Ubuntu Weekly Topics

2011年5月13日号 UDS-O・『Cert』プロジェクト・Ubuntu Oneのローカルピア間同期・『Orchestra』プラン

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Oneiricの開発

Ubuntu 11.04が無事リリースされたため,Ubuntu 11.10 “Oneiric Ocelot⁠の開発に向けた最初のフェーズ,UDS-O(Ubuntu Developer Summit Oneiric)がハンガリーのブダペストで行われています。UDSはUbuntuの開発における「最初の段階」で,主要な開発者が一箇所に集まり,ディスカッションを通じて「次のバージョンのあるべき姿」を考える場です。ここで行われた議論の結果をもとに約5ヶ月をかけて開発を行ったものがUbuntu 11.10としてリリースされます。

UDSは完全に開発者向けのイベントではありますが,リモートから各会議室の議論のストリーミング放送を聞いたり,リモートから参加する方法はいくつかあります。⁠次」のUbuntuの姿が気になる場合,これらのリモート参加やblueptinrなどから情報を得ることができるでしょう。

なお,Oneiricの開発はすでに開始されています。

UDS-O

UDSは慣習的に,Mark Shuttleworthによるキーノートセッションから始まります注1)⁠このキーノートでは,⁠これまで」のUbuntuの実績と,⁠次」のUbuntuで目指すもの(場合によっては「次のLTSまでの間に目指すもの」⁠が語られ,リリースの大まかな方向性が定められます。今回のキーノートの動画は,blip.tvで,内容の詳細はomgubunguの記事を参照してください。

注1
厳密に言うと,Markのキーノートの前にJono Bacon(Ubuntu Community Manager)による「ようこそUDS」という短いセッションがあります。

今回から数回に分けて,⁠UDSで語られた,Oneiricの新機能」を紹介します。

⁠Cert⁠の充実

UDSで行われている議論のひとつとして,⁠Cert」の充実が挙げられます。一般的に,OSにおいて「Cert」⁠Certification」⁠Certified」といった単語が使われる場合,⁠動作確認がとれた状態」を意味します注2)⁠Ubuntuの場合もこうした用法と同じように,⁠いろいろなハードウェアで,動作確認を行っていく」という意味で使われています。Oneiricでは,さまざまな「動作確認」⁠動作確認のためのフレームワークや体制作り」が提案されています注3)⁠

具体的には,これまで充分に活用されているとは言いがたかったcheckbox(システムテストツール)の見直し,サウンドやWLANなどの「Linuxでは動かないこともある」デバイスの動作確認,OEMベンダ向けのハードウェア認定といった形を通じて,⁠Ubuntuが動くマシン」の拡充が行われる予定です。こうした一連の計画の中で,⁠コミュニティによる動作確認」を中心にしたCert作業は,Ubuntu Friendlyプログラムというキーワードとともに,Oneiricの開発全般に影響することになりそうです。

注2
文脈によっては「○○認定資格」という意味のこともあります。もともとは「確認済み」「認定」などを意味します。
注3
Oneiricのblueprintを「Cert」で検索すると,多くのアイテムが登録されています。

CDからの脱却

Ubuntuではこれまで,⁠原則としてCD一枚に収まる形でリリースする」という制限を設け,リリース時に容量を削減してどうにかCD一枚に収める,というアプローチを取ってきました。⁠原則として」というのは,通常のリリース版とは別に,DVDでのリリース(当然ながらCDよりも含まれるパッケージが多いもの)も行っているためです。CD一枚にこだわるのは,⁠DVD-ROMドライブを持っているユーザーばかりではない」ということが主な理由です。日本国内で現在販売されているPCの中にすら,CD-ROMドライブだけを搭載しているモデルが存在しますし,世界各地で使われているPCを考えれば,DVD-ROMドライブが搭載さたPCは「充分に多い」と言える状態ではありません。また,サーバー環境ではCD-ROMドライブはむしろ当然,といったレベルです。

