Debian派生のディストリビューションに「Tanglu」というプロダクトがある。開発がスタートしたのは2013年で、ちょうどsystemdの実装がDebian開発者の間でもホットトピックになっていたころだ。このとき、TangluはDebianベースのOSとしていちはやくsystemdを実装し、Debian本家がJessieでsystemdをデフォルトに選択したときは、Tangluが提供したノウハウが大きく貢献したと言われている。このほかにも、インストーラにCalamaresを採用したり、initrdのカスタマイズツールをinitramfs-toolsからDracutに変更したりと、Debian本家に先駆けてモダンな環境を取り込むことに注力してきた実績をもつ。
このTangluがいま、開発中止の危機に迫られている。Tanglu開発者のMatthias Klumppは4月4日、自身のブログで「Tangluプロジェクトに興味をもってくれる人はたくさんいるが、その中には開発者もパッケージャもいない。何もスキルがない人々に開発のノウハウを教え込むマンパワーはTangluにはない。現在の開発メンバーもTangluに割けるリソースはほんのわずか。なぜなら彼らはほかのプロジェクトにも参加しているから」とコメント、現在のTangluの開発はKlumppひとりにほぼ集中しており、その負荷が限界にきていることを告白している。
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Tangluの最新バージョンは2015年8月にリリースされたTanglu 3.0である。つまり1年8ヵ月もの間、新しいバージョンを出すことができない状態が続いている。2016年7月にバージョン4.0のベータ版を出したものの、そこからは完全に動きが止まっており、Klumppひとりではアップデートを続けられないことを示している。
この現状を改善する方策としてKlumppは「Tanglu開発に参加してくれる開発者を見つける」「ローリングリリース体制に移行する」を挙げているが、どちらも現在のTangluにとっては非現実的な案だろう。もっともKlumppはプロジェクト存続の方法を探っているようで「もし、何もできることがなく、誰も助けてくれないとなれば、プロジェクトのシャットダウン、もしくは大幅な縮小しか選択肢はないことになる。でも今回はそのケースじゃないと思っている」と発言、引き続きTangluへのコントリビュートを呼びかけている。
UbuntuやFedoraのように企業がバックアップし、世界中に多くの開発者を抱えることができるプロダクトとは異なり、Tangluのように小さくて歴史の浅いディストリビューションが優秀な開発者を集め、彼らのモチベーションを維持し続けることは簡単ではない。プロジェクトの動きが止まったり、コミュニティにトラブルが起こったりすれば、開発者はわりと簡単に去っていく。オープンソースプロジェクトを維持してく難しさ、そして開発者を引きつけ続ける難しさを、Tangluの危機は示している。