電子とイオンが混じった状態ですから,電磁界現象と気体の統計的現象と,さらに側壁での再結合があや織りなして複雑な波動が営まれているのが移動縞だろう,というのが教授からいただいたヒントでした。当時の東ドイツの研究所などで発表された論文では,式(14)に近い観測結果が得られていました。

この波動の方程式を導く計算に熱中しましたが,なかなか式(1)のような単純な理論式は,得られませんでした。理論の才能には恵まれていなかったのではないかと思います。修士課程に進んでからは,移動縞を観測する実験装置をつくることにしました。

ガラス管の太さと波長の関係

この波動現象が,ガラス壁での再結合に関係するものだとすると,ガラス管の太さにも関係するはずです。そこで,ごぼうのような形のガラス管を数個,研究室のガラス工の千葉さんという方に作ってもらって,陰極と陽極を取り付けて真空にしてからアルゴンを詰めて放電させて,波長を調べました。

すると,管径が大きい部分ほど,波長も長くなっていました。その実験結果のポイントを発表したところ,早速アメリカの海軍研究所やチェコスロバキアの研究所などから反響がありました。

移動縞は,肉眼ではただボーと光っているグローです。道具を使って初めて観測できる波動です。この実験をしたのは今から思うとかなり昔になるのですが,そこで使った装置は,今でも大変に重要な科学的意味をもっているのが不思議です。

まずガラスファイバーです。ガラスファイバーは,光を自由な経路で伝播する装置です。電波を伝達するための同軸ケーブルや平行フィーダ線と似ています。今ではインターネットなどの情報通信に欠かせない装置ですが,実用化され始めたときに早速これを使って,プラズマのグロー(glow)を光電子増倍管に引っ張ってきたのです。

光電子増倍管は,微弱な光の強弱を増幅する装置です。最高級品は日本製で,宇宙から飛来してくる素粒子の大掛かりな観測装置に多数使われています。もちろん前回写真で紹介したようなオシロスコープも自分の実験には使いました。

Internetで論文が見つかる

移動縞のことを英語でmoving striationsといいます。Googleでこの専門用語を検索すると,たくさんの研究論文が出てきます。

ためしに,自分の名前を加えてmoving striations kenjoとして絞込んでみたところ,もう45年も昔になってしまった学生時代に日本物理学会の欧文誌に寄稿した実験報告と,翌年就職してモータ研究に転向したときに書いた論文の抄録が出てきたのには感激しました。

参考文献
見城尚志:『図解・わかる電気と電子』講談社ブルーバックス