雲を駆け抜けろ

第7回 MSPから見たクラウドの実態

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本連載では,さまざまなクラウドの利用方法を見てきました。IaaS,PaaS,SaaSと多種多様なクラウドの概要や仕組みなどについては,だいぶわかってきたと思います。

しかし,実際にクラウドは,どのように利用されているのでしょうか?

今回はマネージドサービスの中でも早くからクラウドに取り組んできた株式会社ハートビーツのCTO 馬場俊彰氏に,マネージドサービスにおけるクラウドの利用方法について伺いました。

馬場俊彰氏

馬場俊彰氏

Q:まず,株式会社ハートビーツの事を教えてください。

A:会社としては開発などはやっておらず,「マネージド」「MSP(Management Service Provider)」※1と呼ばれるサポートを専業でやっております。Webでの開発をやっているお客様が多く,中でもオープンソースを利用しているお客様がほとんどです。

※1)
一般的に「マネージド」「「MSP(Management Service Provider)」と呼ばれる分野は,ユーザに代わり日々のサーバの保守管理を行う業種の事を指す。運用・保守の代わりにも,ホスティングサービスを行ったり,サーバ機材の選定なども行う所が多い。
Q:マネージドの分野でもハートビーツは有名ですが,その他にも,インフラエンジニアの勉強会hbstudy※2が有名ですね。このようなインフラ系の勉強会は最近でこそ多くなりましたが,当時(2009年頃)は数も少なく,hbstudyが先駆けだと思います。なぜこのような勉強会を始めたのですか?

A:お手本としている勉強会に,株式会社ビープラウドBPStudyがあります。この勉強会には昔から行っていたのですが,インフラ系の勉強会が無いからやりたいと藤崎(ハートビーツ代表取締役社長)が言い始めて,hbstudyを立ち上げました。

※2)
hbstudyは2009年6月から始まったインフラエンジニア向けの勉強会。開始当初からクラウドの先端な話題などを扱い,勉強熱心なインフラエンジニアから高い支持を得ている。20名前後で開始したhbstudyも現在では毎回100名以上が参加する勉強会となった。
Q:hbstudyが開始された時は「クラウド」「仮想化技術」はそれほど普及していませんでしたが,hbstudyは早い段階から「クラウド」や仮想化技術に取り組んでいました。しかし,当時のインフラエンジニアは,まだ「仮想化技術」「クラウド」の利用はそれほど進んでいなかったと思います。当時から「仮想化」「クラウド」に注目されていたということですか?

A:確かに,一般にはまだ「仮想化技術」「クラウド」は,それほど普及はしていませんでしたが,これらには当時から注目していた事もありhbstudyでは1回目から「仮想化技術」を取り上げました。当時の「仮想化」の利用方法としては,デベロッパーがテスト環境として利用することが多かったと思います。これが徐々に運用側に持ち込まれてきたのですが,ちょうど当時は,そのような状況だったのだと思います。

Q:当時はパブリッククラウド(=IaaS)が登場したばかりであり,まだそれほど事例もなく,どのように利用して良いかわからなかったような状況だと思います。そんな中で,どうして「クラウド」「仮想化技術」を利用しようと思ったのですか?

A:2009年ぐらいから利用していますが,その頃のパブリッククラウドも熟れていなかったものの,実際に使ってみるとマネージドの分野でも仮想化(IaaS)のメリットがあります。マネージドという分野を見ると,OSから上のレイヤーではIaaSも物理サーバも基本的には大差はありませんので,自分たちの強みが活かせます。いくら「クラウド」といってもメンテナンスフリーという事にはなりませんので…。

Q:今,パブリッククラウドは何種類ぐらい利用していますか?

A:今は5つぐらいですね,大手さんばっかりです。クラウドベンダーの使い分けですが,利用するサーバの数が多いところについてはAWSなどのIaaS,サーバの数が少ない場合はIaaSの利用が向かないので,VPSを利用するケースがあります。サーバ単体の場合は物理サーバを利用するケースもありますが,予算の関係上VPSにするケースが多いです。

Q:AWSの名前が出ましたが,サーバの台数が多い場合やスケールアウトなどのクラウドの特性を考えた場合はAWSを選択するケースが多いのですか?

A:AWSが使えるのであれば,エンジニアとしては使いやすいです。ただ,営業面や契約面で他のクラウドベンダーを選ぶことがあります。(他のベンダーさんも)AWSをお手本としている所がありますので,そのあたりは強いですよね。

Q:技術的にAWSでは難しいという所はありますか?

A:最近はAWSのメニューも充実していますが,たとえば物理サーバとつなぐことができない所などは難しい所だと思います。

Q:物理サーバの要望もあるのですか?

