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第9回仮想化の鉄人は、なぜIaaSではなく200台以上のVPSを選択したのか

IaaSが流行始めた2010年ころから国内のデータセンター事業者やホスティング事業者からは「VPS」というサービスが積極的に登場しました(VPS自体は以前から提供されています⁠⁠。このVPS(=Virtual Private Server)は、IaaSと同様に1台の物理サーバを仮想化技術を利用し、複数の仮想サーバに分割し、その分割した仮想サーバをユーザに貸し出すサービスのことです。

このようにVPSは、技術的な仕組みはIaaSと似ている部分がありますが、料金やサービス仕様で大きく違う点があります。まずは、料金の支払い方法です。以前にご紹介した通り、IaaSは従量課金制度ですが、VPSはIaaSよりも価格は安めの月額固定の料金であることがほとんどです。

もう1つ大きく違う点は、スケールアップ/スケールアウトができにくい点です。IaaSの場合は、自由にサーバの台数やサーバのスペックの変更ができます。しかし、VPSの場合はサーバのCPU、メモリ、ディスク容量などは固定されており、IaaSのように、急激なスケールアップやスケールアウトに対応できません。

このような特徴から、一般的にはVPSでは複数台でのサービス構築は向かないとされています。しかし、中には何台ものVPSを運用されている方もいらっしゃいます。今回は、200台以上のVPSを運用している他、自社でも仮想化したサーバを利用しているデジタルシステム株式会社の浅見祐樹氏にお話を伺いました。

デジタルシステムについて

Q:まずは御社のご紹介をお願いいたします。

A:現在はITに限らず色々なことをやっていますが、メインは学生時代から行っているレンタルサーバ事業です。最初は自宅にあるサーバを利用して無料のレンタルサーバを開設しておりました。

レンタルサーバの構築には、当時からサーバの仮想化を利用して構築しています。最近では、仮想化を使ってユーザごとにroot権限をお渡しするレンタルサーバをメインに行っております。また、副業的に請負案件も行っております。小さな物であれば、Webの開発自体を行いますし大きな案件であれば、その中でインフラ部分のコンサルティングを行っています。

デジタルシステム株式会社 浅見祐樹氏
デジタルシステム株式会社 浅見祐樹氏
Q:どのような事がきっかけで会社を設立されようと思ったのですか?

A:起業のきっかけは、あるレンタルサーバ事業者の開発スタイルに憧れまして、その会社の社長にできるのであれば、私にもできるだろうと思って(笑⁠⁠。レンタルサーバ事業を立ち上げました。

VPSの利用シーンと選択のポイント

Q:浅見さんはご自身でサーバを管理されていますが、同時にVPSも大量に利用されています。VPSをどのように利用しているのですか? 

A:弊社では「さくらのVPS」で、200台以上のVPSを契約して利用しています。VPSが登場するまでは、専用サーバを利用していましたが、専用サーバに比べVPSのコストが安いことから徐々に専用サーバからVPSに移行してきました。最近、利用しているVPSのメニューが改訂されメモリとディスクが増えましたので、さらに集約化ができるようになりました。これだけの数のVPSを利用していると、通常では管理が難しいのですが、弊社では自社開発のツールを作ってこれらの200台以上のVPSを管理しています。

Q:なぜ、クラウド(=IaaS)ではなく、VPSを選択されたのですか? 価格面ということもあると思いますが、なぜクラウドではなくVPSを選択されたのかをお聞かせください。

A:価格以外という点では、VPSは「IaaS」に比べて安定しているという点があります。数年前までは「完全仮想化」のVPSはそれほどありませんでしたが、KVMが普及し利用されることで安定してきました。また、VPSの場合は、自分がホスティングをやっていることもあって提供される環境がある程度わかります。

しかし、IaaSのようにスケールが大きい環境の場合は、まだ不安定な部分があります。安定性という面では、まだVPSのほうが勝っていると思います。ただし、VPSの場合はIaaSに比べてディスクの増加に対応できないなどの問題があり管理が大変な場合があります

Q:現在、VPSを提供している事業者はたくさんあります。その中でVPS事業者を選定するポイントを教えてください。

A:重視する点は「価格」「申し込みの速さ」です。価格は、単に安いだけでなく、実際のスペックが低ければ使えないので、コストパフォーマンスが良い物を選ぶ必要があります。またVPSの事業者によっては、申し込んでからVPSが提供されるまでに時間がかかる事業者があります。安定してVPSを速く提供できる事業者を選ぶのもポイントです。

VPS・クラウドの運用の違い

Q:VPSに移られる前は、物理サーバで運用されていたと思いますが、物理サーバの運用とVPS・クラウドの運用では、何か異なるポイントはありますか?

A:VPSやクラウドに限らず、仮想サーバの場合は障害点が直感的にわかりにくいという点があります。仮想サーバの場合、1台のホストOSの上に複数ゲストOSが動いています。そうなると障害が発生した時の原因調査にホストOS、ゲストOS、OSが載っているハードなど、さまざまな箇所を調べる必要が出てきます。このように、仮想化をすると障害時に調べる箇所が多くなり、障害の調査に時間がかかります。

Q:IaaSやVPSでお客様の環境を構築されているとのことですが、それら以外でSaaSなどをご提案することはありますか?

A:弊社のお客様には中小企業のお客様も多くいらっしゃるため、Microsoftの「Office 365」を勧めています。Office 365のメニューには、Exchange Serverのホスティングも提供されます。これを利用するとブラウザーからメールや予定表の共有ができるほか、ローカル環境でもOutlookから利用することも可能です。

メールや予定表の共有ならば「Google Apps」でも良いのですが、Google Appsの場合オフライン時に機能が利用できない場合があります。その点「Office 365」はOutlookから利用できるので便利です。もちろん、どちらも一長一短あるので、お客様によって使い分けています。

Q:最後に一言お願いいたします。

A:色々な会社の物理サーバのリプレースとして、仮想化を進めていきたいと思っています。仮想化を利用することで、オフィス内にあったサーバを集約化できますし、古いソフトのリプレースもできます。オフィスサーバの仮想化については、需要が掘り起こせれば、やっていきたいですね。

おわりに

前回はIaaSの利用方法についてのお話を伺いましたが、最終回である今回は趣向を変えてVPSをクラウドのように利用している浅見さんにお話を伺いました。

VPSは、IaaSに比べて価格は安いものの、スケールアウトやスケールアップができず、大規模な運用には適さないと考えられがちですが、浅見さんのお話を伺ってVPSでも要件次第ではIaaS以上にコストメリットが活かせることがわかりました。

また、VPSの選定のポイントなどについては、これからVPSを検討する上で参考になると思います。IaaSの場合は、ベンダによって機能や価格に特徴があるため、選択はしやすいですが、VPSはそれぞれのスペックと価格表を見る限りでは、違いはわかりにくい状態です。しかし、浅見さんから指摘していただいたポイントを見てみると、VPSの選定もわかりやすくなると思います。

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