理系なおねえさんはアリですか?―内田麻理香が聞いた理系な女性の理系な人生―

第2回 早くもいきなり「理系じゃない」?! 科学と文化のプロデューサー 加藤牧菜さん

この記事を読むのに必要な時間:およそ 6 分

理科と音楽,2足のわらじから得たモノ

好奇心旺盛で多方面にアンテナを張る加藤さん。筑波大学入学後は,なぜか音楽大学に入り浸っていたとか。ここに,現在のお仕事につながるヒントが隠されています。

─⁠─そして大学に入るわけですよね。

加藤「入って知ったんですが…… つくばは遊ぶところではなく勉強するところだ,と思いました。宿舎にいたんですが,週末は東京の実家に帰っていましたね⁠

─⁠─文化的な加藤さんには厳しかった,(笑⁠⁠。毎週,毎週ご実家に?

加藤「はい,そんな感じでした。 大学1年の6月頃かな。実家で新聞を読んでいたら,大学で行われる夏休みの公開講座の記事が載っていたんです。そこで,東京芸術大学の公開講座に参加して,友だちができて,それから彼らの大学にこっそりもぐりこむ生活が始まりました⁠

─⁠─なるほどー。芸術に触れるきっかけをつかまれたわけですね。ところで,その公開講座の内容は?

加藤「指揮法と,リズムの講座でした。そこで同世代の学生さんたちと知り合って,遊びに行くようになりました。ひどいときは月~水曜まで筑波で,木曜の午後からオペラ関連の授業にひそかに参加したり。レッスンの手伝いもしたし,学園祭の裏方にも混ぜてもらいました⁠

─⁠─なんだか芸大に本籍を置く学生みたい!

加藤「⁠⁠えせ学生がいる』ってよく言われていました(笑⁠⁠。でも,そこで学んだことが大きかったですね。私は彼らからオペラのことを色々と教わって。逆に私は彼らに生物学の話をしたりしていました。例えば,歌手はノドを大事にするから風邪に気をつけるという話から,ウィルスに抗生物質が効かないのはなぜ? という説明をしたり。音楽学部の学食で染色体の絵なんか描いていました。あと,電気泳動の話をしたり⁠

─⁠─お互いに,専門のことを教えあっていたんですね。

加藤「はい,異文化交流してました。自分の学部では当たり前のことが,そこでは知られていない。タンパク質や細胞って普通の人は知らないんだ,ということを肌で感じましたね⁠

─⁠─⁠知らないということを知る」って大事だと思うのですが,その機会ってあまりないですよね。

加藤「そうなんですよね。異文化コミュニケーションできたことと,人脈が広がったことは大きかったです⁠

学生時代の実験室。音大との⁠2足のわらじ⁠生活を続けながらも,⁠細胞生物学の実験や人体解剖の実習も面白かったし、生物学類の仲間にも恵まれました 」とおっしゃる加藤さん。 音楽←→生物,東京←→筑波 の生活を両立できたとは,まさにお見事。

学生時代の実験室

理系進学のメリット

そんな生活を続けながらも「生物学は生物学で楽しかったから単位は落としていなかった」という加藤さんは,大学院に進学します。理系に進学して得られたメリットとは……。

─⁠─修士と博士がくっついた5年コースに進学されたんですよね。5年というと,ある程度の覚悟が必要かと思うのですが,迷いはありませんでしたか。

加藤「実は,大学4年のときにはオペラのプロデューサーになりたくて,オペラの先生のところに丁稚奉公していたんです。秘書のような形でお手伝いをして⁠

加藤「でも,ある日その先生に,教授から大学院進学を勧められていることを話したら『西洋ではドクターの称号持っていると扱いが違うよ。ホテルでダブルブッキングになったときに,いいほうの部屋に通されたりするんだぜ。入試がそれほど大変じゃなくて,音楽をやる暇があるようなら,進学してみたら?』って言われて。⁠そっかー!』と思って受験を決めちゃいました(笑⁠⁠。まあ,自分でも長く学生でいたかったし。なので本当に参考にならなくて悪いんですけど…。⁠

─⁠─簡単におっしゃっていますけど博士号をとるって簡単じゃないですよ。長かった大学生活で学んだことで,一番役に立っていることって何だと思われますか。

加藤「……全部の科目がおもしろかったので,無駄なことが1個もないかも。そりゃ中にはめんどくさいのもありましたけど(笑⁠

─⁠─それは物事をプラスに見られるからでは?

加藤「いやー,だって必ず何かには使いますもん。 あと,新しい情報が怖くなくなったこと。専門家には聞けば何かの情報はもらえるから。例えば私はITとか工学のことはパッパラパーです。でも適切な条件で勉強すれば,たとえ専門家にはなれなくても,ある程度は理解できると思うんです。理科系の情報は怖くない,と⁠

─⁠─聞けば分かるという自信ですよね。他にも思いつかれることはありますか。

加藤「情報のありかが分かったことですね。大学に行けば専門の先生がいて,みんな聞けば親切に教えてくれるってことを知ったことかな。あとは図書館の使い方や学術論文の探し方を知っている⁠

─⁠─情報へのアクセスの仕方を知っているって大事ですよね。

加藤「これができると未知なことにも明らかにチャレンジしやすいですし。 学生時代に進学で文系と理系を迷ったときに,理系をとった理由は,文系の学問は自分でできるけど,理系の学問は,行って実験室を見たり実験器具を触ったり専門家に話を聞かないと難しいと思ったから。 でも実際に行ってみると,その専門家との接し方とか,専門情報の取り出し方がすごく役に立ったかな⁠

著者プロフィール

内田麻理香(うちだまりか)

サイエンスコミュニケーター。東京大学工学部広報室特任研究員/東京大学大学院情報学環・学際情報学府博士課程1年。身近な科学を伝えるために各種媒体で活動中。

URLhttp://www.kasoken.com/