UbuntuのCDはSquashFSによりある程度の圧縮をかけた状態ではありますが,⁠700MBに収める」ことは近代的なデスクトップを構成するには非常に厳しく,リリースごとに相当な努力が払われています。

11.10ではDejaDupがデフォルトのバックアップツールとして導入され(ほぼ決定)⁠Unity-2Dも収録(こちらもほぼ決定)⁠メールクライアントとしてEvolutionからThunderbirdへ移行(される可能性がある)と,容量が増える方向にあります。削減できる要素はすでにかなりの部分削ってしまっており,これ以上減らすことも困難です。

こうしたことを背景に,UDS-Oでは「CDにこだわらない選択は取れるだろうか?」という議論が行われました。主に挙げられたアイデアは,次のようなものです。

  • 素直にDVDにしてはどうか。4.7GBある。
  • DVDにするにしても,2GBなり4GBなり,USBメモリに収めやすいサイズにするのはどうか。
  • いっそのことUSBメモリ専用にしてはどうか。1GBや2GBなら安い。
  • USBメモリを買ってくれというのは難しいのではないか。ならいっそのことShipItプログラムを復活させて,USBメモリを送るサービスを行うのはどうか。

その他,⁠そもそもDVDドライブが搭載されていないマシンが古いものだとして,そうしたマシンでUbuntuは快適に動くのだろうか?」などといった意見も含めつつ,UDS-Oで予定されていたセッションでは決着がつかず,継続審議になっています。

UECの「中身」の変更

Ubuntuには「UEC」⁠Ubuntu Enterprise Cloud)と呼ばれる,Eucalyptusベースの「簡単に使えるプライベートクラウド環境構築セット」が準備されています。Ubuntu ServerのCDで起動し,インストールオプションとして「UEC」を選択するだけでAmazon EC2/S3/EBS互換のIaaS/PaaS環境が構築され,⁠手元」でEC2環境のテストや開発を行う,実際にプライベートクラウドとして運用することが可能です。

ところがEucalyptusには様々な問題があり(例:特定のノードが落ちるとグループ全体が機能不全を起こす。しかもそのノードは冗長構成を取れないのでSPoFになる)⁠さらにコード品質やパッチの取り込みといった面で問題がある,という課題を残している状態でした。このような状況の中で,別系統のIaaS/PaaS環境構築ソフトウェアである「OpenStack」が注目されています。

OpenStackは「Ubuntu的」な開発手法を取り込み(比較的オープンな開発体制・定期的なリリース・Launchpad上での開発や「Developer Summit」ベースの目標/仕様策定等)⁠急速に発展しています。

こうした中で,virtualization.infoがこのような記事を公開しました。いわく,⁠UbuntuはEucalyptusを捨ててOpenStackに移る」⁠実際には11.04で不自然なほどの積極さでOpenStackが含まれるようになっていたため,その時点で規定の路線だった,というようにも思われます。時期はともかくとして,UECの中身がEucalyptusから「なにか別のもの」⁠に置き換わるのは確定に近い,と言えるでしょう。

ただし,移行に必要な「既存のEucalyptus環境を,どうすればOpenStackベースに持ち込めるか」という点についての議論は,5月12日に予定されており,真にUECの「中身」がOpenStackに切り替わるかどうか,まだ結論は出ていません。

Ubuntu Oneのローカルピア同士の同期

Ubuntuが提供する「パーソナルクラウド」ストレージ(意訳:Dropbox類似品)として,⁠Ubuntu One」というサービスが存在します。Ubuntu OneはLaunchpadなどのアカウントを用いてログインし,無料で2GB,$10/月で50GBの「クラウド」ストレージが利用できるものです。

Ubuntu Oneには「Ubuntu環境間における各種ファイルや設定の同期」⁠Ubuntu One Music Storeで購入した楽曲の利用」といった様々な機能があるものの,⁠クラウド」側の帯域の問題により,充分な転送速度が発揮できているとは言えない状態にあります。また,家庭内で複数のUbuntuマシンが動作している場合も,そのマシン間のファイル同期は「マシンA→インターネット→マシンB」と,わざわざ(転送に時間のかかる)インターネットを経由し,非効率です。

