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AWS,サーバレス,コンテナ,マシンラーニング …2017年のクラウドを占う

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クラウドに載せられないサービスはなくなったか?

2016年はエンタープライズのパブリッククラウドへの移行が一段と進んだ年でもありました。一方で,「どうしてもパブリッククラウドには載せられないワークロードがある」という主張をする企業もあります。また,2015年あたりから顧客の傾向としてあらわれていた「クラウドベンダによるロックインを避けたい」という流れが強まっててきたことにより,プライベートクラウドとパブリッククラウドを併用する"ハイブリッドクラウド"や,複数のクラウドベンダを利用する"マルチクラウド"といった選択をする企業も増えてきました。

また,どうしてもコストやセキュリティの面からクラウドではサービスを展開しないという企業も少なからず存在します。つまり,数年前までのクラウドといえばAWS一択だった時代から,企業はさまざまな選択肢を取れるようになったのです。以下,いくつかの例を挙げておきます。

Walmart
ビジネス上の競合であるAWS(Amazon)は絶対に使わないが,Microsoft Azure,Rackspace,さらにはOpenStackを用いてマルチクラウド環境を構築,ブラックフライデーやクリスマスシーズンなどのキャパシティの急激な増加に多様なクラウド環境で対応する
Evernote
サービスローンチ以来,すべて自社データセンターでサービスを提供しており,パブリッククラウドはいっさい使わない。その理由は「Evernoteをパブリッククラウドで運用すると4倍以上のコストがかかるから」(EvernoteのVP)
しかし2016年9月にこれまでの方針を変更し,Google Cloud Platformへの移行を新たに発表している
Dropbox
もともとAWS上でファイル共有サービスを展開していたが,2016年にプライベートクラウドに移行したと発表,理由は「コスト削減」のため
Apple
プライベートクラウド上でコンピュートサービスやエナジーサービスを運用する一方で,AWS,Azure,GCPといったメガクラウドもオプションとして利用するマルチ&ハイブリッド環境を構築
Netflix
AWSをいちはやく導入し,ビジネスを大きく成長させたが,現在はAWSのほかにGoogle Cloud Platformも併用,顧客データやレコメンデーションエンジン,トランスコーディングといった用途にマルチクラウド環境を構築,一方でDVDビジネスやストリーミングCDNといったワークロードはプライベートクラウド環境を別に構築して稼働中

AWSの成長を初期から支えたNetflixだが,現在はAzureやGCPも加えたマルチクラウドおよびハイブリッドクラウドを構築している

AWSの成長を初期から支えたNetflixだが,現在はAzureやGCPも加えたマルチクラウドおよびハイブリッドクラウドを構築している

(2016年11月にサンフランシスコで行われた「Structure 2016」に登壇したジョー・ワインマン氏のスライドより)

これらの事例で興味深いのは,「コスト面でプライベートクラウドを選ぶ」という企業が増えてきていることです。クラウド導入のきっかけにコスト削減を挙げる企業は今も多いのですが,DropboxやEvernoteのユースケースは必ずしもそうではないことを示しています。スケールメリットやワークロード,そしてコストにあわせて適材適所にクラウドを選んでいくという"クラウドの多様化"は2017年はより進んでいくとみられます。

ここでハイブリッドクラウドに関する2016年の大きな話題をひとつあげておきます。2016年9月,AWSとVMwareは,AWSのハードウェアリソース(ベアメタル)を使ってVMwareが仮想レイヤから上のサービスを自社の顧客に提供するという戦略的提携を発表し,IT業界を大きく驚かせました。この提携により,AWSはどうしてもオンプレミスから移行できないというユーザ層に入り込むきっかけをつかみ,VMwareは自分自身では成し遂げられなかったパブリッククラウドのスケーラビリティを確保したことになります。

AWSとVMwareの提携はクラウド業界に大きなインパクトを与えた。re:InventにはVMwareのパット・ゲルシンガーCEOも登場し,両社の提携の意義を強調。右はAWSのアンディ・ジャシーCEO

AWSとVMwareの提携はクラウド業界に大きなインパクトを与えた。re:InventにはVMwareのパット・ゲルシンガーCEOも登場し,両社の提携の意義を強調。右はAWSのアンディ・ジャシーCEO

すべてのワークロードをクラウドに載せられると公言していたAWSが,仮想環境として世界一のインストレーションベースをもつVMwareと手を組んだところに,AWS自身もまた時代の流れにあわせて大きく変わらざるをえないことを痛感させられた提携発表でした。2017年はこの提携によりハイブリッドクラウドの様相がどう変わるのかに注目したいところです。

