理系なおねえさんはアリですか?―内田麻理香が聞いた理系な女性の理系な人生―

第2回 早くもいきなり「理系じゃない」?! 科学と文化のプロデューサー 加藤牧菜さん

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主婦のおばさまたちにバイオを説く日々

加藤さんは「生命倫理」という分野が大学院時代のご専門。加藤さんいわく「文系と理系の境界の学問」とのことですが,どのような研究を行っていたのでしょうか。

加藤「実は私,大学4年生の時点で理系をドロップアウトしているんですよ⁠

─⁠─えっ? それはどういうことでしょう?

加藤「4年生で研究室を選ぶときに生命倫理を選択したので。筑波大学ではこの分野の研究室が一応理系の中にあって,私の博士号も理学なんですが,生命倫理ってそもそも文系と理系の境界の学問じゃないですか⁠

─⁠─はい,まさに。その生命倫理を選択された経緯は?

加藤「私は『遺伝子組み換え反対!』とか『クローンは怖い!』とか、生命科学対する危機感からこの分野に入ったわけではなく,むしろ『なんでこの技術はこんなに受け入れられないんだろう?』という疑問を持って、研究を始めました。だから哲学とか法律とか,文系の学問分野で生命倫理をやっている先生方とは,視点が違うと思います⁠

─⁠─生命倫理のご研究を通して,何を得られましたか。

加藤「生命倫理をやってる先生方って,よく『一般人も交えて広く生命倫理の議論を!』って言うんですよね。だけど,一般の人ってそのテーマに興味も関心もなければ知識もないのが普通で⁠

─⁠─それはもう,おっしゃるとおりで。

加藤「遺伝子って何? っていうところからなのに,いきなり遺伝子組み換えの是非を議論しても仕方がないんじゃないかなと。私が生命倫理を研究した結果は,生命倫理を議論する前にやることがあるのでは,ということだったんです⁠

─⁠─その「大前提」に気づく研究者は少ないような。

加藤「そこで,知り合いのおばさまたちを集めて主婦向けにバイオ講座を始めたんです。一般の人に遺伝子って何? という話をしてみたら,一般の人がどれだけ分からないのかも分かるし,何が分からないのかも分かる。大学院2~3年の頃だから7~8年前ですね⁠

─⁠─1人で,しかも学生時代に行うとは,行動力が半端じゃないですね。

加藤「それを自宅で始めたんです,お菓子持ち寄って。 そうすると,子供3人がっちり育てて独立させました! っていうたくましいお母さんが,⁠胎児の性別がいつ決まるのか』を知らなかったりするんですよ。⁠妊娠3ヵ月頃かしら?』とか⁠

─⁠─えっ? 受精のときじゃなくて?

加藤「超音波で男女が分かる時期があるじゃないですか,そのときに決まると思っている人が結構多くて。ショックなんだけど,これが普通なんだと思いました⁠

─⁠─なるほど……。普通の感覚が分からないとだめですよね。

加藤「そうなんです!『キュウリを食べると男の子が生まれると言われますが,染色体にどんなことが起きるのですか』とか質問されました。どうやって真摯にお答えしたら良いか、悩みました。⁠

加藤「あと,大学生がゼミで遺伝子検査を扱いたいから教えてくれってやって来たので,一生懸命しゃべったんですが,全部説明した後に『ところでタンパク質って肉とか魚とかですよね?』って聞かれて,最初からやり直さないといけないようなことが⁠

─⁠─これまでした話はなんだったのだろう,と。

加藤「一般の人にとっては『タンパク質=魚・肉・卵・豆製品』だということが,そのときに分かりました。遺伝子の話をするには,最初に物質としてのタンパク質の話から始めないといけないということを,そのとき肌で感じましたね⁠

加藤「後は飲み屋で開かれた会合でおじさまたちに講義をしたりとか。中年以上の男性がいるときは「男女の性別は精子で決まる」と言うと,すっごく盛り上がるんです。俺たちだって役立ってるんだーって⁠

─⁠─でもこれって,実際に人と接しているからこそ気付くことですね。

加藤「本当にそう思います⁠

博士論文。生命倫理は,理系と文系をつなぐ境界の学問。⁠文系の「ゼミ」をご想像下さい。白衣ではないです(笑⁠⁠。紙の資料を前に,みんなで議論をしている感じですね」とのこと。教授がニュージーランド人だったこともあり,かなり国際的な研究室だったそう。

博士論文

このような草の根的な活動を積極的にされていた加藤さん。そして,新たなきっかけとなる「出会い」が訪れます。

加藤「そのような会を開いていた頃です。ある学会の手伝い中に,加藤さん(加藤和人准教授・京都大学)の講演を聞いてその話の面白さに感動して,懇親会のときに名刺を交換したんです⁠

─⁠─生命科学と社会の関わりの研究ならこの人! って先生ですよね。

加藤「卒業の年まで全然進路を考えていなかったので,博士論文を書き終わったときに加藤さんに電話をしてみました。⁠論文書き終わったから,何か一緒にしてみませんか』みたいなことを⁠

─⁠─それはまた大胆な(笑⁠⁠!

加藤「そしたら運良く『僕,ちょうど研究室を立ち上げることになったからポスドク1人必要かも。来てくれます?』って言っていただいて,京都に行くことに。でもやっぱり東京での活動があったので,京都と東京,半々ぐらいの生活を続けていました⁠

ポスドク最初の仕事はゲノム科学者と一般の方々との交流イベント「ゲノムひろば」のパネル作り。現在も各種イベントで一般向けに生命科学を説く仕事をされている。

ポスドク最初の仕事はゲノム科学者と一般の方々との交流イベント「ゲノムひろば」のパネル作り

著者プロフィール

内田麻理香(うちだまりか)

サイエンスコミュニケーター。東京大学工学部広報室特任研究員/東京大学大学院情報学環・学際情報学府博士課程1年。身近な科学を伝えるために各種媒体で活動中。

URLhttp://www.kasoken.com/