こうした問題に対処するため,11.10世代のUbuntu Oneサービスは,⁠ローカルネットワーク内にあるマシン同士が,直接通信してデータをやりとりする」という機能が追加される見込みです。家庭内ネットワークは遅くとも100Mbpsないし54Mbpsを理論値とするリンクが期待できるので,非常に高速な同期が可能です。この機能が実現すると,複数のUbuntuマシンが家庭内で動いている場合でも,ごく簡単な設定を施せば,自動的に同じ設定で各マシンを利用できるようになるはずです。

Ubuntu Orchestra

Ubuntuの「クラウド」関連機能にはUECだけではなく,デプロイ(自動的なOSセットアップ)を行うためのツールや,複数マシン感での設定の同期ツール(puppet)⁠監視のためのユーティリティなど,豊富な機能が準備されています。ところが,これらは個別にサーバー管理者がセットアップするもので,有機的な連携はできない状態でした。

Oneiricでは,これらをまとめて利用するための,⁠Ubuntu Orchestra」というプランが準備されています。これは,いわゆる「マスター」⁠Orchestra-server)をまず導入し,この上でデプロイツール等を管理し,そこから一気に「ノード」をセットアップする,という仕組みです。これが実現された場合,導入された「ノード」にはOSインストール時点から管理/監視のためのユーティリティが導入され,初期設定が完了した状態になるため,⁠コマンドを一行叩くだけでノードがセットアップできる」という環境が手に入ることになります。

Ubuntu 11.04

先日リリースされたUbuntu 11.04向けに,さまざまな追加ユーティリティやソフトウェアがリリースされています。

  • 11.04の最大の特徴である⁠Unity⁠で利用できるIndicator10種
  • “Unity⁠の設定GUI,GUnity

その他のニュース

  • Lenovo製品の一部が,Ubuntu Certifiedになりました。⁠Certified」は,⁠Canonicalとハードウェアベンダが共同でUbuntuの動作確認を行い,ひと通りの動作確認が完了した⁠デバイスに与えられる表記です。ほぼ,⁠Ubuntuが問題なく動作する」ことを意味します。CertifiedデバイスはこれまでにもHP・Dellを中心にいくつか存在していましたが注4)⁠ここにLenovo Thinkpad/Thinkcentreが追加された,という理解が良いでしょう(Certifiedプログラムの具体的なテスト内容はこちら)⁠また,あわせてLenovo製品にUbuntuをプリインストールしたモデルが,中国で販売開始されています。
  • Ubuntuベースのペネトレーションテスト用ディストリビューション,Backtrack 5がリリースされました。
  • Matt Zimmerman(Ubuntu CTO)とNeil Levine(EnterpriseとCloud担当のVP)がCanonicalを離れることになりました。もっとも,Matt ZimmermanはUbuntu Technical Boardには残るため,プロジェクトの方針として即座になにかが起こる,ということではありません。
  • $25のUbuntuマシンがリリースされています注5)⁠
  • Go言語用のLaunchpad lib
  • EC2/UECで利用できるUbuntu搭載AMIを,ローカルマシン上で作成する方法。
注4
HPはサーバーハードウェアとデスクトップが中心,Dellはプリインストールモデルが基本,という状態だったので,Thinkpadシリーズの大規模な追加は相応の意味があります。
注5
デモとしてUbuntuを動かした,というだけで,Ubuntu専用マシンではありません。デモとして搭載されているのは9.04です。CPUがARM11(ARMv6)であるため,現在のUbuntuで要求される仕様(Cortex A8,すなわちARMv7以降)を満たせていないためと見られますが,9.04はすでにEOLしています……。

著者プロフィール

吉田史(よしだふみひと)

Ubuntu Japanese Team Member株式会社創夢所属。システム管理を中心にWindows/PC Unixを併用している。Ubuntu Japanese Teamではパッケージサーバの管理や翻訳などの作業を担当。

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