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2016年8月29日「SFCとブラッドリー・クーンは病原体」 ―Linus、26年目のスタートは毒舌から

8月25日に誕生から25周年を迎えたLinux。翌26日に投稿されたLinus Torvaldsの、ある意味⁠平常運転⁠とも言えるメールが発端となり、Linuxの26年目は波乱含みの幕開けとなった。

今回Linusのターゲットになったのは、非営利団体組織の「Software Freedom Conservancy(SFC⁠⁠」と、SFCの代表を務めるフリーソフトウェア活動家のBradley Kuhn。SFCとKuhnは以前から「Linuxプロジェクトにおいては、多くの企業によるGPL違反行為が絶えない。この問題をLinuxConやカーネルサミットで議論すべきだ」と主張しており、トロントのLinuxConにおいてもディスカッションを行うよう、執拗に提案していた。この行為には、8月16日に、カーネル開発者のひとりがVMwareに対して起こしたGPL違反の訴訟が敗訴となったことが大きく影響している。

だがカーネル開発の主要メンバーであるGreg Kroah-Hartmanは「GPL違反の問題は訴訟に持ち込むよりも、企業を含めた当事者どうしの話し合いで解決するほうがのぞましい」という姿勢を示しており、SFCのリクエストをやんわりと拒否を続けてきた。こうしたLinuxコミュニティの態度に業を煮やしたSFCとKuhnはGregに対し、再度、今後のカンファレンスでGPL違反の問題について、弁護士なども加えた議論の場を用意するよう強く要求している。だがGregは8月25日付のメールでKuhnに対し「くだらない(I call bullshit on this.⁠⁠」とばっさりと切り捨ていている。

8月26日、それまで一連のやり取りを静観していたLinusがGregの後押しするかのように登場する。

GPL defense issues --Linus Torvalds at linux-foundation.org

Linusは「もちろん、僕はGPLについて議論すべきだと考えている」と前置きした上で、⁠だがそれは、いつも開発者たちとほかの話題で議論しているのと同じようにやる必要がある。コードを実際に書いているデベロッパやメンテナーたちが議論する内容であり、そのメンバーでもなんでもない弁護士ども、そしてSFCの連中にとやかく言われる筋合いはいっさいない」とSFCとは議論するつもりがない旨を示し、⁠僕が個人的に思っていることだけど、彼らがやいやい言ってる訴訟や法律の話題は本当にゲスでうんざりさせられる。まるで伝染病みたいなものだね。そしてSFCとBradley Kuhnは⁠腸チフスのメアリー(Typhoid Mary⁠⁠、病気を蔓延させる病原体そのものだ」と強く非難している。

ちなみに⁠腸チフスのメアリー⁠とは、20世紀初頭のニューヨークで流行した腸チフスの原因となった料理人のメアリー・マローン(Mary Mallone)のこと。世界で最初のチフス菌の健康保菌者として記録に残る人物で、本人はいたって元気だが、彼女の周囲にいた人々は次々と腸チフスに倒れていったとされる。LinusがKuhnをメアリーにたとえたのは、アクティビストとして急進的な活動を続けるKhunとのやり取りにうんざりする人が多いことを強烈に皮肉っているにほかならない。なお同じメールの文面で、LinusはKuhnについて「信じがたいほど何もかもがクソなヤツ(incredibly full of shit⁠⁠」とも表現しており、Kuhnに対して激しい嫌悪感を募らせていることが伝わってくる。

LinusはトロントでのLinuxConで「僕はGPLv2を愛している。LinuxがLinuxであるために重要な要素だから」と発言し、GPLを非常に尊重していることを明らかにしたのは先日お伝えしたとおりだ。だがLinusはそれこそLinux開発がスタートした25年前から、Free Software Foundation(FSF)やGPLの狂信的な一部のユーザからその思想を押し付けられることを激しく嫌っており、その姿勢はまったく変わっていない。KuhnはGregへのメールで「GPLをあきらめるか、それとも(違反企業に対する)訴訟か、それを決断すべき」と主張しているが、Linusはこれを「訴訟はコミュニティを破壊する。訴訟は⁠プロジェクト⁠じゃない。僕たちが何年もかけて作り上げてきたすべての成果を破壊しかねない」と一蹴しており、⁠Gregはまったくもって正しいことを言っている」と長年の戦友を賞賛している。

「ここに大事な事実がある。オープンソースを作り続け、そしてそれを成功に導いてきたのは僕たちデベロッパだ。そしてその活動に企業も賛同し、一緒に開発をしてきた。このことは僕たちがFSFのようなクレイジーな連中とはまったく違うってことを表している」⁠Linus)

SFCはなぜ企業との訴訟に走るのか、Linusはこれについても「BusyBoxでの過去の栄光が忘れられないんだろう」と切って捨てている。BusyBoxは「組込みLinuxのアーミーナイフ」とも言われているプログラムで、UNIXコマンドで必要となる複数のプログラムを単一のバイナリに詰め込んだツール。ライセンスはGPLv2である。SFCは2007年、Best BuyやSamsungなど14社に対し「BusyBoxをGNUライセンスに違反する形で使用し、不当に利益を上げた」として訴訟に持ち込み、勝利したことで話題となった。Linusは「あれはたしかにSFCにとっては栄光の瞬間だったんだろう。でも決してBusyBoxにとって栄光の瞬間ではなかった。弁護士と一部のクレイジーな連中のほかに、あの訴訟でハッピーになった人は誰もいない」と強調し、やたらと訴訟文化を持ち込もうとするSFCの動きを強く牽制している。

「そうだな、GPLを議題に討論するなら、そのワーキングタイトルはコレじゃないとダメだね。⁠弁護士ども: オープンに対する害悪、コミュニティに対する害悪、プロジェクトに対する害悪(Lawyers: poisonous to openness, poisonous to community, poisonoustoprojects⁠⁠Linus)

25年が経ち、Linuxは信じられないほど巨大なプロジェクトとなり、その機能もコミュニティも環境も大きく変化した。だがLinusだけは変わらない。コミュニティやプロジェクトの美学に反する人も行動も絶対に認めない ―冒頭で波乱含みの幕開けと書いたが、実はいつもどおりのシーンであり、Linusがこの調子なら26年目のプロジェクト運営も安泰、そう思わせてくれる出来事といったほうが正確かもしれない。

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