不定点観測所
第1回 「事業仕分け」にみる産消逆転~なぜ日本はスパコン世界トップから脱落したか
2009年10月号まで66回を数えた連載「三酔人電脳問答」を楽しみにされていた方,お待たせしました。本コラムは,「コンピュータ」「ビジネス」「経済」をテーマに,世相から物事の本質まで,楠氏(同上連載時はペンネームの南方氏)の独自の視点でつれづれと観測していきます。今号は「(スパコンで)なぜ日本がナンバーワンでないといけないのか?(蓮舫議員)」で話題になった「事業仕分け」です。
行政刷新会議の仕分け会議
行政刷新会議が予算の無駄遣いを見直した「仕分け会議」。連日テレビで報道されたが,報道よりもリアルタイムでのネット中継とTwitterの実況,政治家やブロガーによる論評がおもしろかった。ネット中継は事務局が用意した300接続がすぐに埋まり,配信業者の判断で最大接続数を数千まで引き上げたという。
第3WG会場はケツダンポトフのそらのさんがUstreamで中継し,事務局の中継よりずっときれいな映像でTwitterのハッシュタグを使った実況や議論とも連動した。事務局の中継システムには349万円かけたというが,ブロガーによる無料サービスを使った中継に及ばないとは,それこそ仕分けの対象にすべきではないか。
産消逆転とは
企業よりも消費者が廉価で最先端のIT技術を使うようになった状況を指して“産消逆転”という。政府が数百万円かけたネット中継よりブロガーが無料サービスを使って提供した中継のほうが高品質だった今回は産消逆転の好例だ。会社のメールボックスより大きな無料Webメール,会社よりずっと快適な光インターネットが簡単に手に入る。
スパコン計画の変遷
仕分け対象で論議を呼んだスパコン計画も産消逆転の荒波に揉まれた好例だ。
クレイがベクトル型スパコンの元祖であるCray 1を世に問うた1970年代中盤,スパコンとパソコンはまったく別の設計思想で,演算装置あたり数千倍もの差があった。1980年代には半導体を内製する日本勢がCrayより世代の新しい半導体を投入して世界トップに立った。
ところが半導体の性能はムーアの法則に従って伸び,スパコンの大半が今やPC用MPUを並べた構成を採る。Crayは費用のかさむベクトル型をNECからのOEMに切り替える一方,PC用MPUの並列技術を磨くことで再び世界のトップに立った。2009年11月のTop 500で1位を飾ったCray製Jaguarは,6コアのOpteronで25万近くのコアを並列で動かす。
日本でも長崎大学が市販GPUを760台並べた構成でN体問題を解き,価格性能比部門で優れたスパコンに贈られるGordon Bell特別賞を受賞した。3,800万円の予算でピーク性能は158TFLOPSと地球シミュレータの122TFLOPSを上回る。無論スパコンの能力はピーク性能やTop 500を決めるLinpackベンチマークだけで測るべきではなく,Top 500で31位に後退した地球シミュレータも気候変動計算では現在も世界最高水準の性能を誇る。
世界トップレベルを維持するために必要なこと
仕分け会議ではスパコンの要否やトップを目指すことの意義ばかり注目されたが,日本が性能競争で後退した背景には産消逆転といった市場環境の変化,半導体の性能向上による制約条件の変化によるアーキテクチャの変遷がある。奇しくも仕分けでスパコンが話題となった11月,NECがインテルとスパコン技術で提携を発表した。
科学研究にスパコンは必要だし国産技術を維持する意義もわかるが,技術動向を見通してビジネスとして継続できるシナリオを描けなければ,世界トップレベルを維持することは難しいのではないか。
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