1,000人超の大規模開発者イベント「YAPC::Asia Tokyo 2013」を支えたネットワークインフラ構築の舞台裏~プロフェッショナルのボランタリーが生み出したチカラ

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1,000人を支えたネットワークインフラ

今年9月に開催されたPerl開発者のためのイベントYAPC::Asia Tokyo 2013」。過去最大となるのべ1,000名を超える参加者が集まりました。非常に高い品質のセッションが数多く見られ,gihyo.jp読者の皆さんの中にも会場まで足を運んだ方がいらっしゃるのではないでしょうか。会場では,快適なネットワーク環境が用意され,発表者から聴講者までインターネットを十分に活用できたかと思います。

ここでは,その来場者に向けたインターネット接続サービス提供を実現した専用の会場ネットワーク環境の構築について,準備から当日の模様までを紹介します。

リアルの熱気とネットの熱気の融合が最近のイベントのトレンド

昨今,さまざまなIT系のカンファレンスや勉強会が開催されていますが,参加者の共通的な特徴として,インターネット接続されたデバイスを使いながら参加することが挙げられます。

参加者が数十名程度であれば,各々のポータブルWi-Fi機器を使ってインターネットへ接続することが出来ますが,数百名となると話は違ってきます。ひとつの空間で,数百もの人が同時にポータブルWi-Fiを使用すると,あっという間に無線LANの周波数帯が枯渇してしまい,接続速度が低下するどころか,誰もが自分のポータブルWi-Fiへ無線LAN接続出来ないという事態に陥ってしまうでしょう。

YAPC::Asia Tokyo(以降YAPC)はIT系カンファレンスの中でも超大型のカンファレンスで,今回は参加者数が1,000人を超えています。しかも参加者の多くはギークと呼ばれるような人たち。みな普段からどっぷりインターネットを使っているインターネットのヘビーユーザなのです。

そんなヘビーユーザ1,000人のインターネット利用を支える会場ネットワーク構築において,どのように設計,構築,運用を行ったか,また新たな試みとして何を行ったかについて,まとめてみました。

YAPCネットワークチーム結成

YAPCの会場ネットワーク構想は,6月ごろから練り始めました。そこから会場の現況調査や交渉などを繰り返し,会場ネットワークを実現できる目処がついてGoを出せたのは,なんとYAPC開催日の2週間前でした。当初のチームの人数は2名。しかし,これだけの規模になると一緒にやってくれる協力者が必要になります。そこでIT系カンファレンスでネットワークサービスを提供しているJANOGミーティングのスタッフ経験者と,Lightweight Language カンファレンスのLLNOCチームに声をかけ最終的には13名からなるYAPCネットワークチーム@yapcnwteamが結成されました。

本番の2週間前にメンバー全員でのキックオフミーティングを行いそこから怒涛の勢いで方針の策定,ネットワーク自体や運用監視システムの設計機器調達,本番前のシステム構築と動作検証をするホットステージ,会場への搬入,会場での設営,本番前の最終確認を行っていきイベント当日を迎えました。

ネットワーク設計の方針

会場ネットワークを提供するにあたり,どこまで作り込むかの方針決定は重要です。ネットワークシステムというのは作り込もうとすれば,いくらでも情熱をかけられてしまいます。ゴールや優先順位を確定させておかないと,それぞれのネットワークチームメンバが趣味……じゃなくて得意な分野に没頭してしまい,全体の工程を見落としがちになってしまうからです。このため,どこまで手を広げるか,優先順位は何かの認識を徹底しました。

ネットワーク設計・構築の指針

ネットワーク設計・構築の指針

これを踏まえ,最優先事項としてネットワークがつながることから始め,次に円滑なネットワーク運用のための機器管理と運用情報の可視化,そして来場者を対象とした会場ネットワーク接続者のセキュリティチェック,余力があれば行うこととして,各種データの集計,ネットワーク機能のクラウド化など,実験的な取り組みを行うこととしました。

このネットワーク機能のクラウド化とは,DHCPサーバ,DNSサーバ,ルータ機能などを,さくらインターネット上のクラウドに構築し,すべての機能をさくらインターネット経由で行ってしまおうというものです。これが成功すれば,インターネット上のサーバにVPNによるトンネルを設定できれば,今後会場ネットワーク構築時に会場内へ物理サーバや,高価なルータが必要なくなるという実績を作ることができると考えたのです。

ネットワーク提供場所について

YAPCは4つの部屋を利用する形でプログラム構成されていました。実はYAPC運営側からは「メインの藤原洋記念ホールのみ,ネットワークがあれば良い。その他はなくてもよい」とのお話をいただいていました。

ネットワークの提供場所が少なければ,ネットワークチームの負荷は少ないと思われるかもしれませんが,ホールのみの提供の場合,来場者はホール以外の場所へ移動した際にポータブルWi-Fiの電源を入れて使用,そのまま電源を切らずにホールに戻ってくることになるでしょう。その際ホール内の無線LAN環境に悪影響が出てくるリスクを検討しなければなりません。

このことから,会場全体にネットワークを提供するほうが,ネットワークチームに,また来場者の皆様に利点があるのです。この検討結果から,YAPC会場すべての部屋にて安定したネットワークを提供することを目標として設計を始めました。

慶応義塾大学協生館全体図

慶応義塾大学協生館全体図

ネットワークの物理構成

物理的な設計としてはすべての部屋にスイッチを置き,そのスイッチを起点として無線AP(アクセスポイント)機器を接続するという一般的な形を取りました。装置間の配線は,一般的なホール等を利用する場合は機器を設置するすべての場所へケーブルを敷設する必要があり,長いUTPもしくは光ケーブルの用意や,それらを養生するなどの作業が必要になりますが,今回は会場既設のUTPや光ケーブルの一部を借りることで※1),ケーブルを引き回す距離を大幅に削減することができました。

しかしそのかわり,配線の一部ではメディアコンバータの代わりとして光モジュールを搭載できるスイッチを利用していた箇所もありました。

物理配線図

物理配線図

注1)
既設配線の利用については今回だけの特例として許可してもらいました。

著者プロフィール

YAPCネットワークチーム

YAPC会場ネットワーク設営,運用のために集められたプロフェッショナル集団。

@yapcnwteam

東松裕道(とうまつひろみち)

アラクサラネットワークス株式会社 製品開発本部

高田美紀(たかたみき)

NTTコミュニケーションズ株式会社 先端IPアーキテクチャセンタ

高橋祐也(たかはしゆうや)

国内電気通信事業者

津山訓司(つやまさとし)

NECビッグローブ株式会社

森久和昭(もりひさかずあき)

セキュリティベンダ

熊谷暁(くまがいあきら)

個人

田島弘隆(たじまひろたか)

Genie Networks

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