2017年のクラウドをめぐるキーワード

その他,2017年のクラウドを語る上で欠かせないキーワードについて,簡単に触れておきます。

コンテナ

2016年はコンテナの活用が進み,米国ではテスト環境だけでなく本番環境でのアダプションも劇的に増えつつあります。これまでコンテナはAWSやAzureといったパブリッククラウド上で使われることがメインでしたが,2017年はハイブリッド環境でのユースケースが増えていくのは間違いないでしょう。ひとつのコンテナの平均寿命は5分以下と非常に短いため,"使いたいときだけに使う"というクラウドの基本的性質と親和性が高く,アプリケーション開発者にとっても運用担当者にとってもより身近な存在になることが予想されます。

サーバレス

AWS re:Invent 2016ではサーバレスアーキテクチャと呼ばれるLambda関連の発表が非常に目立ちましたが,Lambdaやマネージドサービスをコンポーネントのように組み合わせ,API指向でいくつものサービスや環境を連携していくサーバレスコンピューティングは,クラウドネイティブ化が進むにしたがい,IoTやマイクロサービスとともにより汎用的な技術として普及していくと思われます。

OpenStack

ハイブリッドクラウドやマルチクラウドの流れが鮮明になるにしたがい,OpenStackでプライベートクラウドを構築し,パブリッククラウドのオルタナティブとして利用するユースケースも2017年は引き続き増えてくるとみられます。OpenStackの専業ベンダであるMirantisのCMO,ボリス・レンスキー氏は「OpenStackはAWSの競合ではない。AWSとは補完的な関係にある」と筆者とのインタビューで語っていましたが,今後は大企業を中心にパブリッククラウドとOpenStackを連携させていくケースが増えることが予想されます。

OpenStackは半年に1回という速いペースでアップデートが進むため,どのタイミングでどのバージョンを採用するかという点が非常に悩ましいプラットフォームでもあります。また,2016年にはこれまでOpenStack事業を展開してきた大手ベンダがビジネスの方針を変更または縮小する動きが顕著で,優秀なOpenStack人材をいかに確保するかという点も大きな課題です。しかし,基幹業務やHadoopといったワークロードをパブリッククラウドに移行させたくないという企業のニーズは非常に大きく,Mirantisのような専業ベンダやNECなどのSIerがこれらのニーズにどう応えていくかに注目したいところです。

DevOps

AWS re:InventではAWSのアンディ・ジャシーCEOとヴァーナー・ボーガスCTOがそれぞれ基調講演を行いますが,ボーガスCTOのほうでは開発者に向けたサービスアップデートが中心となります。今回,ボーガスCTOによって発表された内容(AWS X-Ray,AWS OpsWorks for Chef Automate,AWS Step Functionsなど)を見る限り,米国の開発/運用現場では完全にDevOpsが主流となっていることをあらためて実感しました。クラウドネイティブでインフラを運用し,自動化を進め,アプリケーションを開発する,それはすなわちDevOpsとイコールであることを意味します。この動きは米国だけでなく,アジアや南米など新興市場でも拡がりつつあります。DevOpsの採用にいまだ消極的な日本の企業は2017年にどう変化するのか(しないのか),非常に興味深いところです。

AWS ヴァーナー・ボーガスCTO

AWS ヴァーナー・ボーガスCTO


2016年はクラウドの多様化がこれまでになく進んだ1年だったと思います。2017年はその傾向がさらに進むものの,クラウドファーストでまず開発に取りかかるというスタイルが後戻りすることはないでしょう。AI/マシンラーニングやFinTechなど,2016年に話題になったテクノロジはいずれもクラウドを前提にしています。冒頭でも触れましたが,いまやクラウドをベースにしないイノベーションはまずありえないでしょう。そうした意味で2017年はあらためて「イノベーションのゆりかご」としてのクラウドの意義が問われる1年になるように思えます。いかにユーザにバックエンドを意識させず,本来のイノベーションにフォーカスさせることができるのか ―存在を感じさせないクラウドがあたりまえになる,そんな変化が見られる1年になることを期待しています。

著者プロフィール

五味明子(ごみあきこ)

IT系の出版社で編集者としてキャリアを積んだ後,2011年からフリーランスライターに。フィールドワークはオープンソースやクラウドコンピューティング,データアナリティクスなどエンタープライズITが中心。海外カンファレンス取材多め。Twitter(@g3akk)やFacebookで日々IT情報を発信中。

北海道札幌市出身/東京都立大学経済学部卒。

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