A:たまに物理サーバの要望もあります。やはり,スケールアップの上限があるので,それ以上の性能が欲しい場合は物理サーバを利用しなければなりません。初期の予算がかけられるのであれば,クラウドよりも物理サーバを選択した方がトータル的に安くなるので良いと思います。物理サーバには,メモリやストレージが仮想サーバよりも大きいものなどハイパフォーマンスの物が求められています。

当社のお客様は,高速なストレージよりも容量の大きいストレージが求められているようです。容量の大きいストレージについては,データベースに使用されるケースもあるようです。

Q:物理サーバも利用されているとのことですが,現在の物理サーバとクラウド(=IaaS)の割合はどうですか?

A:新しく始まる案件については仮想サーバ(クラウド)が9割ぐらいです。利用するクラウドベンダーは,要件によってAWSや日本のクラウドベンダー,自社で構築したクラウド環境などを使い分けています。1つのクラウドベンダーに集中しない理由としては,物理サーバが利用できるか否かであったり,支払い関係であるなど,それぞれのクラウドベンダーによって特性が違うからです。

Q:いつ頃からこのような物理サーバよりクラウドの方が一般的になってきましたか? 少なくとも3年ぐらい前は,これほどクラウドが利用されていたとは思えないのですが…。

A:感覚的には去年の夏ぐらいからクラウドの案件が増えてきたと思います。やはり,マインド的に3月11日の震災の影響もあったと思います。地震が発生した場合,物理サーバの面倒を見るのはツライので…。

Q:クラウドや物理サーバの選択には,お客様からの指名もあるのですか?

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A:お客様から「クラウドにして欲しい」といった要望や「物理サーバにしてほしい」といった要望はありません。お客様からは「ワークロードがさばければ良い」というオーダーをいただきますので,お客様の要件にあったサーバを選びます。

ハイスペックな物が必要であれば,物理サーバを選択しますが,大概はクラウドで済んでしまうためクラウドを選択しています。やはり物理サーバの場合は,サーバ手配や設置などが面倒です。クラウドを使えば,その部分の心配をすることは無いので純粋にエンジニアリングに集中できます。

また,クラウドだからといって「クラウドならでは」の使い方をされる方はあまりいらっしゃいません。ある程度サーバ構成やトラフィック量などが予想できる案件でもクラウドを利用いたします。以前は,クラウドというとスケールアウトやスケールアップを行うという印象が強かったのですが,そのような機能もアグレッシブに使う事はそれほどなく,最近では普通の案件でもクラウドを利用するようになっています。

物理サーバに関して言えば保守期限があるので,それが切れればクラウドに移転するケースも増えてくると思います。

Q:物理サーバとクラウドで運用の違いがありますか?

A:一番の違いは「サーバが捨てられる」という事です。物理サーバの場合は,壊れても簡単に代用品にスイッチできませんが,クラウドの環境で何か問題があれば,仮想サーバを立ち上げ直したりするだけで問題ありません。

あと,リソースの使い方は上手くなりますね。余計な物を入れないで上手く使おうとする意識が働きます。クラウドの場合,サーバを簡単に増やせますが,増やせると思うとお金がもったいなくなるじゃないですか(笑)。

Q:クラウドについて今後の展望などをお聞かせください。

A:そうですね。クラウドの登場によって,エンジニアが本当にエンジニアリングに集中できるような環境になったと思います。これは「開発者がインフラ部分を見ない」という事では無く,どのエンジニアもいろいろな分野を見ていくことになると思います。

プログラマもインフラの事をわかっていないと,クラウドでサーバが増やせる分,サーバを無駄に増やしてしまいコストがかかってしまいます。

私はもともとITが好きで,それで生活が便利になったりするのが好きです。ITを使ってみんなの人生をよくするのに,一歩近づいているのがクラウドを使っていて思うところです。少なくとも,我々の層はクラウド(=IaaS)を使うことで,データセンターに監禁ということがなくなるので(笑)。

今回は,ハートビーツの馬場さんに,マネージドで実際のクラウドの運用について伺いました。

印象に残ったのは,すでにクラウドが「クラウドならではの案件」以外の物でも使われはじめているという事です。一般的に,クラウドについて説明する時は,どうしてもスケールアウトやスケールなど「クラウドならではの」機能のために利用する事を考えてしまいますが,そのような機能以外でも「クラウド」が当たり前に使われている事が馬場さんのお話からわかりました。

ただ,一方でクラウドではサーバを増やしたりサーバのスペックアップが簡単にできる分,コストに直結することがあります。インフラやプログラムの事を理解していないと,クラウドの仮想サーバを増やしてしまい,無駄なコストが発生します。

逆に,インフラとプログラミングの両方がわかれば,効率良くクラウドを利用することができ,コストを抑えることもできるようになります。同じクラウドプラットフォームを使っていても,インフラエンジニアの腕次第で効率性が大きく変わるようになっていくのだと馬場さんのお話から感じました。

著者プロフィール

横田真俊(よこたまさとし)

大学卒業後,調査会社を経て現在はIT系企業のクラウド事業の企画業務を担当。個人活動として,FacebookやTwitter,クラウド本の執筆なども行っています。

TwitterのIDは「@Wslash」です。

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